【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」


 
株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。 
 
 

■第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」




 
日本においては、まだ、大学でゲームを学問として教えているところは稀少です。
もちろん、大学、専門学校に、元ゲーム業界の方々が入っていかれて、活躍されているのも事実です。(過去に、対談させていただきました、岩谷徹さんや、遠藤雅伸さんなどが顕著な例です)

また、常勤ではなくとも、専門学校には、元クリエイター、現役クリエイターの方々が数多く非常勤講師や、特別講義として出講されています。
 
ですが、
 
・体系立ててゲーム制作を教えているところは稀少
・教材などが、画一的にとりいれられているところは皆無
・そもそも、年間カリキュラムがしっかりつくられているところも少ない
・講師不足
など

 
というのが、現在の「学校」の状況です。
また、「体系だてる」とか「カリキュラム」「教材」という話を安直することも、なかなか難しいところがあります。それは、大学は4年(就活までは3年?)とどこも同じなのでよいのですが、専門学校においては、
 
2年コース
3年コース
4年コース
 
と、学校によって、はたまた、学校の中でも、2つの年数のコースが併設されていたりと、バラバラなのです。「大学も4年だし、専門学校のMAXも4年ならば、そこをベースに考えて2年、3年は、その一部を学べばいいんじゃない?」と思われるかもしれません。

基本は、そうだと思います。全体図は4年(将来的には、大学院も含めての6年で考えることになるかもしれませんが)で考え、そこから、どの部分をピックアップして、必修科目をつくっていくか?ということになるかと思います。

ただ、ここで、もう1つ気を付けないといけないことがあります。
それは、「目的の明確化」です。
 
大学で、ゲームを学ぶことは、必ずしも、ゲームクリエイターになる、ゲーム企業に就職することが目的ではないかもしれません。エンタテインメントを研究するうえで、ゲームという切り口を採用しているにすぎない可能性もあるからです。

もしくは、プログラミング学習の教育研究をしたくて、題材にゲームを取り扱いたいというケースもあるでしょうし、今であれば、VRを使ってなにかやるには、ゲームをまずはつくってどんなことができるが探ってみたい、とかもあることでしょう。

あくまでも、大学は、学術研究の場であり、就職直結型の場ではないと思います。(そういう大学がいずれでてくるとは思いますが…)
 
それに対し、専門学校は、基本、就職することを旨としているはずです。
ただ、高校を卒業するまでは、趣味でやってきた以外は、ほぼほぼ、みな素人です。もちろん、小、中学校のうちからプログラミング教育を与えようとされる親御さんのニーズに応えるサービスが充実してきており、2020年には小学校でプログラミングが必修化されるとのことなので、2026年以降で専門学校に入ってくるような子たちは、まったくゲームをつくったことも、触れたこともない素人というのは、いなくなっているかもしれません。ただ、現状の2017年は、経験のない人がほとんどです。
 
と、なると、就活までに、入学してから、
 
2年コース → 1年
3年コース → 2年
4年コース → 3年
 
しかないわけです。しかも、いまどきは、就活の1年前の夏休みくらいから行われる、企業インターンが非常に大切な役割を占めてきています。そして、そのインターンシップの選考は、はやければ、5月・6月には、始まります。そうなると、3、4年コースの人は、まだ、なんとか時間があるので経験をつんでおき、それで、選考に臨むことができますが、2年コースの人は、現実的に不可能です。
 
ただ、そういう人たちのためにも、「ポテンシャルある人を採用したい!」企業さんは、秋や冬にも1dayのインターンシップを実施されたりしています。また、採用も通年化してきているので、チャンスは以前より増えているといって過言ではありません。ただ、そのためには、確実に、「準備」をしなくてはいけません。つまり、
 
年数の少ないコースほど、緻密なカリキュラムで計画的に教えないといけない
 
ということです。
なので、上記した、4年コースをMAXとして、そこから、必修のものを抜き出して教えていく、は、正しいのでしょうが、
 
・詰め込みすぎても人間身につかない
・習得させたい技術を明確にすること
・そのためには、教える「順序」が非常に大切であること
・制作経験をつませること
など

 
に気を付けて、設定をしないといけないと思います。
その際に、「これは大事」「あれも大事」で詰め込み、押し付けにいくと、学生はパンクしてしまいます。繰り返しますが、そもそも、学校に入ってくる前は、皆、素人だったのですから。でも、ゲームの専門学校にいこう!と思ったのは、ユーザとして遊んできたゲームが面白かった、楽しかったからであり、
 
ゲームが好き!
 
だったからだと思います。ただ、この「好き」は、あくまでも「プレイヤーとしてのもの」ですので、これを、「クリエイターとしてのものに」に転化させていかなくてはいけないわけです。この「意欲の転化」こそが、専門学校の講師の皆さんやカリキュラムで最初に突破しなくてはいけない壁ではないでしょうか?

