taskey―テンセントも惚れた日本のIP原作会社。創業者兼作家の大石ロミーが見出した新境地 中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第118回

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
/

私がtaskeyの社名を知ったのは2018~19年ごろにマンガアプリ、小説アプリ、動画配信アプリなどが隆盛を極めるなかで「チャット小説アプリ」を展開していたpeepから。当時は小説作品を展開する一アプリ事業者にすぎなかったが、2021年にテンセント出資。2023年までの累計調達額が「21億円」と20~30名のベンチャー企業としてはずいぶんな高評価を得た勢いに乗じて、2021年からWebtoon制作スタジオに乗り出す。当時、ピッコマが日本で急上昇したのをきっかけにSORAJIMAを旗手としてベンチャー各社がWebtoon制作に乗り出した時代であった。そんな彼らが直近では「マンガ」を基軸にした原作展開で勢いを増しているという話を聞きつけ、「小説投稿」「マンガ」「Webtoon」事業の現在地についてインタビューを行った。創業者の大石氏は作家としては「監禁区域レベルX」、編集者としては「小悪魔教師サイコ」などを生み出す“クリエイター経営者"でもある。

 

【主な内容】
小説の会社から原作→小説→マンガ・アニメの会社へ。コミカライズ率50%の高ヒット率
熊本生まれ熊本育ち。家入一真スパルタキャンプを経て上京しtaskey創業
2015年小説投稿サイトtaskeyスタート、賞を総ナメする作家&創業者は超マーケター
2018年『監禁区域レベルX』バズって一気にLINEマンガ、ピッコマに次ぐ3位のアプリに。しかし限界をみたノベルの「天井」
青い鳥症候群。日本IPの一番の土壌はWebtoonでもノベルでもなく横読みマンガだった
目指すはKADOKAWA。クリエイター大国「九州」が生む最大の物語クリエーションカンパニーになる。

 

■小説の会社から原作→小説→マンガ・アニメの会社へ。コミカライズ率50%の高ヒット率

――:自己紹介からお願いします。

大石弘務(おおいし ひろむ)と申します。2014年にtaskeyを創業して、現在CEOをしながら大石ロミーの名前で作家活動をしております。

――:taskeyさんはチャット小説(チャットのように会話形式で話が進む小説)業界のトップ企業で、2017年から「peep」をアプリ展開されてきました。下記の図が中山の理解なんですが(Chatnovelはテラーノベルを展開する株式会社ピックアップに2021年買収)、合ってますでしょうか。

そうですね、この通りだと思います。自社で内製で展開するノベルが中心のpeepと、CGM(消費者生成メディア)でエブリスタなどのように投稿型が主体のテラーノベルさんでポジション違いますし、こんな感じかと思います。

 ※peep:(投稿型ではなく)オリジナル作品のノベル・マンガのみの自社プラットフォームで累計400万ダウンロード突破。Google Playベストオブ2019エンターテイメント部門を受賞。対話型のチャットノベル、映像付きのシネマノベル、Webtoon、横読みマンガの4種類のコンテンツにアクセスできる。

 

――:この業界はベンチャー3社がひっぱってきた印象ですが、大手は参入してこなかったんですか?

GMOも参入したり、ベンチャーだとFOWD社のBalloonとかありましたし、それなりに競合はいたんですよ。ただ結局「チャット小説だけでIPになるのかどうか」とか、「市場サイズが小さい」などの問題もあり、(テラーノベルはDMMさんの子会社ではありますが)基本はベンチャーだけがサバイバルしてきた市場ですね。

――:どんなジャンルの作品を作られているんですか?

弊社は4つのジャンルごとにレーベルを分けて作品展開しています。「少年マンガ系」「青年(ホラー/ミステリー)系」「ロマンスファンタジー系」「現代恋愛系」で、ちょうど1年ほど前からレーベル別運用をはじめてます。

現在は300名ほどの作家が所属しており、peepで書いた小説・原作を使ってその後コミカライズをしてLINEマンガやピッコマなどのマンガプラットフォームに展開していきます。

――:なるほど、小説だけじゃなく「マンガ制作スタジオ」でもあるわけですね。

はい、「peep」はあくまでD2Cで自社が直販できるプラットフォームで、最近は「ノベル」じゃなくて「マンガ」も「Webtoon」も読めるアプリになっています。ネットカフェの快活CLUBなどでも導入いただいて読者を増やす取り組みも展開しています。

taskeyの観点でいうと作品発表の場は自社のpeepだけではなく、めちゃこみ、LINEマンガ、コミックシーモア、ピッコマなど「他社プラットフォーム」で展開をしており、売上の主軸はこちらがメインですね。デジタル出版は自社でやってますが、紙マンガ自体は他の出版社さんにお願いして出していただいている状態ですね

――:なんと・・・知らなかった。確かに「peep」も久しぶりにみたら、「ノベル」よりも「マンガ」のほうがもう目立つ作りになってますね。今、会社でいうとどのくらいのサイズなんですか?

