短尺時代に発明されたライトアニメ、DNPが制作費1/5で目指す年1000作制作の未来 中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第141回
大日本印刷が手掛けるライトアニメはそのライト(軽い)の名称どおり、1話数百万で制作してしまう「1/5制作コストのアニメ」である。2021年に構想が立ち上がり、2024年にリリースされてからすでに3年で20作以上が生み出されている。1作のテレビアニメ化は3~5億円、期間も2~4年がゆうにかかる中で毎年300作以上生み出されている日本アニメはいまや世界に冠する物語プロダクトになっているが、むしろその制作費となかなか作り手としてのスタジオ・アニメーター不足がボトルネックのなってきている現状において、画期的なビジネスだ。だが「アニメーターいらずで作れる」ライトアニメは、本当に「アニメ作品」として十分なクオリティになるのか?そもそも商売になっているのか??「早い、安い」はわかるが、本当に「上手い」が担保できるのか??という疑問を端山徹也氏にぶつけてみた。見えてきたのは2030年代に日本アニメが年1000本制作体制をつくりえるかもしれないという強い期待だった。
■十分の一のコストでできるライトアニメ、『ポーション、わが身を助ける』で掘り当てたヒット作
――:自己紹介からお願いします
大日本印刷(DNP)の出版イノベーション事業部 ライトアニメ推進課 端山 徹也(はやまてつや)です。マンガの原稿をベースに低コストかつ短期間で制作する新しいアニメーション製作手法「ライトアニメ」事業でDNPの責任者をやっております。この事業の発起人でもあり、2021年に構想したところから数えるともう5年になります。
――:こちらはイマジカさんとの共同事業という位置づけですよね。
そうですね、プロデュース・展開を弊社DNPが行い、映像企画・制作を書籍のレーベルももたれているIMAGICAグループのイマジカインフォスさんが行い、2社で共同事業として2023年に始めたのが「Animation ID」事業です。「ライトアニメ」で、商標もとっています。

――:いわゆる“ライト(軽い)"アニメでアニメ制作のコスト革命です。アニメ1作は12話で2~3億円だったところから、近年は3~5億円、下手すると10億円みたいな制作費のテレビアニメも出てくるようになりました。こうした中で「1/10のコストでできるライトアニメ」というのは、業界のイノベーションになるんじゃないかと取材させていただきました。
2021年に構想したときのイメージが下図です。日本では新作マンガ6000作、Webtoon海外を含めて縦読みマンガ1000作が生まれていますが、このうちアニメ化されているものが300作品(継続作品もあるので新規はさらに少ない)しかないわけです。
それが2030年、いまのアニメ産業が国の後押しもあって年400作まで増えたとしてもまだまだなわけです。そこでこの「ライトアニメでアニメ化できる作品が600作」になれば、これから増えるマンガ作品・Webtoon作品でも新たな市場ができるのではないか。
これは2021年の企画当初の妄想にすぎないんですけど、「ライトアニメ+Webtoon」で3兆円市場が作れるんじゃないかという想定がありました。

――:面白いですね。アニメ市場が3→8兆円になるけど、そこのすそ野で「ライトアニメ市場」も3兆円規模になるんじゃないか、という目算ですね。これまでアニメ作品としては実際何本だされましたか?
リリース本数でいうと2024年が3本、2025年8本、2026年12本と増えてきました。来年もすでにそれを超える数を仕込んでいますが、当初みこんでいた「年間100本のライトアニメを作る」まではまだそれなりに時間かかりますね。つくりながら開発工数も拡充しているので、現時点は「TVシリーズアニメ」は年20本くらいはつくれる状態になってきています。
――:誰が、どう、つくっているのでしょうか?いわゆる「アニメスタジオ」ではないのですよね?
