【Sp!cemartゲームアプリ調査隊】放置ゲームの新たなヒット作『魔剣伝説』。“縦画面のMMORPG”を謳った功罪からゲーム概要まで


スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
 

なかでもカレンダーは、セールスランキング上位のモバイルオンラインゲームのゲームシステム・運用施策をダッシュボード形式のWEBツールとして提供。ゲーム内プロモーション施策の効果測定やセールスランキングと運用効果の相関関係を時系列で分析できる。
 

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本連載記事ではSp!cemart協力のもと、カレンダー機能を用いた、ランキング上位タイトルの直近のゲーム内施策を分析。今回は4399インターネットの新作『魔剣伝説』の施策をピックアップする。
   
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より) 
 

【調査箇所】リリース早々にセルランTOP30入り


■『魔剣伝説』
提供:4399インターネット
リリース日:2020年4月20日

①【調査期間:2020年4月20日~5月5日】

▲Sp!cemartカレンダーより(画面上部はストアのランキング推移、下部はゲーム内施策を確認できる)

中国4399インターネットの新作『魔剣伝説』は、縦画面のMMORPGと謳い日本でスマッシュヒットを記録しています。そして2020年4月20日(月)のリリースから、わずか3日でApp StoreのセールスランキングでTOP30入りを果たしました。

中国では、『奇迹之剑』というタイトルで2018年8月頃にリリースしましたが、ランキング推移はまずまずの結果に。その後、『Crasher: Origin』としてグローバル配信済み。そして、このほど日本でもリリースされたという流れです。

本作は、初心者でも片手で気軽に遊べる縦画面のオンラインゲームです。放置で簡単にレベルアップできる機能を搭載しているほか、チャットで他プレイヤーとの交流も楽しめます。物語は、世界滅亡を阻止するために、神に選ばれし勇者として魔剣を手に旅に出るという王道展開を採用しています。

さて、前述した「放置」のキーワードで分かる通り、実は本作のゲームジャンルはMMORPGというより、放置ゲームと捉えたほうがいいでしょう。

ただ運営側は、アプリストアの概要文から、広告クリエイティブ、一部メディアのPR記事まで、徹底して“縦画面のMMORPG”を主張しています。たしかに、大規模の多人数同時参加型のオンラインRPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)で間違いではないのですが、恐らく手にした多くのユーザーが初見で首をかしげると思います。

では、クオリティが低いかといわれると、実はそうではありません。MMORPGとして見ると、同ジャンルの他作品と比べて劣りますが、放置ゲームとしては独自路線を築いています。たしかに、これをMMORPGとして売っていきたい背景も分かりますし、むしろスマートデバイス向けMMORPGのアンチテーゼとも捉えることができます。

「こんなのMMORPGじゃない」と切り捨てるのではなく、本稿ではランキング推移とゲーム内施策を一覧で閲覧できる「Sp!cemartカレンダー」を用いり、『魔剣伝説』リリース前後の施策と、ゲーム概要を中心に深掘りしていきます。
 

【リリース前】広告クリエイティブで採用された3つの訴求軸


はじめに、『魔剣伝説』リリース前の施策からまとめていきます。

【リリースまでの流れ】
■ 2020年3月16日 事前登録を開始
同年4月11日 正式リリース日を発表
同年4月17日 イメージキャラクターに俳優の伊藤英明を起用したことを発表
同年4月20日 正式リリース

Social Game Infoのプレスリリース掲載情報をもとにまとめましたが、実はメディアに発表している内容は上記程度です。事前登録開始からリリースまでは1ヵ月ほど、公式Twitterの開設(初ツイート)も3月頃からでしたので、リリースまでは短い期間でした。

ただ、リリースまでの1ヵ月間は怒涛のプロモーション施策で、事前登録者数は全くの無名タイトルにもかかわらず、20万人以上を記録。潤沢なプロモーション費用も手伝って、豪華絢爛な制作人(関係者)が揃いました。その筆頭が、イメージキャラクターに俳優の伊藤英明さんを起用したことでしょう。


▲リリース直前に発表された豪華なイメージキャラクター

伊藤さんは、「海猿」や「救命病棟24時」など、日本を代表する数々のTVドラマ・映画に出演している俳優。WEBを中心に流れたCMクリエイティブでは、伊藤さんが『魔剣伝説』に熱中している姿が描かれており、目にした方は有名俳優の起用に驚いたのではないでしょうか。なお、訴求していた文言(または演出)は下記の通り。

