ポケラボは、10月17日、同社内にて、『SINoALICE』(シノアリス)プロデューサーの前田翔悟氏が「売れるゲームとは」というテーマで開発者向けイベントを実施した。当日は、前半に前田氏が講演を行ったほか、後半は運営プランナー3名を交えて運用面について語るトークセッションを実施。本稿では、その模様をお届けしていく。
【登壇者】
・前田翔悟氏(ポケラボ/『SINoALICE』プロデューサー)
新卒で日立システムズに入社。エンジニアとプロジェクトマネージャーを経験後、2012年よりポケラボに入社。会社の成長と共に複数タイトルのプロデューサーを経て、『SINoALICE』の企画からプロデューサーとしてサービスを立ち上げる。現在も同タイトルの運営全般を統括する。また、Twitterを重要視しており、自身でも活用しながらユーザーの声を拾っているとのこと。
【会社紹介】
「挑戦」「相互理解」「驚き」「個性」という4点をコアバリューに、『SINoALICE』のほか、『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』(以下、『戦姫絶唱シンフォギアXD』)や『ぷちぐるラブライブ!』の開発・運営を担当している。
■売れるゲームに答えはない、では何を目指してゲームを作り続けるのか
登壇した前田氏は、まず今回「売れるゲームとは」というテーマで講演をしているが、その答えは"ない"と自身の意見を提示した。理由として、業界の市場や状況は日々変わっているため答えも変化し続けているということ。また、仮に答えが出たとしても、その瞬間に多くの企業が真似することで似たようなゲームが乱立してしまうことが予想されるため、それはやはり答えではなくなってしまうという考えのようだ。なので、本講演で話す内容についても、シノアリスが一定「売れた」という前提のもと、開発経緯の例として、一種のケーススタディーのように参加者自身が考え、今後の売れるゲーム開発を目指すことに活かしていただきたいと述べた。
1.ポケラボのプロデューサーの枠組み
ここからは本題へ。『SINoALICE』では現在、3名のプロジェクトマネージャー(プロデューサー)が運営を担っているという。開発発足~リリース2ヶ月目辺りまでは前田氏がひとりでプロデューサーを務めていたが、「ビジネス」「組織」「コンテンツ」の3方面で役割分担を行った方が円滑に運営を続けられるとの話だった。実務的な分担のほか、精神的な負荷も抑えられることで作業に集中でき、より質の良いものを作ることができると前田氏は語った。
▲その中で前田氏は、ロードマップ作成やプロモーション周り、共同開発であるスクウェア・エニックスや、クリエイティブディレクターを務めるヨコオタロウ氏とのやり取りを担当している。
2.『SINoALICE』のポケラボ側の開発経緯
続いて前田氏は、ポケラボ側から見た『SINoALICE』の開発経緯について当時の状況を振り返った。開発前の2015年10月頃、ポケラボは大幅な減収・赤字幅拡大で危機的な状況だったという。このことについては、Social Game Infoでも下記の関連記事にて報じられたことが紹介された。
【関連記事】
・ポケラボ、2015年6月期は56%減収・赤字幅拡大
しかし、当時からちょうど3年が経った今、『SINoALICE』はApp Storeでトップセールスランキング1位を獲得、ポケラボ2018年6月期の最終利益は10億円を超える(関連記事)など好調に推移しており状況は一変している。そこで前田氏は、こうした逆境にありながら、如何にしてポケラボがこれらのタイトルをしっかりと開発できたかを語った。
2015年当時の状況として、ポケラボでは3Dアクションの開発を行っていたが開発が難航、また市場はIPタイトルが上位を占め、スマホゲームの開発費が高騰していた。そうした理由から、ポケラボに限らず他社でも揃って開発が難航している状態であったと前田氏は話す。そこで、ポケラボは自社が得意とする2DのGvGで勝負をすることに。『戦乱のサムライキングダム』で培った技術を活かしてエンジン戦略を取りつつ、グリーグループと連携することでリスクオフしていく戦略を立てていた時期だったとのことだ。
実は、この時期にスクウェア・エニックスからヨコオタロウ氏が作るアリスの世界観で共作しようという打診があったが、一度は断った経緯があるのだという。当時は、他でもIPタイトルが進行していたという内情や、新規IPで人を集められるのかという不安が拭い切れなかったと前田氏は明かした。しかし、元々「世界観があるGvGを作りたい」という想いを持っていた前田氏は、その後ヨコオ氏の作品をプレイして感銘を受けたことから『SINoALICE』企画立ち上げに至ったと経緯を説明した。これについて前田氏は、ゲーム開発においては自身に「やりたい」と思える気持ちが芽生えることがひとつのポイントで、如何に自分が「この人にかけてみたい」と思えるかどうかが重要だと話をまとめた。
▲自身で『NieR RepliCant』(ニーア レプリカント)をプレイした際に「この人なら絶対に売れる」と感じたとのこと。
3. 開発中の役割と意思決定
その後、『SINoALICE』は1年半という期間を経てリリースされたのだが、ここまで開発が滞りなく進行できたのは、最初に座組と役割分担を固められたことにあると前田氏は分析する。世界観やシナリオといったクリエイティブについてはヨコオ氏に任せ、イラストはジノ氏、音楽は岡部啓一氏、そしてソーシャルゲームとしての開発・運用をポケラボがそれぞれに担当するということを上手く融合できたからこそスムーズな開発が実現できたと説明した。キャラデザや音楽など、世界観についてはクリエイティブディレクターのヨコオ氏が意思決定を行い、クリエイティブを担保してもらえたことが大きかったとのこと。
