【Sp!cemartゲームアプリ調査隊】中国テンセントゲームズが放つ近未来MMORPG『コード:ドラゴンブラッド』が大ヒット。国内ユーザーに響いた理由を探る
スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
なかでもカレンダーは、セールスランキング上位のモバイルオンラインゲームのゲームシステム・運用施策をダッシュボード形式のWEBツールとして提供。ゲーム内プロモーション施策の効果測定やセールスランキングと運用効果の相関関係を時系列で分析できる。
本連載記事ではSp!cemart協力のもと、カレンダー機能を用いた、ランキング上位タイトルの直近のゲーム内施策を分析。今回はSixjoyの新作『コード: ドラゴンブラッド』の施策をピックアップする。
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より)
■全世界2000万DLを記録した中国発のIPタイトル
■『コード:ドラゴンブラッド』
提供:Sixjoy,テンセントゲームズ(開発:Archosaur Games)
リリース日:2020年4月9日
中国テンセントゲームズらが放つ近未来MMORPG『コード:ドラゴンブラッド(以下、ドラブラ)』が、日本でも大ヒットを記録しています。4月9日(木)のリリース早々にApp Storeのセールスランキングで最高6位、無料ダウンロードランキングでは1週間以上1位を獲得するなど、垂直立ち上がりを見せました。
本作は、テンセントゲームズが配信しているSF小説「龍族」(作者:江南)を原作とするスマートデバイス向けMMORPGです。オープンワールドで作りこまれた「龍族」の世界を駆け回りながら、龍の血をめぐる壮大なストーリーを楽しめます。
プレイヤーは髪と顔、体のパーツなどを細部調整して、ゲーム内に自分専用のアバターキャラクターを作成できるほか、原作の人気キャラクターたちと一緒に世界を救う物語も追体験できます。
バトルでは、近接攻撃、遠距離攻撃、魔法攻撃、回復など職業によって戦い方は異なりますが、どれも派手なアクションを簡単操作で発動可能。また、ゲーム内ではバスケットボールやUFOキャッチャー、ジェットコースターに乗るなど、数多くの魅力的なコンテンツを搭載しています。
▲Unreal Engine4のEpic Gamesと協力し、PCレベルのハイエンドグラフィックをモバイルで実現。リアルシーン及び天候システムを導入し、美しい現代都市や中世ヨーロッパの建築物、巧な大自然の景色を再現しています。なお、現在Epic Gamesは中国テンセント社の傘下。グループ会社として事業シナジーを感じさせる案件(タイトル)のひとつかもしれません。
中国発の人気IPを題材としたMMORPGですが、日本における認知度は高くありません。しかしながら、キャラクターデザインや世界観などが国内ユーザーの目に止まり、リリース早々で大ヒットを記録しました。
本稿では、ランキング推移とゲーム内施策を一覧で閲覧できる「Sp!cemartカレンダー」を用いて新作『ドラブラ』の施策を調査していきます。まずはリリースまでの流れを見ていきましょう。
■ギフト券配布と開発・運営エピソードの共有
【リリースまでの流れ】
■ 2019年12月23日 日本配信決定を発表。クローズドβテスト参加者募集も開始
■ 同年12月26日 Amazonギフトキャンペーンを実施
■ 2020年1月中旬 クローズドβテスト実施
■ 同年2月10日 事前登録を開始
■ 同年2月20日 開発秘話を動画及びプレスリリースで配信
■ 同年3月18~23日 第2回クローズドβテスト実施
■ 同年4月8日 アプリストアで事前ダウンロードを開始
■ 同年4月9日 正式リリース
以上が『ドラブラ』におけるリリースまでの主な流れです。上記の施策以外にも、公式Twitterでキャラクター情報を公開したり、キャンペーンの達成状況を投稿したり、さまざまなプロモーション施策を行っていました。
なかでもTwitter上では、フォロー&RT(リツイート)キャンペーンを積極的に展開。スマホゲームの“定石”とも言うべき同施策ですが、例に漏れず本作でもギフト券を賞品として設けて、露出・拡散に努めていました。
