年頭所感(株式会社スクウェア・エニックスホールディングス代表取締役社長 桐生 隆司氏)

株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス
代表取締役社長 桐生 隆司

謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

2023年は、長きに亘り猛威を振るったコロナ禍がほぼ収束し種々の活動制限が撤廃されることで、人々の暮らしが好転する動きが各所で見られました。その一方、コロナ対応に追われた各国中央銀行の金融政策の影響等による急激な物価高や地政学的リスクのさらなる高まりなど、様々な混乱もまた顕在化しました。地域・国レベルはもとより、我々個人一人ひとりがコロナ後の新しいスタンダードを模索する過渡期的な一年であったと言えます。

このように社会全体の不確実性が増す中、我々の事業の中核を成すデジタルエンタテインメント分野に目を向けると、実用化・一般化までもう少し時間がかかるのでは、と思われていた複数の領域で人々の耳目を集める商品・サービスが登場し、その可能性がよりクローズアップされました。

XR領域は、メタバースをはじめ仮想空間のビジネス活用を中心に発展してきましたが、昨年は仮想空間と現実世界を融合させた新たなサービスが数多く生まれました。商業用ドローンの一般化などにより現実世界の造形物などを簡単にデータ化できるようになったことから、建築業をはじめ当該領域とは縁遠かった産業での技術活用が進んだのは好例だと思います。先駆的にコンテンツ開発に取り組んできたデジタルエンタテインメント分野においては、VR/ARで没入感や臨場感をより得ることができるデバイスが市場に投入されたことにより、デジタルコンテンツそのものの体験価値が飛躍的に向上しました。今後は現実世界と仮想空間を融合させた新たなコンテンツへの応用が期待されます。

また、AI(人工知能)領域においては、従前よりAIがもたらす影響についてアカデミアの世界を中心に様々な議論がなされてきましたが、誰もが簡単に文章生成や翻訳、テキストベースでの対話ができるChatGPTが登場したことで、生成系AIの一般化が加速度的に進みました。ChatGPTが示した生成系AIの応用範囲は、テキストのみならず、画像、動画や音楽といったデジタルエンタテインメントとの親和性が高い様々な領域に拡大し、日進月歩で新たなサービスやコンテンツが生み出されています。こうした動きはもとより、プログラミングをはじめとしたそれらを生み出すプロセス、つまりは我々のモノづくりの在り方すら抜本的に変えてしまう可能性すらあるとみています。

上記のようにデジタルエンタテインメント分野で革新的な事象が多く見られた2023年は、スクウェア・エニックス・グループ誕生から20周年という節目の年にあたり、同時に、新経営体制が発足し新たな一歩を踏み出した年でした。

2023年6月にスクウェア・エニックス・ホールディングスの代表取締役社長に就任以来、当社グループビジネス全体の再点検を行うべく、お客様、株主・投資家、従業員に代表されるステークホルダーの皆様の声を拝聴する機会を数多く頂戴してきました。そして、皆様の声を踏まえ、今後一層の成長を実現するために我々はどこに向かうべきなのかを追究するとともに、その具現化に向けた下地作りを推進してきました。

デジタルエンタテインメント事業においては、コンテンツ開発体制、およびパブリッシング体制両面から機能強化を進めています。

コンテンツ開発体制については、現在開発中のタイトルパイプラインを精査するとともに、今後開発を開始するタイトルに関しても、これまで以上にお客様のご期待にお応えできる商品・サービスを提供できるよう、体制整備を進めています。具体的には、従前から進めている内製開発体制の強化を一層加速させるべく、開発プロセス全般におけるリソースアロケーション最適化に着手するとともに、ナレッジシェアの拡大による共通化・効率化などにも取り組んでいます。

また、セールスとマーケティングから構成されるパブリッシング体制については、グローバルでの連携をより強化するとともに、デジタルシフトを推進しています。各地域のマーケット特性とそれを考慮したベストプラクティスをグループ内で共有することで、グローバル全体でのパブリッシング力の底上げを行っています。これらは、新作タイトルの売上最大化はもとより、当社の持つ豊かなカタログタイトルをより多くのお客様にお届けすることにも有用であり、ひいては当社グループIPのファンベース拡大にも寄与するものと考えています。

また、コンテンツ開発とパブリッシング間の連携もより緊密に行うべく体制整備を進めています。これは、プロダクトアウトアプローチとマーケットインアプローチのバランスを取り、お客様の声をコンテンツ開発チームに届けることで、これまで以上にお客様に喜んでいただけるコンテンツを生み出すための施策です。

さらには、先述のAIをはじめとした先端技術をコンテンツ開発、パブリッシング両面で積極的に活用し、短期的には、開発プロセスの生産性向上やマーケティング活動の高度化、中長期的には、技術革新をビジネスチャンスと捉えた新たなコンテンツづくりへとつなげていきたいと考えています。

出版事業においては、デジタル・紙といったメディアを問わず、コミックスを中心に幅広いジャンルのコンテンツを提供しています。また、アミューズメント事業においては、タイトーステーションを中心としたリアルエンタテインメントビジネスを展開しています。いずれの事業もデジタルエンタテインメント事業とは異なるお客様に幅広くリーチできており、当社グループの認知向上はもとより、我々のコンテンツの魅力をより多層的にお届けするという意味でも非常に重要な位置づけであると考えています。さらには、デジタルエンタテインメント事業を中心とした他事業との連携はいうまでもなく、映画化やアニメ化をはじめとしたビジネスの多面的展開という点においても当社グループの成長に寄与できる領域であり、今後も注力してまいります。

新規事業分野では、従前より重点投資領域として、ブロックチェーンエンタテインメント/Web3、AI、クラウドを設定していますが、昨年これら3領域を包括したミッションとゴール設定の再定義を行いました。いずれの領域においても、再定義されたミッションとゴールに則り組織の在り方を見直すとともに、リソースアロケーションの最適化に向けた取り組みを進めています。

また、重点投資領域での取り組みに加え、収益源の多様化を実現するための仕組みづくりにも挑戦します。これらは当社グループが、事業環境の変化に柔軟に対応し、今後も上質なコンテンツを生み出し続けるために最も重要なファクターである、社員一人ひとりの個性とクリエイティビティを最大限発揮できる環境づくりの一環でもあります。

以上が、昨年来取り組んでいる施策の概要ですが、いずれも真にお客様に喜んでいただけるコンテンツを生み出し、一人でも多くのお客様にお届けする体制をグループ一丸となって構築するためのものです。

本年2024年は、当社グループの更なる飛躍・成長を実現するための起点となる年と位置付け、グランドデザインを策定するとともに、一つ一つの施策に愚直に取り組んでまいります。変化を恐れることなく、常にチャレンジャーの気持ちで社員一丸となって事業に邁進してまいります。

本年もよろしくお願い申し上げます。

株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス
https://www.hd.square-enix.com/jpn/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス
設立
1975年9月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高3563億4400万円、営業利益325億5800万円、経常利益415億4100万円、最終利益149億1200万円(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
9684
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