【Sp!cemartゲームアプリ調査隊】新旧ではなく共存共栄――『あんさんぶるスターズ!!Basic&Music』リリース前後のゲーム内外施策を調査
スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
なかでもカレンダーは、セールスランキング上位のモバイルオンラインゲームのゲームシステム・運用施策をダッシュボード形式のWEBツールとして提供。ゲーム内プロモーション施策の効果測定やセールスランキングと運用効果の相関関係を時系列で分析できる。
本連載記事ではSp!cemart協力のもと、カレンダー機能を用いた、ランキング上位タイトルの直近のゲーム内施策を分析。今回はHappy Elementsの新作『あんさんぶるスターズ!!Basic/Music』の施策をピックアップする。
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より)
■BasicとMusicの共存共栄
提供:Happy Elements(開発:カカリアスタジオ)
リリース日:2020年3月15日
2020年3月15日(日)、大人気アイドル育成ゲーム『あんさんぶるスターズ!(以下、あんスタ)』の新作リズムゲームが配信開始となりました。
そもそも『あんスタ』は、2015年4月にスマホ向けアイドル育成ゲームとしてリリースされるやいなや大ヒットを記録し、現在もなおアプリストアのセールスランキングでも上位に位置するHappy Elementsの代表作です。メディアミックス展開に関しては、TVアニメを皮切りに、CD、グッズ販売、舞台など枚挙に暇がないほどです。
さて、今回の新作リリースは少し変わった打ち出し方を行っています。新作として『あんさんぶるスターズ!! Music(以下、Music)』をリリースしましたが、実は既存アプリの『あんスタ』は『あんさんぶるスターズ!!Basic(以下、Basic)』として大型アップデート及びリニューアルを実施したのです。
タイトルも旧作の『あんさんぶるスターズ!』から「!」がさらに増えて、世界観や物語、新しいカードなどを追加した『あんさんぶるスターズ!!』に生まれ変わっています。
従来の『Basic』は、これまでの『あんスタ』がより使いやすく手軽に楽しめるアプリにアップデートし、引き続き豊富なストーリーとコンテンツを届けるとしています。一方で新作の『Music』は、豊富な楽曲とハイクオリティな3DCGを駆使したキャラクターのライブシーンをバックにプレイできるリズムゲームとして打ち出しています。
■[既存アプリ] 『あんさんぶるスターズ!!Basic』
ストーリーとカード集めを中心に、手軽にゲームを楽しみたい方向け。「!!」で追加されるストーリーやコンテンツはもちろん、「!」のストーリーやコンテンツも楽しめる。
▲基本的なシステムは旧『あんスタ』と変わらず。5人1組でユニットを組み、レッスンでいろいろなピースを集めて、アイドルロードでキャラクターの能力を解放していく。
■[新作アプリ] 『あんさんぶるスターズ!!Music』
3DダンスMV(ミュージックビデオ)やリズムゲームなどで「あんスタ」の世界を楽しみたい方向け。様々なインテリアを配置してオフィスを作ることも可能。
▲3D キャラクターのライブシーンをバックにリズムゲームをプレイ。楽曲のオリジナルメンバー以外へのキャラクターの変更も可能。スチルイラストをバックにプレイする2D モードに変更することもできる。
■『Basic』と『Music』の主な違い
※公式サイトの情報を基に作成
※どちらのアプリでプレイしてもストーリーやイラストは『Basic』と『Music』で同じものを追加。
※『あんさんぶるスターズ!!』以降の追加分のみ。
※Basic/Music間でのデータ引き継ぎやデータ連動機能はなし。
もちろん、上記で挙げた以外にもさまざまな魅力が双方にありますが、主な違いはこの通りです。一般的に既存アプリ(及びシリーズ)の新作タイトルを出す際には、2や3などナンバリングタイトルを付けて既存アプリの大型アップデートを行うタイプと、新規にアプリをリリースして、ユーザーや運営工数を含めて移行するふたつのタイプがあると思います。
■既存アプリ(及びシリーズ)の新作の打ち出し方タイプ
・既存アプリの大型アップデート(タイトル名変更)
・新規にアプリをリリース(ユーザーや運営工数を含めて移行)
今回の『あんさんぶるスターズ!!Basic・Music』に関しては、このふたつの打ち出し方を同時に展開している印象を持ちます。というのも、基本的に『!!』のストーリーや世界観は、既存アプリでもしっかり反映しており、言うなれば、“コアコンテンツが異なる”というだけなのです。前述しましたが、下記のように上手くふたつの層(ターゲット)に分けているのが特徴です。
【ふたつの層(ターゲット)に訴求】
『あんスタB』→ストーリーとカード集めを中心に、手軽にゲームを楽しみたい方向け
『あんスタM』→3DダンスMVやリズムゲームなどで「あんスタ」の世界を楽しみたい方向け
