【セミナー】ロングヒットタイトルのキーパーソンが登壇 長期運営のノウハウとは…「超長期ゲーム運営サミット」セミナーレポート
GREE<3632>とファンプレックスは、5月10日、六本木ヒルズ森タワー 9階セミナールームにて、「超長期ゲーム運営サミット」を実施した。
本セミナーでは、5年以上に渡りヒットを維持し続けている各タイトルのキーパーソンから、長期運営におけるノウハウが披露された。本稿では、当日の模様をお届けする。
▲グリー株式会社 超長期ゲーム運営サミット 責任者 馬場 貴之氏
冒頭にはイベントの発起人でもある、馬場 貴之氏が登壇。馬場氏は"長期運営タイトル"とは、ヒット創造の成功体験を生み出す”開発力”に加えて、不調をきたした際のリカバリー、すなわち"運営力"が大切であると指摘。また、運営力の主な要素が「マーケティング戦略」「PLチューニング」「ユーザーリレーションシップ」の3点であると提示し、「各社のノウハウを共有し、より有意義な時間に繋げたい」と本セミナーの趣旨を述べた。
■長期運営タイトルの市場攻略率とは? 3~5年を振り返って見た市場の難易度
▲フラー株式会社 事業戦略室長 岡田 雄伸氏
岡田 雄伸氏は「3~5年を振り返って見た市場の難易度」というセッションを展開。App Apeを使用して、売上/MAU(Monthly Active Users)のデータから長期運営の難しさを示した。
売上ランキングTOP100の推移データでは、2013年11月~2018年2月のデータが紹介された。5年後も売上TOP100に残っているタイトルはわずか12%と、非常に低い数値であることが分かる。
また、MAU(Monthly Active Usersの略、月あたりのアクティブユーザー数)でも同時期のデータが紹介。こちらも14%と低い数値となった。2つのデータから、長期運営アプリの継続的成功は狭き門でもあることが理解できる。
■グリー『釣り★スタ』の事例
「モバイルソーシャル運営最長11年のマーケット戦略について」
▲グリー株式会社 釣り★スタ プロデューサー 高松 亘平氏
高松氏は『釣り★スタ』において、「モバイルソーシャル運営最長 11年のマーケット戦略について」のセッションを実施。内容としては直近2~3年で実施した、①WEB広告運用、②リブランディング、③休眠特化型施策の3つを紹介した。中でも、"リブランディング"と"休眠特化型施策"は長期運営タイトルとして大きなポイントになるという。
①WEB広告運用
WEB広告運用では、まだ『釣り★スタ』をやっていない"新規"を対象とした広告と、昔遊んでいたユーザーを対象とした"休眠"の2つのアプローチを重視していると述べた。また、CPI(Cost Per Inquiry、有望見込み客1人を獲得するために要したコスト)とROAS(Return On Advertising Spend、費用対効果)から、各媒体に合った広告素材を出すなど、傾向を掴むことも大切だという。
②リブランディング
高松氏は、長期運営タイトルは一般ユーザーにとって"古いゲーム"のイメージが強く、プラスに働くことはないと語る。こういったマイナスイメージを作らないためにも、認知形成ではなく再形成のリブランディングが、長期運営において大切なポイントだという。
『釣り★スタ』のリブランディング戦略では「釣りゲーム」という認識を「懐かしい場所+今訪れても居心地がいい場所」へ変化させるのが主な目的だ。そこで高松氏は、主なユーザー層である40~50代男性の懐古心をフックに、"いかに自分事化できるか"に注目した。
具体的な施策としては、WEB動画広告「父と娘の10年」を制作。これは『釣り★スタ』の10年がとある男性の人生と共に過ぎていく模様を描いたもので、ターゲット層のライフステージ変化と重ねて見ることができる動画になっている。結果として、再生数は100万回を越え、休眠ユーザーの声も多数見られた。
③休眠特化型施策
