【ハイカジ道】タツマキゲームズ代表・畑佐氏の特別連載「全米一位への道」…第3回テーマは「プロトタイプってどうつくる?クリエイターが陥りやすい罠」

畑佐雄大 タツマキゲームズ代表取締役
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第3回:プロトタイプってどうつくる?クリエイターが陥りやすい罠

 ハイパーカジュアルゲームを中心に、開発やパブリッシングをしている「タツマキゲームズ株式会社」代表の畑佐(はたさ)と申します。9月になり、ハイカジ道特別連載企画も第3回目になりました。ここからは実際にハイカジをつくっていくところについて書いていきたいと思います!

“ゲーム開発者”だからこそ陥りやすい罠とは?

 もともと私自身がアーケードゲーム、それも対戦型のビデオゲームという超ニッチなゲームをつくっていたこともあり、どうしてもゲームをつくっていると「気になるポイント」がたくさん出てきてしまいます。細かいキャラクターの挙動や、効果音の鳴るタイミング、振動の強弱やステージのバランスなどなど、見れば見るほど出てきてついついつくり込んでしまう…というのは、ゲームをつくっている方なら多いのではないでしょうか。

 もちろんそれ自体はとても素晴らしいことですし、ゲームに魂を込めるためにも絶対に妥協してはいけません。ハイパーカジュアルゲームにおいても最終的にはその”こだわり”こそが、多くの人に遊ばれるゲームになるかどうかの分かれ目とも言えます。

 ただ…ハイパーカジュアルゲームの「プロトタイプ開発」においては、逆にその”こだわり”が、つくっている本人を肉体的にも精神的にも苦しめてしまうことになりかねないのです…。

▲つくったゲームがデータ的に否定されると相当ヘコむ。

プロトタイプを2週間でつくれ!? その理由は?

 そもそもハイカジを百発百中で当てられる開発者はこの世に存在していません(他のゲームももちろんそうですが)。ハイカジに関して言えば、多かれ少なかれ収益化に繋げられるアプリの割合はこれまでの経験から、プロトタイプを20本作ったら1本あるかないかぐらい…つまり5%程度ではないかと推測しています(あくまでも経験上)。

 もちろんこの確率…つまりヒット率は、普段からハイカジを遊び、分析し、つくり続けることでどんどん高めていけるのですが、逆に言えば最初の頃は、どれだけ気合を入れてこだわり抜いて時間をかけてつくっても「テスト結果が基準に満たない」確率のほうが圧倒的に高いです。データは正直に事実を教えてくれますが、ある意味で残酷でもあります。

 そのとき、あまりに思い入れが強く「せっかくこれだけつくったのに…」という気持ちが入りすぎていると、データ自体を疑ったり「こんなはずはない。もう一度テストを…」というように、判断を鈍らせてしまうことがあります。それこそがハイカジ開発における最も危険であり、体力もメンタルも削られていく最悪な状況だと考えています。

 いろいろなハイカジの情報を見ると、よくプロトタイプは「2週間以内」でつくりましょうと書かれていることがありますが、これはもちろん「速くつくる」という意味もありますが、時間的な制約を設けることによって「本当につくるべきコンセプトの部分だけをつくり、それ以外はつくらない」ようにするための”縛り"という意味合いが大きいのです。

最速でつくるために、”つくらなくて”良いもの

 ハイカジに馴染みのない方からすると「2週間で1本」という開発スパンはかなり短く感じられるかと思います。たしかに、細部までこだわり抜いて、きめ細やかな調整をするには圧倒的に時間が足りません。

 ハイカジのプロトタイプで大切なことは「その企画でもっともヒキの強い部分」「見た人や遊んだ人の気持ちがうごく部分」…つまりコンセプトだけにフォーカスして、それ以外の部分は「つくらない」ということです。…というのは、やはり情報としてネットに載っていることが多いのですが、またしても具体的に「何をつくらなくて良いのか」は書かれていることが多くはありません。

 そこで今回は「つくらなくて良いもの」を具体的に書いていきます。これらは実際に私が試した結果として、ことハイカジのプロトタイプという観点では、あってもなくてもデータが変わらない(良くも悪くもならない)もの、つまり「それだったら時間短縮のためにつくらなくて良いもの」となります。

① 過度なステージ数
 パズルゲームやランゲームなど、ステージクリア型のゲームは多くても3ステージ程度あれば充分です。10、 20とステージを量産することによって、プレイ時間や継続率を伸ばそうと考えがちですが、実は、本当にポテンシャルのある中毒性の高いゲームは、たとえステージが1つしか無くとも、複数ステージあるものよりもかなり高い数値を叩き出します(これ本当に驚くのですが)。用意するのは最小限で良いですが、最後のステージまで到達したら、最初にループして無限に遊べるようにはしておきましょう。

