【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第60回 Webtoon業界の最前線:世界未踏峰に挑戦するベンチャー企業ソラジマ

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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高校時代からの盟友2人で起業したソラジマ、その発足はかなりの紆余曲折を経ており、介護メディア→お菓子配り→YouTube動画配信→YouTubeマンガ動画→Webtoonと事業は幾度となくピボットしてきた。それでも各業界で半年~1年で成果を出し、2人が10兆円企業を目指して邁進し、Webtoonで成果をあげた様はさながらイーストブルー(東の海)を越えてグランドラインに到達したばかりの海賊団のようだ。いまだ日本では実態が明らかにされることの少ないWebtoon業界において気焔を吐いているこのベンチャーに、どのように作品をつくっているのか、Webtoonの将来性について取材を行った。

※Webtoon:従来の横開きでコマ割りされている日本式マンガと違い、スマホに特化してカラーも入った“縦型マンガ"。韓国でPC・Web用に始まり、日本にはLINEマンガ、ぴっこまのアプリとともに徐々に浸透してきた。2022年は「Webtoon元年」ともいえ、初頭に10社もなかった制作会社は22年末には100社近くまで増えており、最近でも23年1月にCyberAgentグループがWebtoon制作会社「Studio ZOON」を設立、講談社で週刊マガジンや週刊モーニングコミックDAYSを担当してきた編集者の村松氏を起用して話題になった。

 

【目次】
国内マンガ市場7千億円内の「待てば無料」1千億市場。5年後の世界3兆円市場を視野にいれた海外展開
実力120%を出し切ったエベレスト未踏峰到着とフランス起業。一度世界をみた高校の同級生が2人で創業したソラジマ
創業初期のカオス:法人登記初日にやめた介護事業、ブラックサンダー無料配りでメーカーに怒られる
YouTubeアニメ大躍進:2020~21年で流れをつかんだマンガ動画の世界
事業大転換:YouTubeマンガ動画からWebtoonに経営資源全振り

 

■国内マンガ市場7千億円内の「待てば無料」1千億市場。5年後の世界3兆円市場を視野にいれた海外展開

――:自己紹介からお願いいたします。

萩原:CEOの萩原鼓十郎(はぎわら こじゅうろう)と申します。三菱商事をやめて2018年にソラジマを前田と創業し、現在Webtoon事業を展開しております。

前田:共同代表でCEOの前田儒郎(まえだ じゅうろう)と申します。私はフランスで起業しておむすび権米衛というおにぎり屋などの展開をやっておりまして、日本に戻って萩原と起業しました。

 

  

――:今回は新進気鋭のWebtoon業界でいま最先端を走っていらっしゃるソラジマさんのインタビューということで楽しみにしておりました。いままでどのくらいの作品をつくっていらっしゃったんですか?

萩原:全部で34作品ですね。従業員は35名でそこに400名の外部クリエイターと一緒に、2022年は年間30作品を作ってきました。それをピッコマ(Kakao)、LINE(NAVER)、Comico(NAVER・NHN)、めちゃこみ(アムタス)、シーモア(NTTソルマーレ)といった電子マンガプラットフォームに展開しており、実は海外向けにも自社で「cosmic」というアプリも出しており、それを含めて11カ国以上に作品を展開しています。

 

――:ソラジマさんはWebtoonの制作スタジオですが、海外向けにはプラットフォーマーとしても展開されているんですね。なかなかに野心的ですね。

萩原:まだまだ数字はこれからですけどね。作品ごとに先行配信契約などがあるため、国内だと自分たちで好きな展開はできないことも多いんですよね(=作ったWebtoon作品の買い手がついている状態)。逆に海外向けだとそういった制約がないので、実験的に自分たちでCosmicで出したり、ローカルプラットフォームをいくつか使ったり、という展開をしております。

 

――:今回は23年3月に10億円を調達されました。おめでとうございます。過去何回ほど資金調達されているんですか?

