「Empower the Gamers」――セガ内海氏が語るIP展開とグローバル市場での挑戦【IFIP-ICEC 2025】

2025年8月、国際学会 IFIP-ICEC 2025 が都内にて開催された。

IFIP-ICEC(International Conference on Entertainment Computing)は、国際情報処理連合(IFIP)が主催する国際会議であり、ゲームを含むエンターテインメントコンピューティング分野における最先端の研究における技術や知見を議論する場である。VR/ARやAI、インタラクティブアートまで幅広くカバーし、研究者だけでなく産業界も交流する貴重な機会となっている。

そして、今回の開催にて基調講演として登壇したのは、セガ代表取締役 社長執行役員COO 内海州史氏だ。講演では、ゲーム産業の進化を見届けてきた自身のキャリアを通じて、ゲーム産業の歴史を振り返りつつ、セガの未来戦略を語られた。本稿ではその模様を紹介していく。

 

常にテクノロジーの進化と共に拡大してきたゲーム産業

講演では、世界各国から学者や学生、業界関係者が集まっており、内海氏はまず冒頭に自身のキャリアを紹介した。

内海氏はプレイステーション立ち上げに携わり、セガではドリームキャストのインターネット接続を実現。ディズニー・インタラクティブ・アジアでは『キングダム ハーツ』という異色のコラボを成功させ、Q Entertainmentでは『ルミネス』を開発するなど、常に新しい体験を模索し続けてきた。

ただし彼が強調したのは、これらの経験が「今のセガでの戦略に直結している」という点である。産業の移り変わりを体感してきたからこそ、トランスメディアやグローバル展開の必然性を強く理解しているのだ。


次に、ゲーム市場がどのように変化してきたかを俯瞰した。1970年代のアーケードから始まり、ファミコンやセガ・メガドライブといった家庭用ゲーム機が世界中に普及。1990年代には3Dグラフィックスの登場とともに、リアルタイム表現が大きく飛躍した。


2000年代にはインターネットの普及によりオンラインゲームが台頭。PCやコンソールを越えてプレイヤー同士が繋がる時代が訪れた。さらにスマートフォンの登場が市場を一変させ、モバイルゲームが母親世代を含む幅広い層にリーチ。課金モデルも「買い切り」から「基本無料+ガチャ」や「サブスクリプション」、また物販やイベント興行など様々なビジネスモデルが普及していった。



「ゲーム産業は常にテクノロジーの進化と共に拡大してきた。進化を拒んだ産業は衰退するが、ゲームは取り込み続けたからこそ成長できた」と内海氏は振り返った。

 

 

「Empower the Gamers」
――トランスメディア戦略とグローバル化によるこれからのゲームの価値

こうした経験を経て再びセガに復帰した内海氏は、現在、代表取締役社長COOとしてセガの舵取りを担う。彼が掲げるのが「Empower the Gamers」である。

これは「ゲームを通じて人々に活力を与える」だけでなく、「ゲーマーを文化の担い手としてエンパワーする」ことを意味する。プレイヤーがただの消費者ではなく、発信者・共創者として位置づけられる時代において、この理念はセガの経営戦略の核となっている。

最も具体的に語られたのがトランスメディア戦略だ。『ソニック・ザ・ムービー』の成功は象徴的であり、ゲームキャラクターが映画やアニメに広がることで新しい世代のファンを獲得した。『龍が如く』シリーズは実写ドラマ化が進行中で、ゲーム世界観を拡張する試みが着々と進められている。

『ペルソナ』シリーズもライブや舞台、アニメ化を通じて「総合IP」としての存在感を強めた。さらには『クレイジータクシー』『バーチャファイター』といった往年の名作もセガとしては抱えている。


内海氏は「セガはもはやゲーム会社ではなく、IPカンパニーとも言える」と断言し、ゲームを起点に多様なメディアで価値を拡張していく姿勢を示した。

また、「国内だけでは十分ではない時代だと」と、日本のみならずグローバル全体で考えていく姿勢も強調していた。『龍が如く』シリーズは現在、売上の過半数が海外市場になっており、日本発の作品がグローバルに受け入れられる時代が来ているという。

