【Amazon Game Tech Conference 2022レポート】メタバース普及に重要なことは何か?…キーマンが語る「メタバースとゲームの交差点」

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アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS Japan)は、11月10日に渋谷ヒカリエホールにて「Amazon Game Tech Conference 2022」を開催した。このイベントでは、「Amazon Web Services(以下、AWS)」を活用したゲーム開発環境作りなどユーザから関心の高いテーマにまつわるセッションが実施された。

本稿では、パネルディスカッション2「メタバースとゲームの交差点とは」の内容をお届けする。

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■高まっていく体験のクオリティ…キーマンが語るメタバースの今とは

パネルディスカッション2「メタバースとゲームの交差点とは」で登壇したのは、モデレーターとしてアマゾンウェブサービスジャパン合同会社の益田直幸氏、同じく西坂信哉氏の2名。株式会社ambr代表取締役CEOの西村拓也氏、クラスター株式会社取締役COOの成田暁彦氏、株式会社VARK執行役員COOの杉本豊氏の3名。


アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
益田直幸氏(写真左)
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
西坂信哉氏(写真右)


株式会社ambr
代表取締役CEO
西村拓也氏


クラスター株式会社
取締役COO
成田暁彦氏


株式会社VARK
執行役員COO
杉本豊氏

まずは、それぞれ会社の紹介とメタバースに関係する事業内容の説明からセッションはスタート。

メタバースクリエイティブスタジオ事業を営むambrは、2021年、2022年の東京ゲームショウで実施されたVR会場の企画・開発を担当した会社として記憶に残っている人も多いだろう。特に、「TOKYO GAME SHOW VR 2022」では、グラフィック品質の向上にとどまらず、アバターカスタマイズやクエストシステムといった、ゲーム要素を盛り込んだことで好評を博した。

・東京ゲームショウ VR 2022 事前告知動画


クラスターは、自社名と同名のメタバースプラットフォーム『cluster』を運営している。『cluster』は、最大10万人規模の多人数同時接続を可能にしたメタバースプラットフォームであり、UGCサービスとしてユーザーが自由にバーチャル空間やアバターのアップロードができる他、バーチャル上でライブからカンファレンスまで大規模なイベント開催をできることが特徴になっている。VR機器なしでスマホ、PCからも参加できるため幅広いユーザー層が気軽に参加できるのも魅力のひとつとなっている。

・メタバースプラットフォーム「cluster」公式PV


株式会社VARKが展開するメタバース「VARK」は、よりエンターテイメントに特化しており、アーティストの世界観に合わせたイベントの企画立案、バーチャル空間の会場制作、イベントの進行・運営までをVARKが提供している。ANYCOLOR株式会社、カバー株式会社、エイベックス株式会社など、多くの企業主催ライブの企画、運営に携わっている。



モデレーターの益田氏から最初に投げかけられた質問は「TGS2022のメタバースの盛り上がりをどう思うか?」というもの。

東京ゲームショウVR会場の制作を担当したambrの西村氏は、手探りだった1回目の開催よりもパワーアップしたものができあがったと確かな手ごたえを感じたと語る。ゲームシステムの導入や、より作りこまれた世界観に対し、多くの反響があったようだ。各種SNSの投稿数や、YouTubeの配信数、平均滞在時間など、ユーザーの反応の良さは具体的な数字にも表れていたという。

クラスターの成田氏、VARKの杉本氏も、ブースを訪れる来場者が多かったことに手ごたえを感じていると語った。VRデバイスに興味を持つ人も年々増えており、購入にまでは至らないものの、ユーザーが増えていく兆候は見えているようだ。

クラスターは、リアルのブースでコンパニオンを雇っていたが、それを見たユーザーが自発的にコンパニオンと同じ衣装を着たアバターを作成し、クラスターのバーチャル会場でSNSキャンペーンをサポートしてくれていたという出来事を紹介しながら見せていた。



2つ目の質問は「自社メタバースのユースケース、ユーザー体験の現状について教えてください」といった内容。2つ目の質問は「自社メタバースのユースケース、ユーザー体験の現状について教えてください」といった内容。

これに対し西村氏は、自社メタバースというものがないため、他社との共同でVR体験を生み出す事業に取り組んでいると回答し、そのなかでもambrはVRデバイスを使うことで、新しい体験をしてもらうことを重視していると付け加えた。

今のVRやメタバース業界は、成功しているものを横に広げていくのではなく、どんどん新しいことに挑戦しながらそれをユーザーにぶつけていくのが重要なフェーズであり、未知の体験の提供こそがambrのミッションであると語った。