萩原:これまで4回にわたって資金調達してきました。

 

・シード(2019年2月)1500万円:East Ventures
・シリーズA(2021年4月)3000万円:(匿名)
・シリーズA-2(2021年9月)3億円:Z Venture Capital、集英社、小学館、三木一馬氏、鈴木おさむ氏など
・シリーズB(2023年3月)10億円:Z Venture Capital、ニッセイ・キャピタル、DBJキャピタル 、KDDI Open Innovation Fund 3号、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、住商ベンチャー・パートナーズ、みずほキャピタル、電通ベンチャーズ、博報堂DYベンチャーズ、IZUMO Founder 大湯俊介氏

 

――:出版社が入っているのは大きいですね!ソラジマのマンガ作品はいわゆる「漫画雑誌」「漫画コミック」とは違って、無料アプリでは読める状態です。“待てば無料"で毎日1話ずつ読む無料ユーザーがほとんどですが、一部課金して次々に読んでくれる読者がいる。その読者の課金が、ピッコマ・LINEマンガに入り、その一部がレベニューシェアでソラジマに入ってくるという構造ですよね。

萩原:はい、基本的には「アプリ内で課金して購読する」というのが売上の主な部分です。このWebtoon市場が2021年全世界で36億ドル(約4400億円)の市場になっており、2028年には262億ドル(約3兆円)になると予測されています。弊社はここにむけて世界一のWebtoon制作会社になることを目指しています。

 

――:Webtoonが注目されたのはピッコマの成功からですよね。134億(2019)→376億(2020)→695億(2021)と売上を成長し、2021年5月に約600億円調達、時価総額はなんと日本法人だけで8000億がつきました。あのあたりから一躍Webtoon業界が注目を浴びました。ピッコマの売上推移からみると、この「待てば無料」のアプリベースのマンガ市場は1000億円くらいなんじゃないかと推測されます。

萩原:そうですね、弊社だけで年間流通総額はすでに10億円は超えてますが、日本のWebtoon制作会社を全部あわせても100億円といったところじゃないでしょうか。なので現在の日本の1000億円はピッコマさんやLINEマンガさんがこれまで韓国でつくってきたWebtoonの過去作品で900億円が売りあがっていて、そこに弊社含めた新興の日系Webtoon制作会社でようやく1割になってきたという感触です。

 

――:このビジネスの厳しさは、還元される「料率」だと考えてます。アプリにのせるとApple/Googleに30%、そこにWebtoonプラットフォームが40~50%となって、「制作会社取り分」が20~30%になってしまう。日本勢の末端価格100億円売上とはいっても、制作会社へ戻ってくるのは20~30億円になってしまう。

萩原:そこはもう含めて考えるしかないですね。末端価格の3割とはいいながら、それでも数億円は稼げる時代になったという事実はありますし、制作会社として自社でリスクをとれるようになればなるほど、制作会社取り分も上がっていきます。またアプリではない形で展開できるプラットフォームであれば、最初の30%部分もとりにいけますからね。

 

――:あまりに韓国プラットフォームの独占性が強い市場にも思えますが、どうなのでしょうか?

萩原:その韓国の作品群が枯渇してきているんです。やっぱりかれらも10~20年で立ち上がった市場で日本のように半世紀前から膨大なマンガ作品の蓄積があるわけではありません。2社とも日本でどんどんWebtoon制作会社が生まれてくることを期待していますし、支援もしてくれています。

 

――:ソラジマの他には、アカツキ出資のフーモア、Minto、コルク、Plottなど皆続々とWebtoon制作会社を作り始めました。2022年の1年間で20社程度から100社近くまで増えたんじゃないかと観測しています。ただ制作だけでなくWebtoonのプラットフォームアプリまで作ったというのはアカツキのHykeComicくらいでしょうか。制作会社の中ではソラジマさんがかなり先行しているなという印象です。

萩原:着手が早かったので、先行できているというのはありますね。弊社のWebtoon作品は21年の夏のうちに公開しはじめ、2022年で30作品をリリース。たしかに完全オリジナルの作品数としてはウチが一番かもしれません。次に出資先からの調達手段ももっているアカツキさんが30作品、それ以外の会社さんだとまだ10いっているところもあまりないかもしれません。

 

――:あと、Webtoon業界の難しさは「象徴的なヒット作」がまだ見えにくいところですよね。『俺だけレベルアップな件』(ピッコマ、韓:2018~21、日:2019~22)が月数億円の売上というのはよく取り上げられるのですが(『ソードアートオンライン』で有名なA-1 Picturesでのアニメ化も決まった(24年冬見込み))、それ以外の日系制作会社の作品はどうなのでしょうか?