今、正社員のみで35名くらいですね。現場は①「原作開発チーム」と②「マンガチーム」の二班体制で、それぞれ10数名ずついる状態なのですが、①は僕自身がトップをやっていて原作をつくってプロットまで全部内製で作ってしまっています。そしてプロットが固まってから、小説家や脚本家と形にしていくんです。LINEマンガやピッコマなどプラットフォームごとに売れ筋が違うので、それぞれどういうものが当たるかを言語化しています。市場を分析し、作品を社内で企画開発する点で言えば「編集」というよりは「商品開発」という工程に似てますね。入社する人も大手出版社の編集者、とかではなくて、むしろ未経験の人も多い。

逆に②「マンガチーム」はそうやってできた原作のコミカライズが担当です。

コマ割り、絵づくり、作品の磨きこみを担当します。漫画家・イラストレーターをスカウトして、作家を決定し、作家と二人三脚で原作開発チームが制作した原作をさらに売れるマンガとして練り上げて、広告やプロモーションも意識しながら、デジタルコミック市場にフィットさせていくチームです。

――:編集もクリエイティブに介入している作り方なんですね。Webtoonだけじゃなく、マンガもノベルも分業体制というのはちょっと独特ですね。

はい、マンガについても分業制を取ることもあり、ネームだけなら担当できますのような作家さんのご要望にお応えできます。

分業制を取っているのは大手出版社と比較して後発の我々でもマンガ事業を進めるためにはどうすればいいか考えた結果です。社内にマンガづくりのノウハウが蓄積されているので、経験のない作家さんでもご一緒することができます。

――:どのくらいの作品数をこれまで作ってきたのですか?

現状はノベルが500作(短編のものなどもいれると2500作までいきます)、コミカライズが自社だけで約40作品、他社協業を含めると約100作品、地上波ドラマやボイスコンテンツなどメディアミックス化した作品が40作品ほどです。コミカライズ自体に力を入れていったのは3年前なので、直近でいうとだいたいノベル作品の50%がコミカライズしています。

――:コミカライズ率50%、めちゃくちゃ高くないですか!?そして500作のノベルじゃなくて、100作品あるマンガが一番の主力事業なんですね。

はい、会社の売上の多くはマンガです。まだマンガ事業は開始して3年程ですので巻数も少ないですが、それでも巻数積まれれば積まれるほど売上が累乗的に上がっていく。現在コミカライズされた作品は約70%以上がリクープしていて、その累積の巻数が会社の成長と比例しています。

――:なるほど、ヒット率の高さは出版社として考えると出色ですね。ノベルの半分がコミカライズ、その7割が収益化できている、でいうのは私がいままで聞いてきた中でも相当な高確率です(雑誌で売れた作品を展開するコミック化も3巻くらいまでで終了するものが多く、大半は赤字という状態と聞きます)

そうですね、うちの場合はノベル10作つくると、マンガにコミカライズされるものが5作。そのうち3-4作が1年以内に黒字化という状態が続いてます。あとは量産体制を敷いて加速するフェーズになってきているので、現状は社員35名ですけど2025年は追加で20~30人名くらい編集チームを増やそうとしているところです

――:ここから1年で50名超に増員予定なんですね。しかし、老舗のマンガ出版社も乱立する中で、なぜベンチャーのtaskeyがこんなにヒット率が高いのでしょうか。

弊社もいろんな試行錯誤をしてきたんですけど、「チームを分けた」ことが一番の鍵でしたね。①売れる企画を生み出す原作チームのマーケティング的な業務と、②作品の質を磨き込むマンガチームのプロダクトマネジメント的な業務は全然別種のもので、それぞれがノウハウを共有しまくっています。全社員誰もが毎週アップデートされた社内データにアクセスし、それをみながら常に数字を改善していく。商品開発と商品運用をひたすら高速回転をしているので、「傾向と対策」じゃないですがマーケットとの向き合い方が磨かれていくんですよね。

 

 

■熊本生まれ熊本育ち。家入一真スパルタキャンプを経て上京しtaskey創業

――:ちょっと現在に至るまでの経緯をお聞かせください。大石さんはどういう学生時代だったのですか?