一方で、日本と海外では市場構造が異なる。例えば、日本ではガチャ文化が根付く一方、欧米ではサブスクやバトルパスが主流になりつつある。内海氏は「それぞれの文化を理解し、適切な戦略を取ることが不可欠」と述べ、地域ごとの最適化を重視している。


また新しいテクノロジーについても触れられ、「効率化とクラフトマンシップの両立」を掲げていた。グローバル競争に耐えるためには効率が求められるが、同時にセガらしい職人性を残すことも重要だという。ユニークで持続可能な開発体制を築きつつ、ゲームのみならず様々な形にてIPを展開していくことで「Empower the Gamers」を実現できるセガを今後も目指していくとして講演は終えた。

 

「新しい技術とどう付き合うか」――変化し続けるゲーム産業では情熱を持って挑戦を

講演後に、内海氏にコメントをもらうことができた、その一部も紹介していく。

▼内海氏(写真左)とIFIP-ICEC 2025の総委員長や本講演の司会も担当した関西大学教授の山西良典氏(写真右)。

 

――:講演ありがとうございました。講演では、IP活用がテーマとしてもお話いただきましたが、日本のゲーム会社がIPをグローバルに展開していく上で、何が最も重要だとお考えですか?


内海氏:やはりトップマネジメントがイニシアティブを持つことだと思います。私が復帰した当初のセガでは、ライセンス部門は主に“ライセンスイン”を担当し、景品や遊技機向けが中心で、ライセンスアウトするというのはある意味サブ的な役割でした。しかし私は「セガIPは眠れる宝島だ」と考え、ライセンスアウトを強化しました。体制を拡充し、人材を採用することで、IPを積極的に外に広げる仕組みを整えてきました。

むしろ、私たちはまだまだ遅れているなと感じています。他社さんはそれこそ20年30年以上続く作品をしっかりされていますからね。ただ、しっかり「重要なんだよ」と言葉に出して進めていく姿勢が大切なのかなと感じます。

――:グローバル展開においても、組織面での変化はあったのでしょうか。

内海氏:国内中心の発想を変え、開発と市場を直結させたことが大きいですね。以前は、従来の「海外部」という部門があり、海外市場は別部門がまとめて担当していましたが、その仕組みを廃止しました。

今は開発スタジオが直接グローバル市場を見据えて制作にあたっています。その結果、『ソニック』『龍が如く』『ペルソナ』といった作品が海外でも成長できるようになったのかなと思います。今は世界同時リリースというのも、当たり前になっている時代なので、できる限りスピード感を持って動ける体制が大事なのだと思います。

――:IFIP-ICEC 2025では、AI技術についても注目されていました。AI技術についてはどのようにお考えでしょうか。


内海氏:ゲーム産業は常にテクノロジーの進化と共に歩んできましたから、AIも無視はできません。ただ、作品のファンやクリエイターの中にはAIに対して強い拒否感を持つ層もいます。そのため、新しい要素を取り入れる際にはファンコミュニティやクリエイターとの対話を慎重に進める必要があります。AIはあくまで“IP戦略を支える一要素”に過ぎず、扱い方を誤ってはいけないと思っています。

山西氏:私からもよろしいでしょうか。改めて講演ありがとうございました。学校でもAI技術は色んな意見があります。若い世代にはどういったことをゲーム業界に入る前に学んでもらいたいといった期待することなどはありますか。

内海氏:大学や教育機関が、新しい世代に「新しい技術とどう付き合うか」を教えることが、業界全体の健全な発展につながります。10年後にはAIをめぐるルールや常識が整っているでしょう。しかし今はまだ過渡期。だからこそ、教育の場が果たす役割は大きいと思います。

新しい技術が出てきた際は、何かに特化した人がチャンスを掴むことが多いです。ゲーム産業は常に変化しており、次に何が来るかは誰にもわかりません。ただし、挑戦し続ける人に必ずチャンスは訪れます。若い世代には、自分の情熱を信じて一歩を踏み出してほしいですね。


――:ありがとうございました。