▲賞品の中心はAmazonギフト券でした。途切れることなくフォロー&RTキャンペーンを行っていましたが、とくに事前登録者数を記念したキャンペーンは3万RT以上を記録するなど、多くの反響がありました。出演声優のサイン色紙プレゼントもありましたが、RT数は数千止まり。IPタイトルとはいえ、国内では認知度が低いためギフト券で訴求する方法が見事にマッチした印象です。
そのほか、開発秘話を動画やプレスリリースで積極的に配信していた点も本作を知る良いきっかけになったのではないでしょうか。ゲームの詳細やキャラクター紹介をプレスリリースで伝えるのは定番ですが、本作ではグラフィックの緻密さや世界観の魅力を徹底して伝えていたのが印象的でした。
上記動画の「グラフィック」をはじめ、「ストーリー」「声優インタビュー」「キャラクター紹介」「さまざまなプレイモード」など、段階的に動画を公開。世界観を深掘りできるだけではなく、ゲーム開発・運営に対する気概を感じられ、ユーザーの期待値を上げる施策になったのではないかと思います。
▲マスプロモーションでは、白石麻衣さんが出演するTVCM「Cyber Tokyo編」と「SAKURA編」を公開。さらにゲーム内では、白石麻衣さん出演記念の特別キャラクターを期間限定でプリセットとして選択可能でした。
▲ユニークなのは、ゲーム内でTVCM放送記念として白石麻衣さんと絵梨衣が共闘する様子が描かれたビルボードとアドトラックが出現したこと。ゲーム内のテレビでもCMを視聴することが可能です。
こうした数々の施策が功を奏して、公式Twitterはリリース直前で10万フォロワー達成(現在は20万超え)、事前登録者数は100万件を突破するなど、リリース前から話題を作り上げました。続いては、『ドラブラ』のゲーム内施策やマネタイズを中心に「Sp!cemartカレンダー」で調べてみましょう。
■マネタイズのひとつに“アバターガチャ”
本作のマネタイズは、有償アイテムの星券の販売です。星券は主にガチャやショップなどで使用します。星券のラインナップは以下の通り。
【星券のラインナップ】
・星券 60 +還元6(120円)<単価:1.82円/割引率:1.6%>
・星券 300 +還元30(610円)<単価:1.85円/割引率:0.0%>
・星券 980 +還元118(1,840円)<単価:1.68円/割引率:9.2%>
・星券1980 +還元266(3,680円)<単価:1.64円/割引率:11.4%>
・星券3280 +還元488(6,100円)<単価:1.62円/割引率:12.4%>
・星券6480 +還元1066(12,000円)<単価:1.59円/割引率:14.1%>
▲星券ショップ画面
そのほか、ゲーム内のショップには数多くの商品が販売されていました。星券を使用したものから、VIPシステム、通常の課金で購入するものまで、多岐に渡ります。また、期間限定の商品販売はもちろん、ゲリラ的にお得な商品を販売するケースも多々。ここは海外発のMMORPGらしい運営方針が特徴的なのかもしれません。
▲新しくゲームを始めたタイミングには、スタートダッシュ用のアイテムが手に入る商品を120円で販売していました。余談ですが、本作では端末のスクリーンショットを撮影後に、すぐにシェア機能が立ち上がります。もともと美麗グラフィックやアバター機能を楽しめる作品だけに、撮影後のシェアを気軽に促せる機能として活きていそうです。
なお、ガチャではゲーム内通貨で利用できる育成ガチャ(育成用アイテムが排出される)と、星券で利用するアバターガチャの大きく分けて2種類存在します。アバターガチャは、1回で星券40(74円相当)、10連で星券400(740円相当)が必要になります。
有償アイテムを用いたガチャのなかでは、他作品と比べてリーズナブルな印象です。また、アバターをガチャマネタイズに採用していることから、ステータスに直結した装備品よりも、着せ替えのほうがユーザーの需要が高いことがうかがえます。余談ですが、同じスマホ向けMMORPGでは、『Ash Tale-風の大陸-』もアバター機能を重視したマネタイズを採用しています。
