マンガAI翻訳のMantra、集英社、小学館、KADOKAWA、スクエニから7.4億円を調達…ゲームや小説での利活用も視野に

マンガに特化したAI翻訳技術の研究開発を行うMantraは、この日(6月26日)、集英社、小学館、KADOKAWA、スクウェア・エニックス・ホールディングス、MPower Partners Fund L.P.、鉄緑会創業者 浜垣 剛氏を引受先とする第三者割当増資により、総額7億8000万円の資金調達を行ったことを明らかにした。

Mantra Engineは、マンガ/縦スクロールコミックに特化したクラウド翻訳ツール。ブラウザ上でマンガ翻訳にかかわる全ての作業を完結させ、AI技術を活用して翻訳を効率化することで、従来の翻訳ワークフローを半分以下に圧縮している。現在、国内外の出版社や翻訳会社、配信事業者に利用され、月間のべ10万ページ(単行本換算で約500冊分)のマンガ/コミックの翻訳に活用されている。

【多言語同時配信の実績】
・小学館『ケンガンオメガ』『ケンガンアシュラ』など(英語)
・集英社『ONE PIECE』『SPY×FAMILY』(ベトナム語)、『バイバイバイ』『馬刺しが食べたい』(英語)
・ブシロードワークス『魔法使いの嫁』『ゴーストアンドウィッチ』(英語)

 

■マンガ画像認識技術とLLMを統合、キャラクターやストーリーを考慮した翻訳を多言語で実現

絵とテキストの不規則な配置、独特な話し言葉、ストーリーの背景にある複雑な文脈など、マンガには翻訳を難しくする要素が多く含まれる。同社はマンガに特化した画像認識と機械翻訳を統合することで、高精度なマンガ機械翻訳を実現してきたとのこと。

この成果は人工知能分野のトップ国際会議AAAIにフルペーパーとして採択され、アジア太平洋機械翻訳協会からAAMT長尾賞を授与するなど、学術的にも高く評価されている。

・文脈理解に基づく正確な翻訳
同社のマンガ画像認識技術と大規模言語モデル(LLM)を組み合わせることで、画像から抽出したキャラクターやストーリーの情報を考慮した翻訳ができる。

・翻訳の一貫性
文ごとに独立して翻訳を行う従来の機械翻訳よりも長い文脈を考慮することで、作品を通して、翻訳のスタイルやキャラクターの口調などの一貫性を保つことができる。

・多言語対応
現在Mantra Engineでは日本語、英語、繁体字中国語、簡体字中国語、韓国語、ベトナム語、ポルトガル語の利用実績があり、対応言語数は増え続けている。

 

 

■マンガAI翻訳の精度向上とともに、小説やゲーム等への技術転用も本格化

今回の資金調達では、前回ラウンドに引き続き集英社から追加出資した。また新たに、小学館、KADOKAWA、スクウェア・エニックス・ホールディングスといったマンガ・ゲーム領域のリーディングカンパニーや、東大受験指導専門塾「鉄緑会」創業者の浜垣社長から支援する。さらに、今後の同社のグローバル展開を見据え、日本初のESG重視型グローバルVCであるMPower Partnersからも出資する。

同社はこの資金を活用し、向こう5年を目処に「エンドユーザーが楽しんで読める」水準を目指し、マンガAI翻訳の精度向上に取り組んでいく。並行して小説、ゲーム、動画等への翻訳技術転用を本格化させ、あらゆるエンタメ翻訳の省力化に向け研究開発を進めたい、としている。

 

■代表取締役 石渡 祥之佑氏のコメント

「エンタメから言語の壁をなくしたい。」これが、私たちがMantra創業前より変わらず持ち続けている目的意識です。LLMや画像生成AIといった技術の急速な普及に伴い、エンタメコンテンツから言語の壁が完全になくなる未来が、少しずつ現実のものとして想像できるようになってきています。
こうした状況の中で、今回、エンタメ領域をリードし続けている企業の皆様と、グローバル展開に強みを持つ投資家からご支援いただけたことを光栄に感じています。今回の資金調達をきっかけに投資家の皆様との連携を一層深め、マンガ・ゲーム・小説のAI翻訳の研究開発・事業推進を一層加速してまいります 。

 

 

■出資者からのコメント

(追加出資)
▼株式会社集英社 少年ジャンプ+編集長 細野 修平氏
2022年の出資の際に「マンガのこれからの10年は国際化・多言語化がメインテーマとなる」とコメントしましたが、そのスピードは想像以上に加速していると感じます。Mantra社に翻訳の一端を担っていただいている弊社のサービス「MANGA Plus by SHUEISHA」でも使用言語が9言語に増えました。この状況下で、Mantra社の技術がますます重要になってきています。
また、「Langaku」で共にサービスを切磋琢磨する中で、マンガの現場を知っていただくことができました。ただ効率化を目指すだけでなく、読者を見据えた翻訳技術を高められることがMantra社の強みだと考えます。
今後も世界中のマンガ・ファンにとって大切な体験を提供することを一緒に目指しましょう。