【訴求文言】
①   縦画面のMMORPG
②   放置していても簡単にレベルアップ可能
③   初ログインで10連ガチャ無料

まず①は、縦画面とMMORPGの組み合わせである意外性をアピール。すでにリリースされているスマートデバイス向けMMORPGは横画面が主流なので、そこと差別化している点と、片手でも遊べる点を積極的に伝えています。

そして②では、放置ゲームとしての特徴を説明。また、MMORPGと聞くと、レベル上げにかかる時間に抵抗を感じる人が一定数いるため、ある意味、MMORPGの懸念点を解消できているという意識を持つことができます。③は単純に特典アピール。

恐らくリリース前は、デジタルを中心に大規模な宣伝施策を展開したため、数多くの人たちが『魔剣伝説』のクリエイティブを目にしたことでしょう。あまりにも目をするからか、ネガティブな印象を抱く人たちも少なからずいました。

ただ、結果的に無料ダウンロードランキングで1位を獲得したため、前述した訴求文言は魅力的に映ったのかもしれません。個人的に一部文言については、恐らくインストールと引き換えにブランディングの低下が代償にあったと思いますが、こちらに関しては後述します。

SNS施策では、定番のフォロー&RTキャンペーンを展開していました(プレゼント商品はAmazonギフト券)。また、動画広告はバラエティに富んだクリエイティブを用意。さきに挙げた伊藤さん出演のものから、アニメ調の内容、ゲーム内のキャラクターを用いた「急に強くなる」「相手との差をつける」といった寸劇ものなど多種多様。
 

【ゲーム内施策】10倍相当返ってくる投資マネタイズとは


ゲーム中は、基本的に操作キャラクターが自動で敵を倒してくれます。行動中は、自動でスキルも連発して、終始、ド派手なシーンを堪能できます。また、画面左に次の目的が表示されるため、タップすることで該当ミッションをこなしてくれます。

▲ゲーム画面。放置ゲームのため、再びログインした際には、オフライン状態の時間に伴い経験値やアイテムなどが入手できます(写真右)。

装備の強化や装着に関しても、このミッション内容に含まれることが多くあり、ゲームではここのボタンをタップすることで進行していきます。ここが『魔剣伝説』がMMORPGのアンチテーゼと呼ばれる所以(ゆえん)かもしれません。

というのも、スマートデバイス向けMMORPGでは前述したようにミッションボタンをタップすることで、あとは自動で進めてくれるものばかりです。もちろん全てではありませんし、ユーザーの利便性を考えれば当然の機能です。ただ、『魔剣伝説』はこのMMORPG特有の自動化を上手く昇華させ、放置ゲームの機能を取り入れて仕上げているのです。

実際に遊べば放置ゲームであることは一目瞭然ですが、ゲーム進行の雰囲気はまるでMMORPGそのもの。そういう意味では、運営側がMMORPGとして打ち出す気持ちも分からないでもありません。

ここからは、マネタイズやゲーム内施策について言及していきます。

 
①     【調査期間:2020年4月20日~5月5日】※再掲

▲Sp!cemartカレンダーより(画面上部はストアのランキング推移、下部はゲーム内施策を確認できる)

 
本作のマネタイズは、有償アイテムのダイヤの販売です。ダイヤは主にガチャやショップなどで使用します。ダイヤのラインナップは以下の通り。
 
【ダイヤのラインナップ】
・ダイヤ60(120円)<単価:2.00円/割引率:0%>
・ダイヤ300(600円)<単価:2.00円/割引率:0%>
・ダイヤ680(1,220円)<単価:1.79円/割引率:10.3%>
・ダイヤ1280(2,440円)<単価:1.91円/割引率:4.7%>
・ダイヤ1980(3,680円)<単価:1.86円/割引率:7.1%>
・ダイヤ3280(6,100円)<単価:1.86円/割引率:7.0%>
・ダイヤ6480(12,000円)<単価:1.85円/割引率:7.4%>

 
【無料ダイヤパック】
・毎日100無料ダイヤ、7日持続(370円)

