D2C Rは、3月1日に本社内のホールにて、アプリマーケティングセミナー「#MarketingLIVE Vol.3」を開催した。今回は、『#コンパス 戦闘摂理解析システム』(以下、『#コンパス』)よりコットン太郎氏、『モンスターストライク』(以下、『モンスト』)を提供するミクシィより明畠利樹氏、『TikTok』よりマーク・マオ氏が登壇し、ファンマーケティングに関するセッションを行なった。本稿では、セミナーの内容を抜粋して紹介していく。
D2C Rは、成果報酬形式の広告に特化したビジネスを展開しており、アプリ用の広告効果を計測するためのソフトウェアを提供している。同時に、アプリのマーケティングを題材にしたセミナー「#MarketingLIVE」を定期的に開催しており、今回で3回目の開催となる。
今回は、人気タイトルが取り組むファンマーケティングをテーマとし、リテンションに注目しながら、よりユーザーに密接したマーケティング行なっているタイトルの施策内容についてのセミナーが実施された。
■「ネット番組を活用した#コンパスのファンマーケティング」
最初に登壇したのは、『#コンパス 戦闘摂理解析システム』にて、イベントMCや生放送のMCを務めているコットン太郎氏だ。『#コンパス』は、音楽、イラスト、コスプレなど、ゲーム外の活動でも盛り上がりを見せており、非常にファンとの距離が近いタイトルである。
【関連記事】
・【イベント】「コンパスフェス 2nd ANNIVERSARY」の会場は『#コンパス』キャラが練り歩く不思議な空間に!
▲フリーランスで活動するメディアプロデューサーであるコットン太郎氏。
▲会場では、2018年末に開催されたリアルイベント「コンパスフェス 2nd ANNIVERSARY」の様子の紹介からセッションをスタートした。
そこで『#コンパス』は、ユーザーのモチベーションを高く保つための施策を展開しているという。そうすることで、既存のユーザーが多方面で盛り上がり、SNSなどを通じてユーザー以外の目にも付きやすい状況が自然と形勢される。これが、より多くの人に『#コンパス』を知ってもらえるきっかけになっているとのことだ。
また、波及力が強いインフルエンサーへの普及は、この施策の効果をより高いものへ上げていく。ユーザーが盛り上がれる場を運営が用意することで、本来ならゲームを遊んでいなければ分からない部分である、ユーザーが心からゲームを楽しんでいる様子を伝えることができるからだ。
ゲームが好きなユーザーと比べると、コンテンツが好きなユーザーはイベントに参加して盛り上がることが好きな層が多い傾向がある。
▲もちろんゲーム好きの層の中にも、イベントで盛り上がるのが好きな人は含まれるほか、ユーザーの盛り上がり方は地方によっても変わってくるため、一概にカテゴライズしきれるものではないことは、コットン太郎氏も言及している。
具体的な活動内容として、ネット番組「#コンパス エンジョイ部 」を通して、ユーザー同士のコミュニケーションを活性化させることを狙っている。収録番組ではなく、生放送にしてリアルタイムの声を反映していくことで、ネット上でオフ会をしているような環境を作っている。
番組内では、音楽やイラストの紹介など、ファン活動を支援するような内容にし、ゲームプレイ以外の楽しみ方を普及させていくことに注力している。こうした、コンテンツ好きなユーザーのための場を作ることは成功を収めており、番組終了後のアンケートも軒並み高評価を得ている。
▲ちなみに、今回使用しているスライドも「#コンパス エンジョイ部 」内で使用しているものであり、ファンが制作してくれたもの。
さらに、キーワード、キーパーソンを使い、多くのユーザーに体験を共有してもらうことで、ユーザーのコミュニケーション機会を作ることも重要だとしている。
例えとして、あるキーパーソンのファンである人がいれば、そのキーパーソンが出演する番組やイベントに参加したいと思う。そこから、別の目的で番組を視聴したり、イベントに参加した人たちとの接点が生まれるため、点と点が繋がっていくことになる。
最後に、こうしたファンマーケティングを行うにあたって、最適な人材はビジネスとしてユーザーとの距離を保てる人であると、コットン太郎氏は提示した。あまりファンに目線が近すぎるとのめり込んでしまい、趣旨がぶれてしまうことがあるため、距離感を大事にできる人材を選ぶことを推奨している。
また、質疑応答の際にどの程度の人数が必要になるかを問われると、動画制作やイベント運営となれば、多くの人員が別途必要にはなるが、基本的にはひとりで回せるとも答えてくれた。