1990年に熊本生まれ熊本育ちで、大学もそのまま熊本大学でした。小学生のときからマンガかいたり小説書いているような子供で、Yahooメッセンジャーで友達にメルマガのようにシェアしていました。昔からアニメやマンガも好きで中学生の時はフィギュアをよく買っていました。

――:完全インドア派ですか?

唯一高校のときだけラグビーやってましたね。入学したときに「走らなくていいスポーツだから」って言われて。とんでもない大嘘ですよね笑、知らないほうもどうかしてましたけど。ヘッドギアつけてマウスピースまで買って3年間続けて県大会上位の強いチームになっていったんですが、大学時代では絶対もうスポーツはやらない!と思って軽音部に入ってます。

――:たしか大学時代に起業もされてましたよね。

そうなんです。教育学部だったので、教師になるか地元に就職するかみたいな選択肢の中で、大学2年のときにちょっと一回くらいは事業をやってみたいなと。まだスマホが普及する前の2010年ごろで、ホットペッパーを参考にしながらフリーペーパー事業を始めました。どうやらイラストレーターとフォトショップが必要らしい、と勉強しながら、友達誘ってサークルのような形で営業して。それが結構うまくいったんですよね。熊本で3万部発行の媒体にまでなって。

――:凄いですね。なにか親が事業していたとか、身近に「起業」を促す存在がいたんですか?

いや、親は普通の会社員でしたし、起業しているような友人もいなかったですね。ただ「1時間という貴重な時間を1000円で売っているという感覚をもって、学生時代を無駄にするな。本当にやりたいことをやってもらって構わない」みたいなことを言う親で、僕はまともにバイトもしたことないんですよ。そういうところは影響があったんじゃないかと思います。

――:経験もツテもないなかで、いきなり学生起業するの凄いですね。

「君は本当に学生か?」と言われるくらい、営業して広告とってくるのは最初から慣れてましたね。人前で話すのが結構すきなのと、色々研究しながら人の口説き方を自分なりに工夫するのとか、結構得意だったんですよね。定期発行で毎回3万部、それだけで地元の企業広告300万円くらいついてましたが、その半分くらいは僕が営業して取ってきたものでした。

その後ももうフリーペーパーの時代は終わるなと思って一旦システムの開発受託とかにシフトしていたんですが、プログラミング分からないので工学部の勉強会にもぐって、自分も勉強しながらイケてる人に声かけて一緒にECサイトつくったり、飲食店のホームページ作ったり。

――:人を巻き込むのが得意ですねえ。そこまでが20数年ずっと「熊本」なわけですよね。どうやって東京に出てくることになるんですか?

家入一真さんなんですよ、きっかけは。ちょうどLivertyというコミュニティつくって日本全国で講演活動をされていて、その時に「東京にはVC(ベンチャーキャピタル)というものがあるんだ」とか起業家界隈のいろんな話を聞いて、触発されて沖縄で開催される起業家育成プログラムに申し込むんです(のちに「スパルタキャンプ」と呼ばれる無料の起業家育成スキーム)。

 

※家入一真(1978~):連続起業家。2001年に“新聞配達少年"という意味のPaperboy&co.(現GMOペパボ)を起業し、レンタルサーバーやブログサービスを展開。2004年にGMO連結子会社化、2007年に上場させる。「引きこもりから社長になった男」など話題になったが、カフェ・レストラン事業を9店舗展開したパーティーカンパニーの経営難などがあり2011年3月ペポバ退任。“すべてを失ったどん底状態"から、2011年6月にCAMPFIREをリリース。2012年にLivertyという企業ではないスタートアップコミュニティを設立し、その後creww、BASEなど続々起業する。その人が起業家育成の「スパルタキャンプ」で4週間の超短期でスマホアプリが開発できる人材育成を目指すプログラム。

 

――:地方から生まれるベンチャーって珍しいんですよね。家入さん自身が福岡から生まれた珍しいベンチャーだったのと、2011~12年、ちょうど彼が様々な“失敗"をしていて手探りしていたタイミングが大石さんの人生とバッチリ合った感じですね。

その沖縄のキャンプに参加しなかったら、その後東京に出てきてtaskeyを創業するなんて考えつかなかったですね。20名だけが選ばれた少人数のチームで沖縄に籠り1か月、そこにはKOZO(のちのメルカリ)創業メンバーやツイキャスの社員などもいて。思ってみると、平日に1か月空けて沖縄にくるって普通の会社員じゃ無理ですよね。相当覚悟がキマッたやつらが集まっていた時点で、刺激がある環境でした。

そこで出会ったのが沼澤さんです。3つ年上の彼は慶應出身で在学中に公認会計士の資格をとりそのままKPMGに入社していたような「絵にかいたエリート」。起業家キャンプで出会い、taskeyを共同創業しました。

