
東京ゲームショウ(TGS)2026の会場で、出展メーカーが配布した一部のノベルティがフリマアプリに出品され、実際に取引されているケースが見られ、SNSなどで物議を醸した。無料で配布されたものが、数千円、ものによってはそれ以上の価格で取引される(物販でも一部同様に動きが見られた)。TGSに限った話ではなく、人気コンテンツのイベントでは珍しくない光景でもある。
また、現在では無料配布物に「転売禁止」といった注意書きを入れること自体も珍しくない。したがって、「転売されたからメーカーがノベルティの市場価値を想定していた」と考えるのは適切ではないだろう。それでも今回、少し気になったのは、これがTGSのビジネスデイで起きているということだ。
■ビジネスデイは「ゲーム業界の人」が集まる日
TGSのビジネスデイは、一般公開日とは性格が異なる。ゲームビジネス関係者を対象とした日であり、事前の審査を経て来場する人がいるほか、出展者が取引先などに配布するチケットや、CESA加盟企業に配布されるチケットなど、複数の経路で来場者が集まる。つまり、会場にはゲームメーカーやパブリッシャー、流通・小売、メディアなど、ゲームビジネスに何らかの形で関わる人たちが集まっている。
そしてメーカー側も、その人たちにゲームを見てもらうために出展している。試遊してもらい、どんな反応があったのかを確認する。メディアに情報を届ける。流通関係者に商品としての可能性を見てもらう。取引先との商談につなげる。ビジネスデイには、そうした役割がある。
だからこそ、そこで配られたノベルティを確保し、フリマアプリで売って小遣いを稼ぐような行為があるとすれば、少し寂しい話ではないかと思う。言葉を選ばずに言えば、「業界関係者がこんな浅ましい方法で小遣い稼ぎをするのか」とショックを受けたものだった。
今回、現場では「出展者パスで入場した人が、人気ブースに先に並んでいた」という情報も聞かれた。これについても、その人たちが転売目的だったと判断できるものではないが、もし業界関係者が、入場資格や立場を利用して人気ノベルティを確保し、それを二次流通市場で現金化しているのだとすれば、金額の大小とは別に考えたいところだ。
TGSはゲーム業界を盛り上げるためのイベントであり、メーカーも相応のコストをかけて出展している。その場でメーカーが無償で提供したものを、業界関係者が自らの小遣い稼ぎのために売る。それは果たして、ゲーム業界にとって良いことなのだろうか。
■転売禁止だけで解決する話でもない
とはいえ、メーカー側に「ノベルティを配るな」と言いたいわけではない。ノベルティには、明確なマーケティング上の意味がある。ブースに足を運んでもらうきっかけになる。タイトルを知ってもらえる。持ち帰ってもらうことで、後からゲームを思い出してもらえる。SNSなどで話題になることもある。だから、ある程度「欲しい」と思ってもらえるものを配ることは、むしろ自然なことだろう。
問題は、「欲しくなること」と「転売したくなること」が紙一重になっていることだ。希少性を高めれば、ノベルティそのものに価値が生まれる。人気IPのカードや限定グッズなどであれば、なおさらだ。一方で、転売されないように価値を下げすぎれば、今度は誰にも欲しがられず、会場のゴミ箱に入ってしまう。それでは制作費も資材も無駄になってしまう。
つまりメーカーにとっては、「転売されないものを作る」のではなく、「欲しいと思ってもらえるが、転売するほどの希少性は持たせない」という難しい設計が必要になる。
■「TGS限定」にしないという考え方
その方法の一つとして考えられるのが、希少性をコントロールすることだ。例えば「TGS限定」ではなく「TGS先行」とする。TGSで配布したノベルティを、後日のイベントでも配布する。ゲームの発売時にキャンペーンとして配布する。別の機会でも入手できるようにする。
そうすれば、「今ここで手に入れなければ二度と手に入らない」という状況を避けられる。転売を完全になくすことはできなくても、少なくとも「今のうちに確保して売れば儲かる」という動機は弱くなる。メーカー側にとっても、TGSだけで大量のノベルティを配り切る必要がなくなり、他のイベントでも同じ販促物を活用できる。
もちろん、マーケティング上あえて限定性を持たせたい商品もあるだろう。すべてを「限定なし」にする必要はないが、ビジネスデイで配布するものについては、限定性をどこまで高める必要があるのかは、一度考えてもいいのではないか。
■試遊特典にすることも万能ではない
もう一つ考えたいのが、ノベルティを試遊特典にすることの是非だ。試遊特典には、「ノベルティをもらえるならゲームを遊んでみよう」という動機を作れるメリットがあるが、人気タイトルの限定ノベルティを試遊特典にした場合、「ゲームを遊びたい人」と「ノベルティが欲しい人」が同じ列に並ぶことになる。
メーカー側がビジネスデイで確認したいのは、単純な試遊人数ではない。実際にゲームを遊んだ人がどう感じたのか。操作は分かりやすかったのか。どこでつまずいたのか。どの要素に反応したのか。発売されたら購入したいと思ったのか。そうした反応こそ、発売前のタイトルにとって貴重な情報になる。
そのため、試遊特典には比較的希少性の低いものを使い、希少性の高いノベルティは別の機会に配るという方法もある。あるいは、ノベルティの配布と試遊を別の導線にする。これも一律の正解がある話ではないが、「ノベルティを配ること」と「ゲームを遊んでもらうこと」を必ずしも一つにする必要はないだろう。
■ビジネスデイで本当に届けたいものは何なのか
実はこうした話は今回が初めてというわけでもない。かつてビジネスデイの参加手続きが現在ほど厳格ではなかった頃、そのチケットがオークションサイトなどに出品され、物議を醸したことがあった。ただ、その背景には、一般公開日では長時間待ちになる注目タイトルを、少しでも早く遊びたいというゲームファンの需要もあった。ビジネスデイそのものに、それだけの価値があったとも言える。
それに対して、今回のノベルティ転売は少し意味が違う。ゲームをいち早く体験したいのではなく、無料で配られたものそのものを二次流通市場で現金化する行為だからだ。
そして今回の件で考えたいのは、転売をどう取り締まるかということだけではない。むしろ、ビジネスデイでメーカーが何を届けたいのか、という話だ。メーカーにとって、ノベルティを1000個配って1000人に持ち帰ってもらうことそのものが目的ではないはずだ。
ゲームを体験してもらう、ゲームの存在を知ってもらう、メディアに取り上げてもらう、流通や取引先に商品として見てもらう、そして、実際に触れた人から反応を得る―――そうした活動につながってこそ、TGSに出展する意味がある。
だからこそ、ノベルティを完全になくす必要もなければ、一律に価値を下げる必要もない。「欲しいと思ってもらえる価値」と「転売の対象になる希少性」のバランスをどう取るか。そして、「誰を呼びたいのか」「何を体験してほしいのか」というビジネスデイ本来の目的に、ノベルティの設計が合っているか。
一方で、TGSは、ゲームを仕事にする人たちが集まり、業界を盛り上げるための場所でもある。そこで配られたノベルティを、わざわざフリマアプリに出して小遣い稼ぎをする。もしそうしたことが実際に行われているのだとすれば、転売禁止というルールの問題以前に、「ゲーム業界で仕事をする人間として、それはどうなのか」と問いたくなる。
ノベルティはあくまでおまけだ。それがTGSそのものの価値を損なうような存在になってしまうのであれば、配る側も、受け取る側も、一度立ち止まって考えてみる必要があるのではないだろうか。
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