休眠特化型施策では、「プレイ年数に応じてアイテム還元」と「過去アイテムにスポットをあてる」の2点を説明。前者では、プレイ年数をプラスに捉えてもらえるように、特別なチケットをプレイ年数に応じてプレゼント。これはCPA(Cost Per Acquisition、1件にかかる広告費用)とROASの両面で効果を発揮したという。
後者では、過去に人気だったアイテムをリサイクルという形で、最新のアイテムに生まれ変わるシステムを用意。これは長期運営における課題のひとつ”過去アイテムの需要”への回答にもなっており、WEB広告だけでなく、OOH(Out Of Home media、交通広告・屋外広告)やPRイベントなど多方面でのアプローチにより、大幅なUU増加につながったそうだ。
最後に高松氏は、「UU獲得は新規も休眠も大事」、「同じくらいイメージ戦略も大事」、「休眠を前提とした仕掛けも必要」の3点をまとめとし、講演の締めとした。
■サムザップ『戦国炎舞 -KIZNA-』の事例
「運営6年目を実現させたユーザーリレーションシップと改めてこれから大事にしたいこと」
▲株式会社サムザップ 取締役 / 株式会社ポンテム 代表取締役 木村 航氏
▲株式会社サムザップ 取締役 / 株式会社ポンテム 代表取締役 木村 航氏
木村氏は『戦国炎舞 -KIZNA-』において、「運営6年目を実現させたユーザーリレーションシップと改めてこれから大事にしたいこと」のセッションを実施。主な内容としては、「CS対応の変遷」、「お客様に合わせた関係の築き方」、「当たり前のことを当たり前に」の3点となった。
まず「CS対応の変遷」では、リリース当初の『戦国炎舞 -KIZNA-』CS対応が24時間対応でなかったことが紹介された。しかし、リリース当初から遊ぶユーザーは熱量も高く、コアユーザー化する割合も多いことから、CS対応を即座に24時間対応へ変更したという。
また、1日に3回開催されるリアルタイムバトル「合戦」は多くのユーザーが集中することから、CSメンバーが即座に対応できるよう準備しておき、生じた問題をすぐに運営メンバーと共有する体制も整えたそうだ。これらについて木村氏は「ゲーム性に応じた体制の構築が大きなポイントである」と述べた。
「お客様に合わせた関係の築き方」ではSNSを活用した施策について紹介。Twitterは当初、ユーザーとの接点の目的だったが、実際の反応はクレームが多く、ユーザーのニーズとの相違を感じたそうだ。そこで木村氏は、Twitterはあくまでも情報発信ツールとして利用し、接点を設けられる場としてリアルイベントに注力。イベントに足を運ぶユーザーはコアユーザーも多く、実際に意見交換などを行うことでより密な関係を築けたという。
「当たり前のことを当たり前に」では、4つの質問を例に各種質問を提起。どの質問でも"正直に真摯に答えること"が共通しており、木村氏は「ユーザーも人であり、しっかりと向き合って会話することが大切」と述べた。
また、"お客様の声にどれだけ耳を傾けて運営に反映できるか"も長く愛される秘訣であり、これらについて再確認の重要さを呼びかけた。
最後に木村氏は、"NOT CSからGO CX(カスタマーエクスペリエンス)/CRM(カスタマーリレーションマネジメント)"を今後の展望として紹介。「意見や要望を受け取る、問い合わせをトリガーとする受け身の体制から、お客の属性に合った体制へ移していくこと」が大切であり、すぐに返答の欲しいユーザーなのか、時間はかかっても丁寧な対応を望んでいるのか、ユーザーの生活スタイルに合わせて対応することが重要とまとめた。
■ココネ『ポケコロ』の事例
「運営7年★なお成長中の『ポケコロ』♪超長期運営の秘訣をご紹介★」
▲ココネ株式会社 冨田洋輔氏
冨田氏はアバターアプリ『ポケコロ』を事例として「運営7年★なお成長中の『ポケコロ』♪超長期運営の秘訣をご紹介★」のセッションを展開。
冨田氏は始めに、『ポケコロ』を成功につながる種と信じ、社内全員で最高のコンテンツになるように育ててきたと社内方針を紹介。効率よく成果を出す作戦などはなく、「お客を魅了できるサービス・アイテムを出し続けられるか」が長期運営の秘訣と述べた。