はい、そもそも「マンガ原稿をベースにアニメを作る」事業ですから。我々DNPが様々な出版社様と交渉をさせて頂き、アニメ化の企画や製作委員会のメンバー集め等を行います。映像制作はイマジカインフォスさんのチームをベースとして、監督・映像制作スタジオ・音響・音楽などの制作全般の手配をしています。DNPが主に「コンテンツプロデュース」を、イマジカが「制作プロデュース」を行いつつ、二社で協働して国内外の配信営業を含むビジネスプロデュースをご一緒しています。
ただ監督はプロのアニメ監督に入っていただいています。PoCの頃には「型落ちアニメ」みたいにみられる部分も多分にあったので、プロから見てつなぎの不自然さや動きの悪さなども手をいれてもらって、少しずつクオリティをあげてきました。
――:では原画・動画・撮影といったアニメスタジオの「専門職」がいないアニメ制作なんですね。クオリティに対して、ユーザーの反応はどうなのでしょうか?
文句がでないことはないんですよね。一番多いのは「紙芝居」という表現ですが、原画に忠実なので中割は少ない為、そう思われるのでしょう。でも不思議とそれで再生数が落ちないんですよ。
2025年10-12月に放送・配信された『ポーション、わが身を助ける』(「小説家になろう」で2014~連載中、主婦の友社・イマジカインフォスでヒーロー文庫化、2025年アニメ化)の批評はとても興味深かったです。この紹介動画「最低限のアニメ化を通り越して、動かすことすらやめてしまった超絶低予算アニメがヤバすぎた」" が面白かったですね。「意外にみれました」みたいなコメントが、我々としては一番「ちょうどよい」感じなんです。そのくらいの期待値でみてもらえるとよいなと思います。


――:「ポーション」はインパクトありましたね。いわゆる異世界転生系ジャンルで、たしかに「静止画多めなアニメ」なのですが、髪や手足の揺れなどもテンポも悪くないし、10分間アニメとしては普通に見れました。MyAnimeListなどでも初動のScoreは低いんですけど、実は3か月たつと上がっている。これは結構珍しい現象です。
そうなんですよね。「普通に見れました」というコメントの通り、ライトアニメとして入るユーザーさんは普通にアニメとして受け止めていただいてます。アニメファンで目の肥えた方はモーションコミックやボイスコミックの延長線上で捉えるようですが、コミックからでもこのレベルのアニメ化は可能、というところでは5年かけてこの「ライトアニメ」というジャンルを築くことができました。コメントも下記のようなものが多いですね。
● 安っぽい絵作りだが、不快感は無い、むしろ、見やすい、可愛く見える。
● 派手に動くアクション作品とかじゃないゆるふわ系作品ならこういう手法もアリだと思うし、逆にこういう良い意味での手抜き作品ほど制作のセンスが問われるよな。
● 下手に通常のアニメ化して作画崩壊するよりよっぽど健全
――:どうやって「ライトアニメ」のレベルをあげてきたのでしょうか?
色の塗り方一つでどのくらい化けるか、みたいな工夫とか色々試行錯誤しています。「ボイスコミック」→「ライトアニメ ローエンド」→「ライトアニメ ハイエンド」で3種類のアップグレードの違いをこうやって分類しています。
――:本当にコストは「9割減」になったのでしょうか?
1話本編10分のアニメを500万円強で作り、20分で1000万円程度。「1/10のコストで」はちょっと言い過ぎましたね笑。たぶん普通のアニメ制作費にくらべると1/5くらいですよね。制作費はそのまま稼働時間による人件費ですから、最初にどのくらい工数が必要かをみつもって、「ポーション」の場合は制作費に波代・宣伝費までいれて7000万円にも満たない総製作費にで作りました。その結果、売れるギリギリのラインを残すなら「1/5のコストで」というところにおさまった感じです。
――:驚きはなのは、dアニメなどで普通にランキングに入ってきてるんですよね。
そうですね、2025年秋アニメでも13位に入ってきてますよね。2~5億円をかけた通常テレビアニメと比較した中でも、1億円未満の総製作費の作品が入ってきているということは「ライトアニメという概念がそれなりに受け入れられている」と感じました。異世界系で絵柄がゆるいものなどはライトアニメに向いていますね。


■発案から3年でアニメ化実現、「よむもの」→「みるもの」への分岐で知財の総合商社になったDNP
――:端山さんはどうしてこの事業をはじめたのでしょうか?
