【コラム】『DQウォーク』『ポケモンGO』の大成功から見る、位置ゲーにおけるIPの知名度の重要性


9月12日に配信された、スクウェア・エニックスとコロプラ<3668>の位置情報RPG『ドラゴンクエストウォーク』が大ヒットし巷でも度々話題となっている。

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App Storeの売上ランキングでは配信翌日の9月13日に5位にランクイン(関連記事)、翌14日は早くも首位を獲得(関連記事)して現在までほぼ順位を落とすことなく好調を維持している。
 
出所:AppAnnie(ランキングは10月4日時点のもの)

スマートフォン向けタイトルの新作がここまでの大ヒットを叩き出したのは、それこそ2016年に日本で「位置情報ゲーム」というジャンルを広めた『ポケモンGO』以来ではないだろうか。この2年間で数々の位置情報ゲームがリリースされてきたにも関わらず、『ドラゴンクエストウォーク』がここまで一気に話題を掻っ攫ったのには、他とどのような違いがあったのか。もちろん、ゲームにおける成功は、面白さの根幹となる「ゲーム性」のほか、UIやグラフィック、サウンド、さらにはプロモーション施策や良質な開発環境の構築に至るまで、数々の要素が折り重なって生まれるものである。

 
▲『ポケモンGO』のゲーム画面(写真左)、『ドラゴンクエストウォーク』のゲーム画面(写真右)。

ここで一度、「位置情報ゲーム」の先駆けとなったNiantic社の『Ingress』を振り返っていこう。2013年に正式サービスを開始した『Ingress』は、「GPS機能を使った陣取りゲーム」という新しいゲーム性が反響を呼び、瞬く間に世界中に多くのファンを生み出した。当時の所感としては、ゲームによる現実への浸食が進み、遂に"新たな時代が来た"と驚いたものである。2015年には日本語対応を行ってリリースされ、各種メディアにも取り上げられヒットしたが、国内での知名度は群を抜くほどではなかったと記憶している。『ポケモンGO』がリリースされたのはその翌年だ。


▲『Ingress Prime』のゲーム画面。

もちろん、『Ingress』の開発を経て知見を得たNiantic社が、蓄積されたノウハウからよりブラッシュアップされた素晴らしい作品を生み出したという背景はあるが、この両タイトルの最も明確な差を取り上げるとすれば「IPタイトルである」という点だろう。しかも、『ポケットモンスター』は世界的にも老若男女すべての層の人が知っているほどの超有名IPである。筆者としては、この差こそが同じ位置情報ゲームとして、国内においてヒットと大ヒットを分けた大きな要因になっているのではないかと考えている。

また、ここから「IPタイトル」というテーマを扱うにあたって触れておかなければならないことがある。それは、日本におけるスマートフォンゲーム業界でIPタイトルが成功しやすいというのは、そもそも数年前から当たり前のように言われているということだ。事実、App Storeの売上ランキング上位を見ても、国内産タイトルでは大人気タイトルの『Fate/Grand Order』を筆頭に、最近では『ロマンシング サガ リ・ユニバース』や『七つの大罪 ~光と闇の交戦』など、IPを扱ったタイトルが非常に多い。もちろん、オリジナルタイトルでも『アナザーエデン 時空を超える猫』や、先日、日本ゲーム大賞を受賞した『メギド72』のように健闘している作品は見られるが、売上ランキングを日々眺めている身としては、全体的な数の面ではやはりIPタイトルが多いように思われる。
 
出所:AppAnnie(※ランキングは2019年10月3日17時頃のもの)

ここで1つ注目したいのは、RPGやアクションといった既存ジャンルに関しては、元々の知名度に関わらずIPが抱えているユーザーの熱量が高いほどヒットの可能性が高まる傾向があるという点だ。先ほど挙げた「Fate」や「ロマンシング サガ」に関しても、「誰もが知っている」というよりは"熱狂的なコアファンが多い"という印象が強い。それに対して、こと位置情報ゲームにおいては、ここまで『ポケモンGO』『ドラゴンクエストウォーク』の両タイトルとも"国民的"と呼ばれるほど誰もが知っている超有名IPしか大成功を収めていないのである。


▲今でこそ世界中にもファンが多い『Fate/Grand Order』だが、リリース当初はどちらかといえばコアファン層が反応を強く示していた。

では、位置情報ゲームとそれ以外で「分かれている要素」「分かれていない要素」はそれぞれ何なのか。まず、「分かれていない要素」として全てのジャンルの大ヒットIPタイトルが共通して実現しているのは"原作ファンを納得させる造りである"ということだ。例えば、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』であれば、「サガ」らしい高難易度仕様や「閃き」という独自のシステムをしっかりと踏襲している。ただし、これは原作からそのまま持ってくるという意味ではなく、あくまでもスマホ向けに原体験をどう再現するかが重要なポイントとなっている。この件に関しては2019年2~3月に2本に渡って掲載したインタビューにてより詳しく記述しているので、気になった方は下記の関連記事を参考にしていただきたい。

