【英国編】ロンドンに出現するAll Japanイベント3年目の軌跡。Hyper Japan2026 レポートからみえてくる欧州最前線 中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」
本連載ではHyper Japanというイベントを通じて、2024年、2025年とレポートしてきた。Toppan社の資本が入って3か年目となる今年にどんな変化があったのか。その変化はAll Japanのコンテンツ、アニメ・ゲーム・漫画だけではなく日本食・日本小説・日本筆記用具などすそ野の広がりを実感するものだった。これこそはIP360など現在希求している動きであり、韓国が先行しているAll-Korea的なプロモーション・ミックス手法の背中を追うものである。「アニメだけではない」「アニメからいかにすそ野に広げるか」という点で英国は見るべき市場である。
■英国第二のイベントだが、「Rising UK」を象徴する英国市場のAll Japan Event
Hyper Japanはロンドンにおける最大規模の日本イベントである。2026年7月24-26日の3日間、Olympia Londonにて開催され、5万700人を集客した。5万人の来場者のうち初参加は3.2万人、昔から来続けている0.6万人に、その倍の1.2万人がこの3年で新規顧客となって広がり、「6割新規」で入り続けている、というのがイベントの形である。2023年にToppan社が現地で主催している出版社Cross Media社を買収した初年度から 、今回が3年目となる。5.1万人という人数は、5.3万人を記録した昨対対比でこそ落ちているが、それは決して「落ちている」という表現が正しいものではないだろう。


▲入場待機列は過去一の混み具合であった
2024年の際には初年度は小さな入口にカオスのように列があふれ出て、2年目も灼熱の会場前の無造作な空間でコスプレーヤーたちが思い思いに写真をとっていた。だが3年目は初日の待機列は整然とガードレール上に列をなし、コスプレーヤー用の休憩スペースと写真サイトは会場モニュメント入口で整い、3年目ならではの運営の成熟が感じられる。アマチュア演者も多かった3年前のステージコンテンツに比べると、女王蜂やアヴァンギャルディと日本でもタレント性があるアーティストが英国まで招致され、ステージに集まった人々は3000人弱にもなる。

チケット代も3年前に比べて金曜(£21→27.5)、土曜(£30→40)、日曜(£24→30)と上げてきており、イベントとしての収支も黒字。ユーザー数を減らすことなくサステイナブルにグロースしているという意味では、日系大企業がアニメイベントというベンチャーな事業に入る意義もそれなりに感じられる。

なによりこのイベントの変化は2.2万(2023)→3.2万(2024)→5.3万(2025)→5.1万(2026)という来場者数だけでなく、374社(2024)→466社(2025)→595社(2026)という出展社の変化でみるべきなのかもしれない。コミコンもアニメイベントも「アニメ・ゲーム・IP」に偏りがちだが、HJに関してはそれは全体の1/3でしかない。イベント自体は食・飲料/ファッション/インバウンド・観光やときに伝統芸能なども入り、「All Japan Event」という意味では理想形に近い。カジュアルなユーザーも多いが、それはある意味で「多様な関心をもつ一般的なマス層を集めたイベント」であり、その名の通りアニメイベントというよりもジャパンイベントなのだ。平均消費額の£141(約3万円)/人は海外アニメイベントでは決して高い数字ではないが、10万円近く使う米国Anime Expoとは違い、「英国のマス層がきている結果としての価格」ともいえる。
来場者に占める年齢層を2年前と比較してみた。30代も増え、シニアで女性がファミリー連れでくることが多い。2年前よりも「日本を旅行して」という回答比率は伸びているし、「伝統芸能」や「日本語学習」などよりすそ野の日本愛好者が増えている数字もでているが、逆にこうした「マス層」であっても日本を好きになった最大の理由は断トツで「アニメ」なのだ。いわゆるオタクとかけ離れたイギリスの中高年層にすらアニメが届いている、ということを実感しやすいイベントだ。




イベント全体で一番目に付いたのは試食ができるフードブース、そして「澪」の宝酒造によるプロモーションにSUNTORY、伊藤園、オリオンビールなどの日系酒造メーカー。筆記用具のぺんてる、ゼブラペンは定番になったが今回のブースMVPは三菱鉛筆かもしれない。マーカーで室内を自由に落書きする展示は「筆記用具メーカー」としては断トツの集客力を誇っていた。