萩原:日系でも月数千万円の作品はいろいろ出てきています。ピッコマさんやLINEさんのなかでランキング1位をとれる作品もでてきてはおり、実績としては着実についてきているところではあります。

 

▲ソラジマ30作品のなかでもKakaoPageやピッコマ、LINEマンガでトップタイトルに輝く作品が出てきている

 

――:だいたいどのくらいの制作費で投資されるんですか?

萩原:1話50万で10~15話つくってからリリースするので500~750万で作品を出します。そこから1/3~1/4くらいは「当たる」ので原価が返ってくる感じでしょうか。ここはもっと安い投資でPDCAをまわせるとよいなという課題はあります。

 

――:1話50万って通常のマンガと比べるとどうなんですかね?

萩原:どうなんでしょうね~。1ページ1.5万円、多くて3万円で考えると横読みマンガはやっぱり15~20万円で作れてしまう。編集と作家とアシスタントだからチーム数も少ないですよね。比較するとWebtoonは1チーム7~13名でつくるし、その分制作費も1話2~3倍かかっているから、まだ効率が悪いといえば効率は悪いですよね

 

――:投資回収率はどんな感じでしょうか?

萩原:当たって毎月4~5話(200~250万)追加していって半年で50話くらいまで続けた累積2500万円投資の作品の回収率が、200~1000%(5千万~2.5億円)みたいな感じでまわしております。

 

――:このへんの計算はめちゃくちゃ2010年前後のソシャゲに近いんですよね。1000万でつくって、毎月数百万かけて運営継続するんですけど、そのうち1-2割のタイトルが月1億、年10億稼ぐようになると、ほかの失敗したタイトルへの投資コストも回収できる。ただ当時は投資回収数万%みたいなタイトルもあったので、まだ1000%(10倍の費用回収)だと限定的なのかな、という感じもします。

萩原:とても似てると思います。Webtoonの場合はそこにジャンルを絞っているうちに成功率が高くなるし、なによりアーカイブがずっと稼ぎ続けてくれるんです。10年前のWebtoon作品がもう更新していなくても毎月数十万円収益があがり続ける、みたいな。弊社の30作品も将来への投資ですね。

 

――:それはまさに小・集・講など出版大手が蓄積したコミックスのアーカイブで稼いできたのと同じなのですね。ソラジマさんの作品で売上の良いものはどんな作品ですか?

最近だと「傷だらけの聖女より報復をこめて」(2022年8月~)ですかね。ちょうど50話くらいが出た段階ですが、これが200%くらいの投資回収率になっている状態です。

 

 

――:2500万かけたものにユーザーが1.5億円支払って、5000万円がソラジマにかえってきているという状態ですね。確かにこういう月数千万のクラスの作品が何本もでてきているという状況はよく聞きます。同時にこれが日韓だけが消費が旺盛で、「海外に広がるのか」が気になるところです。私のデータだと韓国2大(Kakaoピッコマ&NAVER LINE)がユーザーとしては世界で1億人以上読んでいますが、収益の8割は2千万人たらずの日本と韓国から得ているようなポートフォリオでした。海外ではWebtoon売れない・単価が上がらないのではないでしょうか?


前田:実は海外も上がってきています。弊社の売上比率はすでに1割を越えており、ユーザー1人あたり単価もこの半年くらいで日本の半分くらいの収益が得られるようになってきました。海外はMGも買取もレベニューシェアも色々なパターンがありますし、プラットフォームの条件も海外になるとぐっと良かったりするんですよ。地域としてはアメリカやフランスといった国が大きいです。

 ▲ソラジマ社の売上も大きくあがっているが、そのうちの海外比率も1割強になってきている

 

――:これは非常にポテンシャルを感じるデータですね。マンガも海外市場がボリュームそれなりに出てきましたが、いまもあくまで「紙」が主体です。日本製Webtoonが日韓以外でも売上を伸ばせる、というのは非常によいお話を聞きました。

前田:はい、我々もここは非常にポテンシャルを感じているところです。これがあったので、今回も10億円というかなり強気の金額を出資いただいたのはこの結果によるところが大きいですね

 

――:確かに日本7,000億円は伸びているとはいえ、限界があります。それよりも現在の日本以外の数千億、そして5年後の3兆円というところをターゲットにしているわけですね。

萩原:2022年は弊社も30作品を展開しましたが、これを今年は50作、2025年には年100作品を生み出し続けられるような制作スタジオを目指しております。

 

