ポケラボは、1月29日、同社内にて開発者向けイベント「ここまでやる?!SINoALICE -シノアリス-異色イベントの裏側大公開」を開催した。ポケラボの単独講演はこれまでにも開催されており、今回で3度目となる。今回は“『SINoALICE -シノアリス-』らしいイベントの作り方”というテーマで、プロデューサー、プランナー、エンジニア、デザイナーの各視点でのエピソードが語られた。
【登壇者】
・前田翔悟氏(ポケラボ/『SINoALICE』プロデューサー)
・栗田昭氏(ポケラボ/『SINoALICE』リードデザイナー)
・山崎大氏(ポケラボ/『SINoALICE』リードプランナー)
・覚張奉幸氏(ポケラボ/『SINoALICE』リードエンジニア)
【関連記事】
・【セミナー】ポケラボが初の単独講演を開催…『SINoALICE』誕生秘話や開発時のヨコオタロウ氏とのエピソードを前田Pが語る
なお、本イベントは飲み会のようなカジュアルな形式で行われた。まずは『SINoALICE』のプロデューサー前田翔悟氏による乾杯でイベントはスタート。トークセッションは登壇者、参加者共々アルコールを片手に緩い雰囲気で進行した。その後の懇親会では、参加者、ポケラボのスタッフ陣が入り交じり、お酒とつまみを楽しみながらゲーム開発に関するトークを楽しんでいた。
▲イベント冒頭では、ポケラボのキャラクターのポケロボくんがご挨拶。この日からポケロボくんのTwitter(@pokerobokun)が動きはじめたようだ。
本稿では、トークセッションの模様をお届けしていく。話題の中心となるのは、『SINoALICE』の特徴でもある“尖ったイベント”について。ユーザーの興味を引き続けるこれらのイベントは、一体どのようにして生まれているのだろうか。
今回トークを行うのは、『SINoALICE』プロデューサーの前田翔悟氏。リードデザイナーの栗田昭氏。リードプランナーの山崎大氏。リードエンジニアの覚張奉幸氏の4名。
■これまでに『SINoALICE』で行われたイベントを振り返る
イベント開始直後のアイスブレイクでは、山崎氏が入社してからまだ11ヵ月とメンバーの中では日が浅い部類だとう話も。現在は『SINoALICE』が好調に推移していることもあり、社内では新たな人員を取り入れる世代交代の真っただ中だとか。これに関して前田氏は、過去を振り返りながら「暗黒時代を知らない世代」と苦笑いをしながら語る場面も見られた。
緊張も解されて和やかなムードで始まった講演では、まず『SINoALICE』の運営について説明するため、グリーの決算説明資料が映される。『SINoALICE』はリリースされてからこれまでセールスランキングのトップ10にも頻繁に入っており、毎月の売り上げが安定したタイトルとなっている。グリーから表彰されるMVPタイトルの称号を複数回獲得したという実績もあるという。
そして、そんな安定したタイトルとなっている要因の1つがゲーム内で開催されるイベントがユーザーから好評であることだ。季節やコラボに関するイベントはこれまでに何度も開催されたが、中にはゲームとの関連が想像し辛いタイトルのイベントもある。
ここでメンバーが印象に残ったイベントについて話すと、まず挙がったのは2018年4月の潮干狩りイベント(関連記事)だった。覚張氏は、「アサリのサリイというキャラクターと共闘するシステムを作ってほしい」と言われ、疑問を抱きながら開発をした思い出があるそうだ。
開催前はユーザーだけでなく、開発陣の頭にも疑問符が浮かんだこのイベントだったが、蓋を開けてみればアサリのサリイはユーザーの間で人気キャラとなり、イベントとして大成功を収める結果となった。また、覚張氏からは「要望があればサリィをプレイアブルもできるよ(笑)」とのコメントも。
続いて挙げられたのは、「スペースインベーダー」とのコラボイベント(関連記事)だ。栗田氏は「当時、“「インベーダーゲーム」の完コピを作ってほしい”という要望が来たのでコラボ先であるタイトーの資料を見ながら必死に作っていたのですが、後から素材が全て届いたということがありました」という悲しいエピソードを語った。監修の際にはドット制御に関する修正など、今の時代では珍しい作業が必要になったことが印象に残っていると話してくれた。
また、『SINoALICE』のイベントの中には、原作・クリエイティブディレクターのヨコオタロウ氏が発端で始まったものも多いという。『釣り★スタ』や「スペースインベーダー」など、一見『SINoALICE』とは関連性がないように見えるコラボイベントは、ヨコオタロウ氏の一声から始まったそうだ。
ちなみに、2018年末に前田氏がTwitterにて行った「どのイベントが良かったか」というアンケートでは、DOD3・射的イベントに続き、潮干狩り、スペースインベーダーコラボも多くの票を獲得していた。