▲三菱鉛筆POSCAの展示
MBS社のようなアニメ製作会社がこのイベントに出展することも珍しい。『ダンダダン』のターボババアが出現し、ダンダダン風船を配り歩くと4500という販促品は一気に会場中に広がった。GiGOのUFOキャッチャーも任天堂のSwitchプレイルームもGungHoのNinjalaプレイルームも「ゲーム会社の販促スペース」は例年の出展企業・新規の出展企業が入れ子になっていき、遊戯王のカードゲームスペースなども含めて滞在率を大きく高めている。





▲ジブリグッズとサンリオグッズはHJでも例年1-2位の人気を争う




▲VTuberの上映スペースもある




▲Design MuseumではNIGO From Japan with Love展がPopupで展開されていた
■古くて新しいガンダム。2025年から「新世紀」を迎えるバンダイナムコのグループIP欧州市場展開
今回のHJは、正面入口から右手に3メートルサイズのガンダム立像に迎えられてはじまる。すでに本イベントの参加は3年目になるが、今年は「Gunpla Beginners Welcome!」というガンプラ組み立て体験会が行われていた。講習を受けた印にとしてのガンダムハットをかぶったファンたちにも次々に遭遇し、全体的に「ガンダム率の高いイベント」だった点は昨年と違うところだ。主導するバンダイナムコアミューズメントヨーロッパ取締役の小島和一氏にインタビューを行った。

2025年からロンドンに赴任しての2年目となる小島氏は、2025年7月のロンドン、2025年11月マンチェスターを経て、今回は3回目の参加となる。HJ会場のように欧州での様々なイベント出展をてがけつつ、コムデンにあるThe Gundam Baseなどの常設展の展開も行っている。なぜこの数年でガンダムの欧州展開がこれだけ攻勢を強めているのか、と聞くと、バンダイグループ全体で集約していこうという動きの結果だという。アニメ文化がやっとイギリスにも入ってきた、というなかで、グループ全体の商品力の集積がそのまま露出としてはねかえっているのだ。