▲左から前田儒郎氏、萩原鼓十郎氏

 

■実力120%を出し切ったエベレスト未踏峰到着とフランス起業。一度世界をみた高校の同級生が2人で創業したソラジマ

――:会社の成り立ちについてお聞きしたく。お二人は高校生の同級生からの付き合いですよね。

萩原:はい、早稲田学院高校で同じクラスでした。私がサッカー部、前田はテコンドーや格闘技だったので部活が一緒だったというわけじゃないんですが、見ての通りガタイもよくて目立っていて、よくつるんでましたね。

 

――:そのまま大学も一緒に行かれたんですね?

萩原:まあ、早稲田系列なので皆そのまま早稲田に進学するんです。私は山岳部、前田はフランスに留学していきました。この期間はそれぞれが、という感じで、大学卒業した私は2015年に三菱商事に入社しまして、前田は1年留年してそのままフランスの大学院に入学しています。

 

――:しかし萩原さん、よく三菱商事辞めましたね。新卒からするとベストカードのような就職先ですが・・・部署はどちらだったんですか?

萩原:情報システム部でした。いわゆる商社マンで外向き営業をやっていたわけではなく、PCの調達だったり、社内システム開発などの仕事ですね。

 

――:いつごろから起業は考えていたんですが?

萩原:2年目ごろからサービスの売り込みも含めてスタートアップ企業とのかかわりが多かったんです。それで創業社長でIPOした人などの話を聞いているととても魅力的で、そのうち積極的に自分でも話を聞きに行くようになりました。ITのカンファレンスにいっては名刺交換して、企業訪問させてもらったり。当時はAIとIOTが盛り上がっている時期だったので、同い年ですでに起業している26~27歳の社長にすごく影響を受けましたね。

 

 

――:ちょっとそこからぶっ飛んでいるのが2017年にヒマラヤ山脈の「人類未踏峰」を踏破しにいった話ですよね。僕もキリマンジャロ登ったことあるんですが、5,000m超えると人類が踏み入ってはいけない領域、という高山病の恐ろしさをビシビシ感じました。

萩原:おお~キリマンジャロですか!そうなんです、山岳部時代にいろんな山に登っていたんですが、いつかは「人類未踏峰(今まで人類で登頂したことのない山)」にいってみたいという夢があって。それで後輩2人が未踏峰でここならいけるんじゃないかというラジョダダを“発見"し、元主将だった僕に声をかけてくれたんです。
商事では2年半ほど仕事をしたところでしたが、そのあと起業することも踏まえてこのチャンス逃すまいと会社はすっぱり辞めました。後輩たちも卒業してしまうともうチームは組めない、未踏破峰の計画に参画できるなんでもう人生一度きりしかないかもしれない、と挑戦したんです。

 

▲ラジョダダはその3年前にネパール政府が登山解禁をしたばかりの104座の山の一つで、人跡未踏の独立峰であった。2017年9月から約1か月かけて準備・登頂し、初めて人類の足跡を残した。

 

――:ラジョダダ(Lajo Dada)山6,426m・・・ハンパないですね。未踏破峰ってまだ残っていたりするんですね。

萩原:何百と残ってます。ただ8849メートルのエベレストはもとより7,000台はもうほぼ踏破済。「山頂」といえないような山も多いなかで6,000メートル台も残り少なくなっていました。このラジョダダだって、半年に1回しか登るチャンスがない上に、我々のチームの後にも順番待ちのアタックチームはいたんです。もうちょっと遅かったら別のチームが到達してましたから、「人類未踏破の達成」というのは、ホントにタイミングと運によるところが大きいです。

 

――:しかしそこまで本格的に登山をやってきた人が、よく日常生活、しかも起業家生活に復活できましたね。

萩原:あれで挑戦系の登山はすっぱりやめてます。ラジョダダは自分の実力の120%を出し切っての踏破だったんですよ。それだけのチャレンジに成功したから、もう山は十分。あとは自分の起業で成功するだけだと、悔いなくやめられましたね。

 

――:一つの到達点ですよね。前田さんはなぜフランスに行かれてたんですか?