強制的に新作『Music』のほうにユーザーを移動させることもできると思いますが、それをあえて行わず、既存アプリ『Basic』との共存を目指したのです。その理由はさまざまですが、たとえば操作性が求められるリズムゲームは、これまで育成だけを純粋に楽しみたいユーザーにとっては、遊ぶことが億劫になるなど。
こうした2種類のユーザー層の存在を理解してか、『あんさんぶるスターズ!!Basic・Music』というふたつのタイトルが同時に生まれたのでしょう。新作だから優れているとか、旧作だから古臭いとか……そういう固定観念を一切取り払った、好例なのかもしれません。
実際にリリース早々、『Music』はApp Storeの無料ダウンロードランキングで1位を獲得したのち、セールスランキングでは最高3位にランクイン、さらに『Basic』はセールスランキングで12位に浮上しました。
▲2020年3月16日12時調べ(Sp!cemartカレンダーより)
ゲーム内施策に関しては、現状『Basic』『Music』も同様の内容を展開しており、もしかしたら両方とも共存する可能性は高いかもしれません(今後の施策の有無で大きく変化することもありそうですが…)。
……前置きが長くなりましたが、本稿では、新作『Music』側をピックアップし、「Sp!cemartカレンダー」を用いたランキング推移の動向、マネタイズ、ゲーム内外の施策までを調査しました。まずはリリースまでの流れを見ていきましょう。
■カウントダウン企画で毎日情報発信。さらに体験版も配信
【リリースまでの流れ】
■ 2018年11月10日 公式番組で初出
■ 2019年8月29日 ティザーサイトがオープン
■ 同年11月8日 アプリストアで1曲だけ先行プレイできる公式アプリを配信
■ 同年11月9日 事前登録開始
■ 同年11月21日 AGF2019 新ユニットのキャストが登壇。新発表など
■ 同年11月26日 先行プレイアプリにTVアニメのOP主題歌が追加
■ 同年11月26日 WEBラジオ番組が開始
■ 2020年1月29日 新ユニットCD発売
■ 同年3月15日 正式リリース
以上が『Basic・Music』におけるリリースまでの主な流れですが、このほかにも旧『あんスタ』の関連グッズやイベント施策の展開、そして2019年7月より2クールでTVアニメが放送開始されるなど、シリーズ全体を通して露出していました。
また、上記のほかに「Countdown ENSEMBLE EVERYDAY」と称し2020年1月末よりリリース日近くまで、公式Twitter、公式YouTubeチャンネルにおいて、ほぼ毎日キャラクター紹介(声優コメント付き)やMVをコンスタントに紹介するなど、リリース前の話題作りを徹底していました。
▲事前登録ページでは、「Countdown ENSEMBLE EVERYDAY」が掲載
ユニークなのは先行プレイができるアプリ『あんさんぶるスターズ!!Music - ONLY YOUR STARS! Edition -』を配信したことです(現在は配信終了)。いわゆる体験版としての役割を担っていますが、わざわざアプリストア上において別途配信するのは珍しい。とはいえ、こちらもApp Storeの無料ダウンロードランキングで1位を記録し、体験版がアプリストア上においても一定の露出効果に貢献できたことがうかがえます。
現在公式Twitterでは、83万フォロワー超えの既存アカウントを「あんさんぶるスターズ!!【公式】」として運用し、『Basic(フォロワー:約23万)』と『Music(フォロワー:約42万)』はそれぞれ別途アカウントを作成しています。恐らくゲーム運用によって発信内容も異なるため、わざわざアカウントを分けていることが考えられます。
続いては、『あんスタM』のゲーム内施策やマネタイズを中心に「Sp!cemartカレンダー」で調べてみましょう。
■リリース当日には6つの施策を展開
『Music』の基本的なゲームサイクルは、ガチャ(スカウト)などでカードを手に入れて、ライブやお仕事でゲーム内通貨を獲得し、さらにカードを育成していく……という、いわゆる一般的なスマホ向け育成型リズムゲームの流れです
本作のマネタイズは、有償アイテムのダイヤの販売です。ダイヤは主にガチャなどで使用します。ダイヤのラインナップは以下の通り。
【ダイヤのラインナップ】
・ダイヤ 有償12個(120円)<単価:10.00円/割引率:0.0%>
・ダイヤ 有償49個(490円)<単価:10.00円/割引率:0.0%>
・ダイヤ 有償98個(980円)<単価:10.00円/割引率:0.0%>
・ダイヤ 有償258個(2,580円)<単価:10.00円/割引率:0.0%>
・ダイヤ 有償380個(3,800円)<単価:10.00円/割引率:0.0%>
・ダイヤ 有償550個(5,500円)<単価:10.00円/割引率:0.0%>
・ダイヤ 有償1000個(10,000円)<単価:10.00円/割引率:0.0%>
※それぞれ無償のおまけダイヤが付いてくる
▲ショップではふたつのお得なパック商品も販売。封入アイテムには、育成系アイテムが中心。