私は2009年にDNPに入社したので今年で18年目になります。それまでもいろいろ異動はありましたが基本的には出版社向けの営業部隊にいました。有名なところでは、マガジンハウスのananなどの印刷を担当していました。ただ、一般企業のお仕事も多く、製薬会社の社員証やシステム周りや通販会社のコールセンター運営等も手掛けており、ルーティーン以外に新規開拓の営業を並行していたので所属組織の枠を超えて全社の商材を扱っていたという自負があります。イマジカインフォスさんともアニマックスさんのライブイベント関連のお仕事でご一緒して、そこで前田社長と色々ビジネスの話をするようになりました。その中で「Webtoonに音を入れていったらそれなりにアニメっぽくなるんじゃないか?」という着想を本気で詰めに入りました。社内で新規事業を起こそうという流れがあったので、事業部内で上層部に提案したのが2021年でした。
――:2021~22年ごろはWebtoon大ブームでしたね。じゃあ「アニメ発」ではなく「Webtoonの絵をアニメにできないか?」というところからのスタートなんですね。
はい、ボイスコミックみたいなものやWebtoonを動かしてみたり、とある有名キャラクターの作品などでサンプル動画を作ったり、といった試行錯誤を最初の1-2年は行っていました。実験していくうちに、必ずしもTVアニメって「TVサイズにあわせて20分」が正解じゃないんじゃないかとか、必ずしも劇場上映を前提としない長編アニメもありえるのではないか、などといった疑問がわいてきたんです。
1年間事業検討した結果、2022年に社内で「ライトアニメ事業推進室」というチームが立ち上がりました。ここで2人→4人とメンバーを増やしてもらい、組織化しているんですが2022年9月早々にはすでに日経新聞さんに取材を頂いてるんですよ。「大日本印刷、漫画から即席アニメ制作 時間・コスト9割減隙間時間の視聴狙う」という記事ですね。これが本事業で一番最初に出た取材記事かと思います。TikTokなどのショート動画が流行していたことから、通勤・通学などの隙間時間で視聴にも期待が高まりました。
――:歴史ある企業としてはかなり早い立ち上がりですね。たしかにWebtoonだ、ショート動画だ、と「新しい技術の流入」がこの新規事業化の後押しになったんですね。
そうですね、部署としても2023年には利益もあがるようになっていましたし。ここで具体化が始まり、既存事業の相乗効果やグローバル展開も見据えて、事業拡大を進めて事業拡大に勢いがつきました。日経新聞さんの2023年の「DNP、漫画から即席アニメチームで隠れた作品に光」 でも、チームが発足して拡大していくプロセスを取材いただきました。。
――:ボイスコミックといえばパピレスの「Renta!」が「アニコミ」というのをやってましたよね。『聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました』 ですとか。でも貴社も当初はこのボイスコミック⇔ライトアニメの間を模索していた感じですね。
当初の素案作りの時には「アニメとは何か?」というところからスタートしており、私の中では「絵が音楽・音声も存在して動くもの」という風に整理しました。従って文字情報は画面に要らない、と。試行錯誤した結果、「読ませるフキダシ」を取ったことは大きかったですね。YouTubeなどでボイスコミックをちょっとモーションやエフェクトをつけてUPしている他社作品も多かったんですが、DNPでは「読ませるものから見せるものへ」という形で、「ライトアニメ」として商標もとって、普通にアニメ製作委員会を組成し、テレビで放送し、動画プラットフォームにのせていった。「アニメ作品のローエンド」を狙っていったことが現在に繋がっているかなと思います。
――:一方で、受注がメインの印刷事業のなかで、自社で予算確保して投資を行うことの大変さもあったとのこと。実際はいかがでしたか。
はい、ただ結果的に小さい投資額でスタートしたことで、コンパクトに事業化を実現できたと思っています。これまでの約20作品、投資予算は総合してもアニメ1シリーズ分には満たないくらいなんですよ。それでもアニメの委員会を組成したり、番販したりといったノウハウは20本分たまるんですよ。その意味では低コストで事業効率はかなりよかったと思います。
この時期にも「10分の作品を世界に販路開拓、知財の総合商社へ」と日経さんに取材いただいてますね
――:最初に「テレビアニメ化」したのはいつなんですか?