――:あちらも大石さんにビビッときたわけですね。

彼は途中で暗号通貨系のスタートアップを創業し別れてしまうのですが、「俺の人生における成功は、キミを東京に連れてきたことだ」って今でも言ってくれるんですよね。そのくらい当時、熊本から意を決して見ず知らずで大学経由ですらない東京に移住するというのは覚悟がいることでした。

――:わかります。地方学生が東京の大学も経ずに上京するハードルは「海外移住」と変わらないですよ。

 

■2015年小説投稿サイトtaskeyスタート、賞を総ナメする作家&創業者は超マーケター

――:実際に事業としてはどうやって立ち上げていくんですか?

沼澤さんが会計士だったこともあるし、最初はフィンテックでQRコード決済に関わる事業も考えていたんですよ。当時「グローバルをとるなら、フィンテックかエンタメだよね」という議論になっていて。ただ僕自身はエンタメのほうが造詣深かったし、フィンテックのような初期投資も大きくはなかった。じゃあまずはエンタメの小説投稿サイトから始めよう、ということでtaskeyという小説投稿サイトを展開したのが2015年2月です。資金調達もすることなく採用もすることなく、2人で事業を立ち上げました。

――:2015年か。小説投稿サイトってすでに結構ありましたよね?

「なろう(小説家になろう)」とかアルファポリスがありましたね。『Re:ゼロから始める異世界生活』や『オーバーロード』もアニメ化進んでましたし、「今更投稿サイトって・・・」という周囲の反応もありました。いったん戦略とかそういったものは一切関係なく、世界中で広がる作品を作っていこう、という気持ち一つでスタートしています。

競合サービスの研究がてら自分自身も小説を投稿していました。エブリスタやcomicoなどで投稿して腕前を磨きながら、実際に「作家」「原作者」として活動もしていたんです。

――:大石さんってそういえば石田衣良さんに弟子入りもしてましたよね?

石田衣良さんの塾に入るんですよ。2016年ごろだったかと思いますが、半年かけて小説の書き方教えます、というもので1000名くらい応募あったなかで5-6人に選ばれて実際に直接教わりました。「ギャップのある主人公を出して、それで物語作ってください」などお題にあわせて執筆して、「初心者は1人称じゃなくて3人称で進めたほうがやりやすいですよ」などいろいろなアドバイス受けながら1作品書き上げるんです。

小説はだいたい10万字、まずはそれを書ききる、というハードルでほとんどの候補者がこぼれてしまうんです。そのときの作品がよしもと×Amazonでの『原作開発プロジェクト』のコンテストで大賞を受賞し、“大石ロミー"としても初めての著書として『エスカレーターボーイ』という作品も出版しました(2017, Amazon)。

――:すごいですね!起業家だったのに、そのまま作家デビューしちゃうんですね!?

小説や文学がどういう考え方が作られているかを学ぶのによい機会になりましたね。

でもそれらを経験した上で、僕としては「自分は文学じゃないな」と思うんです。文学の世界って経験を重ねるほど“よい文章"になっていくんですが、僕の想定していた若い読者層とは乖離してしまう。僕はもっと広く読まれる大衆的な文章を書きたくて、そうすると「地の文」をどんどん削って短く短く、ライトノベルの会話劇のようなもののほうが広がるんですよ。

――:しかし、さらりとおっしゃってるんですが、そもそもなんでこんなに「(起業家キャンプ、石田塾で)選ばれる」「賞を獲る」をサクサクとできるんですか?

文章書くのは昔からホント得意なんですよ。それも別に家にこもってコツコツという感じではなく、もっと営業的・マーケティング的というか。小説塾でもcomicoでも「人がなにを言ってほしいかを見つけ出すのが得意」で、それぞれの賞の傾向をみていると、求めていることが見えるんです。ちょっと言えないんですが、●●での原作者賞もらったこともあるんですよ。

――:ええーー!?トップ出版の賞じゃないですか!?なぜそのまま原作者にならなかったんですか??