前田:高校で第二外国語フランス語だったところから始まっていて、別に必然性があったわけじゃないんですよね。大学でも複合文化学というので飲食表象論(なぜフランス人はワインを飲むのか?など人々が文化ごとに持っているイメージ・バイアスを研究する)を専攻していた縁で8カ月留学したことがありまして、フランスへの興味が俄然強くなりました。当時は「フランスでなんとか生き残れるような日本人になりたい!」というのが目標で、そのために起業したようなものです。

 

――:欧州のなかでも「フランス人と働く難しさ」というのはよく国際ジョークで出てきます。これ自体“表象"なんでしょうけど、日本で言う「京都人は(本音を言わないから)気をつけろ」みたいな話ですよね笑

前田:いや、まさにそれを実感するんですよ。気位も高いし、自分たちの文化に誇りをもっているし、その上人脈社会なので外国人の僕は苦労することが多かった。そういう人たちに一目おかれて、こいつはすげえ!と思われる存在でありたいと思って、フランスのソルボンヌ大学院に進学して、そこで起業するんです。

 

――:そのゴールには到達できたんですか?

前田:「こんちくしょう!」と思って起業していた自分からすると、フランス人のチームを率いておにぎりチェーンの展開でそれなりのところにいけて、満足はできる結果を残せました。6年越しの挫折を回収した感じですね。その段階で萩原から声がかかったので、悩んだ末で、じゃあしばらくぶりに日本に帰って萩原と起業するか!となった感じです。

 

――:お一人はエベレスト未踏登頂、お一人はフランス起業。「ソラジマ」という社名の由来がそのまんま分かる気がします。

 

 

■創業初期のカオス:法人登記初日にやめた介護事業、ブラックサンダー無料配りでメーカーに怒られる

――:萩原さんの登頂成功後、半年ほど経っての2019年2月創業ですよね。最初はどんな事業をされていたんですか?

萩原:事業内容は何も決まってなかったんです笑。2018年夏に前田に相談したときもノープランで、2018年段階では法人化もせずに、ただ何でもやります!という感じでビジネスをしていたんです。記事執筆とかHP作成とか。そうこうしているうちに、最初のシード出資がEast Venturesから決まり、法人が必要だねとなってから設立した感じです。一応目論見としての事業は「介護メディア事業」でした。

 

――:え、全っ然ちがいますね!?

前田:法人登記の初日にやめたんですよ、そのビジネス笑。

 

――:資金調達して、法人化して、その初日に辞める!?それはなぜなんですか。

萩原:事業をやるには業界のインナーに入っていかないといけない。でも介護ビジネスの事業者として内部にはなかなか入っていけないし、その上自分たちでやりたい!という欲求が足りなかったんだと思います。

 

――:こういうのってその事業を伸ばすものだと期待して出資していたVCは怒らないものなんですか?

前田:East Ventureは出資決めてくれたのが金子剛士さんなんですけど、最初入れた時からそういう細かいこと言わない人なんですよ。まめな連絡とか報告とかいらないから、伸びたら教えて、と。そういえば・・・介護メディアやめたときは報告し忘れてたね笑

萩原:あ、言ってないね笑。

 

――:えええ!ちょっとシードVCって全然動きが違いますね!?完全にエンジェルですね。逆に何が彼に出資をきめた部分なんですか?

前田:「小さくバットを振らなそうなところ」と言われましたね。コツコツ稼いで、小さく会社売却で設けようとかそういうタイプじゃなくて、2人とも最初からホームラン狙いで大振りでいくタイプなんですよ。でも投資の意思決定、めちゃくちゃ早かったですよ。「いくら必要なの?」と言われて額を答え、「それをどのくらいの期間で使うの?」と聞かれたので2週間!と答えたら「早いな!」と笑ってました。

 

――:ああ~なんとなく分かります。お金無駄にするわけじゃないけど、構想デカくて、「張るところに張る」みたいな2人のタイプが刺さったんですかね。介護メディアの後はどんな事業を?

萩原:ホント色んな事業に手を出しましたけどね。うーん、例えば「お菓子配り」とかありました。

 

――:お菓子配り?

萩原:ブラックサンダーを1万個買いこんで、そこに広告つけて配ったんですよ。その時結構話題になって「#ブラックサンダーはタダで貰うもの」ってポイ活(ポイント活動)の人たちがTwitterでも騒いでくれて。

 

――:お菓子に広告って・・・それ、有楽製菓(ブラックサンダーのメーカー)に怒られないんですか?

