ディライトワークスは、2月27日に「DELiGHTWORKS Developers Conference(以下DDC)」の第3回を開催した。今回は登壇したのは、同社でプロジェクトマネージャーを務める戸田圭祐氏だ。戸田氏は、ディライトワークス内におけるプロジェクトマネージャーの業務内容と、そこに必要なスキルについて講習を行なった。本稿では、その内容の一部を掲載する。
「DDC」は、ゲーム業界で活動している人や、ゲーム業界を目指す人たちに向けて、ディライトワークスが開催している勉強会であり、今回で3回目の開催となる。今回は、『Fate /Grand Order』(以下『FGO』)の開発にも、プロジェクトマネージャーとして参加していた戸田圭祐氏が登壇し、自身の体験談を盛り込んだ「ゼロから始めるプロマネ生活」と題したセッションを行なった。
▲現在の戸田氏は、『Fate/Grand Order Gutentag Omen Adios』や、『Fate/Grand Order Arcade』など、様々なプロジェクトに参加している。
まず、戸田氏は今回のセッションを始めるにあたり、そもそもプロジェクトマネージャー(以下PM)とはどんな仕事をする役職なのかという、根本的なところから話し始める。PMの定義について、戸田市は改めて3つの情報源から定義を抽出している。
▲戸田氏が参考にしたのは、情報処理推進機構ホームページ、Wikipedia、マイナビAGENTホームページの3つ。
まずは、それぞれが掲載しているPMの定義に関する部分を抜粋し、そのまま紹介していく。その後、全てを統括しながら、予算、納期、品質の全てにおいて責任を持ち、プロジェクトの管理及び運営をしていく責任者であるということを提示した。
しかし、予算管理をしているのはプロデューサーであったり、品質管理はディレクターの範疇であることが多いゲーム業界においては、いまだPMの定義は各企業やプロジェクトによって異なっており、定義は曖昧なままとなっている。
そこで、ディライトワークスは自社の考えるPM像を発信するためにガイドブックを作成した。この「プロジェクトマネージャーガイドブック」は、DDC参加者に毎回配布されている。
では、ディライトワークスの考えるPM像は、先ほどの定義とどのように異なっているのか。ここからは、ディライトワークスのPM像をベースにしながら、本格的にPMの定義や業務内容についての話に進んでいく。
ディライトワークスの開発現場においては、プロジェクトマネージャーは予算の管理や品質管理に責任を持つ役職ではなく、チームの管理者として、プロジェクトの進行管理に対して責任を持つ立場として業務にあたっている。
▲一般的なPM像と、ディライトワークスのPM像の差異を視覚化した図。
こうしたチームの進行管理をする役職が必要となった経緯は、ゲーム開発外で起きる課題を解決していく役割が必要であったためだ。
そこで、ゲーム開発を進める上でよくある挙がる課題やアクシデントを例にあげ、プロジェクトマネージャーの必要性も説いている。
▲コミュニケーション不全や、開発ツールやデバイスの管理、怪我や病気による人員不足など、様々なケースがある。
こうしたタスクを解決しないと、開発の進行に悪影響を及ぼすことになる。そこで、こうした事案を解決するための人員としてPMが必要となり、ディライトワークスにおけるPMは、プロジェクトを潤滑に進めるための、コミュニケーションハブとなっている。
ここからはいよいよ、どのようにプロジェクトマネジメントを行なっていくのかについての話に入っていく。前提として、全てが計画通りに進むことはなく、日々マイルストンを管理していれば円滑にプロジェクトが進むわけではないことを、戸田氏は強く主張している。
まず、プロジェクトマネージャーがすべき業務にはどのようなものがあるのか、細分化した一覧表を戸田氏は公開する。しかし、一目にもその仕事の量は膨大である。ここに予算管理や品質管理の責任まで背負うことになれば、オーバーワークになるのも必然ではある。
▲今回は、この中でも戸田氏がとりわけ重要だと感じているタスク管理について、『FGO』開発時の実例を基にしながら解説している。
戸田氏が『FGO』開発に参加していた時期に、実際に使用していた管理ツール「Jira Software」を紹介しつつ、期間限定イベントをリリースまでの流れを解説していく。
タスクの管理で注目すべきは、始動してからのタスクの分解、いわゆるチケット化の作業である。具体的なタスク分解の様子をまとめた図も用意し、どのようにタスクを細分化していったのかを公開した。
こうしてタスクを細分化して管理していても、突発的なアクシデントは発生してしまう。この際の対応力こそがPMに求められる能力だ。例として、QAでUIアセットの実装漏れが見つかったが、アプリ実装までにもう間に合いそうにもないという例をあげた。
この解決策として、戸田氏は3種類の方法を提示する。タスクの優先度に関しては、アセットが必要不可欠なものなので先送りはできない。人員の調整については、今から人員を追加しても、要求値を達成できる成果が出るかは未知数であることから、審査には仮デザインで提出し、後から差し替えできるように実装方法を修正した。
▲あくまでも、戸田氏が体験したこのケースにおいての正解が実装方法の変更だったというだけであり、状況が変わればその他の方法にもメリットがあることは忘れてはいけない。
▲実装方法の変更をふまえた上でのタスクの分解例も公開された。
こうした実例から、戸田氏はプロジェクトマネジメントとは、遅延や変化を正確に把握しながらタスク管理をしていく、変更を管理する業務であるとまとめた。
最後に、これらの業務をこなすため、PMに求められるスキルは何かという問いに対し、戸田氏はコミュニケーション能力であると回答する。ゲーム開発経験や、文書作成スキルなど、あった方がいいスキルを挙げだすと枚挙にいとまがない。
その中から、一番重要なものを挙げるとしたら、それは「物事を正しく把握し、それを相手に伝える」ためのコミュニケーション能力であると語っている。
▲ここで戸田氏が提示しているコミュニケーション能力とは、明るく誰とでも話せるといった意味ではなく、相手の意図を読み取り、正しく理解するという意味に重点が置かれている点には注意してほしい。
今日のセッションの内容を総括しながら、戸田氏はPMという仕事はゲーム開発におけるに花形になることはないが、現場においてはなくてはならない黒子の役割であることを念押ししている。
PMだけでプロジェクトは動かせないが、自身が動きながら周りを巻き込み、メンバーの協力を得ていく「自走する歯車」となることで、プロジェクトを成功に導いていくのだと、戸田氏は自身の所感について語っている。
▲最後に、現在PMとしてプロジェクトに参入している人、PMに興味を持っている人たちに対してメッセージを送りながら、セッションは終了した。
次回のDDCは、3月20日の20時から開催される。「ディレクターが「決める」ためにどう考えるべきか」と題し、ディレクターの下舘尚貴氏が登壇する予定になっている。
●DDC vol.4 ディレクターが「決める」ためにどう考えるべきか
(取材・文 ライター:宮居春馬)
会社情報
- 会社名
- ディライトワークス株式会社
- 設立
- 2014年1月
- 代表者
- 代表取締役 庄司 顕仁