② BGMや効果音
 特にハイカジに関していえば、音を出してプレイする人はごく少数だと言われています。もちろん無いよりはあったほうがプレイ体験としては良いのですが、プロトタイプの段階で得られるデータ的にはほぼ変化がありません。それよりも、適切な効果音を探したり鳴らすタイミングを調整する労力を積み重ねるほうが、あとあと大変なことになっていきます。

③ 自作のアセット
 画面に表示するユーザーインターフェースのデザインやゲーム内で使用するキャラクターの3Dモデルといったアセットも、自作するとどうしても時間がかかってしまうため、できるだけUnity Asset Storeなどの外部サイトで購入し使うようにするのが鉄則です。もちろんアセットを買うための出費はかかりますが、一度購入すれば今後のプロトタイプ全般で使えるので、時間をお金で買うつもりで惜しまず買い進めるのがオススメです。セールのタイミングを狙って買いためておくのも良いですね!

④ プッシュ通知
 プッシュ通知機能も、無いよりはあったほうが良いものですが、プロトタイプの段階では不要です。ちゃんと動くかどうかをデバッグするのも地味に大変ですし…。

⑤ スキン替えなどのやりこみ要素
 このようなやりこみ要素も、やはりプロトタイプの時点では不要です。プロトタイプでのテスト結果が良かったあとで、どんどんブラッシュアップしていきましょう!

▲プロトタイプが無事に通過したらつくり込んでいこう。

完成したらストア公開。手抜きポイントはココにもある!

 さて、最速でプロトタイプをつくることができたら、テストを行うために実際にGoogle Playストアで公開作業を行います(現在では、テストはAndroidで行なうことが主流です)。この「ストア公開」の際にも経験上、あってもなくてもデータが変わらないものがいくつかあるのでご紹介しておきます!

 まずはアプリの「スクリーンショット」です。Google Playではスマートフォン用やタブレット用にいくつかのスクリーンショットが要求されますが、基本的に全て9:16(1080x1920)の縦長のものが3枚あれば、要件を満たすことができます。Unityからゲームプレイ中の画面を直接撮るか、手元の端末でパシャパシャっとスクリーンショットしたものをサイズだけ合わせて使ってしまいましょう。テキストの説明を載せたりといった加工はしなくてOKです。同時に、横長のフィーチャー画像も当該のスクリーンショットから画像ソフトで切り出してつくってしまいましょう!

 次に「アプリの説明動画」についてですが、これは大手パブリッシャーを見るとプロトタイプだけではなく正式リリースしたあとですら掲載していないことが多々あります(笑)  特にGoogle Playの場合はつくった動画を一旦自分のYouTubeにアップロードしてからそのリンクを埋め込む…という手順を踏まなければいけないので、編集から考えるとその作業時間は馬鹿になりません。したがって、この説明動画も省略してしまって大丈夫です!

 アプリアイコンやアプリの説明文は最低限のものを用意します。アイコンはゲーム内の特徴的なキャラクターやシーンをキャプチャして切り出したもの、説明文は4〜5行程度で完結にゲームの内容を記載しましょう。もちろん、アメリカでテストを行うため説明文は英語で書く必要がありますが、一度日本語で書いた文章を翻訳ツールで変換したもので充分です。

▲弊社のストアページ。プロトタイプと正式リリースしたもののアイコンの差が激しい。

今回のまとめ

 さて、今回はこれまでよりもややボリューム多めで「つくらなくて良いもの」をお話してきました。ただしっかりとお伝えしておきたいのは、今回の内容の本質は「手を抜きましょう」ということではなく「本当に大事な部分だけにしっかりと時間を使いましょう」ということです。

 ハイカジのプロトタイプは、おそらくほとんどの人がヒットまでに何十本とつくっていくことになるはずです。そして、その1つ1つがきちんと練り上げられた企画で、プレイヤーに体験してもらいたいコンセプトの部分がもれなく伝わるようにつくられるべきです。

 逆にいえば「それ以外」の部分、つまり今回お話した、データ的にはつくってもほぼ影響がない部分を徹底的に省略することで使う時間の配分を適正化し、それが結果的にヒット率を上げていくことにつながる、ということです。

 アイデアやコンセプトの部分まで含めて全体的に手抜きしてつくりましょう、ということでは決して無いのでそれだけは肝に銘じておいてくださいね!(笑)

メールやDMはお気軽に!

 タツマキゲームズではハイパーカジュアルのあらゆるご相談をお受けしております! ハイカジに興味を持ったり始めてみようかなという人を増やしたいと思っていますので、まずはお気軽にメールやTwitterでご連絡ください。この連載で書いてほしい内容なども大歓迎です。ホントに何でも聞いてください、包み隠さずお伝えします(笑)

メール:info@tatsumaki.games 
Twitter:ハタサ@タツマキゲームズ(@noots_87

次回予告

次回は「最初にして最大の関門「CPIテスト」のやり方と心構え」というテーマで掲載予定です。お楽しみに!

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