前田:ホント何にも知らなくて、我々は褒められるもんだと思って有楽製菓に行くんですよ。これだけ配って貢献したんだから、もっと協賛でたくさんブラックサンダー頂戴よ、と。のんきにアポイントとって小平市(有楽製菓所在地)まで行って、ミーティング前に2人で「どんくらいもらえるかなー?」って見学工場でアイスなんか食べてました笑。そしたら真顔で「ダメですよ、こういうのは・・・」って怒られて。シュンとして帰りました。

 

――:そりゃそうですよね!あちらからしたら目的外利用な上、勝手に広告つけるな!って。まるで学生のような思い付き事業でしたね笑。

前田:当時やってたのってホントそんなのばっかりですよ。中学生がビジネス始めるのと何も変わらなかった。でも実はそれはそれで学びもあったんです。ブラックサンダーで「人は30円で動かせる」というのを掴んでいたので、それ以降のビジネスでもAmazonギフトを出したりしながら、ユーザーのインセンティブを設計するのに役立ってますね。
色んなことをやっていったうえで、今につながったのが「動画編集の受託事業」なんです。

 

■YouTubeアニメ大躍進:2020~21年で流れをつかんだマンガ動画の世界

――:ではブラックサンダーと並行して色々やりつつ、YouTubeに乗り出すんですね。2人とも当初からYouTubeに詳しかったりしたんですか?

前田:全然笑。クラウドワークスで詳しそうな人を捕まえて、いろいろ聞きまくって、自分でいじってみる。その繰り返しです。最初はチャンネルつくったけど運用できていないチャンネルの案件をもらって、1件20万円とかでやっていました。そうした中で自分たちのチャンネル「リアリ研究所」(2019年10月開始、現在4.7万登録)を立ち上げます。

そういえばこのYouTube事業も金子さんがきっかけなんですよね。ちょうど2019年でヒューマンバグ大学(2019.3~、167万登録、ケイコンテンツ)とかフェルミ研究所(2016~19、205万登録)が出始めていて、金子さんが「これ、マンガ動画っていうらしい。やってみたら?」というので自分たちでもはじめてみた、という感じです。

 

――:受託から始まって自前でも、となるんですね。デザイナーでもエンジニアでもないお二人が、クラウドワークスで聞きながら、ってものすごい手弁当感ですね。

前田:もうそのころには2人だけで誰も採用してこなかったけど流石に資金ショートするようになっていて。2020年4月に2回目の資金調達で3000万円を集めました。そこでYouTube動画一点張りで、1チャンネルつくるのに500万円くらいかかるんですけど、一気に4チャンネル展開!

 

――:集めたばかりでYouTube動画に全張りじゃないですか!?

前田:ホームラン狙いですから笑。それでも4つとも数字あがらなくて、資金もすでにショート気味。これはマズい、また1件20万で受託しながらなんとか食つなぐかと考えていたんですが・・・『ヤク目』(ヤクザと目つきの悪い女刑事の話 )というチャンネルで2021年6月に出した「現役のヤクザ組長にオレオレ詐欺の電話をかけた結果」という動画だけが、投稿した瞬間にバズったんです。2020年6月11日、いまでもこの日は忘れません。

 

――:この動画、現時点で700万再生、それから3年間ずっと伸び続けてるんですね。

前田:当時では一気に100万再生になって、1日で20万円のアドセンス収入が入ったんです。それまで1社の動画受託を月20万円でやっていたので、それと同じ額が自分たちの1つのチャンネル、なんなら1つの動画だけから得られてしまった。これは衝撃でしたね。

 

――:まさに動画1つで首の皮1枚つながった感じですね。そのあとですかね、ソラジマさんといえば「女子力高めの獅子原くん」が代表格のチャンネルですよね。

萩原:ヤク目の成功をみてGANMA!が「なんかやりましょう!」と連絡くれたんです。ただ最初から獅子原くんがあったわけじゃなくて、200作品どさっと渡されて「アニメ動画にするなら、どれがいいですか?」と。前田がこのなかから獅子原くんを選んだのです。

 

