【Sp!cemartゲームアプリ調査隊】『モンスターハンター ライダーズ』はゲーム系IP作の新境地。改めて考えるモンスターの価値と魅力
スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
なかでもカレンダーは、セールスランキング上位のモバイルオンラインゲームのゲームシステム・運用施策をダッシュボード形式のWEBツールとして提供。ゲーム内プロモーション施策の効果測定やセールスランキングと運用効果の相関関係を時系列で分析できる。
本連載記事ではSp!cemart協力のもと、カレンダー機能を用いた、ランキング上位タイトルの直近のゲーム内施策を分析。今回はカプコンの新作『モンスターハンター ライダーズ』の施策をピックアップする。
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より)
■「モンハン」×RPGの組み合わせが大ヒット
提供:カプコン
リリース日:2020年2月19日
大人気アクションゲーム「モンスターハンター」を題材としたスマホゲーム最新作は、まさかのRPGでした。操作テクニックや反射神経が問われるアクションゲームとは異なり、熟考するコマンドバトルや登場人物・物語にフォーカスがあたるRPGは、「モンスターハンター」シリーズにとって新たな挑戦でもあります。
ただ本作は、厳密にシリーズ初のRPGではなく、2016年10月に発売されたニンテンドー3DS専用ソフト『モンスターハンター ストーリーズ(以下、ストーリーズ)』を基にしているでしょう(※公式では言及ありませんが…)。
同作こそ“シリーズ初のRPG”と銘打っており、モンスターと共に生きる「ライダー」たちの物語を描いています。フィールド上ではモンスターに搭乗し、バトルはターン制のコマンド式を採用するなど、まさに“モンハンRPG”のひな型を作ったタイトルでもありました。
『ストーリーズ』は累計販売本数30万本以上のスマッシュヒットを記録。また、漫画や小説、TVアニメなど多岐に渡るメディアミックス展開で、子どもをターゲットに据えたシリーズのブランディング向上にも努めていました。
さて、そんな『ストーリーズ』のDNAを受け継いだ『モンスターハンター ライダーズ(以下、MHR)』は、リリース早々、App Storeの無料ダウンロードランキングで1位を獲得したのち、セールスランキングでは最高5位にランクインしました。『ストーリーズ』の存在を知ってか知らず、はたまた「待望のモンハン最新作」が訴求したのか、新境地を切り開いた『MHR』は大ヒットを記録しました。
本稿では、「Sp!cemartカレンダー」を用いたランキング推移の動向、マネタイズ、ゲーム内施策までを調査しました。まずはリリースまでの流れを見ていきましょう。
■初出から1ヵ月経たずしてリリース
【リリースまでの流れ】
■ 2020年1月28日 初出及び事前登録開始
■ 2020年2月7日 新PV公開。人物相関図など新情報も発表
■ 2019年2月14日 リリース日を発表。新情報発表
■ 2019年2月17日 各ゲーム媒体でレビュー記事が公開
■ 2020年2月19日 正式リリース
以上が『MHR』におけるリリースまでの主な流れですが、驚くことに初出の発表から1ヵ月も経たないうちに正式リリースしています。従来のタイトルでは、初出からリリースまでは早くても2~3ヵ月、遅いものであれば半年から1年以上のケースもありますが、『MHR』はここ近年でも大変短いスパンでの配信となります。
もちろん、初出からリリースまでの期間についての是非は一概には言えませんが、初出から早くにリリースできることは、ユーザーの期待値(熱量)をそのままに遊んでもらうことができるでしょう。
一方でリリース前のプロモーション施策についても調査しました。まず事前登録は、下記の4つの方法で行っていました。
【事前登録の受付方法】
・App Store(iOS)の予約注文
・Google Play(Android)の予約注文
・Twitter公式アカウントのフォロー
・LINE公式アカウントの友だち登録
最終的に事前登録者数は40万人を突破。SNSのフォロワー数も合算しての数字ではありますが、直近ではアプリストアの予約注文を活用するケースも増えてきました。アプリストアの予約注文を行うと、ダウンロード可能になり次第、通知が届いたり、そのままホーム画面に表示されたりと、実際のゲーム起動までがシームレスに展開するのがメリットです。
他方、SNSのプロモーション施策も積極的に展開していました。なかでもTwitter公式アカウントでは、1月31日(金)~2月8日(土)の期間中、Amazonギフト券1,000円分×500名プレゼントを9日連続で実施。応募方法はいわゆるフォロー&リツイートで、結果がすぐに自動で届くインスタントウィン(Twitterの広告サービス)を採用していました。
開始直後の1月31日の該当ツイートは7800リツイートほどでしたが、翌2月1日には1.5万リツイート、以降2月2日~2月8日までは毎日2万リツイートを記録。もちろん、同じユーザーが毎日リツイートしているため、合算値には意味はありませんが、それでも1週間毎日2万リツイートの拡散力と露出につながっているのは言うまでもありません。
また、事前登録キャンペーンのなかでも、報酬は比較的に豪華なほうだと思います。Amazonギフト券1,000円分を見ると、たいした賞品ではありませんが、それを毎日500名が抽選対象となると、話は別です。
結果的に2万リツイートにも及んだため、当選確率は低いかもしれませんが、シンプルな賞品ながらも数と期間のインパクトで、周知させたので十分に成功したプロモーション施策といってもいいでしょう(フォロワー数も開設1ヵ月ほどで12万獲得)。
続いては、『MHR』のゲーム内施策やマネタイズを中心に「Sp!cemartカレンダー」で調べてみましょう。
■マネタイズにもつながる「Nekoポイント」の存在
主に『MHR』では、ライダーズ(キャラクター)とオトモン(モンスター)の2種類を編成したり、育成したりすることになります。基本的なゲーム進行や世界観などについては、下記のSocial Game Infoのレビュー記事をご覧いただくとして、ここではマネタイズとリリース当時のゲーム内施策に関して掘り下げていきます。
【関連記事】ライダーとモンスターの共闘に高まる『モンスターハンター ライダーズ』を先行プレイ…リオレウスやラギアクルスが心強いタッグに!
