【ネタバレなし】“検索するほど深みにハマる”新感覚体験――WEB探索型ARG『都市伝説のXし方』レビュー


近年、ゲームやエンターテインメントの文脈でじわじわと存在感を高めているジャンルがある。それが「ARG(Alternate Reality Game)」だ。

“代替現実ゲーム”とも呼ばれるこのARGというジャンルは、現実とフィクションの境界を曖昧にし、WebサイトやSNS、時には現実の出来事すらも巻き込みながら進行する体験型ゲームのことを指す。プレイヤーは“画面の向こうの主人公”ではなく、“現実にいる自分自身”として物語に介入していく。

今回紹介する『都市伝説のXし方』は、そうしたARGの魅力を、誰でも手軽に体験できる形へと落とし込んだ“WEB探索型”作品だ(関連記事)。

 ※ネタバレは極力避けているが、一部導入の内容を含むため未プレイの方はご注意ください。

■そもそもARGとは何か――“日常が物語に変わる”体験

本作を語るうえで重要なのは、「ARGはゲームでありながら、ゲームらしくない」という点にある。コントローラーもなければ、明確なステージ選択もない。プレイヤーが行うのは、ただ“調べること”。気になるワードを検索し、リンクを辿り、断片的な情報をつなぎ合わせていく――その過程そのものがゲーム体験となる。


▲なお、本作のようなWEB探索型ARGでは、導入としてnoteやXといったサービスが用いられることも多い。

実在サービスを入り口にすることで、現実と物語が地続きであるかのような没入感を生み出している。インターネットそのものが舞台となるため、プレイ中は「これは本当にフィクションなのか?」という独特の没入感が生まれる。これこそがARGならではの醍醐味だ。

■調査員として“潜入”するという体験

本作でプレイヤーに与えられるのは、「特異事象対処本部」に所属する調査員という役割だ。任務は、都市伝説として知られる存在――「トイレの花子さん」が“消滅した”原因を突き止めること。

▲先述したnoteから専用ページに飛ぶと、アカウント発行画面が表示される。ここから、特異事象対処本部のシステムにログインすることで物語が進んでいく。

そのためにプレイヤーは、調査員用に用意された偽装アカウントを用い、「人事課所属のメンタルケアカウンセラー」として対象コミュニティへ潜入。表向きは業務をこなしながら、裏では情報を収集し、少しずつ真相へと迫っていくことになる。日常的なやり取りや業務を装いながら、違和感のある言動や記録を拾い上げ、少しずつ“何かがおかしい”という輪郭に触れていく。


▲表向きは何事もないやり取りの中に、わずかに混ざる異物。断片的な情報をつなぎ合わせた先で見えてくるのは、単なる噂では片付けられない気配だ。

こうした構造によって、本作はプレイヤーを安全な観測者の立場から引き剥がし、静かに“当事者”へと引き込んでいく。気づいたときには、ただ調べているだけだったはずの行為が、どこか後戻りのしづらい領域へと踏み込んでいる――そんな感覚をもたらす一作だ。

■初心者でも遊びやすい設計

ARGと聞くと、「難しそう」「知識が必要そう」と感じる人も多いだろう。しかし『都市伝説のXし方』は、そのハードルを大きく下げている。

・進行に必要な情報は基本的に作品内に用意されている
・検索や推理もシンプルな構造
・理不尽な詰まりポイントが少ない

特筆すべきは、検索の導線が非常にシンプルに設計されている点だ。こういった作品では、検索の際に2単語以上の組み合わせを求められることも少なくない。しかし、本作では“1単語”のキーワード検索で次の手がかりに辿り着けるようになっており、複雑なワードの組み合わせや高度な検索テクニックを必要としない。

ARGにおいて“検索難易度”は体験のハードルになりやすいが、本作はそこを巧みに調整している。


▲気になったワードがあれば「アーカイブ」から検索にかけてみよう。

この設計によって、プレイヤーは“どう検索するか”で悩むのではなく、“何を調べるべきか”という思考そのものに集中できる。結果として、ARG特有の試行錯誤の楽しさを損なうことなく、ストレスの少ない体験が実現されている。


▲また、本作はサポート面も非常に丁寧だ。行き詰まった場合は「チャット」から霊域探査室へ「ページ〇〇」といった形でメッセージを送ることで、迅速にヒントを得ることができる。見落としによる停滞を防ぎ、スムーズに進行できる点も魅力のひとつだ。

こういった工夫から、いわゆる“ARG特有の難解さ”を削ぎ落とし、「初めてでも最後まで体験できる」設計になっている点が印象的だ。ARG入門として非常に適しており、「とりあえず一度触れてみたい」という層にも強く勧められる。

■“ちょうど良いボリューム”が生む没入感

本作のプレイ時間は、おおよそ4〜6時間程度。この“ちょうどよさ”が絶妙で「一気に遊び切れることで物語の余韻が強く残る」といったメリットにつながっている。

ARGは構造上、長時間化しやすいジャンルでもあるが、慣れていない内は集中力を長時間持続させることが難しい。かといってプレイを複数回に分けてしまうと次回まで記憶を保持しておくことができず、これが悩みの種になる。

そういった弱点を補い、あえて短くまとめることで本作は“体験の密度”を高めている。結果として、「もう少しこの世界に浸っていたい」と思わせる後味の良さも際立つ。



■“無料でここまでやれるのか”という驚き

ここまで本稿を読んで気になった方には、ぜひ本作をプレイしていただきたい。何より、この体験が無料ですぐに得られるという点はとてつもない魅力だ。

「複数のページを横断する構造」、「雰囲気作りのためのビジュアルや演出」、「プレイヤーの行動を前提とした設計」、何より「物語体験を提供すること」自体が通常、商業作品でも手間とコストがかかる部分だ。それを無料で体験できるというのは、ARGというジャンルの“間口の広がり”を感じさせると同時に、制作者の熱量の高さを強く印象づける。


 




■最後に――“検索する行為”そのものがエンタメになる

『都市伝説のXし方』は、ARGというジャンルの本質である「現実と物語の境界を揺さぶる体験」を、コンパクトかつ親しみやすい形で提示した作品だ。

普段何気なく行っている“検索する”という行為が、ここでは物語を進める鍵になる。その感覚は新鮮でありながら、どこか現代的でもある。

そして興味深いのは、この体験がどこか“アナログ的”な手触りを持っている点だろう。あらゆる情報が自動で最適化・提示される現代において、本作はあえて「自分の手で調べ、断片をつなぎ合わせて真相に近づいていく」プロセスをプレイヤーに委ねている。全てが自動化される時代だからこそ、こうした手探りの体験――自らの思考で少しずつ輪郭を浮かび上がらせていく感覚が今、新鮮な魅力として受け入れられているのかもしれない。

ARG未経験者には最初の一本として、経験者には“軽やかに楽しめる一作”として。本作は、多くのプレイヤーにとって“ちょうど良い入口”となるだろう。

(文 編集部:山岡広樹)

■『都市伝説のXし方』