また、『SINoALICE』発足は3ページの企画書から始まっており、それは開発が進んでも情報が足されることはなかったという。前田氏は、如何に最初の企画をシンプルに明確化して軸をぶらさずに最後まで走り切ることが勝負の分かれ目となると話した。
4.『SINoALICE』が売れた理由
次に前田氏は、結果論として『SINoALICE』が売れた要因は「高いアプリクオリティ」と「効果的なプロモーション」にあると分析する。スクウェア・エニックスの協力もあり、社内外で業界トップレベルのクリエイターを揃えられたからこそハイクオリティな作品に仕上げることができたと述べた。
▲『ファイナルファンタジー』シリーズのエフェクト制作を手掛けていた岡村雄一郎氏が制作したツール「SPARK GEAR」を導入。今でこそ他の人気タイトルにも続々と実装されているが、当時、同ツールを使用していたのは『SINoALICE』のみだったとか。
続いては「効果的なプロモーション」について。下記は『SINoALICE』が2017年2月16日に初めて情報を出した際のプレスリリースに掲載したメインビジュアルだが、前田氏はここに『SINoALICE』のファーストインパクトとして重要な内容だった、と語る。ヨコオ氏が手掛けるダークファンタジーのソーシャルゲームであることはもちろん、スクウェア・エニックス×ポケラボなど「初もの」尽くしの展開でユーザーの興味を惹いた。
また、事前登録期間中は主にSNSを中心にバイラル訴求を展開したことで広告費を抑えることができたという。ヨコオ氏のコアファンを中心に、『SINoALICE』の世界観をアピールして、リリース直前には『NieR:Automata』(ニーア オートマタ)とのコラボなどインパクトの大きな内容でさらにバイラル訴求を進める。最終的には50万人以上の事前登録を達成したが、これは新規IPタイトルとしては非常に稀有な例で、ヨコオ氏のTwitterフォロワーに拡散力のあるユーザーが多かったこともこの結果に繋がったと前田氏は分析した。
▲『SINoALICE』の世界観を推したかったため、あえて4月までゲームシステムの情報を一切出さなかったという戦略的な話も。なお、このプロモーションプランは何度もディスカッションを重ねて1年ほど掛けて仕上げてきたことも明かされた。
最後に、前田氏はおまけとして『SINoALICE』開発時の裏話を披露した。講演冒頭に売れるゲームの答えはないと示した前田氏だが、では、開発者は何処に向かって制作を進めればよいのか。この質問を、『SINoALICE』開発時にヨコオ氏にぶつけた際、下記のような返答をもらったという。
「売れるかどうかは分からないけど、お客様の記憶に残るもの、作っている自分たちの記憶に残るものかどうかが物凄く大事だ」。この言葉には、エンタメは人生に必須のものでない分、お客様に貴重な時間を使ってもらっているなら、記憶や思い出に残るものを作らなくてはいけないとの想いがあるとのこと。さらに、作ったものに対して自分たちも「作って良かった」と言えるものを目指してやっていくことが大事だという話を聞いたことから不安が払拭され、チームとしても一致団結して開発に臨めたというヨコオ氏とのエピソードを語り、講演の締めとした。
後半は、同社でプランナーを務める山﨑大氏、野上雄介氏、松尾綾樹氏を招いてトークセッションを展開。「運用するうえでこだわっているところは」、「ユーザー分析のやり方、活かし方とは」、「運営していて大変なことは」というテーマでパネルディスカッションを行った。
▲写真右から順に、プランナーリーダーの山﨑大氏、運用面のプランナーを務める野上雄介氏、世界観面のプランナーを務める松尾綾樹氏。なお、現在『SINoALICE』チームには約14名のプランナーが在籍しているとのこと。
最初は「運用するうえでこだわっているところは」というお題。これについて野上氏からは、自身もひとりのヘビーユーザーとしてゲームをプレイすることで幅広いユーザーの意見を汲み取りやすいようにしているという回答が聞けた。一方、山﨑氏や松尾氏からはユーザーに驚きやサプライズを提供するために同じような展開を避けつつ、ヨコオ氏とはいつも「想像の斜め下をいこう」と話しているという話も聞けた。
また、「ユーザー分析のやり方、活かし方とは」というテーマではまず野上氏が、例としてユーザーをセグメント分けしてイベントごとにどれほどの熱量を持って遊んでいるかや、実際にどの武器を所持しているかを見ていると答える。細かいデータから「次に何をして欲しいか」を分析して日々施策を練っているのだと語った。さらに、山﨑氏からは「データはどこまでも深掘りできてしまうため、誰に訴求したいのかという人物像をはっきりさせたうえでデータ分析と体感を融合して施策を考えることが重要になると語った。
最後のテーマである「運営していて大変なことは」では、松尾氏から「ユーザーの期待値を上げたくない」という意外な回答も聞けた。これは、業界全体で様々な取り組みが行われており『SINoALICE』でも期待値が上がっているため、その度に驚きを与える施策を考えることが大変になっているという話だった。先述にもあった通り、『SINoALICE』では「斜め下をいく」というコンセプトで違った角度からのアプローチを試みて驚きを提供しているが、目先を変えるアイデア勝負というところが一筋縄ではいかないようだ。
なお、ポケラボが単独でセミナーイベントを開催するのは今回が初めてとのこと。今後は定期的に実施していく予定とのことなので、引き続き同社の動向にも注目したい。
(取材・文 編集部:山岡広樹)
■『SINoALICE(シノアリス)』
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会社情報
- 会社名
- 株式会社ポケラボ
- 設立
- 2007年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 前田 悠太