【Amazon Game Tech Conference 2022レポート】『ポケットモンスター』シリーズや『エルデンリング』などのゲーム開発・運用における負担軽減で貢献しているAmazon Web Servicesの真価とは
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS Japan)は、11月10日に渋谷ヒカリエホールにて「Amazon Game Tech Conference 2022」を開催した。このイベントでは、「Amazon Web Services(以下、AWS)」を活用したゲーム開発環境作りなどユーザから関心の高いテーマにまつわるセッションが実施された。
本稿では、オープニングセッションおよび、パネルディスカッション「AWSを活用したゲーム開発の最新動向」の内容をお届けする。
■ゲーム開発支援に特化したサービス「AWS for Games」
オープニングセッションでは、AWS Japanより、ゲーム・エンターテインメント営業本部長の飯田博征氏、ゲームエンターテインメントソリューション本部長の吉田英世氏の2名が登壇した。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
ゲーム・エンターテインメント営業本部 本部長
飯田博征氏
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
ゲームエンターテインメントソリューション本部 本部長
吉田英世氏
飯田氏は、今年3月に立ち上がった新サービス「AWS for Games」の解説から始め、このサービスがゲーム開発から、運営、成長まで、ゲームのライフサイクル全体を支援するものであることを強調していた。飯田氏は、今年3月に立ち上がった新サービス「AWS for Games」の解説から始め、このサービスがゲーム業界に向けた製品やサービスを集約したものであり、ゲーム開発支援に特化しているものであることを強調していた。
中でも、開発環境の改善を実現することで、開発者に喜んでもらうだけでなく、その向こう側にいるゲームユーザーに喜んでもらいたい。そのために、ゲーム会社とのワンチームという意識を持ちながら、サービスの伝播と向上に向き合っていると、熱く会場に語り掛けた。
「AWS for Games」の具体的なサービス内容について解説するにあたり、飯田氏はゲーム開発と運営の工程をBuild (ビルド)、Run (ラン)、Grow (グロウ)の3段階に大きく分割し、それぞれのフェーズの詳細については、事例となるタイトルの実績を挙げながら吉田氏が解説している。
まずは“Build (ビルド)”のフェーズ。ここで実例として挙がったのは、株式会社ゲームフリークの『ポケットモンスター』シリーズだ。ゲームフリークは、少数精鋭で大規模なゲーム制作に挑んでおり、オンプレミスのリソース不足が課題になっていた。
そこで、リソース不足が深刻になっていたビルド環境にクラウドを導入し、マネージドサービスによる運用負荷の軽減を図った。その結果、人的リソースを開発に集中させることに成功している。
コロナ禍に入ってからは、こうしたビルドまわりでの活用を検討する企業が多く、問い合わせ件数が増えているそうだ。リソースを好きな時に調達できるという点に魅力を感じるようになった要因のひとつとして、半導体不足の影響で機材を入手しにくくなった点もあげられるだろう。
次に、“Run (ラン)”のケースとしてまず紹介されたのは、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社の『ニンジャラ』。このタイトルはオンラインでの対人戦を軸としたゲームであり、盤石なサーバー構築が重要になる。
『ニンジャラ』では、マルチプレイヤーゲームサーバーのデプロイ、運用を提供するサービス「Amazon Game Lift」を利用することで、構築コストを半減、さらに運用には4人月の削減に成功したという具体的な数字で実績を示した。
続いて、同じく“ラン”のケースとして『ELDEN RING(エルデンリング)』(以下、『エルデンリング』)も挙げた。こちらは「Amazon EKS(Elastic Kubernetes Service)」を利用し、少数精鋭ながら同時接続150万人にも及ぶ大規模な運営を可能にした。『エルデンリング』の例だけでなく、少人数で大規模な運営体制を作り上げるという点においては、AWSの有用性はかなり高い。
“Grow (グロウ)”フェーズの事例は、RiotGamesのeスポーツ配信のサポート体制を紹介した。世界で初めて、AWSとデータ分析ソリューションを配信に統合し、『League of Legends』、『VALORANT』といったタイトルのイベントで活用されている。
「AWSグローバルパワーランキング」を使い、プロチームのランキングがリアルタイムで作成。それをゲーム画面に表示するようにしたうえで、「Pick'em by AWS」を使った優勝チームを予想するブラケットチャレンジを実施している。この仕組みは、多様なソリューションを提供するAWSだからこそ実現したと言える。