■ユーザーの斜め下を行く企画の生み出し方とは
続いては、『SINoALICE』のイベントを組み立てていく大まかな工程についての話に。最初に行われるのは、マイルストーンフェーズの段階における、一番の外枠となるグランデザインの設定。これに関しては、既に2022年ぐらいまでの計画が設定されているとのこと。この時点で中心となるのは、プロデューサー、プランナーの一部の少人数のスタッフだ。グランドデザインが決まれば、マイルストーン、中期計画と段階を踏んでイベントに関する具体的な部分を決定していく。
中期計画までを終えると、企画・設計フェーズに移行。ここではシナリオ作成などが主に行われる。『SINoALICE』のシナリオは多くの場所に監修を出すことからも、ここも非常に重要なポイントとなる。この2つの工程を終えて、実装、リリースの段階を踏んでようやくユーザーの元にイベントが届けられる。
プロデューサーは主にイベントの根幹となるグランドデザインに最も深く関わることとなるが、先も述べた通り、数年後のイベントを計画しなければならないため、詳細を決定するのに苦労することも少なくないとか。
一方、プランナーは中期計画での役割が大きい。山崎氏は、ヨコオ氏やスクウェア・エニックスの『SINoALICE』プロデューサーである藤本氏から届けられる要望を、工数面を含め実用性のあるものに変換していき、調整していくというのが具体的な作業になるそうだ。
『SINoALICE』のイベント企画では、仕様ベースはなく、シナリオベースやアイデアベースの色が強いという。ヨコオタロウ氏の「『釣り★スタ』とコラボしたい」「ハロウィンだから人狼関係で何かやりたい」、そういった一言が企画の発端になるとのこと。それが“尖ったイベント”と呼ばれる理由の1つにもなっているようだ。
そんな火付け役にもなっているヨコオタロウ氏の理念として「ユーザーの斜め下を行きたい」というものがあると紹介された。これは、面白いものを作るためにユーザーの想像の範囲に収まらないものにするという意図が込められており、同じことは2度とやらない。この2つをクリアすることが企画のスタートラインになっているとのことだ。
そうして、ざっくりとやりたいことが決まったふわふわとした段階から企画をまとめるのがプランナーの山崎氏の仕事になる。シナリオ、アイデアベースの企画を最大限実現するため、“今の仕様で何ができるか”や“+αでどんなことができるか”を考えるのではなく、どうやったら実現できるのかだけを基本に考えるようにしているとのこと。「できないから」と言って企画を返すようなことは行わないようにしているとポイントを話した。
中でも、具体的なエピソードとして挙がったのは、「スペースインベーダー」コラボを行った際の話。インベーダーゲームを実際にユーザーに遊んでもらうという企画が挙がった際に、覚張氏はリンクから外部サイトに飛んで遊んでもらうようなものを想像していたが、要望として届けられたのはゲーム内でインベーダーゲームとして別のゲームを動かすというものだったという。
最初は「正気?」と声に出てしまうほど驚いたそうだが、「これくらいしないとインパクトがない」と思い直し、ユーザーの反応を見てみたいという想いのもと開発に取り組んだという。
また、栗田氏は「デザイナー目線では、尖った企画の方が筆は走りやすい」と、モチベーションの面でも影響があると述べた。良い企画を作ることで自然とアイデアも追加されていき、より良いものが作れるようになるそうだ。
アイデアに関して「NO」と言うのではなく、どうすれば実現できるのかを考える。こういった雰囲気は、チーム全体で常に意識しているそうだ。もちろん、気持ちの面だけでなく、それに対応するための連携の準備なども大切になってくると話がまとめられた。
■尖っていれば良いわけでもなく、奇抜な企画の際に注意する点
次に、尖った企画を作る際の注意点として、覚張氏は「作っていて楽しくても、運営が独りよがりにならないような企画にする」という点を挙げた。あくまで遊ぶのはユーザーであり、彼らを中心に捉えた企画にするというのは心掛けているそうだ。
さらに、栗田氏は「尖りすぎないように見張ることも大事」と付け加える。2018年末のイベントで「今年クローズしたソーシャルゲーム」に関する企画が挙がってきたとき、最初は「タイトルを全部出そう!」という話になっていたが、冷静に判断して、モザイクをかけることになったそうだ。尖らせることを意識する際は、方向性を見誤らないようにする判断力も忘れずに持っていなければいけないとの話だった。
他にも、「ユーザーを弄ることはしない」というルールもチームの中で決められている。尖らせるとはいえ、何もかも乱暴にするのとは意味が違うという、これも良い企画を完成させるために必要となる冷静な判断の1つと言えるだろう。