▲ガチャ画面
ただ、本作ではさまざまな課金商品を取りそろえているため、ガチャ機能がマネタイズの柱にならなくとも、ほかのセットアイテムが収益に貢献していることが考えられます。
『コード:ドラゴンブラッド』【調査期間:2020年4月8日~4月20日】
▲Sp!cemartカレンダーより(画面上部はストアのランキング推移、下部はゲーム内施策を確認できる)
さて、Sp!cemartカレンダーでは、リリースから直近の施策及びランキング推移として、2020年4月8日(水)~4月20日(月)を抜粋しました。
ランキング推移を見て分かる通り、セールスランキング(オレンジ色)とダウンロードランキング(青色)が垂直立ち上がりを見せています。無料ダウンロードランキングは1位を継続し、セールスランキングも6位にランクインしています。
リリースのタイミングには、各種ゲーム内イベントを展開していますが、主にアイテム配布が中心でした。事前登録者数突破はもとより、アプリストアの無料ダウンロードランキング1位記念やTwitterフォロワー数突破記念など、さまざまな記念に合わせてアイテムの配布が行われていました。
一方、本作では期間限定のゲーム内キャンペーン(及びイベント)よりも常設の報酬施策が充実している印象でした。ホーム画面の「ボーナス」ボタン経由でログインボーナスをはじめとした、多種多様な報酬施策が用意されており、どれもゲームプレイを促進する内容ばかりでした。
ログイン時間やレベルボーナス、今後実装される機能の予告のほか、毎日シェアすることで報酬が貰える施策もSNS上の露出にもつながります。やや数は多いですが、日課として行っていければ、効率的にアイテムを入手できるため、ユーザーにとってもプラスとなる内容なのかもしれません。
▲ボーナス画面
まだリリースされたばかりのため、ゲーム内イベント(施策)のスケジュールに関して規則的なものは見当たりません。ただ、今後はゲーム内イベントをはじめ、アバターガチャや課金商品の追加などで運営方針を定めていき、安定したマネタイズの実現につながっていくのではないかと思います。
■仮想空間における自由な暮らしの提案
ここ数年、スマホ向けMMORPG市場は賑わいを見せています。同ジャンルにおける国内企業の参入は少ないですが、PCオンラインゲームの市場規模が大きい中国や韓国などの参入が後を絶ちません。すでにPCオンラインゲームで人気を博したIPのスマホ移植(またはシリーズ新作)をリリースし、日本でも数々のタイトルがヒットを記録しています。
前述しているように、『ドラブラ』も中国発のIP及びMMORPGタイトルとして日本でヒットしました。ただ、先行タイトルの『リネージュ2 レボリューション』や『黒い砂漠MOBILE』などと比較すると、優れている面と劣る面がそれぞれ存在します。つまり、既存のスマホ向けMMORPGタイトルと比べて、本作は決して性能面で突出しているわけではありません。
では、なぜ『ドラブラ』が支持されているのでしょうか。ひとつ考えられるのは、ユーザーに対して本作のテーマを「共闘」ではなく「共生(ともに暮らす)」を訴求している点にあるのかもしれません。
当然、MMORPGは勝ち負けの世界ですし、強さを求めることが継続率やマネタイズにも直結するものです。ですが、『ドラブラ』では“仮想空間における自由な暮らしの提案”に比重を置いており、これらが国内ユーザーの需要とマッチしたことが考えられます。
実際にリリース前からのプロモーション施策でも、そのテーマの節が垣間見られましたし、前述したアバターガチャや『Ash Tale-風の大陸-』の話もここにつながります。
一見すると、ゴリゴリ戦うMMORPGですが、実際には意外にもゆるい時間が流れている『ドラブラ』。今後はアバターコンテストをはじめ、ユーザーが自分事のように参加できるイベント、そしてゲーム内のライフスタイルを拡充させるアップデートを機に、ユーザーもさらに活性化していくのではないでしょうか。
「Sp!cemartカレンダー」では、各ゲームのイベント情報をランキング推移と共に閲覧できます。自社はもとより、競合他社の施策一覧を取りまとめた分析などにもご活用できます。ぜひ、ご興味がある方はお問い合わせページからご連絡ください。