ガチャでは、編成できるアイドル(カード)が排出されます。ガチャは1回でダイヤ35個(350円相当)、★4以上1枚確定の10連で350個(3,500円相当)必要となります。なお、1日1回有償ダイヤ10個で引けます。
『あんさんぶるスターズ!! Music』【調査期間:2020年3月14日~3月17日】
▲Sp!cemartカレンダーより(画面上部はストアのランキング推移、下部はゲーム内施策を確認できる)
Sp!cemartカレンダーでは、リリース前日から直近の施策及びランキング推移として、2020年3月14日(土)~3月17日(火)を抜粋しました。ランキング推移を見て分かる通り、セールスランキング(オレンジ色)とダウンロードランキング(青色)が垂直立ち上がりを見せています。
リリース当日のゲーム内では6つの施策を展開。
【リリース記念キャンペーン内容】
(1)リリース記念ログインボーナス(Basic・Music)
(2)リリース記念スカウト(Basic・Music)
(3)メインストーリー配信キャンペーン(Basic・Music)
(4)毎日!期間限定チャレンジコース追加キャンペーン(Basicのみ)
(5)毎日!楽曲追加キャンペーン!!(Musicのみ)
(6)リリース記念パック販売(Basic・Music)
お得なアイテムがたくさんもらえる定番施策のほか、マネタイズに直結する「リリース記念スカウト」では、★5カード1枚確定の10連ガチャを有償ダイヤ300個(3,000円相当)で利用できました。さきに挙げたパック販売と合わせて、今回のセールスランキングで垂直立ち上がりを見せた要因のひとつでしょう。
▲「リリース記念スカウト」
(3)(4)(5)にあるメインストーリーや楽曲を段階的に開放していくのも、盛り上がりを形成させる施策のひとつかもしれません。メインストーリーはリリース開始から3月20日(金)まで第一章~第三章の内容を毎日15:00に更新しており、楽曲は3月16日(月)15:00から3月29日(日)14:59まで遊べる新曲を毎日1曲ずつ追加しています。
毎日コンテンツが追加されることをポジティブに見るか、「最初から収録しておいてほしい…」とネガティブに見るかはそれぞれですが、少なくともリリースから1週間継続的にユーザーをログインさせる施策として機能しているのは間違いないでしょう。
リリース直後のアプリは、新規ユーザーの定着が生命線につながる傾向があります。作品の魅力を数日~1週間ほどかけて伝え、理解してもらうことが、今後の運営を支えるロイヤルユーザーの形成にもつながるのです。
■「あんスタ」シリーズを最大限に楽しめるふたつのアプリ
『Basic』と『Music』。どちらもストーリーや世界観、登場するアイドルは共通。総勢約50人の個性豊かなアイドルたちが所属する事務所「アンサンブルスクエア」を舞台に、新たな物語が幕を上げます。
事業的な意味合いで注目されるのは、冒頭でも述べた『Basic』と『Music』の共存にあります。新作『Music』の登場により、既存アプリ『Basic』側の人気が停滞する恐れがあったところ、ストーリーや世界観などを同時にリニューアルし、コアコンテンツだけを変えて活かす方法で、その印象を払拭しました。
今後どのように差別化を図っていくかは未知数ですが、仮に『Basic』と『Music』で異なる施策を展開することで、ユーザーがふたつのアプリを同時にプレイすることも起こりそうです。
とはいえ、既存アプリ側を長年遊んでいたユーザーにも少しばかりのしこりが残っているかもしれません。いくら『Basic』側に「最新ストーリーなどは追加されます」と謳っていても、『Music』のおまけ的な位置づけに感じることもあると思います。それはコンテンツの量や質の問題ではなく、やや根深い感情であり、そして見過ごせないものでもあります。
当然、運営側はその存在を理解しながら、最大限の配慮と開発・運営に臨んでいるでしょう。そのひとつに、公式サイトで新たに立ち上げたカレンダー機能は、『Music』側だけではなく、「あんスタ」シリーズを全方位的に楽しめるコンテンツとして重宝されますし、このバランスはより一層気を配っていくものだと考えます。
今回は施策として『Music』を中心に取り上げましたが、大型アップデートを経た既存アプリ『Basic』の動向も引き続き注目していきます。
▲カレンダー機能(公式サイトより)
■執筆 <株式会社スパイスマート>
スマートフォンゲーム内運用に関する調査・分析を行うリサーチ事業とコンサルティング事業を展開しており、「Sp!cemart」というサービス名称で各種ソリューションを提供。
コーポレートサイト:http://corp.spicemart.jp/
Sp!cemart 商品に関する問合せ:info@spicemart.jp
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会社情報
- 会社名
- 株式会社スパイスマート
- 設立
- 2015年7月
- 代表者
- 代表取締役 久保 真澄