これで各フェーズの事例紹介を終え、オープニングセッションの内容は終了。ここからは、パネルディスカッション「AWSを活用したゲーム開発の最新動向」の内容をお届けする。
■「8or1.5」や「1/5」…ゲーム会社が語るAWSがゲーム開発に関わる数字の話
新たに登壇したのは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社ゲームエンターテインメント営業本部の緒方貴宏氏、株式会社カプコン先行技術研究チーム長の伊集院勝氏、株式会社タムソフト開発企画部リーダーの湯口静夫氏、インクレディビルドジャパン株式会社カントリーマネージャーの古屋英毅氏の4名。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
ゲームエンターテインメント営業本部
緒方貴宏氏
株式会社カプコン先行技術研究チーム チーム長
伊集院勝氏
株式会社タムソフト開発企画部 リーダー
湯口静夫氏
インクレディビルドジャパン株式会社
カントリーマネージャー
古屋英毅氏
このセッションでは、緒方氏から登壇者3名に対して事前に、ゲーム開発にまつわる数を用意してきてもらうように伝え、その数をトークテーマとして話を繰り広げていった。
湯口氏が先陣を切って発表した数は「8or1.5」。これは、湯口氏が携わったプロジェクトにおける、パッケージのビルド時間を指している。開発タイトルの規模が大きくなればなるほど、ビルドにかかる時間も当然長くなっていく。カプコンでは、ビルド用の機材やスタッフを用意することで、開発リソースへの負担を回避しているが、そのためにコストを割かないといけないという問題点もある。
これに対して古屋氏が提示した「1/5」という数は、UnrealEngineを使ったタイトルのビルドをクラウドで分散したところ、所要時間が1/5になったという実績のデータであり、クラウド分散の有効性を示した数字だ。現代ゲーム開発は、発売後にもアップデートのためにビルドを何度もすることになるため、ビルドの時間短縮は非常に大きな効果を持っている。
ビルド時間の短縮について熱弁する古屋氏に対し、インクレディビルドについて「メリットを理解したうえで導入コストが高すぎないか?」といった質問が投げられる場面もあったが、古屋氏はビルドを実行するマシンのみを対象とするイニシエーターライセンスの導入による、費用負担の軽量化を図っていると回答。さらに、今後のインクレディビルドの展開として、日本語サポートを充実させるために技術者の雇用に踏み切ったことを明かし、よりリーズナブルにサービスを提供するための地盤づくりが着実に進んでいるとした。
ビルドの作業負担を減らすことが効果的であるというのは、プロジェクトが大きくなればなるほど痛感するところであり、この話は伊集院氏が提示した「300」という数にも密接に影響している。
この数は、『バイオハザード ヴィレッジ ゴールドエディション』を開発するにあたり、実施されたパッケージング回数を指している。1回のパッケージングの所要時間が9時間ほどであることも明かしているため、総計は2700時間にも及ぶ計算になる。
カプコンでは、AWSを活用したスケールメリットにより、これを大幅に短縮することに成功したそうだ。これにより、本来ならビルドに回す人員、機材のリソースを他に回す選択肢も生まれるため、コスト低減につながっていく。
ここまで、ビルドの作業の重さにフォーカスして話していたが、緒方氏はその他の重い作業として「ライトベイク」にも触れている。これに対して伊集院氏は、現在はハードウェアに進歩により時間短縮はできるようになっていると答える。
しかし、それほどのGPUを搭載するとなると、今度は電力問題が浮上してくる。カプコンでは、消費電力の増加は問題になっているが、専用電源の追加工事を施工することで解決したようだが、この方法を実施できる会社となると数は限られてくるだろう。
グラフィックボードひとつとってもこれだけ問題になるのだから、オンプレですべて用意するとなると機材費はかさむ一方だ。湯口氏は、クラウド上に強力なGPUがあれば、開発環境に大きな変化が訪れる可能性を示唆し、クラウド上でより高度な開発環境を作れることをAWSに期待していた。
ここで、緒方氏からは「やはり、ゲームは見た目も重要ですか?」という疑問が投げかけられ、これに呼応するように話題は一転し、古屋氏からは「面白いゲームのセオリーは何か?」という質問をした。
もちろん、この問いに明確な答えはなく、はっきりとした回答はでない。伊集院氏は試行錯誤が重要であり、試行錯誤をしやすい環境作りが重要なのではないかと提案した。開発を進めていくなかで、開発者たちはそのゲームに慣れてしまう。そのゲームを初めて手に取るユーザーと、感覚が乖離してしまうことをユーザーとのコミュニケーションのなかで伊集院氏は感じたそうだ。
イテレーションの重要さを訴えかける伊集院氏の話を受け、緒方氏はそのためにも作業の軽量化が必要であり、そこに貢献していくことでAWSがゲームの面白さを担保できるようになるのではないかと話をまとめた。