 
そのほかVIP機能も採用しており、ゲーム内コンテンツの利用回数の上限を上げたり、戦力が上がる称号を付与したりと、さまざまな恩恵が得られます。
 
また、本作には投資コンテンツが存在します。これは、有償ダイヤを用いて投資することで、10倍相当分の無償ダイヤが還元されるもの。たとえば、レベルやコンテンツ達成に応じて無償ダイヤが貰える「投資計画」。利用には有償ダイヤ1880個(3,760円相当)が必要ですが、初回の投資で1880個の無償ダイヤが回収されます。
 
数多くのダイヤが手に入りますが、忘れてはならないのは、すべて無償ダイヤであること。ガチャや特定のショップでは、有償ダイヤを用いらなければ利用できません。ゆえに大変貴重。有償ダイヤ1880個(3,760円相当)で10倍相当の無償ダイヤが手に入りますが、必ず無償ダイヤの利用箇所や目的を考慮して投資するのが大切


▲投資画面

 そしてガチャでは、アイテム「ガチャの鍵」を用いて引くことができ、強力な装備品が排出されます。ガチャの鍵はダイヤ×20(40円)で1個と交換できます。ガチャボタンには、1回(鍵1個必要)、10回(鍵10個必要)、50回(鍵45個必要)の3種類が存在。なお、ガチャを利用するとポイントが溜まり、これらは豪華アイテムと交換できます。
 
ゲーム内イベントでは、期間限定というよりも、常設の施策がユーザーのメインコンテンツとして遊ばれている様子です。
 
一方でマネタイズ施策は積極的に行われており、現在は任意のダイヤを課金するだけの「初チャージパック」として、強力な装備や経験値ダンジョンの利用回数が増加するアイテムなどの積み合わせをプレゼントしています。スタートダッシュを行いたいユーザーには嬉しいラインナップであり、課金ハードルを著しく下げる施策として機能しているでしょう
 

【今後】流入を取るか、信頼を築くか


駆け足ではありましたが、以上が『魔剣伝説』リリース前後の概要となります。まだまだ全容を語れてはいませんが、どのようなゲームで、どのようなマネタイズなのか、その入口としては理解できたのではないでしょうか。
 
今後については、少々心配なところもあります。それは「縦画面のMMORPG」を謳ったばかり、インストールと引き換えにブランディングの低下が代償になったことです。『魔剣伝説』のアプリストアの評価は芳しくありません。細かいゲーム内容の指摘はもとより、意見として多かったのは「思っていたのとは違う」というものです。

 前述したように、リリース前には大規模プロモーションで「縦画面のMMORPG」をユーザーにアピールしてきました。もちろん間違いではありませんが、実際には放置ゲームとしての印象を強く抱く内容であり、『リネージュ2 レボリューション』や『黒い砂漠 MOBILE』など一般的に思い描くMMORPG像とは程遠いものでした。当然、ユーザーは落胆し、低評価を付けることになります。
 
昨今、海外ゲーム系のアプリでは、ゲームの根幹となるメインプレイ内容を、全く異なるメッセージで伝える動画広告が横行しています。たとえば、本来パズルゲームにもかかわらず、特定のアイテムを選択してピンチを切り抜けるゲームとして伝えるなど。読者の方も目にしたことはあるのではないでしょうか。
 
では、『魔剣伝説』の広告クリエイティブも行き過ぎているかといわれると、そうではありません。単純にMMORPGという文言を用いたときに、ユーザーがどのような期待感を抱くのか、その想像が一歩足りなかったように思えます。無料ダウンロードランキングで首位を記録したからこそ、流入としてのマーケティングは一定の成功を収めました。
 
しかし、『魔剣伝説』というゲームを今後も末永く続けていくためには、流入と同じくらいにブランディングが大切です。放置ゲームとしては、かなり挑戦的かつ高品質なタイトルのため、ボタンの掛け違いだけでついえてしまうのは勿体ないのです。今後は国内ユーザーの信頼をいかに築き上げていくのかが重要となりそうです。

「Sp!cemartカレンダー」では、各ゲームのイベント情報をランキング推移と共に閲覧できます。自社はもとより、競合他社の施策一覧を取りまとめた分析などにもご活用できます。ぜひ、ご興味がある方はお問い合わせページからご連絡ください。

 

 

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■執筆 <株式会社スパイスマート>
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会社名
株式会社スパイスマート
設立
2015年7月
代表者
代表取締役 久保 真澄
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上場区分
kimura
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