成田氏は、メタバースはデバイス、プラットフォーム、コンテンツの3層で明確に事業構造が分かれている点が特徴的だと考えており、クラスターはプラットフォームとコンテンツの2点に注力し、プラットフォームはBtoC、コンテンツではBtoCとBtoBという形で取り組んでいると回答した。

また、これまでは体験と言うよりは視聴するような、ある意味一方的なイベントが多かったが、そこにUGC(ユーザー作成コンテンツ)が加わることで、ユーザーと企業が相互に影響を与え合うような環境に変わりつつあると語った。

杉本氏は、バーチャルライブにおける体験が、現実のライブに参加したときの体験とリンクしてきていると感じていることを話した。杉本氏は、バーチャルライブにおける体験が、現実のライブに参加したときの体験とリンクしてきていると感じていることを話した。

VARKが提供するバーチャルライブが終了すると、そのメタバース空間ではライブTシャツを着たアバターを使い、ユーザーはライブ後の感想戦や、カラオケをしながらセットリストの復習といった楽しみ方をするようになってきた。

これはまさに、現実のライブに参加したときと同様の体験であり、現地に行くことなくこうした体験ができるところまで、バーチャルライブのクオリティは上がってきているのだと杉本氏は熱弁した。



続けて3つ目の質問。「ゲーム会社と今後やってみたいこと」という問いに対して杉本氏は、もっと色々なIPと手を組んで様々な世界を作り上げ、3D空間でファンコミュニティを形成していきたいと回答した。続けて3つ目の質問。「ゲーム会社と今後やってみたいこと」という問いに対して杉本氏は、もっと色々なIPと手を組んで様々な世界を作り上げ、3D空間でファンコミュニティを形成していきたいと回答した。

VARKのメタバースの作り方は、ひとつの島を起点としながらも、IPごとに独立した島を形成しているため、IP同士の干渉が起きないことも強みになっていると続けた杉本氏に、モデレーターの益田氏から「IPと共同事業をするにあたりクオリティチェックはどうしていますか?」と問いかけた。これに対しては、VARKでは各案件ごとにディレクターをたてることようにしており、窓口を一本化することによってクオリティの担保につなげていると答えた。

クラスターは、法人様とのお取組みに関してはすべて内製のフルスクラッチで制作を進めるため、クオリティ面も社内で管理できていると成田氏も続いて回答。それ以上に課題となりやすいのは容量に関する部分であるとも指摘した。あらゆるものを3DCGで作り出し、常に表示するという都合上どうしてもデータサイズが大きくなりすぎてしまうきらいがある。

そのうえでクラスターは、クライアントの要望にできる限り添いながら可能な表現の変更など、軽量化のノウハウを蓄積することで問題解決に取り組んでいるとまとめた。

西村氏は、2023年の東京ゲームショウのVR会場制作にも是非参加したいと意欲を見せながら、カードゲーム『マジック・ザ・ギャザリング』のカードからクリーチャーが出てくるような、ゲームユーザーが一度は夢見たようなことを実現したいと口にした。非常にシンプルな答えではあるが、新体験を追求するambrならではのビジョンとも言える。



4つめの質問は「各企業が今後やりたいこと」。ゲームに限らず、メタバースという世界で何を作っていきたいのかという意図の質問になるが、VARKの杉本氏は、様々な企業とタイアップしていき、コンテンツを拡充していきたいと回答している。

杉本氏は、それこそがVRの啓蒙につながっていくと考えており。ユーザーひとりひとりが求めるものは違っているため、コンテンツの多様性と供給量を増やしていくことで、コンテンツきっかけでメタバースの世界へとユーザーを引き込む機会が増えていくといった意図の発言をしている。

成田氏は、自社のメタバースをもっと敷居の低いメタバースにしていきたいと回答し、そもそも「クラスター」をスマートフォンでも利用できるようにした経緯が、エントリーしやすいメタバースを作りたかったからだとも言っている。

目指すもののビジョンとして「YouTubeの3DCG版」というキーワードを口にしている。これは、クラスターのクリエイティビティを向上させていき、誰でも好きにコンテンツをプラットフォームに投稿し、それをユーザーが購入できたり、コンテンツをザッピングするように体験できるような環境を作り上げていくという意図での発言だ。

もうひとつ、成田氏は「定住」というワードも強調していた。『クラスター』内では、すでに週4日以上アクセスするユーザーの平均滞在率が4時間を超え、定住というカルチャーが浸透しつつあることを感じており、そういったロイヤルユーザーのクリエイティビティに何かを与えられるようなパーツを用意していきたいと語った。