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この"原体験の再現"に関しては『ポケモンGO』や『ドラゴンクエストウォーク』でもしっかりと実現されていることが伺える。まず、『ポケモンGO』では「モンスターボールを投げる」というポケモントレーナーとして最も基本になる行為を実装しつつも、その動作はスワイプで行う仕様にすることで、よりトレーナーとシンクロした体験が可能になっている。また、リリース時に実装されていたのがカントー地方のポケモンのみというのは、明らかに初代『ポケットモンスター 赤・緑』を遊んでいたユーザーをターゲットに含む構造にしようという意図が感じられる。

その一方で、『ドラゴンクエストウォーク』もバトルがコマンド選択式であることや、現在開催されているイベントも初代『ドラゴンクエスト』をテーマにシナリオを『ドラゴンクエストウォーク』向けにして再現するなどしている。そもそも、歩いて冒険をして仲間を増やしていくという体験なんて、まさに『ドラクエ』そのものだ。原作ファンが大切な思い出として残しているものを丁寧に作り上げているという点が、ユーザーから好評を得られている一因となっているように感じる。


 
▲「色違いポケモンが捕まえられる」、「メタルスライムを倒せば大量に経験値をGETできる」など、ファンに構文として捉えられているポイントが導入されており、ツボを突かれたという人も多いのでは……? また、原作に比べて達成の敷居が下げられているというのもスマホゲームに向けた調整だろう。

次に、位置情報ゲームとそれ以外で「分かれている要素」として「普段はゲームをプレイしない層」を大量に抱えているという点を挙げたい。ゲーム慣れしていないユーザーがゲームを始めるきっかけとしては、"まず知っていること"が何より重要である。この点に関して、『ドラゴンクエスト』や『ポケットモンスター』ほど有利なタイトルはない。

あえてひとつ比較をするとすれば、2018年6月にガンホー・オンライン・エンターテイメント<3765>とレベルファイブよりリリースされた『妖怪ウォッチ ワールド』が話題となったが、先の2タイトルほど爆発的な盛り上がりを見せることはなかった。とはいえ、『妖怪ウォッチ』も一世を風靡したほどのビッグIPである。先の2タイトルと異なるのは、ファン層の中心が低年齢層に寄っているということだろうか。この事実から、もしかしたら今、位置情報ゲームを熱心に遊んでいるユーザーは、20代後半~30代、さらには40代が多いのではないかという推察もできる。それであれば、先に挙げた『ポケットモンスター 赤・緑』や初代『ドラゴンクエスト』を意識したイベントや施策が深く刺さっていることにも頷けるのだ。

また、蛇足にはなるが、現代においては「既に勝っているコンテンツがさらに大きくなれるチャンスである」ということは、先日掲載したブシロードの木谷高明氏の講演でも触れられている。なお、こちらの講演では木谷氏より大ヒットコンテンツを生み出すための秘訣が語られているので、併せて参考にしてほしい。

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【セミナー】ブシロード・木谷高明氏が「バンタンゲームアカデミー」で講演…『ガルパ』の事例から”大ヒット”コンテンツを生み出すための秘訣を伝授

▲この時、木谷氏は昨今「名探偵コナン」の映画が大ヒットを繰り返していることを取り上げた。既にメジャーなものが習慣化している現れであり、こういった傾向はアニメ業界に限らずソーシャルゲーム業界にも同じことが言えそうだ。

次に位置情報ゲームならではの特性として考えられるのは"周りの人が遊んでいることが見えやすい"ことである。位置情報ゲームのARを使った遊びは、SNSとも非常に相性が良い。最近では、ラジオ番組で『ドラゴンクエストウォーク』にハマっていることを明言した、タレントの有吉弘行さんが自身のTwitterにモンスターと撮影した写真を投稿していることなどが話題となっている。有名な人物が自然とインフルエンサーになることで、高額な資金を投資して行うプロモーションの何倍もの効果が得られるうえに、それがゲーム人口の裾野拡大にも繋がる。また、これは有名人に限った話ではなく、周りの友人レベルで伝播していくというだけでも大きな効果が期待できる。



こういった点から、「位置情報ゲーム」においてはIPの知名度が高いほど成功の角度が上がるのではないかという考えに至った。もちろん、有名なIPを使えば何でも成功するというわけではないし、過去には中々日の目を浴びられなかったタイトルも存在する。そんな中、今回『ドラゴンクエストウォーク』が社会現象を巻き起こすほど大ヒットしたのは、「位置情報ゲーム×IPの知名度」の相性の良さというのも1つの大きな要因となっているのではないだろうか。

 
(文 編集部:山岡広樹)


 
■『ドラゴンクエストウォーク』
 

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株式会社スクウェア・エニックス
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会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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株式会社コロプラ
https://colopl.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社コロプラ
設立
2008年10月
代表者
代表取締役会長 チーフクリエイター 馬場 功淳/代表取締役社長 宮本 貴志
決算期
9月
直近業績
売上高309億2600万円、営業利益28億5800万円、経常利益32億7600万円、最終利益18億9300万円(2023年9月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3668
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株式会社ポケモン
https://corporate.pokemon.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ポケモン
設立
1998年4月
代表者
代表取締役社長 石原 恒和/代表取締役 宇都宮 崇人
企業データを見る
Niantic

会社情報

会社名
Niantic
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