それまでの3年間の試行錯誤の成果として『監禁区域レベルX(レベルX)』『未来の黒幕系悪役令嬢モリアーティーの異世界完全犯罪白書(モリアーティ)』『まぁるい彼女と残念な彼氏(まるかの)』の3本がはじめてリリースになったのが2024年です。最初の3作品を各々の目論見として当てられたことが大きいです。そこで「だいたい分かった」という感覚を掴めました。



――:『レベルX』は小説→コミカライズ→Webtoon化→アニメ化とTaskyの大成功事例ですよね。DNPとしては過去アニメに出資していたり、アニメ事業に詳しい知見者がいなかったのでしょうか?
実はあまりなかったようです。DNPがアニメ出資をしたケースはほとんどなく、『異世界食堂』(2013~ヒーロー文庫連載、2017年アニメ化)などに少額出資していましたが、それをもってアニメを事業化しようという動きはありませんでした。イマジカグループも映像関連の最大手の一社ですが、アニメ製作委員会で主幹事になっているような案件はなかった。だからDNP・イマジカインフォスの2社にとってこれは新規アニメ事業で、2024年の3作品がはじめての主幹事案件だったんです。
――:これまでの事業の歩みを図にしてもらいました。本当に、順調ですね!これはアニメ制作会社出身者なども採用しているのでしょうか?
順調ってほどでもないですが、それなりになんとかやってきた、という感じです。いまは7人、全員DNPのプロパーの社員です。海外番販やアニメのプロデュースなど部分的に業務委託をしている部分もありますが、基本的には「全員がアニメ業界素人」の状態でこの事業をやっています。今後もDNPの役割は前述したコンテンツプロデュースとビジネスプロデュースのところまでかと思います。本格的なアニメ制作をするわけではないので、外部のプロの方と関わりながら「プロデューサーを育てて、増やしていく」というところが人員戦略ですかね。

■原作の売上は2~8倍へ。原作効果がさらなるライトアニメ化を促進させる
――:これまで一番市場の動きがよかったライトアニメはどれでしょうか?
初動の反響でいうと『魔物喰らいの冒険者~俺だけ魔物を喰らって強くなる~』(「小説家になろう」(2023~連載、コミカライズ2024、アニメ化2026)が一番ですね。制作費のほとんどは初動の収入で戻ってきて、その後は利益が積みあがっています。
dアニメの年間ランキングで見てみると2026年9月時点で『魔物喰らい』が38位、『ポーション』が52位でこの2作品がユーザーにも高く評価されています。プラットフォームはdアニメだけでなくAbemaやU-NEXT、Amazon Primeなどにも広く出しているのでそうした合計値をみればかなり視聴されて広がっているはずです。
――:こういうのはマンガ本への影響も出ているのでしょうか?
「魔物喰らい」はWebtoonを基に映像化を行いましたが、放送開始後にPVも1000万程度は伸びています。
――:すばらしいですね!他にはどんな作品が見られているのでしょうか?
小学館のXR事業推進室と一緒に作った『大賢者リドルの時間逆行』(小学館SEED COMICS2023~連載、アニメ)ですとか。ライトアニメ化がマンガにもたらす効果もはっきり出ているとうかがっています。こちらはショートアニメとなっており、5分×12話のアニメですけど、それでも原作への波及効果を出せています。
他にも『身代わり令嬢を救ったのは冷酷無慈悲な氷の王子の愛でした』(なろう系小説、comicスピラで2023年~コミカライズ)はファンギルドとの2社共同事業プロジェクトで、アニメ化によって原作の売上を上げる事を目指した作品です。こちらも5分で12話というボリュームです。数字は言えないのですが、TVerでの再生数が今までの作品の中で群を抜いている作品です。(ポーション・魔物喰らい等の2倍)
――:しかしマンガ→ライトアニメ化だけでなくWebtoon→ライトアニメ化も積極的なんですね。基本は全部「アニメ製作委員会」モデルですか?