アバターゲームである以上、可愛らしいアイテムなどはデザイナーのセンスや実績に影響される部分はあるが、決してそれだけではなく「全員が文化や価値観を持ち、学んで成長してきた結果」が生み出したものであることを強調した。
過去には「『ポケコロ』のデザイナーはアバターしか描けずにかわいそう」という声が社内であがり、社長が激怒したこともあったという。社長は「デザイナーはガチャで引く洋服・アイテムを作っているわけではない。世界一可愛いデザインを通して女性に憧れや癒やしを提供する、世界で最も人気のデジタルの洋服を作っているトップアーティストである。決して媚びず、おごらずにスターとして誇りを持って欲しい」と話していたそうだ。以降は、デザイナーが自発的に企画を考案したり、デザイナー自身の名前を出して服をアピールするなど、この一件は大きな転機になったという。
また、冨田氏は問い合わせユーザーの情報を見れるシステムの導入も紹介した。冨田氏はKPI(Key Performance Indicator、主要業績評価指標)などは把握していたものの、社長からの「ユーザーがどんな洋服を着て、何に興味を持っていたのか」という質問に答えられなかったことが影響しているという。社長から「109の店員はお得意様に似合う服装や買った服を全部覚えている。君のお得意様はだれだ?」という指摘があったことで、導入したそうだ。
会社のトップだけがお客様のことを考える組織と、社員全員がお客様を考える組織では、どちらが良い会社になるかは一目瞭然。現在ではお客様対応を全社員で対応する時間帯を設けているという。また、『ポケコロ』を良くしたいと思う気持ちはユーザーも同じであり、公式サポーターとしてユーザーとの連携企画も紹介。どちらも自分たちのお客様が誰なのかを知るいい機会になっていると冨田氏は説明した。
■ファンプレックスの事例
「超長期運営を実現するPLづくり」
▲ファンプレックス株式会社 執行役員 佐藤 洋祐氏
佐藤氏は「超長期運営を実現するPLづくり」というテーマを「運営HPを減らさないための回復魔法と防御魔法」というRPGになぞらえたテーマでトークを展開した。
セカンダリ事業を主とするファンプレックスでは、売上回復(HP回復)とコストコントロール(防御UP)の2点が長期運営において欠かせないポイントであると佐藤氏は説明。
1つ目のポイント"KPIチューニング"では日常的なKPI管理が基本だが、"日常的に、誰がやるのかを決める”ことが重要であると述べた。実際にファンプレックスでは朝会と称して、その日のタスクや共有事項の確認だけでなく、デザイナーやエンジニアも含めて各種数値の進捗を確認するという。
また、佐藤氏は数値の中でも特に"アイテムの需給管理"を重要視していると説明した。これはログインボーナスなどで手に入るアイテムなどの総数で、このバランスが取れていないとユーザーにとっては価値のないアイテムを入手し続ける形になってしまう。また、供給が多すぎた場合に供給を減らしてしまうのはユーザーに取ってシステムの改悪イメージに繋がってしまうため、対策としては需要が増えるような新システムを作ることが重要だという。
また、長期運営において、ユーザー離脱は切っても切れない問題である。これはKPIチューニングにとって一番の痛手であり、一口に離脱といっても、その理由はユーザーによって様々。何がユーザーの離脱に繋がったのか、一つ一つを分析していくことがKPIチューニングにとって重要であるという。
以上をまとめると、「必要な情報が即時手に入ること」、「全員で行うこと」、「習慣化して日々続けること」の3点が大切であり、組織文化として定着させることができればKPIチューニングによる売上安定が手堅いものになると説明した。
2つ目のポイント"クオリティを損なわない効率運営"では、例として「ファインディング∞(まるまる)」と呼ばれるプロジェクトを紹介。これは日々の業務の中で思っている「気づき」などを目安箱のように集うことで、様々な改善案が集まるというもの。提案や改善案などを送るとポイントが付与され、期間内でチームポイントなどを競うことで、全員が"あるべき姿"をイメージできるという。