生意気にも「コミカライズは確約ですか?そうでないなら受賞はいりません。ただ賞金もらっても仕方がないので」と、断ってしまいました笑。

でも僕個人は作家として成功するを求めているわけじゃないんです。ずっとゴールとして掲げていることがあって、それは2014年に創業した時から同じ。「21世紀、世界でもっとも読まれる物語を生み出す」、これがtaskeyとしても社是になっています。それは文芸に限らず、大衆向けラノベでもマンガでもWebtoonでもいい。形式はとわず、とにかく今世紀で一番読まれる物語を作りたかった。だから色々応募したりマーケティングしているのはそのゴールに向けて実験しているだけなんです。

――:世界一読まれている物語、でいうと「ハリーポッター」なんですかね。

どの観点でみるかによりますよね。1冊だと『ハリー・ポッターと賢者の石』の1億部なんですが、シリーズでいえば20世紀は『指輪物語シリーズ』2億部のほうが大きいです。21世紀の作品、として比べると1997年発のハリー・ポッターシリーズはたしかに断トツ1位なのですが、単一書籍として考えちゃうと『ダヴィンチ・コード』の8000万部がこの25年ではトップなんです。でも小説だけでいいのかというと、『ONE PIECE』の5億部もありますしね。

厳密にその一つ一つの数字を抜くことよりも、いつも21世紀というのがどの媒体・どの形式で一番多くの人が作品に触れるだろうということを考えて、とにかく世界一を目指そう、という感じでやっています。

――:チャット小説のアイデアはどこからもってきたんですか?

「Chat Fiction」というのが米国で流行していたんですよ(2015年にHookedから始まり、2016~17年にApp Storeのランキングでも上位にあがってきていた)。それで2017年に「peep」としてアプリサービスを立ち上げました。ちょっとだけ先に「テラーノベル」(DMM)が出ていて、直後には「CHAT NOVEL」が出てきました。

この時点で沼澤さんが抜けていて、2人だけのド・ベンチャー。はじめてVCからの資金調達もして、第二創業期のような状態で2017年が始まりました。

 

 

■2018年『監禁区域レベルX』バズって一気にLINEマンガ、ピッコマに次ぐ3位のアプリに。しかし限界をみたノベルの「天井」

――:peepはどうやってスタートするんですか?

peepで200作集めないといけない、というところから始まって、知名度もないのにそんなに集まるはずもないんですよね。それで「足りない分は自分で作ろう」ということで、短編100作作りました。そのうちの1作が『監禁区域レベルX』で、大ヒットとなりました。

※監禁区域レベルX:2017年12月に「peep」でリリース。2020年に講談社や双葉社「Webアクションコミックス」よりコミカライズ本が発行。2024年アニメ化(1期:6話、CBCテレビ)、2期アニメにもつながっている。

――:創業者が作家って強いですね・・・100作作れる量産体制もすごいですが。

秋元康さんとか鈴木おさむさんとかにも近いですよね。ヒットメーカーの人たちってラジオとかテレビでとにかく放送作家として大量のアイデアを出し続けていた人が多い。大ヒットはやっぱり究極的には数によって生み出されるものなのだと思います。

200あってもこの作品だけクリック利率も課金率も高かったので、それじゃあこの1作を看板にして広げていこう、としたところで2018年。ゲーム実況のキヨ。さんが実況配信した動画「YouTubeの広告で流れていた怖い話『監禁区域レベルX』」が急激にバズってpeepはサーバーダウンしました。

――:1400万回再生!というかキヨ。さん、ゲーム実況界でトップの人ですよね。そのゲーム実況者の動画の中でも、この動画はトップクラスの再生数ですね・・・。

はい、2017年12月からのサービスでしたので、約半年強したところで偶然取り上げてもらったこの動画1つでサービスが急進しました。この作品も長編化してマネタイズのための接点を増やしていったんです。AppStoreのブックカテゴリーではLINEマンガ、ピッコマときて3位peepというところまで上り詰め、まだ当時27歳の自分としてはなかなかよい起業スタートができたなあという感じでした。

――:ただ資金調達といい、社員の増やし方といい、事業の大規模化という面では大石さんって結構慎重ですよね。

たしかにこの2018年時点でも社員はだいたい4人くらいでしたね。当時はサブスクベースで退会率も高かった。そこで毎週自分が面白いものを“連載"として書いて、ユーザーを自力でひっぱっていくしかなかった。

今に近いサイズになったのは2019年で、ここから社員を増やし始めて1年で20人越えくらいでしょうか。ただここで僕は「小説市場の限界」も見たんですよね。

――:なるほど、それが小説→マンガの流れなんですね。

キヨ。さんの効果が薄れてきて、だんだん1ユーザーを獲得するCPA(Cost Per Acquisition:1ユーザー獲得単価)も上がってきました。2019~2020年でヒットした小説でもこのくらいかという売上の天井をみたときに、このままノベルだけに拘っていたら大きくならないなと思ったんです。

 

■青い鳥症候群。日本IPの一番の土壌はWebtoonでもノベルでもなく横読みマンガだった

――:それまでの作品のコミカライズはどんな状況だったんですか?