西村氏は、とにかくユーザーがワクワクするようなものづくりを続けたい。未知の体験を提供していきたいと再度意気込みを語りながら、今後はグローバルな展開にも着手していきたいと考えていることを明かした。

せっかくのバーチャル空間なのだから、国境にこだわることなく裾野を広げていきたい。言葉が通じなくても日本の作品やエンタテイメントは海を超えていけるという熱い想いから、世界中のユーザーにもリーチしていきたいとのことだ。



■メタバース普及の鍵は業界が一体となって未知の体験を創出すること

ここまでは、各社のやりたいことについてフォーカスしてきたが、5つ目の質問では「メタバース実現のために技術的に重要なことは何か?」という方向へ話題をシフトさせる。

杉本氏は、同期をいかにスムーズにできるかという点は重要であると指摘。コミュニケーションにラグが発生してしまうと、没入感をそこなってしまいがちであることからも、同期の重要性はかなり高く、リッチな表現を追求しながらも、それをそれぞれのデバイスに適した形に落とし込んでいくべきなのではないかと杉本氏は語った。

ここで、この問題点に関して、モデレーターの西坂氏から補足情報が入る。クラウド側のGPUインスタンスを使ってレンダリングを実行し、ストリーミングの形でデータを転送するというユースケースがいくつかあり、実用に至っているケースもあるため、クラウドレンダリングはメタバース実現のために役に立つ技術のひとつだと解説した。

さらに、VARKでも利用されているグラフデータベース「Amazon Neptune」についても解説をしている。これはAmazon Neptuneはソーシャル要素に強いデータベースで、メタバースでは現在のゲームよりソーシャル要素が強くなっていくと思われるため、このような目的特化型のデータベースの採用も検討の価値があるものだが、メタバースはよりソーシャル要素が強くなっていくため、サービスに適したデータベースの使い分けも検討してほしいと語った。



成田氏は、多人数同時アクセス型のサービスである以上、インフラコストが悩みの種になりやすいとこぼす。しかしながら、「AWS Graviton」を利用することでインフラコストの4割減に成功していることもあり、「AWS」には今後もコスト面で期待しているといった内容の発言もしていた。

インフラリソースの重要性という点には西村氏も同意を示している。バーチャルイベントではユーザー数の想定をたてづらく、かなり多めに見積もっておく必要があった。そこで、ambrでは「Aurora Serverless v2」を利用し、データベースのインフラリソースの最適化しているとのこと。

3社それぞれ利用しているサービスは違うものの、インフラリソース、データベースといったところがメタバースにおける肝になるのだろう。西坂氏が言うように、それぞれの開発環境、サービス形態にあったソリューションを選択する必要があるが、「AWS」の選択肢の多さがそこをカバーしてくれるのだろう。先の例で言うと、AWS Gravitonによるコスト最適化は、メタバースのサーバーがコンピュートインテンシブなワークロードになりがちという背景から、またAurora Serverless v2は瞬時に動的なスケールアップが可能なデータベースであり、メタバースは現状イベントのような短期間の用途が多いことから、それぞれ良い選択肢となる、と西坂氏は補足した。



残り時間も少なくなってきたため、最後に駆け足ながら6つ目の質問として「メタバース普及に重要なことは何か?」といった質問を投げかけられた。

西村氏は、未知の体験、VRならではの体験してもらうことだと、このパネルディスカッションで何度か口にした内容を一貫して主張していた。

成田氏は、ひとりでやらないことも重要だと回答した。成田氏自身もゲームで辛い体験をしたものの、友達と一緒にやっていたことで継続につながったという体験があり、メタバースに入ってみたもののよくわからないからやめてしまうというのは寂しい。なので、周りの人を誘ってみてくださいと提案しつつも、誰かとつながりやすくなるような、ひとりぼっちを作らない仕組みを自社のプラットフォームにも作りたいと付け加えた。

杉本氏は、やはりコンテンツの魅力が人をけん引すると主張した。一緒にコミュニティを築くきっかけとなるのは、やはり共通の話題であり、その起因となるコンテンツやIPでないかと杉本氏は言い、toB側のクライアントがどれだけコミットしてくれるかで今後の展開も変わってくると語った。

最後にモデレーターの西坂氏から、今はクライアントサイドに目が行きがちだが、今後はサーバーサイドの重要性も増してくるのではないかと予想をした。オープンワールドをユーザーも一緒になって作り上げていくようなところまでいくと、本当の意味でのメタバースに近づいてくると考える西坂氏は、MMORPGで実現しているようなサーバーサイドの技術が必要になってくるはずであり、「AWS」がそこをフォローしていけるようサービス向上に努めていきたいと締めくくった。