ビジネスモデルでも様々な取り組みをはじめてます。『陛下私を忘れてください』(DNPの縦読みレーベル「ホンコミックス」2024年~連載、2025年アニメ化)ではDNPで費用負担をしてスピーディーにライトアニメ化、社内的には「出版売上」と「映像収益」の二軸で回収する、というモデルもやっています。陛下においては原作の売上が初動で2倍以上になりましたので、社内の原作側のチームとも成功事例としてまた。他作品でも実施を予定しています。
――:『#神奈川に住んでるエルフ』(Pixivコミック2020~連載、アニメ化2025年)もすごいですね。
この作品はだいぶ尖ってますね。TVK(テレビ神奈川)さんと組んでやっていますが、声優も作曲家も、すべて神奈川出身ですからね笑。タイアップもすべて神奈川しばりでやってますし、こういうエッジのきいた地方創生作品などもライトアニメに向いています。
――:地方創生向いてそうですね、『お前はまだグンマを知らない~令和版~』(BUNCH COMICS2013~19年連載、アニメ化2018)なんかもTVアニメ化したものが、あとからライトアニメ化したりもするんですね!?
はい、数千万円の委員会でのスタートでしたが、こちらも面白い事例です。様々な形で自治体とのコラボが進んでいます。アニメ1話未満のコストでビジネスを組み立てられるというのがライトアニメの良いところかと思っています。
――:これはビジネスモデルとしては何で稼いでいる状態になるのでしょうか?
通常のアニメ製作委員会のようにDNP主幹でコンソーシアムを組んで、その数千万円の費用も分担しています。基本的な収支は映像売上に依存しています。海外番販はAvex出身で海外経験のある方にもお任せしていまして、Anime JapanやTIFFCOM、Anime Expoなどに出席して過去の彼のネットワークで海外番販をやってくれており、普通のアニメのようにセールスをしています。
――:このサイズ・費用のアニメでも「波代」(CM枠代をアニメ製作委員会サイドがTV局に対して支払う)を払うんだなというのはちょっと驚きました。
YouTubeに無料配信するのではなく、旧来のメディアで放送する、配信する、ということがユーザー層を広げますし、国内配信・海外配信にも効いてくるからです。5分枠・15分枠などですと波代といっても1クール数百万円なので、そこまで高いものにはなりません。最初からライトアニメの製作委員会にも様々な放送局さんが入ってくれるようになってきています。
――:前職で販促用に「ガルパピコ」といった“ミニアニメ"もあったんですが、10年前だと「30分フォーマットじゃないと放送・配信が買ってくれない」という実感なんです。
最近は短いからダメということはないですね。『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつら』も20話で30分とかじゃないですか?プラットフォームによっては複数作まとめて買ったり、1話に数十万円つけてくれたり、といった変化もあります。
もちろんほかのトップ級アニメのようにMG(ミニマムギャランティー)が何億円も、みたいなケースにはならないんですが、結果的には視聴されるのでその後のレベニューシェア(視聴ボリュームに応じて一定期間がたつと視聴量に応じた配分が入る)で十分回収できています。
――:この座組づくりは、どうやってやってるんですか?いま6人のメンバーは全員がアニメ業界素人、なんですよね?
