IGポートの人的資本戦略は「IPを生み出す人材」の確保・育成を重視 グループ内の柔軟な配置 クリエイターの社員化も

プロダクション・アイジーやウィットスタジオ、マッグガーデンなどを傘下に持つIGポートの人的資本・人材戦略に関する考え方を開示した。アニメーション制作会社や出版社をグループに抱える同社だけに、その内容を見ると、単純な「人材の確保・育成」にとどまらず、IPを生み出し、育て、世界に展開するための人材をいかに確保するかという視点が強く打ち出されている。

同社は「感動する作品や楽しめる作品を創り続ける」という経営理念のもと、映像制作、出版、版権、商品販売が一体となって持続的な成長と企業価値の向上を目指している。そのために「IPを最大限活用できる人的資本の確保や育成、組織づくり」に取り組むとしている。

 

 

■「強力なIP」を生み出すために必要な人材を明確化

特に注目したいのが、中期経営計画と人材戦略を直接結び付けている点だ。同社は「中長期的なキャッシュ・フローの獲得を目指し、シリーズ作品を事業の中核とする」という戦略に対して、強力なIPを発掘できるアニメ企画者、映像化する制作プロデューサーやクリエイター、コミックス編集者などの「経験実力者」を積極的に採用・育成するとしている。

また、「インターネットでつながる全世界マーケットにダイレクトアプローチを行う」という戦略に対しては、強力なIPを世界に配信するための人材や、世界的大手配信事業者からの映像制作受託など、グローバル展開を担える経験者の採用・育成を掲げる。

つまり、単に「優秀な人材を採用する」という話ではない。どのような事業を成長させるのかを先に定め、その実現に必要な人材を逆算して確保するという考え方が比較的明確に表れている。

 

■制作現場だけではない。「IPを生み出す人材」を重視

アニメ会社の人材戦略というと、どうしてもアニメーターなど制作現場のクリエイターに目が向きやすいが、企画、プロデュース、編集、IP管理、グローバル展開、さらには経営・マネジメントまで幅広い人材が対象になっている。

これは、IGポートが自社を単なる「アニメを制作する会社」としてではなく、IPを起点に映像、出版、版権、商品販売へと事業を広げるコンテンツ企業として捉えていることとも符合する。

強力なIPを発掘する人、作品として形にする人、コミックスとして育てる人、海外へ展開する人――。それぞれの機能を担う人材をグループとして確保することが、結果としてIPの価値を最大化することにつながる。人的資本を「IP戦略の実行基盤」として位置付けているともいえそうだ。

 

■グループ内の配置転換で人材を循環

もう一つ特徴的なのが、グループ会社間の人材配置だ。IGポートは、適切な人材配置を行うため、グループ子会社間での配置転換を積極的に行うとしている。従業員の異動希望も募り、適正配置と従業員エンゲージメントの向上を同時に目指す。

映像制作、出版、版権、商品販売など異なる機能を持つ会社をグループ内に抱えているからこそ、人材を一つの会社の中だけで完結させず、グループ全体で活用するという考え方には意味がある。

例えば、制作現場で培った経験を別の事業領域で生かしたり、出版や編集で培ったIPに関する知見を映像制作や版権事業につなげたりすることも可能になる。

「会社ごとの人材」ではなく「グループ全体の人材」として活用する。これも、複数のコンテンツ関連会社を傘下に持つIGポートならではの人材戦略といえるだろう。

 

■クリエイターの「社員化」も推進

さらに興味深いのが、クリエイターの社員化だ。同社は、労働環境を鑑み、一定の基準を満たしたクリエイターについて社員化を図るとしている。評価要素として挙げているのは、「期待役割」「受命・段取り」「就業活動」「業務効率」「成果」の5項目だ。

ここには、クリエイターを単に作品ごとに確保するのではなく、長期的に企業の人的資本として蓄積していこうとする考え方が見える。もちろん、すべてのクリエイターを社員化するという意味ではない。一定の基準を設けたうえで社員化を進めるとしている点も特徴的だ。