本作のマネタイズは、有償アイテムのオーブの販売です。オーブは主にガチャやショップなどで使用します。オーブのラインナップは以下の通り。
【オーブのラインナップ】
・オーブ40個(120円)<単価:3.00円/割引率:0.0%>
・オーブ168個+無償4個(490円)<単価:2.85円/割引率:5.0%>
・オーブ327個+無償15個(980円)<単価:2.87円/割引率:4.5%>
・オーブ980個+無償60個(2,940円)<単価:2.83円/割引率:5.8%>
・オーブ1634個+無償136個(4,900円)<単価:2.77円/割引率:7.7%>
・オーブ3000個+無償325個(9,000円)<単価:2.71円/割引率:9.8%>
・オーブ4000個+無償490個(12,000円)<単価:2.69円/割引率:10.3%>
▲ショップでは、課金で購入できる豪華パックと、オーブで購入できる期間限定ショップが存在。豪華パックでは、定番のスターターパックをはじめ、特別ログインボーナス商品などを販売。とくに本作では、ライダーズとオトモンを育成するため、それぞれに該当アイテムが必要となり、これが結構枯渇するので、ガチャを引くためのオーブ欲しさと同じくらいに、強化アイテムも購買意欲につながっているのかもしれません。
ガチャでは、バトルに参加できるライダーズが排出されます。ガチャは1回でオーブ100個(300円相当)、★4以上1人確定の10連で1000個(3,000円相当)必要となります。なお、1日1回は無料でガチャが引けます。
『モンスターハンター ライダーズ』【調査期間:2020年2月19日~3月4日】
▲Sp!cemartカレンダーより(画面上部はストアのランキング推移、下部はゲーム内施策を確認できる)
Sp!cemartカレンダーでは、リリースから直近の施策及びランキング推移として、2020年2月19日(水)~3月4日(水)を抜粋しました。ランキング推移を見て分かる通り、セールスランキング(オレンジ色)とダウンロードランキング(青色)が垂直立ち上がりを見せています。
無料ダウンロードランキングは1位を継続し、セールスランキングも右肩上がりで推移。なかでもセールスランキングでは、リリースから一度も25位以下に落ちることなく、好調に売上を伸ばしていることがうかがえます。
リリース当日の施策では、ゲーム内外含めて4つ展開。
【リリース当日のゲーム内外施策】
・フェス限定ライダー+オトモンのタマゴのSTEPガチャ施策
・ガチャチケットやオーブ最大500個が手に入るログインボーナス
・報酬に★4以上確定のガチャチケットなどを含むミッション施策
・オリジナルグッズとオーブが当たる配信記念ツイートキャンペーン
まずガチャ施策では、STEP式を採用。そもそも本作では、ライダーズはガチャから手に入りますが、オトモンはイベント限定アイテムと交換したり、ガチャのおまけで入手したりと、入手方法は限られています。リリース記念のガチャ施策でも、10連3回目(STEP3)でオトモンのタマゴが確定になるなど、モンスターを必ず手に入れたいユーザーに訴求した内容になっています。※リリース記念ガチャ施策の内容に誤りがあったため、修正いたしました。お詫びして訂正いたします。
さらに、本作には「Nekoポイント」なる別のゲーム内通貨が存在します。このポイントは、消費したオーブの10分の1を入手(※)でき、Nekoポイント交換所でオトモンのタマゴやアイテムと交換することができます。
現在Nekoポイント交換所では、累計販売本数400万本以上を記録したPSP用ソフト『モンスターハンターポータブル 2nd G(以下、MHP2G)』のパッケージモンスターである、ナルガクルガのタマゴが2000ポイントで交換できます。『MHP2G』は、シリーズを一躍メジャータイトルに押し上げたターニングポイントとも言うべきタイトルで、そのパッケージに描かれているモンスターであることからユーザーの認知度も非常に高いです。
タマゴと交換するための2000ポイントは、実質、10連ガチャ(1回100ポイント)を20回引くことになります。金額にすると、単純計算で約6万円。ただ、期間限定キャンペーンとして、特定の条件をクリアすることで入手倍率がアップすることがあります。
▲なお、入手倍率で追加されたポイントには、期限が決まっています。この期限が過ぎるとポイントが消滅してしまうため、ユーザーは消滅する前にお目当てのアイテム(もといタマゴ)と交換する必要があります。少々、急き立てている仕様ですが、結果的に追加の課金やゲーム内促進にもつながっていることがうかがえます。