■執筆 <株式会社スパイスマート>
スマートフォンゲーム内運用に関する調査・分析を行うリサーチ事業とコンサルティング事業を展開しており、「Sp!cemart」というサービス名称で各種ソリューションを提供。
コーポレートサイト:http://corp.spicemart.jp/
Sp!cemart 商品に関する問合せ:info@spicemart.jp
■Sp!cemartゲームアプリ調査隊 バックナンバー
■Vol.1 〜待望のシリーズ最新作『マリオカート ツアー』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.2 〜新作リズムゲーム『欅坂46・日向坂46 UNI'S ON AIR』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.3 〜初週で全世界1億DLを記録した『Call of Duty®: Mobile』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.4 〜Riot Games大特集。新作『Team Fight Tactics』の概要から『LoL』の直近プロモ・e-Sports施策まで〜
■Vol.5 流入から定着まで繋げた7つの施策…大ヒット中の『FFBE 幻影戦争』、事前登録からリリース直後の施策を総まとめ
■Vol.6 事前プロモ(ほぼ)なし…突如配信された『ワールドフリッパー』ヒットの背景。リリース前後の施策を分析
■Vol.7 運営7周年を迎えた長期運営タイトル『にゃんこ大戦争』…長く愛される理由をゲーム“内外”の施策から分析
■Vol.8 好調なリスタートを切った『魔界戦記ディスガイアRPG』、リリース中断から再開までの8ヵ月間の動向を分析
■Vol.9 大ヒット中の『デュエル・マスターズ プレイス』、売上ランキング2位の背景をIP×マネタイズの観点から分析
■Vol.10 スマホ向けパズルゲームのトップを走る『ガーデンスケイプ』の施策とシリーズの強みを分析
■Vol.11 海外発のストラテジーゲーム『Rise of Kingdoms -万国覚醒-』がヒットの兆し。リリース前後の施策を分析
■Vol.12 ヒットを生み出し続けるYostar待望の新作『アークナイツ』を分析。リリース前施策からマネタイズまで
■Vol.13 売上ランキングTOP10入りの『メダロットS』を分析。既存ファンに向けた「メダロット」ならではの露出も
■Vol.14 ゲームはスローライフだが運営施策は挑戦的…『どうぶつの森 ポケットキャンプ』これまでの歩み
■Vol.15 目指したのは「リアルなミニ四駆体験の追求」…『ミニ四駆 超速グランプリ』ヒットの背景を分析
■Vol.16 『モンスト』×「鬼滅の刃」コラボを分析…IP頼りで終わらず、推奨行動など多様な施策で盛り上げる
■Vol.17 放置ゲームの新たな形『ロストディケイド』の挑戦。“放置させない”循環や独自性の高いマネタイズも
■Vol.19 原作再現度の高さで話題沸騰――大ヒット中『このファン』のゲーム内外施策を調査
■Vol.20 新旧ではなく共存共栄――『あんさんぶるスターズ!!Basic&Music』リリース前後のゲーム内外施策を調査
■Vol.21 周年施策から辿る『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』大ヒットの背景。1・2・3周年でなにが起こったのか
■Vol.22 原作の裾野を広げる『ヒプノシスマイクARB』。話題沸騰の「ヒプマイ」ゲームアプリのリリース前後施策を分析
■Vol.23 『ディズニーツイステッドワンダーランド』TOP3入りの背景。ゲーム内外の演出と注目ポイントを分析
■Vol.24 無料DL・セルラン共に急上昇――最新作『あつ森』発売後、『どうぶつの森 ポケットキャンプ』で何が起こったのか
会社情報
- 会社名
- Tencent(テンセント)
会社情報
- 会社名
- 株式会社スパイスマート
- 設立
- 2015年7月
- 代表者
- 代表取締役 久保 真澄