『監禁区域レベルX』は2020年に双葉社でコミカライズし出版をしてもらっています。当時は自社でマンガをやるつもりがなかったのでどんどん作ってもらってました。『監禁区域レベルX』を筆頭にpeepのノベルを様々な出版社にコミカライズしてもらい、数百万部を突破しました。

そんなときに2021年6月のTencentグループから資金調達が成功します。かなりの金額をいれてもらって資金余剰ができたところで、投資フェーズです。そうした中でWebtoonの話が出てきます。

――:20名程度のベンチャーが10億円クラスの資金調達をして、しかもマンガにWebtoonにと手を広げていったのは衝撃でした。2021年夏にソラジマ社がWebtoonへリソースを全ぶりするところから2022年は「Webtoon新規参入80社!」みたいな状況になっていきました。

2022年8月にコルクの佐渡島さんとお会いして壁打ちしている中で、「Webtoonやったほうがいいんじゃない?」という話になり、そこで5作品作る意思決定をしました。ただ正直、Webtoonづくりは本当にお金がかかりました。本当にいいものを作ろうとリソースの遅れも許容して作り続け、最終的に1話80万円かけるような状況(普通は30~50万円)。

でも蓋をあけてみるとマンガは1巻200万円で出せるのに、Webtoonは1巻まとめるところまでに2000万円、10倍もかかっていた。これは本当にWebtoonでいいのかどうか、と悩み始めるんです。

――:なるほど、ノベルでも「天井」をみて、Webtoonでも「原価の底」をみた感じでしょうか。

アーカイブがあると、話数があるので書店(電子・リアル含め)がプッシュしやすいんです。

でも、Webtoonは原価の問題で早く打ち切りになりがちとなり結果的に課金範囲が狭くプッシュされない状態になる。毎週更新していく中で毎月売上がたたないとリクープもできない。実際にやってみて、並べて比較してしまうと「Webtoonよりマンガのほうがヒット作を生み出し続けやすい」と思うようになりました。

――:Webtoonは結果やってみてどうだったんですか?

別に失敗だった、というわけじゃないんです。我々は得意のホラージャンルでやっていたんですが、プラットフォームからは言われるんですよね。「Webtoonだとホラーは当たらないよ!?」って。ロマンスファンタジーか俺TUEEEしかない中で意地でもホラーで当てよう、として、幸いいくつかの作品がヒットして費用は回収できました。

ただここにきて会社の売上を増やすためにWebtoonを増やすか、別事業にシフトするかで分岐点がありました。すでに「小悪魔教師サイコ」のWebtoon版は100万部を突破する大ヒット作になっていましたし。

――:韓国YLABもあれだけ華々しく上場しましたが2023-25年と期待通りには売上あがらず、むしろWebtoon原作ではなく映像事業など別の形で売り上げ確保している状態です。Kakaoも2023→24でWebtoon事業は減収減益。想定以上に早い突き当りで、Webtoon産業もちょっと一幅しましたよね。

この間、韓国に出張してきて我々も衝撃を受けました。韓国におけるWebtoon市場の成長がそれなりに突き当りにきていて、次のポテンシャルをどこを向いて作っているんだ?と聞いたら「日本だ」と。日本の潤沢な横読みマンガ市場の需要をいかにWebtoonでとりにいくのかを彼らは戦っていて、実は“青い鳥"のように我々の足元が一番リッチな市場だった。だったら普通に横読みマンガで日本市場を攻略するのが一番いいんじゃないか、と。

――:2022~23年はWebtoonブームとも言えましたが、2024年~は中国・米国の勢いとGOKKOの成功でショートドラマブームです。taskeyはなぜショートドラマにはいかなかったんですか?

ドラマ化自体は弊社もメリットがあるのでよく展開しています。『愛人転生 -サレ妻は死んだ後に復讐する-』(2023年6月peep連載、2024年3月マンガ化、2024年9月MBSでドラマ化)ではドラマ化も実現しましたし、ドラマ化するとまたマンガが大きく売上をあげています。

ただ、peepでノベルの間に映像を挟む「シネマノベル」を制作し、プロモーションやマネタイズの検証も行った経験もあったため、ショートドラマに進出しようか考えた時期もあるんですが、まずその課金モデルにハードルがあると思っています。1つは1話60円という感じで単話ごとに課金をしていくモデルなんですが、これってピッコマのように何万作という作品数にめぐまれたマンガだと成立するんですが、正直いまだ数百作しかないドラマでそこまで皆が課金するようになるのかという疑念があります。もう一つはサブスクモデルが始まっているのですが「週2000円」なんですよね。こちらは中国や米国のショートドラマにおける成功事例をそのまま持ってきているんですが、月8000円というのはSVODが1000円の世界においてちょっと厳しすぎる価格設定のように感じます。