"クオリティを損なわない効率運営"では「クオリティ改善につなげること」、「組織的に運用すること」、「習慣化して日々続けること」の3点が大切であり、これもKPIチューニングと同じく、組織文化として定着させることが重要だという。
また、最後には"KPIチューニング(HP回復)"と"クオリティを損なわない効率運営(防御魔法)"どちらの魔法も使いこなすためにはレベル上げが重要として、どちらの項目にも共通していた"組織文化としての定着"の大切さを強く語
った。
■パネルディスカッション「『5 年後生存率』向上委員会 vol.1」
▲新たに登壇した『戦国炎舞 -KIZNA-』プロデューサー 大森 達也氏(右から2人目)と
ファンプレックス株式会社 執行役員 遠藤 圭太氏(画像中央)
ファンプレックス株式会社 執行役員 遠藤 圭太氏(画像中央)
イベントの最後には、5年後生存率をテーマとするパネルディスカッションを実施。4つのテーマについて、登壇者によるトークを展開した。
最初のテーマ「ここ最近で力を入れてるプロも施策や手法はどういったものがあるか」では、大森氏が『戦国炎舞 -KIZNA-』でトークを行った。大森氏は運営年数こそ長くなってきたものの『戦国炎舞 -KIZNA-』自体の知名度はそこまで高くなく、対策としては既存のユーザーを全面に押し出していくことで認知度の向上を図っているという。
冨田氏からは、ゲームやユーザーへの理解の深さを活かして、様々な面で内政化に挑戦していることが明かされた。広告代理店に頼るばかりではなく、社内での企画・挑戦が良い方につながると信じて挑戦を行っているという。
次のテーマ「長期運営において、削らないようにしているコストや、コストを上げてでも守るべきものは?」では、高松氏が『釣り★スタ』におけるコスト削減を紹介。ガラケー時代から続けていたこともあり、サーバー費は削減したという。また、適正化という意味ではチェックやカスタマーセンター費用も見直したという。削減しすぎるとユーザーにとって悪い方向に進んでしまうため、適正化を意識しているという。また、ユーザーの飽きへの対策として、新たなチャレンジを行う際にはコストをかけていると語った。
「ユーザーからの意見や指摘で、取り入れた画期的なものなどはあるか?」というテーマでは、ユーザーとの繋がりについて語った冨田氏が、『ポケコロ』ではログイン時のメッセージを特別なものに変更したと紹介。一部からは"えこひいき"という声も上がったが、買い物アプリという部分もあり、お得意様という憧れの存在として存在シて欲しいと実装に踏み切ったという。
最後のテーマ「長い運営の中で最も印象深かった苦難とその対処方法は?」では、高松氏が『釣り★スタ』での4~5年目の苦労を披露。レイドモデルのゲームが流行りだしたこともあり、『釣り★スタ』でどう表現するのかに注意したそうだ。大切なのはゲームモデルが古くなった時にどう対処するのかで、世界観を壊さないようにゲームを再構築できたのが良い結果に繋がったという。
冨田氏は『ポケコロ』において、毎年訪れる季節イベントでの苦労話を紹介。春の桜イベントといっても、年数を重ねることでマンネリ化してしまうので、同じ方向性でもトレンドなどを調査して違いを持たせるなどの創意工夫が語られた。
また、遠藤氏からは、長期運営における問題の一つとして、固定スタッフの属人化も語られた。ファンプレックスでは、各企画をドキュメント化することで、全員が確認できるようにしているという。定期的にチーム内などで勉強会も実施しているとのことで、佐藤氏の語っていた"組織文化としての定着"がここでも見られた。
会社情報
- 会社名
- グリー株式会社
- 設立
- 2004年12月
- 代表者
- 代表取締役会長兼社長 田中 良和
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3632
会社情報
- 会社名
- グリーエンターテインメント株式会社
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 柿沼 洋平