気合、ですね笑。何のコネクションもなかったところから出版社・動画PF・テレビ局にアプローチをして。最初はCBC(中部日本放送)さんから2021年のニュースリリースを見てアプローチを頂いたりしました。TVK(テレビ神奈川)さんもとても熱心なのですが、東京キー局だけでなく地方の放送局からも反応が非常によいですね。既に7社程度は提携した実績がありますし、キー局からもお話を頂くことはあります。テレビ局も各社「アニメ」に力を入れていく方針のところも多いですが、そのPoC的な建付けでご利用頂くことも多いのかもしれません。
■「早い、安い、上手い」アニメに対する業界からの反発
――:ライトアニメの制作工程がどのくらいセルアニメとちがうのかを知りたいです。
通常のセルアニメでの「プロット」「シナリオ」「設定・デザイン」行程はすっとばして「絵コンテ」から始まりますし、絵コンテからコンポジットまでの過程が本当にシンプルです。通常のアニメであればアナログ/デジタル/3DCGでそれぞれで作ったものを工程管理して組み合わせてコンポジットするのですが、このプロセスでアフレコも楽曲制作もやってしまうので、コスト1/5ということは関わっている人数・時間がそのまま1/5のサイズで出来てしまう、ということなんです。

通常のセルアニメ制作工程引用
第2回:アニメーションの制作工程とプリプロダクション | アニメーションの作り方 | AREA JAPAN
――:「つくれるスタジオが足りない」制作側の事情もあるのでしょうけれど、逆にユーザー自体の嗜好の変化も影響しているのでしょうか?
それはありますね。テレビの前でじっくり視聴する「体験重視」だったものが、スマホで隙間時間にアニメを視聴してしまう「消費重視」になっている。それに対してアニメ化は1-2年どころか、制作体制が需要においつかずに今は1作品つくるのに3-4年もかかるようになってきている。そういうなかで「本来はアニメ化できるポテンシャルがあるのに実現できていないマンガ・Webtoon作品」が大量に生まれている。その隙間をライトアニメは取りに行ったということだと思います。
――:アニメ業界からはどのように受け止められたんですか?
最初は「あんなのアニメじゃない」とよく言われましたね笑。でもやっぱり会社さん次第ですよね。テレビアニメ放映前にアニメ業界で有名な方に事業プレゼンをしたんですよ。余りにもトップの方なのでお恥ずかしく、その時にテレビアニメ用のサンプルをお見せする場面で2分くらいでさくっと切ろうとしたら、「いや、もうちょっとそのまま見せてください」と言われて…そのまま10分間静止です。そして一言、「これ、作るの大変だったでしょ?」と。
すごいですよね、一方で1話1億みたいなすごい作品をつくっている方が、こちらの1話数百万円の作品をそのように評価してくれるわけですから。その折にはどんな作品に対しても1話に数千万円をかけている状態はサステイナブルではないし、業界的にはこういうアプローチもあるべきだと思っている、と率直に話していただきました。また、アニメをたくさん作っている会社ほど「クオリティを重視するあまり、悪くないけどボツになってしまっていた企画」も山ほどあるわけです。それがライトアニメなら作れる、ということで今実際に一緒に企画を進めています。
――:AIではあれだけ反発が大きいアニメ業界で、なぜ「ライトアニメ」に関してはそれほど受け入れられたのでしょうか?
「アニメーションの未来をつくる」という“大義"が受け入れられたからだと思います。ユーザーも早く、短く、でないと見ない時代になってきていて、ちょうど「ファスト映画」というものも流行していた時期でした。そういう時代に対応せず、いまだにアニメはずっと1話30分のテレビ枠に縛られたままだよね、ということに業界も業界で課題を感じられていたように思いました。
3つの壁があると思っています。「はやい、安い、上手い」で、早さと安さは最初からそれなりに担保できていたのですが、それでも「上手い」を作るためには我々ももっとブラッシュアップしていかないと、と思ってます。
・・・あと、我々の作品は作画崩壊がないです。笑
――:AIの利用についてはどうお考えですか?
そうですね、研究は進めてますが、現状ライトアニメはAIを使っているわけではありません。次年度有名な著者さんと実験的な取り組みをやる予定です。このあたりにはついてはAI使用に対する著者さんのご意向次第というところがあります。
当社としても研究目的でのサンプル作成は何度か行ってみたのですが、AIもAIで「ガチャ性」があるんですよね。意外に制御が難しくて、結局は手間が増えたり。ちょっとずつ取り入れていこうとは思っていますけど、時間をかけてAIとの共存を図るしかない。感覚的な事を言うと、原作の作家性やアニメーションとしての監督性を担保しつつ「映像作品」として生み出せるかというのが、まだ未知数です。様々なAI企業からの売り込みも私のところに来ますが、ライトアニメの製作手法の方が現状は安くてクオリティーが担保できるというのが実情です。
■絵本とBLが熱い!ちいかわとONE PIECE以上に見られているBLライトアニメ
――:他にどんなジャンルのライトアニメ化がホットでしょうか?