――:すごい選球眼ですね。よくあの作品をピンポイントで抽出しましたね。

前田:動画配信しまくっていたので、バズる要素ってなんとなく掴んでいたんです。シンプルな話、「キャラクターがいいか」と「スカッとできるかどうか(鉄拳制裁などでスッキリしたオチができるか)」の2点なんですよ。いまのWebtoonでもそのまま当てはめてますが、これが一番しやすかったのが「見た目がカワイイ女子力高い男子の獅子原くん(キャラがいい)が実は伝説のヤンキーで武力最強だった(あとでスカッとさせる要素)」という設定だったんですよ。

 

――:たしかにYouTubeアニメでもWebtoonでもスカッと!の逆転構造が非常に多い・・・ソラジマは2020年10月から「女子力高めの獅子原くん」を運営開始 、同チャンネルは20万(20年末)→55万(21年末)→80万(22年末)とフォロワー数を増やして、一躍人気コンテンツになりました。

萩原:はい、「ヤク目」からの「獅子原くん」で流れを掴んで、ソラジマの名前が出始めたのが2020年だったかと思います。もう小学校・中学校にいくと、子供への浸透度が半端ないんですよ。普通に聞くと、5人中3人はは知っている。

 

――:うちの娘(小5)もドはまりしてます笑。すごい流行りましたよね。特に2021年。もともと獅子原くんもGANMA!のコミックス発だったんですよね?
萩原:当初は20代女性がターゲットだったんです。本でも購入者の中心はそこだったんですが、YouTubeのマンガ動画によってぐぐっと中学生や時には小学生の女子が一気に視聴者層になりました。まだ購買者として確立してるわけじゃないんですが、我々の知名度をあげてくれたのもその獅子原くん支持層の学生たちなんですよね。

 

 

■事業大転換:YouTubeマンガ動画からWebtoonに経営資源全振り

――:2019年のブラックサンダー期、2020年は「ヤク目」でYouTubeマンガ動画に成功、21年は獅子原くんで大躍進。でもどうしてそれを広げずにWebtoonに、となったんですか?

前田:ヤク目と獅子原の2大巨頭の中で、当然ながら「次の獅子原を探せ」となります。でもやっぱり当時は他のプレーヤーが凄かったんです。1本500万でつくっても10万もかえってこないような失敗も多く、(中山さんも社外取締役をしている)Plottさんは仲良かったですけど、やっぱりマンガ動画でいうとあそこに勝てないんですよ。2年くらい先に行かれていた。テイコウペンギン(2019~、120万登録)も混血のカレコレ(2019~、120万登録)もどんどん当て続けていて、超辛かったんです。投資家からも「Plottはいいけど、ソラジマは・・?」と比較されて。この業界では「先行すること」がいかに大事かを理解しましたね。

 

――:ああ~なるほど、そこでPlottもつながるんですね。でもトップになれないにせよ、あれだけ活躍してたら事業提携とか事業買収とかの話もあったんじゃないんですか?

萩原:はい、ぶっちゃけM&Aの話もありました。EXITして一回お金を回収してから次を考えようということも頭にはよぎったんです。でも「小さく振っちゃだめだ」という金子さんの言葉が残ってるんですよ。

前田:3%くらい、頭のなかにずっとこびりついてるよね笑。それに、最初にあったように僕と萩原は「海外展開」が最終的にあるなかで、YouTubeアニメは意外に国境をこえることができなかった。海外展開のしやすいさという点もWebtoonを選んだ理由ですね。

 

――:なるほど。たしかにマンガ動画の海外化はあまりうまくいってませんよね。Webtoonとはどういう出会いだったんですか?

萩原:普通にYouTubeアニメ作りませんか、とピッコマに営業にいったんです。そこで初めて「ノウハウ近いから、逆に君たちがWebtoon作ったほうがいいよ」と言われたのが21年末ですかね。その時はスルーだったんですけど。

 

――:なるほど、それでYouTubeアニメしながらWebtoonも作る、となるわけですね。

萩原:それで21年3月から作りはじめて、8月に出した1作目がありがたいことに最初から成功しちゃったんです。500万かけて作ってみたら、2021年8月の初月で200万円の売上になった。「婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。」という作品なんですけど、インターン学生2人が面白いと思う作品をお借りしてきて、それで作りました。前述の経緯があったので、じゃあマンガ動画はやめて、すべてのリソースをWebtoonに全振りすることに決めたんです。

 

――:これはホントにすごいジャッジだったなと思います。あの段階でマンガ動画だって稼げている市場なのに、全部Webtoonに。2021年にピッコマの成功、ソラジマのピボットがあって、2022は各社が一斉にWebtoonに経営資源をシフトしていきました。これ、お二人はマンガ制作も未経験なわけですよね・・・?どうやって学んだんですか?