 

(新規出資)
▼株式会社小学館 ユニバーサルメディア事業局プロデューサー・XR事業推進室室長 和田 裕樹氏
に小学館のアクセラレータープログラムを通じて知り合ってから数年。
その間「マンガワン」での多くの翻訳トライアルを重ねて、良い実績を築いてきました。
今後の出版社にとって最も重要になるのがグローバル展開です。
それも日本からなるべく直接的に、かつ同時性を持って世界中に対して発信する力が求められます。
Mantraさんの技術はとても重要な役割を果たすものと確信しています。
AIをはじめとしたテクノロジーは素晴らしいものですが、扱う人間も同等以上に重要です。
その点でもMantraの皆さんの真摯に業務に取り組む姿勢と、熱意にはいつも感心しています。
出版社の実態業務について理解が進んでいる点も、大きなアドバンテージだと思います。
今年も新たなプロジェクトがMantraの皆さんと始まりました。
共に世界中に届く、スケールの大きな仕事をしていきましょう!!

 

▼株式会社KADOKAWA 執行役CDO 橋場 一郎氏
石渡さんと初めて出会ったのは2018年8月、まだMantraの起業前の東京大学大学院喜連川研究室の学生だった時でした。その時からずっとマンガの翻訳技術とはどうあるべきか、そこにAIはどのように使われるべきかを議論してきた事を思い出します。そしてここ数年のAIの進化も相まって、現在のMantraの技術はその当時と比べて格段に進化をしています。まだ提供されていない新しいサービスも含めて、今後日本の出版界がマンガのグローバル展開をする上で非常に有効なソリューションの提供ができるようになると信じています。
「世界の言葉で、マンガを届ける。」「まだ言語の壁を越えられていない作品をできるだけ多く流通させる」このような世界が一日でも早く実現できるように出版業界と共に歩んでいきましょう!

 

▼株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス グループ投資・事業開発室 室長 植原 英明氏
ゲーム・マンガの海外展開はパブリッシャーのグローバル化やコンテンツのデジタル化により大きく前進し、多言語対応も一般的になってきました。しかしながらコスト等の制限により翻訳対応できない言語や、日本語と同じタイミングで展開できない場合がまだまだあります。
Mantra社の技術やサービスがエンターテインメントコンテンツの言語の壁をなくすことによって、日本のコンテンツの海外展開はさらに促進されると思います。また、日本の読者がまだ気づいていない優良な海外のコンテンツにもアクセスできるようになるでしょう。
今後は弊社の出版事業だけでなくゲーム事業でもMantra社と協業し、より多くの海外の読者・ゲーマーに日本のコンテンツをお届けするための取り組みを進めてまいります。

 

▼MPower Partners ゼネラル・パートナー/翻訳者 関 美和氏
私たち3人がMPower Partners Fundを立ち上げたきっかけのひとつは、スタートアップ投資をとおして「日本のもったいない」を解消したいという思いでした。日本には世界に誇れる技術と、世界中が愛するコンテンツがあります。それがタイムリーに人々に届けられないことは、まさに「もったいない」の極みだと思っています。Mantraが持つAI翻訳の技術を使って、このもったいないを解消してほしい、そしてコンテンツのクリエーターにその価値にふさわしい経済的な対価が支払われる仕組みができてほしいと願います。
私自身、翻訳者としてこの10年余りさまざまな翻訳手法を試し、翻訳のあり方について考えてきました。機械翻訳のめざましい進化も、またその欠陥も目の当たりにしてきました。その上で、Mantraの技術が今後ますます進化し、多くの人に使われることによって、コンテンツホルダーにとっても、世界中の読者やファンにとっても、また翻訳に関わるプロフェッショナルにとっても、より良い世界が開かれると信じています。

 

▼鉄緑会 創業者 浜垣 剛
海外の多くの人が最初に触れる日本の文化が漫画とも言われています。日本が世界に誇れるその最良のコンテンツから「言語の壁をなくしたい」、Mantraが日本の漫画を世界の人が楽しむ一大エンターテイメントに押し上げていく、その大いなる可能性、実現性にロマンを感じました。
また「Langaku」が全国の悩める英語学習者の一助となることも願っております。
このとてもユニークで革新的技術を有した、東大発ベンチャーの挑戦を応援して参ります。