中国のReelshort社がよく引き合いに出されますが、彼らのお金の使いどころって原価(作品制作費)よりも、広告費が多いんですよ。大量のお金でユーザーを呼び込んでサブスクしてもらって、月8000円の高単価に支えられて、そのお金でまた広告費につぎ込んで・・・とその形では、10年20年と長期的にビジネスを持続できるかは疑問が残っています。

――:業界をけん引しているのはDramaboxとかReelshortですよね。Reelshort社は2億ドル売上ですけど、たしかにファイナンスはずいぶん挑戦的なことをしています。

あたらしい媒体でコンテンツを作っていくなら、NAVERWebtoonのように10年は赤字を流す覚悟で作家を作って、読者を作って、市場を作っていく。そういう覚悟じゃないと厳しいなかでショートドラマがちょっと短期的な収益化に走りすぎているように感じました。

まだ正解はわからないです。チャット小説の祖であるHookedもショートドラマのほうに振っていますしね。ストーリーテリングをする媒体としてマンガ、Webtoon、ショートドラマ、ショートアニメは形式の違いはあれど同じような顧客層に向けた競合するサービスだと思ってます。グローバルでもNaverが買収したWattpadもあるし、Crazy Maple Studio社のReelshotやDramaboxなども含めて、「21世紀、世界でもっとも読まれる物語を生み出す」ことを目指すライバルだと思ってます。

――:そうですよね。よく中山もtaskey社はソラジマ、Plott、ナンバーナインが創業者の年齢も含めて起業家ライバルという話を聞きます。切磋琢磨することでそれぞれちょっとずつ攻める角度は違いますが「IPベンチャー」に育っていく萌芽を感じています。

 

■目指すはKADOKAWA。クリエイター大国「九州」が生む最大の物語クリエーションカンパニーになる。

――:会社のアクセルの踏み方としてはどうだったんですか?Webtoon手掛けた時期も含めて、赤字でもガンガン攻めていたんですか?

2020~21年は結構アクセルも踏んでいって月数千万円赤字みたいな状態でも売上を伸ばすぞ、というモードになっていました。ただ2023年ごろから自社で手掛けたマンガ事業が華開き、2024年に入ってからは急激に収益化してきていて最近はずっと黒字状態です。今後は作品数と社員をさらに増やすためまたアクセル期に入りますね。

――:IPになるもの/IPにならないものってどういう違いがあると思います?現状Webtoonやショートドラマからは「IPモノは生まれにくい」印象があります。

僕は「IP(知的財産)」と「IPビジネス」がそもそも違うものだと思ってます。例えば最近流行を続ける不倫マンガもIPです。ただそのグッズや作品周辺でマネタイズできるかといえば難しい。世間のいうIPビジネスとはアニメ化してグッズが売れてのようなイメージだと思いますので、「IPビジネス化」できる作品とそうではない作品があるのは事実です。ただ会社として「IPビジネスになるものだけやればいいか」というのが別問題だと思っています。全部ジャンプ王道モノだけやっていてもクリエイターの幅を狭めたり、成長機会を失わさせるだけです。我々はまずはノベルとマンガでヒットをさせることが一番大事なわけです。一個一個のIPを産んで、結果的にその中から珠玉のIPビジネスになるものを発展させていければいいと思ってます。

――:なるほど。そうした中でtaskeyは「原作チーム」「マンガチーム」の分業クリエーションが特別な武器だなと思います。このノウハウにはどうやって行き着いたのでしょうか?

たまたま、ともいえます。peep発で事業がはじまって、ノベルをつくっていたチームがあとからマンガにする必要がありました。だから後付けで「どうやったらマンガにできるんだろう」を頭悩ませていました。だから最初からこういう形が理想だと思ったということは全然なくて、悪戦苦闘しているうちに今の形になったんです。

弊社では「ベンチマーク志向」という言葉が一つのポリシーになっているんです。エンタメの“外側"から入ってくる人間ってけっこうクリエイターを神格化しすぎちゃうきらいがありますよね。そこには特別な経験をもった特別な才能が、一人で籠って天才的なキャラクターデザインや世界観が生まれるかのような。でも基本的にはエンタメってマーケットインでいいんだと思ってます。『新世紀エヴァンゲリオン』だって第一話は結構忠実にそれまでの流行ったロボットものの基本をなぞってますよね。ビジネスがなりたってはじめてエンタメとしてエコシステムが成り立つんだから、お客さんが何がほしがっているかをきちんと見つめて作っていこう、と。