なんとなく、ずるずるいかせるのではなく、「クリエイターとしての好き」がカケラもみつけられない学生、その片鱗を教える側が感じてあげられていない学生(そんな子いないと思うのですが)に関しては、早めに、ほかの道を進めることも大切かと思います。それも、教育機関で、他者の人生にわずかでもかかわった人間の責務であると思います。

ただ、「なんとなく」の学生が多い状態で、クラスをマネジメントしていてもいけないと思います。空気というのは不思議なもので、組織の一定以上をある考えの集団が占めると、そちらの流れ始めるものです。不安定な学生は、うつろいがちではありますが、「クリエイターになるんだ!」という意欲が高く、モチベーションもって就学している学生をコアに据え、クラスをマネジメントしていくことができたら、戦う集団に変貌することも可能かもしれません。

ただ、そのためには、個々の性質、考えていること、を講師の皆さんはじめ、学校の皆さんがかなりコストを割いて面談したり、寄り添っていかないとわからないと思います。

教壇の上から、100人単位の学生に、いろいろ叫んでも、その瞬間のテンションをあげることはできても、それは一過性のものでしかなく、継続的に、モチベーションを保ち、目的めざして行動させ続けるのは、やはり、寄り添うこと、話すことしかないと思います。
もちろん、一定以上のレベルになり、
 
・とにかく、つくることが面白い!
・もう、俺の、わたしのゲームさわってみてよ!
 
みたいに自主的に、課題とは別に制作をどんどんしていくような学生もでてくることでしょう。
それは、
 
・完成するところまでやりきっている
・一回つくったら、振り返って、次にいかしている
・毎回何かチャレンジしている(技術的に、とかですね)
など

 
が、あるならば、節目節目に確認してあげるだけで、あとは、学生から自主的に相談にくると思います。考えて行動できる人間は、自身の中の課題をある程度明確にすることができますから…。

なので、この一定以上レベルの学生は、「自由にやらせておく」ことも大切だと思います。もちろん、学校なので、講義や、課題は、ノルマとしてやってもらわなくてはいけません。ただ、無理やり型にはめていくのではなく、
 
つくるの楽しい!面白い!
 
を優先させてあげることが、プロには一番の近道だと思います。もちろん、一定期間内に、目的の数、質のものを完成させないといけないので、そこは、確実に目を光らせていたほうがいいでしょう。
なので、この「ある程度の自主性と放任」は、繰りかえしになりますが、一定以上のレベルに到達した学生に限ります。
 
逆に、「クリエイターとしての楽しい!」への壁を突破させるためにも、必要なのはゲームをつくる面白さ、なるほどな…と学生が思うアイデア、ゲームデザイン、触り心地、ビジュアルなどにどれだけ早く触れさせ、且つ、自身に体験させるか?だと思います。

制作実習などの時に、「学生に自分で考えさせないといけないから、口出ししない」と考えておられる講師の方を多く見かけます。確かに、コンテストに参加する作品であったりとか、もう3,4本ゲーム制作をしてきている学生に対しては、その方針もよいと思います。

が、そもそも、「自分でアイデアを考えて、ふくらませ、整理して、まとめて企画にする」ということを、しっかり身に染み込むところまで教えてこれていますか?というのがあります。

いえ、これは、先生方を責めているわけではなく、教科書もない、体系立てられた「ゲーム学」のようなものもない今、且つ、短期で、大勢に対して成果を求められていることが多い現状では、かなり苦しく、我流のものをかいつまんで提供していくことが精いっぱいな方が多いのではないでしょうか?この問題の解決提案は、また別の機会にしたいと思いますが、いずれにせよ、学生は、
 
教えられていないこと、身についていないことはできない
 
だと思います。なので、ハイハイから二足歩行に立ち上がるまでは、座学よりも制作という体験のなかで、ゲームの考え方や、面白さ、アイデアの出し方や広げ方、そして整理して落とし込むことなどを一緒になって、教えていってあげることではないでしょうか?

酷な言い方をすれば、講師のイメージする能力の限界が、学生の一次限界になってしまう、ということです。(そこを自力で乗り越えていく、師匠越えをしていく学生もいますが)

とにかく、実体験の中で、教える側も教えていくことで、学び成長できることがあると思います。わたしも、いま日々、それを実感しております。今回の結びに入りますが、現在、まず、わかりやすく提案できるのは、
 
・就活までに、制作したものをもたせてあげること
 
に尽きます。「なに、当たり前のこと言ってるんだ?」と思われるかもしれません。でも、就活を迎える学生に、5,6本のアピールできる制作物をもたせてあげられているでしょうか? つまり、2年コースの学校であれば、1年目のうちに、果たして、何本制作させてあげるか?でしょうし、就活で企業の方に評価いただける量と質は、どれくらいであると認識されているか?です。

もちろん、個体差はあるので、いくつ!と言い切ることは難しいですが、1,2本でないことだけは、確かだと思います。また、企業さんによっては、プログラマの選考などで多いのですが、「チーム制作のものだけでは評価がしづらいので、個人制作のものも必要」という企業さんも、かなりの数いらっしゃいます。案外、学校によっては、チーム制作しかやっていない、逆に個人制作しかない、というところもありますので、ここは、よく考えて設計が必要になると思います。
 
今回は、学校における、教えていくときに「いま」なにが必要なのか?をまとめてみました。

今回は以上!

 
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株式会社ファリアー

 
 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー


第四十回「"いま"やるべきこと」

第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」

第三十八回「軸足をもつ」

第三十七回「どんな経験が?」

第三十六回「自分だけの面白いから脱却」

第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
 
株式会社ファリアー
http://farrier.jp/

会社情報

会社名
株式会社ファリアー
設立
2016年7月
代表者
代表取締役社長 馬場 保仁
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