■改めて考えるモンスターの価値と魅力
『MHR』は、シンプルなバトルシステムと、魅力的なライダーズ・オトモンの育成を楽しめる、これまでの「モンハン」シリーズでは体験できなかった要素が詰まっています。
実際に筆者は、現在配信されているすべてのメインクエストを遊びましたが、後半になるにつれて難しくなり、育成や編成などを考慮する必要が出てきました。その後、タマゴを得るための高難度イベントクエストを周回するなど、十分に楽しめる内容でした。
さて、本作の魅力は、やはりライダーズとオトモンの存在でしょう。ユニークなのが、その入手方法を分けていることです。これまでも説明した通り、ライダーズはガチャからの排出、オトモンは交換所やイベントクエストなどから手に入ります。整理すると、それぞれのキャラクターコンテンツとしての価値は、下記のようになります。
【運営側としてのキャラクターコンテンツの価値】
ライダーズ:課金してガチャで手に入る一般的なマネタイズの役割
オトモン:間接的なマネタイズのほか、高難度クエストの挑戦理由(ゲーム内促進に寄与)
ライダーズは、本作におけるオリジナルキャラクターが中心です。登場人物はオリジナルですが、彼らはシリーズでお馴染みの武器・防具を装備しており、ファンにとっては魅力的に映っているのがポイントです。
とはいえ、シリーズファンにとっては、やはりモンスターが主役です。何度も3死したり、モンスターの一撃に驚いたり、でも倒した瞬間の達成感はひとしおだったり、当時コンシューマ版の「モンハン」シリーズを遊んだことのあるユーザーたちは、憎たらしいけど愛くるしいモンスターたちのことで頭が一杯だったことでしょう。
そんなモンスターを、本作ではあえてガチャなどのメインのマネタイズに据えていません。あくまでも仮説ですが、オトモンを安易にガチャで排出させることで、コンテンツ消化や運営難に陥る恐れがあったのではないかと考えます。つまりモンスターの供給が追い付かなくなるほか、乱発することによりモンスター自体の価値(魅力)の低下にもつながる。
「モンハン」シリーズのモンスター数は、120種類以上にも及びます。『MHR』では、このうちリリース時点で20体ほど登場。定期的にガチャで新モンスターを追加するよりも、世界観・物語の拡充にもつながるオリジナルキャラクターを追加したほうが、運営のハンドリング、モンスターの魅力を担保することもできるでしょう。オリジナルモンスターを投下する考えもありそうですが、やはりコンシューマ版で慣れ親しんだモンスターたちが登場するほうが、圧倒的にユーザーにとっても嬉しいに違いありません。
同じコンシューマタイトルで、コンテンツの価値を変えて打ち出してきたアプリという意味では、『MHR』は『ポケモンマスターズ』にも似ています。ただ、『MHR』はメインのモンスターの入手経路を、ゲーム内コンテンツに結びつけながら、独自の運営体制を築いたのが特徴的でした。
もちろん、まだリリースされたばかりのため、現段階でのヒット継続の是非には言及できませんが、『MHR』は自社IPの活用方法や打ち出し方について社内で熟考し、今回のような体制(新境地)に辿り着いたのだと思えてなりません。
■執筆 <株式会社スパイスマート>
スマートフォンゲーム内運用に関する調査・分析を行うリサーチ事業とコンサルティング事業を展開しており、「Sp!cemart」というサービス名称で各種ソリューションを提供。
コーポレートサイト:http://corp.spicemart.jp/
Sp!cemart 商品に関する問合せ:info@spicemart.jp
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会社情報
- 会社名
- 株式会社カプコン
- 設立
- 1983年6月
- 代表者
- 代表取締役会長 最高経営責任者(CEO) 辻本 憲三/代表取締役社長 最高執行責任者(COO) 辻本 春弘/代表取締役 副社長執行役員 兼 最高人事責任者(CHO) 宮崎 智史
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1524億1000万円、営業利益570億8100万円、経常利益594億2200万円、最終利益433億7400万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 9697
会社情報
- 会社名
- 株式会社スパイスマート
- 設立
- 2015年7月
- 代表者
- 代表取締役 久保 真澄