――:でもそれは「KPI志向」とは違うんでしょうか?DeNAもスーパーな統計分析チームがいて週次単位で綿密なデータ成果をみながら、かなりシビアに作品の良しあしをジャッジしてきた。でもそのやり方はマンガボックスを立ち上げた時、編集長に就任したマガジンのヒット原作者樹林伸さんのあり方とは違っていたように思います(結果的にマンガボックスは2021年にTBSに売却)

はい、ベンチマーク志向≒KPI志向ですけど、僕はそこは「ポートフォリオ」が担保することだと思います。プラットフォームの初期って『インゴシマ』(2018~)を代表にエログロ路線が強い作品が数字を上げることも多いんですよ。でもそれだけを追求して全作品がそっちの路線になってしまうと、プラットフォームでめちゃくちゃ偏った色になってしまいますよね。あれだけブランドがあるジャンプ+だって、初期は『終末のハーレム』のようにちょっとエロ色が強い作品が非常に人気を集めていましたよね。KPI志向だったらジャンプ+だってあのままハーレムもの一緒にしちゃっていたと思うんですよ。

でもそこはジャンルごとにベンチマークを決めて、全体的に雑誌・プラットフォームをどうしていきたいかを「ポートフォリオ」で考えるんだと思います。何割、そうした“あそび"をいれてファン層をひろげた媒体にしていくか。

――:なるほど、それで冒頭の貴社の4レーベルの話になるんですね。理解できます。

多くの人はジャンプのように!とマンガ事業に進出してきましたけど、そうした王道コースって広いようで成功作の作品数でいうと圧倒的に狭き門ですよね。今は動画配信も含めて「可処分時間の奪い合い」です。だからロイヤリティを高くずっとその作品についてくれることよりも、まずは見てもらってクリックしてもらうコンバージョンの強さを求める。ピッコマもLINEマンガも転生ものやロマンスものは増えましたよね。僕はそれ自体は悪いことだとは思わないです。

「とにかくクリエイターが創作活動でたべていける環境を第一優先に」というのがあり、徐々にヒットを何本か飛ばしながら、腰据えて挑戦できるタイミングになってはじめて中長期目線でIPビジネスになる王道マンガに挑戦すればよいのだと思います。

――:これはそもそもに立ち返るんですが、なぜ大石さんはこれだけノベルやマンガを生み出そうという起業家になったのでしょうか?

生まれた土地と場所って大きいと思ってるんですよ。小学生の時からボケて人を笑わせるのとか好きだったんですよね、吉本の番組は小さいうちから見ていましたから。聞いた話なんですけど「漫画家はなぜか西日本出身の方が多い」という話があります。『ONEPIECE』の尾田先生も熊本、『鬼滅の刃』の吾峠先生も福岡、『進撃の巨人』の諌山先生も大分なんですよね。とにかくマンガ家は九州や関西出身者が多い(実は私の遠い親戚で熊本出身の大石浩二も『いぬまるだしっ』でジャンプ+でマンガ家デビューしてるんです)。これ昼間から新喜劇をみて育って、ボケとオチを常に求められるのがマンガのフォーマットと似ている、って編集者に言っていたんですよね。それもあんまり都心じゃない、やることのない地方でマンガ描いたり絵を描いたりしていたことが力になるんだ、と。

――:たしかに『かくかくしかじか』の東村先生も宮崎ですね!

じゃあ関東や東北はどうなのかというと、「文豪が多い」んですよね。寒くて室内で過ごすことが多い中で、自分と向き合う小説書きが多くなる。音楽も近いところあるんですよ。北にいくほどヘビメタとかバンドの音って「重たく」なって、南にいくほど「軽い」というのも実感あります。

――:面白いお話ですね。そうなると、関東者が書いたノベルと関西者が描いたコミック、日本のなかでそれを接合しながらクリエイターのエコシステムをつくっていく、というのがtaskeyの理想ですね。

日本は母数としてもマンガを描ける人材が一番そろってますよね。弊社が究極的に求めている姿としては10年後に「世界で一番読まれる物語を作る」を実現し、KADOKAWAを超えるような会社になりたいんです。彼らが年間6000点を出版し、1000人の編集者を抱えると宣言している、超大手出版社。うちはまだそこの1/30みたいな規模です。でもKADOKAWAのようにマンガの形式にこだわらず、ラノベやゲーム、あらゆるメディアを組み合わせながらIPを生み出す企業として多くの才能が集まる会社になっている。いつかtaskeyをそんな会社にしたいなと思ってます。

 

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
企業データを見る