▲ロンドンの“原宿"のようなコムデンに2023年8月にできた海外1号店Cross Store、そこに併設されたThe Gundam Base Londonは2026年7月に新設されている
なぜガンダムはこれだけ海外で当たったのか?最初のとっかかりは「新機動戦記ガンダムW(ウィング)」(1995-96)だった。これが2000年に英語版として展開されたタイミングで、はじめてガンダムが米国で流行する。玩具流通が一服した段階で、2009年ごろからは第二ウェーブがはじまり、そこから海外展開が加速する。W時代にテレビ放送で見ていた若者たちが、その10年後に20-30代の購買層となって育ってきたのだ。おりしもこのタイミングは「玩具ビジネスの停滞期」でもある。子供向け玩具が停滞する一方で、逆にプラモデルのような高単価商品が大人になったユーザーにむけて売れるようになってきたのだ。
欧州市場はフランスを起点としてアニメが流行していた過去がある。当時は「単発だった」というアニメ人気が、コロナ後になるとウェーブのように重なるようになり、そこに連動するようにイギリスでも売れ行きがみるみるあがってきた。青バンダイ(バンダイナムコスピリッツ)と言われる大人向け玩具のセクションでも、欧州に人を送ろうという動きができたのは実は2025年になってからの話だ。それまで扱っていたセキグチのモンチッチなどに加えて、ガンダムやたまごっちのラインナップも充実させ、実際にSHOPをコムデン(ロンドンの“原宿"のような場所“に「BANDAI NAMCO Cross Store」を開始したのが2023年7月の話だ。
2018年に分割された子供向け玩具が中心の赤バンダイの不調/大人向け玩具の青バンダイの好調という話は日本も含めてよく取りざたされてきたが、この数年はというと(赤バンダイが管轄している)「ガシャブーム」と「ONE PIECE Card game」の成功もあって、伝統的な玩具領域も大きく復調している。このジャンルからは食玩などもこれから海外展開する余地が残っており、ラインナップの広いバンダイナムコグループならではの総合力のポテンシャルを感じる。
すでに日系IPのなかではトップ級ポジションの同グループだが、小島氏いわく「(欧州展開は)まだまだこれから」とのこと。ガンダムでもいわゆるS級キャラは人気なのだが、日本で言うA級になるとまだ売上も伸びていない。種類を多様化させ、すそ野の広いファンベースを作ろうという意味では2026年をもってしても「黎明期」といえるのだ。
そもそもなぜ世界各地のイベントでこれほど多くの2・3メートル級のガンダム像をみることが増えたのだろうか?実はガンダム像は、「棚を確保する」ためのものでもある。立像をショップに貸し出すことで店舗内での商品の最大のプロモーションにもなるし、棚もメインのところにおいてもらいやすい。店舗にはイベント用の3mよりもすこし小さな2m立像を提供するが、これは「売りモノ」ではなく、むしろBtoBでディストリビューターやショップを味方につけるための施策でもある。
ガンダム立像の海外展開が始まったのは2015年の香港タイムズスクエア。突然出現した実物1/3スケールの7.5メートルの「ユニコーンガンダム」と「ウィングガンダム」だった(国内では2009年お台場からはじまる)。当時本物に近い巨大サイズのガンダム立像は大きな話題を呼んだ。HJにあるのは3m級だが、すでにこれは40-50体というボリュームでつくっており、さらに小さい2m級になるともはや全世界に数百体というレベルで散らばっている、という。
ガンダム立像のふもとで、3日間で200人以上が直接プラモづくりを体験し、自分がつくった1体を無料で持ち帰れる。この地べたからはじまるユーザー育成というプロセスは本当に割に合うのだろうか?小島氏いわく、英国はクラフト文化が根付いており、体験会にくるファンの技術や熱量が最初から高い。同じ意味ではドイツなどとも共通しており、対してアメリカのユーザーだと「プラモづくり(クラフト)を覚えるまで、比較的時間がかかる」のだという。
消費としてもまだまだこれから。HJは日本文化好きのライト層が中心で高単価商品はあまり動きにくい。売れ行きがいいのは低単価で10ポンド以下のものが多い。そういう意味では高額商品は「オタク向け」といわれるコミコンのほうがよいのかもしれない。
それでもHJへの期待値は高い、と小島氏は言う。集客5万人というのは2005年ごろのAnime Expoの規模で、そこからアニメが浸透して、現在の40万人までどんどん上がってきた歴史がある。玩具やゲームの欧州市場はフランスやスペインが先行して立ち上がったが、イギリスが追いつけるかどうか、というのが現在地だ。経済規模でいってもドイツのほうが現状は大きい。だがそれでも、と小島氏は言う。イギリスは成長ポテンシャルが潤沢で、実際にいま数字も伸びている。AXがたどったような成長曲線をJXにもここから10~20年かけて育てていってほしい、という期待を示した。
現在、CrossMedia社を巻き込んでバンダイナムコのキャラクターポップアップショップなどの計画も進めている、という。ロンドンは「中心」といいながら、エジンバラやウェールズなど北部からはなかなか人が入ってこれない。昨年のマンチェスターは天候問題もあってすこし媚しかったが、あのような中部エリアでの展開というのもぜひ考えたい、とのことだった。ガンプラの売上はすでに海外が3-4割といった状況になってきている。「プラモ」という伝統ある日本の玩具産業もイギリス・ドイツなどのクラフト文化にのせて浸透させていく。

