カバー、「VTuber市場に関する勉強会」で谷郷元昭氏が語ったVTuberの可能性…インフルエンサー×キャラクターの特徴を併せ持つ「生きたIP」

カバー<5253>は、1月30日、「VTuber市場に関する勉強会」を開催した。本講演にはカバー代表取締役社長CEOの谷郷元昭氏が登壇し、VTuberビジネスの現在、そして今後の可能性について語った。

カバーといえば、女性VTuberグループ「ホロライブ」と、男性VTuberグループ「ホロスターズ」を展開する「ホロライブプロダクション」が有名だが、現在は87名のタレントが所属し、2000万人以上のユニークユーザーを数を誇る。チャンネル登録者数でもGawr Guraの約4,310,000人を筆頭に、宝鐘マリンや兎田ぺこら、白上フブキなど200万人超のタレントが複数存在する。世界屈指のプロダクションと言えるだろう。

昨今のVTuber市場の盛り上がりについて谷郷氏は、スマートフォンの普及や通信環境の進化、またYouTube側がショート動画に力を入れていることも追い風になっていると解説。同時に「アニメ人気の盛り上がりもVTuber人気の背景にある」と谷郷氏。アニメ史上はこの10年で約3兆円に迫る勢いを見せており、アニメルックなアバターのVTuberが受け入れられやすい土壌が整ったと見解を示した。

そして最近では、海外発のVTuberが誕生するようになり、代々木アニメーション学院はVTuber科を開講と、VTuberとの接点は広がりを見せている。またホロライブからも、さくらみこが東京観光大使に就任、宝鐘マリンはFNS歌謡祭に出演するなど活躍の場が増えている。

VTuber市場はこの4人で5倍に拡大

続いてはVTuber市場に関する話題へ。国内市場では2020年度から2023年度までの4年間で、約5倍の約800億円に成長。市場を牽引しているのはカバーと「にじさんじ」を展開するANYCOLORに2社で、カバーの時価総額は1,636億円(2023年12月18日時点)。これは4年で約14倍に成長した数字だという。またANYCOLORに関しても時価総額が1,922億円(2023年12月18日時点)と、大きな成長を見せている。
世界市場も同様に急激な成長が予想されており、2021年の約2,421億円から、2028年には約2兆5,708億円へと、約10倍の規模になると語られた。

そんなVTuber市場を支えているのは、やはり若年層が中心だという。「旺盛な消費意欲と熱量を持っている」と谷郷氏は語ると、VTuberチップスの即日完売、ホロライブEnglish初の全体ライブが即日完売となった事例も紹介された。
「VTuberが趣味」と回答するボリュームゾーンは、10~30代の男性と、10~20代の女性。さらに民間調査によるZ世代のトレンドランキングには、『呪術廻戦』『【推しの子】』【モンスターストライク】などに混じってにじさんじ、ホロライブもランクインしたという。
最近ではZ世代に加えて、30~40代にも視聴者層が広がっており、約30%がVTuber関連の動画を視聴している調査もあるという。

このように、多彩な世代のファンを獲得できたことで、他企業とのコラボレーションも増えてきたと谷郷氏は語る。ホロライブはこれまでに、MIXIのタワーパズルRPG『タワーオブスカイ』とコラボし、一定期間においてユーザー数が13倍以上に拡大した実績を持つ。また、ブシロードのTCG『ヴァイスシュヴァルツ』とコラボしたライセンス商品も好調なセールスを記録した。

企業がVTuberとのコラボレーション以来を行う理由は様々だが、具体的には「生活メディアの接触時間が減少する若年層・Z世代へのタッチポイントを作りたい」「SNSへの投稿も含む、拡散力が強い」「リアルなタレントではなくバーチャルリアリティであるので、衣装や演出など比較的企業の要望に応えやすい」に3つに集約される。

VTuberのメインの収益は”投げ銭”ではない

VTuberといえばYouTubeのスーパーチャットに代表される”投げ銭”のイメージが強いが、谷郷氏によると事業としてメインの収益ではないという。ビジネス構造は年々変化しており、2024年3月期の第2四半期で、マーチャンダイジングとライセンス/タイアップが全体収益の58.4%と、配信やLIVEによる収益を上回った。サンリオのような、IPカンパニー型の収益構造に変化したのだ。
谷郷氏は、カバーのIPへのオファー数などを見て、商品化権も含めてキャラクターIPとしての可能性は広がっていくと予想した。

この話題の流れから、IPビジネスにおけるVTuberの強みについても語られた。VTuber運営の手法は大きく分けて個人型と企業運営型の2種類があり、さらに企業運営型の中にはタレント発掘型とタレント育成型に分けられる。カバーとANYCOLORの違いはここにあり、カバーはタレントを厳選し、教育によりクオリティを担保してからデビューさせるタレント育成型を主軸にしている。一方ANYCOLORは、数多くのタレントを擁し、一定以上のファンコミュニティの形成がみられるタレントのIPビジネスを展開するタレント発掘型をとっている。
カバーはタレント育成型に舵を切ったことで、高いクオリティの担保を実現。人気VTuberを効率的に排出することが可能になったと谷郷氏はコメント。

一方で、クオリティの担保という意味ではテクノロジーの進化も無視できない。谷郷氏はホロライブのときのそらを例に出すと、2017年時点ではCGのクオリティは決して高くなく、背景は白、音声も平坦なものだった。それが2023年になると、3Dモデルの技術は格段に上がり、背景やカメラワークも進化、音声も一聴して違いがわかるクオリティになった。

テクノロジーの進化はファンの創出にも直接影響しており、2020年に開催した初のライブイベントで、観客の前で初めて3Dライブを行うと、その評判もあって登録者数の伸びが加速。開催前は資金調達を検討していたが、不要になるという恩恵もあったとか。

そのほか、ファンと共創するUGC(User Generated Content)についても触れられた。以前はプロが制作したコンテンツをファンが消費するのみだったが、ユーザーが切り抜き動画や自作ゲーム、歌ってみた動画などを作り出すことで、コンテンツ量と創作スピードが上昇。より多くの人がコンテンツを楽しめるように変化してきた。

カバーはUGCを加速させるため、二次創作ガイドラインを制定している。二次創作は通常非営利目的に限るものの、切り抜き動画においては動画共有サイトが提供する収益化昨日を利用可能としている。二次創作ゲームについては、ゲームブランド「holo Indie」を用いたSteam上での掲載により有償配布が可能になっている。このように、一定の条件で収益化を認めることで、クリエイターの創作意欲を高める還元エコシステムを構築している。

今後のVTuberの可能性

最後に谷郷氏は、今後のVTuber市場の可能性についても言及。現在の世界のIP市場は日本が牽引している状態で、漫画・アニメ・ゲームから派生したアニメルックなキャラクターが席巻している。その一方で、中国発のゲームや、韓国発の漫画フォーマット「Webtoon」の作品が新しいIPとして誕生し、グローバルで収益をあげることができる状況だ。

このように、各国の新たなプレイヤーたちと熾烈な競争を繰り広げている中で、VTuberはインフルエンター×キャラクターの特徴を併せ持つ「生きたIP」になれると谷郷氏はアピール。ファンとの共創による大量のコンテンツや、IT×キャラクターIPをかけあわせたテクノロジーによるクオリティの高さ。なにより、これらに裏付けされた高い参入障壁が存在する市場であるとした。
高い参入があるからこそ、VTuberは独自の存在で有り続け、日本の新しい産業になり得る可能性を持っている。カバーとしても、VTuberを主軸としてキャラクターIPビジネスで、新しいカルチャーのスタンダードをつくれるよう、事業展開を進めていくとした。