アニメ制作においては、作品ごとに必要となる人材や専門性が異なる一方、企業側からすれば、経験やノウハウを持つ人材を長期的に確保することは制作力そのものにつながる。クリエイターの働く環境を整えることと、企業としての制作力を蓄積すること。その両面から社員化を捉えているようにも見える。

 

■「育成」では新たな演出家や専門家を育てる

採用だけではなく、育成についても具体的な取り組みを掲げている。新たなアニメーション演出家や新たな分野の専門家を育成するための部署を設置し、ベテランの演出家を指導係として採用するほか、研修費を負担する取り組みなどを進める。また、新人教育や管理職研修ではeラーニングや講師による研修も実施する。

特に「新たなアニメーション演出家」を育てるという点は、作品を継続的に生み出していくうえで重要だろう。シリーズ作品を事業の中核に据えるのであれば、一作品ごとの制作力だけではなく、次の作品、その次の作品を生み出す人材の層を厚くする必要がある。

 

■KPIはこれからか 現状はエンゲージメントなどが中心

一方、人的資本に関するKPIは、まだ発展途上という印象もある。現時点で具体的に示されているのは、配属先の仕事内容に合った優秀な人材の獲得、従業員エンゲージメントの向上、健康診断受診率などだ。健康診断については2026年5月末時点で受診率91.8%となっている。

一方で、今回の開示では「どの職種を何人採用したのか」「クリエイターの社員化がどれだけ進んだのか」「人材配置によってどのような成果が生まれたのか」といった、経営戦略との直接的なつながりを示す定量的な指標はまだ限定的だ。

同社自身も、一部の取り組みについては現時点で指標と目標を設定しておらず、今後、サステナビリティ委員会での協議を踏まえて設定するとしている。今後、こうしたKPIがどのように具体化されるかは注目したいところだ。

 

■人的資本の先にあるのは「IP」

全体として見ると、IGポートの人材戦略は、

人材を確保する

専門性を高める

企画・制作・編集などの能力を蓄積する

強力なIPを生み出す

シリーズ作品として展開する

海外や商品などへ広げる

中長期的なキャッシュフローにつなげる

という流れで捉えると分かりやすい。

人的資本経営というと、研修制度や働き方改革、エンゲージメントなどに目が向きがちだ。しかし、コンテンツ企業にとって最終的な企業価値につながるのは、そこで生み出される作品やIPである。その意味では、IGポートの開示は、「どんな職場を作るか」だけでなく、「どんなIPを生み出すために、どんな人材が必要なのか」まで踏み込んでいる点が興味深い。

アニメ制作を取り巻く環境は、生成AIをはじめとする技術の進展によって今後さらに変化していく可能性がある。今回の開示でIGポートがAIについて直接言及しているわけではないが、企画、プロデュース、編集、IPの発掘・育成といった人材を重視する方向性は、そうした時代にも意味を持ってくるのかもしれない。

少なくとも今回の人的資本開示からは、IGポートが「作品を作るための人材」だけではなく、「IPを生み出し、育て、世界に届けるための人材」を企業価値の源泉として捉えている姿勢が見えてくる。

 

【AD】ゲーム業界の転職支援サービス「エンターエンタ」
「エンターエンタ」はゲームを含むエンタメ業界に特化した転職支援サービスです。「gamebiz」ならではの強みを活かし、有力ゲーム企業の求人情報を掲載しています。テクニカルアーティスト、2Dデザイナー、3Dデザイナー、UI/UXデザイナー、イラストレーター、エフェクトデザイナー、モーションデザイナーなど非公開・独占求人を多数取り扱っています。転職をお考えの方、よかったら登録してみませんか?

株式会社IGポート
https://www.igport.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社IGポート
設立
1987年12月
代表者
代表取締役社長 石川 光久
決算期
5月
直近業績
売上高145億9800万円、営業利益14億2600万円、経常利益14億2000万円、最終利益8億2800万円(2025年5月期)
上場区分
東証スタンダード
証券コード
3791
企業データを見る
プロダクション・アイジー

会社情報

会社名
プロダクション・アイジー
企業データを見る
マッグガーデン

会社情報

会社名
マッグガーデン
企業データを見る
ウィットスタジオ

会社情報

会社名
ウィットスタジオ
企業データを見る