■「データ×ファンマーケティング -モンスターストライクの大規模データを用いたデジタル広告領域におけるファンマーケティング事例-」
次に、ミクシィでデジタルマーケティンググループに所属する明畠利樹氏が登壇した。デジタルマーケティンググループは、主にデジタル広告施策を担当する部署で、蓄積したデータを使ったファンマーケティングも行っている。
▲2018年8月から、現在の部署でデジタルマーケティングに携わっている明畠利樹氏。
明畠氏は、ファンマーケティングを、広告に通じたユーザーとのコミュニケーションであるとし、広告によるコミュニケーションによって、ユーザーの行動を活性化させられるものであると定義している。
かといって、世界累計利用者が4900万人を超えている『モンスト』の広告を全ユーザーに向けて毎回打ち出すとなると、広告費用と投資対効果のバランスが見合わない。そのため、ファンマーケティングには緻密な広告施策が必要であると語った。
そこでミクシィでは、過去に計測して培ってきたデータを利用することにした。自社内でDMPを開発し、広告のログとゲーム内のログ統合することで、各ユーザーに合わせた適切な広告を打ち出す施策に活用している。
ますは、具体的なユーザーの分類として、ゲームをプレイしなくなって久しい休眠ユーザーと、ヘビーからライトまで幅広いアクティブなユーザーに分けた。
休眠したユーザーに復帰してもらうため、熱量を取り戻せるような広告を打ち出してアプローチをしていく。この際、休眠ユーザーの定義を過去のログから明確に定義し、DMPから該当するユーザーリストを抽出。そこへ向けて広告を配信した。これにより、一定の効果が得られたとのこと。
さらに、すでに休眠しているユーザーだけでなく、これから休眠しそうなユーザー、すなわちゲームに対する熱量が下がりそうなユーザーを発見することで、そもそも休眠を回避できるのではないかというところに、デジタルマーケティンググループは着目した。
そこで採用したのが「機械学習」である。これまで蓄積したデータを基に、休眠しそうなユーザーを予測し、リストを生成するシステムを作り、そこでリストアップされたユーザーに広告を打ち出していった。
次に、アクティブユーザーの行動活性化のために行った広告施策についても公表している。アクティブユーザーについては、新イベントのスタートや、新要素の追加などの広告を通じて、行動は活性化していく。
『モンスト』の特色でもあるマルチプレイを活性化させるために、機械学習によるリストを参考にしながら、広告によってマルチプレイが増えそうなユーザーに向けて、マルチプレイを促進する内容の広告を打ち出した。この施策では、マルチプレイ数が大幅に増えるという結果が出ているという。
こうした、具体的な事例を踏まえながら、明畠氏はファンマーケティングの効果の高さを訴えた。
■「TikTok Ads」
この後に登壇したのは、『TikTok』を配信するByteDance所属のマーク・マオ氏だ。『TikTok』では、ユーザーに対して様々な形で広告を配信している。現在の日本の状況は、中国本土ではショート動画共有アプリ『DOUYIN』配信開始時と同様の動きをしているため、今後日本でも『TikTok』ユーザーが増えていくとマーク氏は予測している。
▲ByteDance所属のマーク・マオ氏。
『TikTok』では、機械学習を使ってユーザーの趣向を解析し、それぞれに合わせたコンテンツをマッチングする機能がある。こうして、ユーザーが夢中になれるコンテンツを提供し続けるサービスが実現している。
現在の日本における、『TikTok』普及率に関するデータも各種公開された。若年層の女性に人気というイメージが強かった『TikTok』だが、男女比率をみると男性が3割を超えているなど、広い層に普及し始めていることがうかがえる。
また、ユーザーアクティビティや利用頻度をまとめたデータには、1日の平均利用時間41分というデータに注目している。ひとつひとつの動画が短い『TikTok』において、41分も利用しているというのは、その習慣性の高さも見える。
そして、『TikTok』は動画を見ることから、その他の行動へと繋がっていくことも特徴となっている。自身も投稿するといった、『TikTok』のコンテンツへの参加はもちろんのこと、広告を通じた他のアプリへの遷移も期待できる。