■アニメ会社IGグループのグローバルMDを展開するフィールズの「IP商社化」
『進撃の巨人』『ハイキュー』『超かぐや姫』の商品が並んでいる。売っているのはウルトラマンを擁する「円谷フィールズ」である。これはどういうことなのだとインタビューを行った先はフィールズライセンス本部部長代理/デジタル・フロンティア執行役員の小北鉄平氏だ。実はフィールズ社はIGポートグループ(Production I.G/WIT STUDIO)の全世界(日本・中国・台湾・香港・マカオ除き)のブランド店舗、アニメグッズ販売・展開のパートナーシップ契約を提携したばかり、この取り組みが2026年10月から本格開始するにあたって今回7月にHyper Japanでの海外初出展があった、ということ。
小北氏は円谷プロダクションを買収するタイミングの2010年にフィールズに入社し、一貫してライセンス畑を歩んでいる。同グループは『ウルトラマン』の円谷プロダクションがコロナ前後に中国で景気が急騰、一時期はグループ利益の4割近くをウルトラマンが稼ぎ出すような状況だった。
「円谷プロダクション自体はいまもウルトラマンを主軸とした事業を展開しています。でもグループ会社のフィールズはもともと遊技機化権の獲得で多くの版元と付き合いがあった。今回はその『IP商社としてのフィールズ』の新規事業として、日系企業の海外展開を提携して一緒に広げていく動きをしているんです」とのこと。この数年で国策化しているアニメ・ゲーム・漫画・音楽・映像IPの海外化、回収率の向上は喫緊の課題となっており、大手総合商社がすべからくエンタメ事業に参入している動きと同じベクトルにある。
今回のHJ出展は版元の円谷プロダクション、制作のデジタル・フロンティア、ライセンスと営業のフィールズの3つの顔つきをつかいながら、他社の提携先と一緒に展開するという点では同社にとってもかなり新しい取り組みなのだ、という。
なぜイギリスを選んだのか?と聞くと、カルチュア・エンタテイメントグループのPROOF社がこのブースをとっており、やってみないかと誘ってもらったからだという。商品の輸出許諾や関税など欧州ならではの難しさも実感した。イベント物販は売れ残りの処分が常に問題になるが、それは主催者Cross Media社が英国拠点で在庫販売・処理などをおこなってくれるという“保険"もあり、それで新市場の新規展開をGoしたのだという。
物販の売れ行きはどうだろうか?「正直もっと入れ食い状態かと思いました笑。売れ行きは厳しい面がある」と。英国人は値段にもシビアだし、購買に対しては慎重である。そうした中でも一番売れ行きがよいのは『進撃の巨人』の原画集であった。もっとIG/WITとともにブラインドボックスを作っていたり、商品の工夫もまだまだ余地がある。未開の地だった欧州は、今回のような取り組みで少しずつ土地勘は得て、今後はイタリアのLucca Comics & Gamesやオーストラリアのスマッシュ/PAXなど海外アニメイベントへの出展は今後も積極的に行っていく予定だという。

■JETROは「日本インディーゲーム商社」になりうるのか? 年間12億円の売上貢献
2024年に「MADE IN JAPAN COLLECTION」としてゲームのプロモーションをはじめたJETRO、今回はその責任者であるJETROの中澤義晴氏にインタビューを行った。インディーゲームは1社1社が中小企業や個人であることが多く、小さなタイトルばかりで埋もれてしまう。そうした業界が持つ課題意識から、JETROがとりまとめとしてAll Japanでインディーゲームをプロモーションしていこうと始まった本プロジェクトだ。
開始当初の参加者数は50程度だったが、2026年は8月時点で約300者、600タイトルと“殺到状態"だ。IP360のように「個社支援」ではなく、あくまでインディーな数名チームがつくった「作品支援」である。今回のHJで実際にプレイできるところまでJETROでサポートするのはそこから選ばれた約30タイトルである。
インディーゲームに対しては官民が様々な形で支援している。例えば、2024年から経産省がはじめた次世代クリエイター支援プロジェクト「創風(SO-FU)」は、製作費用500万円(現在は1000万円)を支援しながらIPはすべて開発者に帰属する太っ腹な「開発」支援で、3年で50件近くが支援を受けた。JETROでは、「流通」面で、インディーゲームの海外プロモーションというフェーズにおいて、Steamストアページの露出向上・流入増加のためのオンラインプロモーションや、海外イベント出展を約300者に対し幅広く行っている。
会場では2時間ほどのセッションを設け、リモートでつなぎながら直接日本から制作者が自分の作品を英国のゲーム関係者に説明する場があった。現地の40人投資家、パブリッシャー、メディアが集まった。みなAI翻訳などを交えながらピッチを行い、現地のポテンシャルパブリッシャーからも質問が飛ぶ。2026年はこのHJだけではない。これからドイツのGamescom、米国、オーストラリア、タイ、サウジアラビア、韓国の6ヵ所の海外イベントで同様の出展やセミナーを行う予定だという。
行政が関与すると、どうしても数字やゴール達成が曖昧になりがちだ。だがオンライン向けインディーゲームであるがゆえに、この取り組みが期間中にどのくらいの売上貢献があったか検出できるそうだ。昨年の2025年の結果は合計12億円、JETROがかけた予算をいれても十分に成果があがる数字だったといえる。「JETROがAll Japanでインディーゲームを売る」と、一見地味な取り組みにも思われがちではあるが、1作1作が数十万~数百万円というインディーゲームの売上で考えればなかなか手ごたえがある数字だ。
ゲーム販促も、やりはじめるとお金はいくらあっても足りない。今回は試遊出展に加え初めてBtoBのピッチに挑戦ということもあり日本から担当者が3名渡航しているが、場所によっては現地JETRO職員に対し、ゲームのことはわからなくてもある程度営業ができるようにマニュアルを送り、東京からレクチャーしながら現地完結で運営を行うケースもある。海外に70以上の事務所を持つJETROならではの取り組みだ。試遊機を用意し、全員が遊べるようにセッティングし、都度起こるバグや故障にも対応する。それを開発者でもなく、コンテンツのこともわからない現地担当者がこなせるようにするため、マニュアルづくりは相当入念に行っている。現地のゲーム産業関係者を臨時でアテンダントとして雇う、といったやり方も並行で行っている。