実際にゲームをプレイしてみると分かるが、『SINoALICE』では、そういった際どい内容に関する発言はゲーム内でキシンとアンキに喋らせるようにしている。ギシンとアンキは、ゲーム内で殴り合ったり首を飛ばしたり、無茶をしても許されるサンドバックのような存在でもある。ソーシャルゲームにおいては、そういった役割のキャラクターを用意しておくことで、何かやりたいことが発生した際にストップをかけず突っ切れることが増えていくとメリットを説明した。
■企画組み立てのための職掌間の連携とは
職掌間の連携については、基本的にSlackを使って連絡を取り合うようにしている。『SINoALICE』は高頻度でバージョンアップするタイトルのため、バージョンごとの機能についてはここで頻繁で話し合うようにしているそうだ。
イベントの企画時には、コンフルエンスで意見をまとめて、“キックオフ”と呼ばれる工程で、いわゆるグランドデザインと企画設計の間の作業が行われる。その後、「どのようなことができるか」「どうすればそれができるか」という部分を固めていき、リリースまでのスケジュールを具体的に決め、職掌で実装に向けて動いていく。
この最初の話し合いとなる“キックオフ”がポケラボの特徴的な作業工程で、ディレクターやプランナーが決定を行う前段階での話し合いが行われる。今回の登壇者のメンバーは基本的に参加するようにしているとのこと。
他の特徴としては、DeployGate(デプロイゲート)と言うバイナリーを共有するサービスを利用して、全員が最新のバイナリーでアプリを遊べるようにするといったことも行われている。社内での席を近くして、連携を取りやすくする形作りなども大切とのことだ。
また、『SINoALICE』チームは月に1回はメンバーで集まって焼肉を食べに行く集まりを開催しており、そこで会話やアミノ酸の摂取を通して、お互いのモチベーション維持を図っているそうだ。前田氏は「要するに、肉を食って働けってことですね(笑)」と笑いながら口にしていたが、こうした機会があるからこそ普段のコミュニケーションが取りやすさにも繋がっていることが伺えるエピソードだった。
その後の質疑応答では、『SINoALICE』のバランス調整やポケラボの過去の取り組みについての質問があった。話の中では、前田氏から『SINoALICE』誕生の秘話も語られた。
『SINoALICE』の企画が始まったのは2015年の11月、約3年前に遡る。その時期はタイトルクローズなどが続いており、冒頭にも述べられた暗黒時代であったそうだ。当時のポケラボの特徴として、3Dアクションで難易度が高いというものが多く、開発が大変な部分が多いタイトルを取り扱っていたという。
そこで一度会社の方針を見直そうということになり、ポケラボの強味であるギルドバトルを推していくということに。そこに、スクウェア・エニックスの藤本プロデューサーから「ポケラボさんのエンジンと、ヨコオタロウさんの世界観でゲームを作ってはどうでしょう」という提案があり、『SINoALICE』の開発が始まったそうだ。
実は、その話を持ち掛けられたとき、開発人数の面から最初は断っていたという衝撃の事実も明らかに。前田氏は「断るにもちゃんとヨコオさんのゲームを知ってからにしよう」と思い、ヨコオタロウ氏の『ニーア レプリカント』をプレイ。そこでヨコオ氏の世界観に魅了され「これだ!」ということで承諾したそうだ。
トークセッションが終わると、参加者とポケラボスタッフとの懇親会の時間に。前田氏が「シノアリス~乾杯!」で温度を取り、イベントは最後まで緩く賑やかな雰囲気で執り行われた。
“暗黒時代”を脱出するきっかけとなった『SINoALICE』。1年以上も安定したセールスを続ける裏側には、企画が面白いかどうかを徹底的にチームで練り上げていく綿密な話し合いが行われていた。話し合いについても、仕様ベースではなく企画に合わせたアップデートを行うことで、ユーザーの斜め下の方向であっと驚くイベントを完成させることができている。
今後は、一体どのような企画を生み出してくれるのか。様々な意味で話題をかっさらう『SINoALICE』のこれからの動きにも注目したい。
(取材・文 ライター:セスタス原川)
■『SINoALICE(シノアリス)』
© 2017, 2018 Pokelabo Inc./SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
会社情報
- 会社名
- 株式会社ポケラボ
- 設立
- 2007年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 前田 悠太