いま力を入れているのは、実は「絵本のアニメ化」と「BLのアニメ化」なんです。
――:絵本!?
2024年からはじめた「えほんアニメシリーズ」はNetflixにも配信されています。2-10分で50本といったボリュームで、こういう作品って1本100万円未満でつくるんですけど、それを数十万/年で売ったりするんです。意外に劣化しないのでその後もずーっとみられるんですよ。だから数億円みたいな派手なディールではないんですけど、実はつみあげるとよいビジネスになったりします。今はNetflixさんに50本、他の動画PFさんに50本程度の映像を流しています。

――:昔から「教科書」や「参考書」が出版社の一番の商売だった点とつながる話ですね。
そうなんですよ、「えほんアニメシリーズ」はいま100本まで制作を増やしている状態ですし、実はこういう映像って今全国各地の図書館が「うごく絵本」として2週間単位の貸し出しもしています(2週間たつと自動で返却される)。DNPグループの図書館流通センター(TRC)を経由して配信されているので、グループとしてのシナジーもあります。
今度「ゆるゆる恐竜図鑑」(学研)をテレビ東京さんで放送する予定です。声優も恐竜大好きな新田恵美さんを起用したり、本格的ですよね。商品化には楽天さんが入ってくれていますね。1分半アニメで60話以上をつくって、それでも映像制作費は全部でアニメの1話にも満たない程度です。波代を入れて、全部でアニメ1話分程度の委員会を構成しています。テレビ東京さん、楽天さんと、イマジカインフォスさん&DNPの座組です。こういった「賞味期限が長いコンテンツ」にもライトアニメは向いています。
――:教科書のアニメ化、は確かに完全にホワイトスペースですね。歴史系とかもありですか?
歴史系だとちょっと海外で広がりにくいので、いまのところは科学や実験などの理系コンテンツ狙いですね。学研さんは「最強王図鑑シリーズ」もありますし、もっと広げられると思います。学研さんの書籍自体をDNPで印刷しているので、こちらでアニメが当たるとその本の重版や書店含む流通における利益拡大にもつながります。両社にとってプラスしかない事業ですね。
――:そして気になるBLアニメ、というのは?
特にBLはいま一番反応がよくでてますね。「BALLOON」という共同プロジェクトにして、DNP、イマジカインフォス、サイバード、BLUE RIGHTSの4社共同でやっています。2026年7月からリリースされた『パーフェストアディクション』が成功事例です。5分×12話なんですが、こちらはもともとBLマンガとして4巻発売時に150万部売れていた作品でした。
FODの2026年7月の視聴ランキングを見ていただくと、1位『クレヨンしんちゃん』と3位『ONE PIECE』4位『チイカワ』5位『鬼の花嫁』の間に輝くように2位『パーフェストアディクション』、という順番です。

――:えええ!?これ何かバグってませんか!?笑
視聴者層としては絶対的にニッチなんですが、たぶん視聴のエンゲージメントが異様に高いんだと思います。モノも場所と出し方によってはこんな現れ方をするという好例で、我々もビックリでした笑。
ちょうど3か月前ですが、日中国際アニメ映画祭で「ショートアニメの可能性」として講演させていただきました。BLのアニメ化は本当にポテンシャルが高いと実感しています。
■競合が入りにくい「出版社の信用」。ライトアニメが年1000本のアニメ産業を“補完する"
――:逆にいいことづくめのライトアニメ化ですが、逆に年間50~100作にしていくために何がハードルになっているのでしょうか?