▲灯白社がリリースするSteamgame「つみみじかん」は会場でもウケており、10月22日の発売が期待される

JETRO全体ではこうしたインディーゲームだけではなく、IP360の優先ジャンルであるアニメ/ゲーム/マンガ/音楽/映像の5分野の海外展開を網羅的に支援しようとしている。アニメ/映像では、6月のカンヌ映画祭フィルムマーケットで、日本が「Country of Honour」となり、JETROが事務局を担った。現地には、映画関係者だけではなく、アニメ関連企業20社40名超が参加し、かつてない盛り上がりをみせた。アニメ/ゲーム/マンガでは7月にAnime Expoへの出展があり、音楽ではCEIPAがロサンゼルスやタイのJETROコンテンツ支援拠点と連携し、JETROが主催するピッチングのネットワーキングイベントなども行っている。2025年3月に開催されたmatsuriも日本の音楽をアメリカ市場に根付かせるための最初のショーケースとなるような事例だった。マンガ・書籍では日本書籍出版協会やJPIC等業界団体等と共にロンドンブックフェアへの出展なども行っている。
コンテンツ海外展開支援ということで、JETROのコンテンツ専門チームへの予算も増額傾向にある。この3年で3億→5億→7億と増えてはきたが、まだまだイベント出展代などで手一杯で資金潤沢なところからは程遠い。韓国KOCCAと比べれば、その支援額はまだまだ桁が1つも2つも違う。
それでも…と中澤氏は語る。この3年はその支援内容も深度も急速に変わってきている、という。JETROは年間600億円の予算で2000名もの職員が、全世界の70ヵ所以上に出向し、日本の経済振興・貿易振興を役務としている組織だ。そこが2024年度に米ロサンゼルス、タイバンコク、インドニューデリーの3ヵ所にコンテンツ支援拠点を設置、2025年度に仏パリ、韓国ソウル、中国上海、ブラジルサンパウロと7か国に拡大。そして直近2026年8月には新たにニューヨークと香港を増やし、9拠点でJETROがコンテンツ産業向けの窓口を設けた格好だ。車やカメラ、農産物など多様な商品を取り扱ってきたJETROが「これからはコンテンツだ」とシフトしてきた今回の1-2年での変革スピードが、この英国のインディーゲームのプロモーションという形にも表れているようだ。
■イギリスは本当に「日本アニメ不毛の地」なのか?
HJは「イギリス最大のアニメイベント」ではない。実は2002年から開催されてきたMCM Comic Conがあり、そちらは13万人規模を数える。アメコミなども入り、出展社520社という数字はむしろHJより少ない。MCMは「昔からあるファンとArtistのイベント」であり、HJは「日系大企業が安定運営する、BtoBにも強いAll Japanイベント」という意味では2つのイベントは十分に差別化されている。場所もサイズも異なる。都市圏で30分圏内にあるOlympiaの約 2万平米で行われるHJと比べると、MCMが行われているExCeL Londonは「ロンドンの幕張」のような場所で、Piccadillyから電車乗り換え1時間弱で12.5万平米と5倍ものスペースを使っている。「混んでいる」という実感は両イベントともにそん色がない。ここで強調をしたいのは、2つのイベントの優劣というよりも「欧州におけるイギリスそのものの位置づけ」である。