前田:クラウドワークスです笑。いろいろひとしきり業界人につくり方を聞いたときに、「おい、萩原。どうやらネームというものがあるらしい・・・?」ってくらい何も知らなかった笑。そのくらい初心者レベルから、外部でデザイナーにお願いして、こちらでプロットをつくって、制作していきました。でも社内ディレクターが外部のクリエイターと一緒に作っていく過程はマンガ動画のノウハウがそのまま生きましたね。

 

――:しかし驚くのは2人のキャッチアップ能力です。エンタメ業界出身でもないし、ホントに見様見真似で19年10月にチャンネル立ち上げ、20年4月のヤク目で最初のヒット、20年10月に獅子原君で大ヒット。それなのに21年8月のWebtoonのヒットをもとにピボットしてしまう。逆に黎明期だからなんでしょうけど、1年とたたずにその業界の第一人者になれてしまうものなんでしょうか?

前田:毎回必死ですけどね。YouTubeはじめたときは1日8時間ずっと画面はりついて分析してました。

 

――:ずっとお二人+外部みたいな感じでしたけど、さすがに獅子原くんヒットあたりで社員も増えていくんですか?

萩原:そうですね。21年はそれでも我々+4人くらい。2022年のWebtoon時代は一気に社員制度いれて20人以上になって、その勢いのまま現在の35名まできた感じですね。

 

――:どんな方が活躍されてるんですか?

萩原:第二新卒くらいのメンバーが多いですね。新卒で出版社入りたかったけど落ちて入れず、でもクリエイティブには野望があって、みたいなタイプが活躍してます。でも前職で実績だしている人はやっぱり多いですよね。

 

――:じゃあ、がっつりと「編集者の経験者」はあまりいないんですね。

前田:はい、現状は未経験の人がメインですね。いま平均年齢は27歳ですけど、わりと最近は30代も増えてきました。今必要なのはまさに「編集者の経験者」だったり、「アートディレクター」、あとは年齢ちょっと上で「事業部長ができるマネジメント経験のある人」ということで、組織のサイズもそれなりになってくると中途の経験者が重要になってきたフェーズですね。

 

――:今回の10億円調達の使い道も含めて、今後についてはどんな計画をもたれているんですか?

萩原:ソラジマ35カ年計画というのを発表させてもらいました。まず2023年は富士山3,776mをベースにソラジマ収入3776万(≒末端消費額で月1億円)を“富士作品"として、これを生み出すことを目標にしています。Step2で「俺だけレベルアップな件」「Under the Oak Tree」クラスの日の出作品、Step3の2027年にそれらをIPのタマゴとして年商100億円規模に到達してからの、Step4で孵化、Step5が「今世紀を代表するコンテンツ」誕生、それがラッシュとなるStep6があって、35年後のStep7まで広がり続ける、という図です。これ、夢物語のように感じられるかもですが、いったん2027年のStep3まではこのようにPLにも落とし込んでます。

 

▲Noteで発表されている2027年に向けたソラジマ35カ年計画

 

 

――:おおーーさすがホームラン狙いの2人!逆に2025年後半まで利益出さずにガシガシ費用かけて掘りにいっているところが素晴らしいですね!果たしてWebtoonからIPは生まれるんでしょうか?やっぱり「スカッと構造」の悪い部分もあって、キャラがテンプレ化しやすくて深堀りができない分、他にIP展開しにくいんじゃないかと。ソーシャルゲームもガチャ構造によってキャラ数を無数に増やすので、結局IP化できたものは限られていましたよね。

前田:マンガも60~70年代からやってきて、半世紀かけてこれだけ作ってきたんですよね。だからIPになるべくしてなったという感じもしており、Webtoonも結局続けるかどうかだと思ってます。成熟していけば必然的にIPになると思います。

 

――:目標としている企業はありますか?

前田:Netflixです。

 

――:回答に迷いがなさすぎる!笑

萩原:10兆円企業がホントに弊社の目標なんです。エンタメ系でいうとソニー、任天堂くらいしかここの領域には至ってませんよね。とりあえず2023年度は年商10億円に向けて、このまま邁進していきます。

 

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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