まだ著者の方々も「普通のテレビアニメではなく、ライトアニメでやります」というのは納得しにくい状態をありますよね。願ってもないアニメ化の話だけど、できればもうちょっとA級アニメからの提案を待ちたい、という声も事実ありましたし。逆にWebtoonだったり、特にさきほどのBL領域などは放送・配信への配慮をするとアニメ化しにくいので、お話しにいくと大変友好的で「ぜひ!」という感じでした。
――:たしかに「ライトアニメ化」してしまうと、一番大事な商流がつぶれることにもなりますしね・・・
いやいや、これは大事なところなんですけど、この「ライトアニメ化」というのは、その後の「テレビアニメ化」権とは別でして、弊社はすべての作品で「テレビアニメ化」の権利を手放しているんです。フリーでそのあとにテレビアニメ化いただいて構いません、と。だからむしろライトアニメをステップにして、次にクオリティ高い本丸のテレビアニメ化していただくことも大歓迎なんです。近い将来、そういった事例もでてくる予定です。
――:なるほど!そうか、ライトアニメはそういう意味でも「補完」なんですね。
ライトアニメは決して単独で成立している市場ではありません。我々は「アニメブームに相乗りしている」と解釈しています。本丸のテレビアニメがグローバルでも絶好調で需要が高いからこそ、サブラインのライトアニメも近い位置づけとして受け入れられる。期待値を下げながらも、それでも作品のアニメ化に高まる需要には十分に応えることができている。
――:ここまで伺っていて不思議なのですが、競合がはいってこないのはなぜなのでしょうか?
これは面白いポイントかもしれません。「ライトアニメ」という言葉は使わずとも同じような取り組みをしていたベンチャーもあるんですよ。
でも技術的な難易度ではなく、商流としてこの事業の難しさがあるんです。それは「出版社からデータを預かる」というところで高いハードルがあるんです。信用問題もありますしね。そこでのDNPの強さというのは、私自身そこまで自覚していなかったんですが、実は出版社さんの出版物のデータは「ほとんどすでにウチの中にある」状態なんですよ。DNPは印刷屋としてそれをすでに預かっている。これが絶対的な参入障壁になってますね。DNPという企業が長い歴史で築き上げてきた出版社さんとの信頼がこの事業の核となっています。
――:それはすごいですね!個人的には端山さんが飄々と5年でここまで事業を社内起業でたちあげられて成功していることにも驚きます。伝統的な大手企業でなかなかこんなにキレイに新規事業って立ち上がらないですよ。
もともとポジティブで心は強い方なんだと思います笑。でも自分の思っていた仮説が間違っていたら業界にも応援してもらえないし、仲間も増えないはず、、、と思っていたので、この5年間なんだかんだで協力してくれる会社さんが仲間になってどんどん増えているんですよね。お話する出版社さんも全般的に好意的な反応ですし。だから最初の仮説がちょうどピッタリ市場に合っていたんだと思います。昔の資料をみてると気合で駆け抜けてますし、悩む時間があったら外の会社さんにどんどん当たってきた5年間でした。

――:DNPの事業部としての収益化プレッシャーはないのでしょうか?
そうですね、2026年は収益の実績も大台にのりましたし、そちらは毎年増収増益状態ではありつつ、もう一息頑張らないとという印象です。出版・印刷部門とのシナジーもありますし、単純な事業部の利益だけではなく長期的に取り組もうという感じになってます。
――:最近は広告代理店も総合商社もアニメ事業への参入・再参入を積極化しています。そういったところとはライトアニメはかちあいますか?
どうなんでしょうか、総合商社からすると投資額が小さすぎて難しい、となるかもしれません。スケールをもとめすぎるとライトアニメは厳しいんです。あくまで「早い、安い、上手い」ですから・・・笑。
――:なるほど!「商社が入れないくらいの粒感」に「印刷会社としての参入障壁」があって、「アニメ製作本数を増やす“大義"」と、めちゃくちゃいいポジションですね。ぜひ「ライトアニメ含めてアニメ年1000本市場」を実現してほしいです・・・!
がんばります!

会社情報
- 会社名
- Re entertainment
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 中山淳雄
- 直近業績
- エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
- 上場区分
- 未上場