そもそも長らくイギリスというのは「アニメ不毛の地」と呼ばれてきた。日系IPといえばフランスが“世界最大の消費地"と呼ばれ、Japan Expoの回でみてきたように2008~2014年の期間は米国をこえた市場だった。そこにあわせて日本アニメが放送され、翻訳版マンガも出版されていったスペインやイタリアといった国が、日本からみると主要な欧州市場だった。1992年の仏Japan Expo、1995年の西Manga Barcelona、イタリアのLucca Comics & Gamesにいたってはなんと1965年から始まっている。そうした中でHyper Japanが立ち上がったのは2010年の話だ。他の欧州エリアに比べて20年近く遅いスタートした市場が英国なのだ(MCM London Comic Conは2002年である)。
来場者数でいえばイタリアLucca28万、フランスJapan Expo20万、スペインManga Barcelona17万、かたやイギリスはMCM London Comic Con13万とHyper Japan5万。この数字がまだ欧州における日本IP開拓の本拠地が映画・映像・演劇の世界では欧州の中心である「英国」では深耕できるほど育っていない限界点も表している。
「欧州のマス層」がアニメを消費するようになった。そして独立独歩だったイギリスが(全体経済としてはEUのなかでも低調の部類に入るが)こと文化やアニメ・ゲームといった文脈においても消費地として魅力的になった、というのは明らかに「コロナ禍後の変化」である。
こちらに3年間にわたってHJが調査してきた日本アニメの人気ランキングがある。『進撃の巨人』『SPY×FAMILY』『鬼滅の刃』のトップ3はゆるぎなく、進撃やSPYに関してはイギリスのほうが中長期でアジアよりも人気を保ち続けているといえる(トップ10でいえば『NARUTO』『呪術廻戦』『Bleach』『鋼の錬金術師』もそうだ)。『ダンダダン』や『薬屋のひとりごと』『ブルーロック』などはこの3年で急上昇し、3~4期続くコンテンツになれば欧州における定着も容易に想像できる。それ以上に、アジアの過当競争のなかでは「新作アニメがでないと流行らない」とアニメのなかでも作品の上位人気を維持するのが難しいなかで、実は欧州は「長いレジェンド級作品が長期の人気を維持している」状態が続いている。
2025年HJに出展した『新世紀エヴァンゲリオン』は半年後のマンチェスターでも2026年になってもランキングに入るようになった。『機動戦士ガンダム』は明らかにコロナ後になってはじめてイギリスで人気の火がともりはじめた作品であり、アニメ発ではない『初音ミク』も、7月に久々にアニメ化してもりあがっている『攻殻機動隊』も「レジェンド級作品」として名を連ねることに違和感はないだろう。すでにマンガもアニメも終わっている『進撃の巨人』『Bleach』『鋼の錬金術師』(順位には出てこなかったが書店の棚をみていると『ベルセルク』『伊藤潤二』なども強い人気を誇っている)

経産省のIP360施策の優先市場では米国やインド・インドネシアと並んで「イギリス」がTop4の一つとして位置付けられている。HJもまだToppan資本でリスタートして3年目にすぎない。ここから欧州市場に向けて日本IPの「回収率」をどうやってあげていくことができるか。定点観測のしがいがある市場である。
会社情報
- 会社名
- Re entertainment
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 中山淳雄
- 直近業績
- エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
- 上場区分
- 未上場