つまり『TikTok』が、ユーザーにマッチしたコンテンツを提供していく延長で、広告へと波及していく効果が得られるため、ファンマーケティングによるコンテンツや広告のマッチング精度を上げることで、広告の効果も上がっていく。
すでにoCPC方式も導入されているため、目標CPAに合わせて入札価格も最適化される。費用に見合った効果を得られるという意味では、広告を出稿する企業としては非常にありがたい。
『TikTok』内に広告を配信することによって得られる効果について、過去の配信事例をカテゴリ毎に分け、CPA、CAC、CTR、CVRをまとめたデータを公開している。
マーク氏は、今回の発表をまとめながら『TikTok』に広告を出稿する際、大きな効果を得るためには、とにかくバズるということを意識することが重要であると助言を残している。
■ユーザーを深く理解したうえでのマーケティング戦略とは
この後は、今回の登壇者3人に、D2C Rの伊藤大悟氏も加わってのパネルディスカッションも行われた。
▲写真左から、マーク・マオ氏、コットン太郎氏、明畠利樹氏、伊藤大悟氏。
パネルディスカッションでは、事前に寄せられていた質問の中からピックアップしたものについて、伊藤氏が登壇者たちに質問していく形式で進められた。
最初に「ゲーム内施策とマーケティング施策の連動」については、コットン太郎氏に話を振った。これに対してコットン太郎氏は、生放送の番組に、未発表のキャラのイラストレーターをゲストに呼んだりしていることもあり、表向きには開示していないものの、ある程度ゲーム施策に絡めた要素は用意していると答えた。
「ユーザーと動画を通じてどうコミュニケーションする?」という質問に対しては、マーク氏がメインとなって回答している。『TikTok』を通してユーザーに動画広告を提供するのであれば、出だしはインパクトを強くしすぎないことを勧めている。
出だしの3秒の間のインパクトが強すぎると、スキップされやすいというのは、ByteDanceの調査でも明らかになっている。『TikTok』のコンテンツに合わせた導入から、インパクトのある内容につなげていくと、高い効果が期待できるのではないかと提案した。
最後に、「今後の展望」を3者に聞いている。マーク氏は、ユーザーのエイジアップとコンテンツの多様化を目標にしながら、生活感のあるコンテンツやクリエイティブに注力してきたいと発言した。広告を出稿するクライアントへのメッセージとして、キャラクターのボイスをふんだんに入れる、流行りのダンスを踊らせてみるなど、音にフォーカスしたクリエイティブをしてほしいとも語っている。
コットン太郎氏は、今回のセミナーを振り返りながら、自分のしてきた活動がファンマーケティングだったことを改めて気付かされたことを明かした。それ踏まえたうえで、ファンマーケティングというテーマのもとに、音楽や、短編アニメなど、ファンが活動しやすい部分を深堀りしていきたいと、ファンマーケティングへの意欲を示した。
明畠氏は、今後も自社のデータを活用し、他チームとの連携も強めながら、ファンとはどういう人たちなのかを考えていきたいと語った。チーム内の連携には、明確な正解などなく、エンジニア個人を理解していくことも大事だと締めくくった。
これで、今回のセミナーの全行程が終了した。既存ユーザーの声を強く反映していくファンマーケティングは、これからさらに重要度を増していくことだろう。今回、共通していたのは、広告活動をユーザーとのコミュニケーションととらえ、コミュニケーション相手であるユーザーを深く理解する必要があるという点だ。
その方法は、動画を通したリアルタイムのコミュニケーションであったり、蓄積してきたデータを通じてユーザーの動向を予測することなど、それぞれ違ったやり方であった。自社のタイトルのユーザーを理解するためには、どのような方法が最適なのか。それをいかに模索するのかが、今後のファンマーケティングにおける課題となっていくだろう。
(取材・文 ライター:宮居春馬)
(編集 編集部:山岡広樹)
会社情報
- 会社名
- 株式会社MIXI
- 設立
- 1997年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 木村 弘毅
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1468億6800万円、営業利益:191億7700万円、経常利益156億6900万円、最終利益70億8200万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2121