​Donuts共同創業者 根岸心氏が語る会社の軌跡・プロダクト創りの想い…『単車の虎』から『7th シスターズ』『戦国の虎Z』とこれから

Donutsといえば、『単車の虎』や『Tokyo 7thシスターズ(以下、7th シスターズ)』など、個性的なスマートフォンゲームアプリを手がけているディベロッパーだ。近年の展開へ注目度は高いものの、Donutsという会社については意外と知らない人が多いのではないか。今回、Donuts取締役の根岸心氏にインタビューを行い、会社の設立から現在までの歩み、将来の展望を聞いた。


―――:まず御社の成り立ちを教えて下さい。
 
2007年に設立しまして、当時、PCで人気のあったQ&Aサービスをモバイル対応させたサービスを手がけていたのですが、見事に失敗しました(笑)今でこそ、多くのQ&Aサービスがリリースされていますが、少し早すぎたのかもしれません。そのため、しばらくは、ECやショッピングモールサイトのシステム構築など受託開発を行っていました。

事業が落ち着いた頃、再び自社サービスに取り組みました。2008年にエンジニア向けのハウツー共有サイトをリリースしたのですが、これもなかなかうまくいかず(笑)、2009年12月に恋愛&メイクのハウツー共有サイト「ハウコレ」としてリニューアルしました。現在では、女性向けのハウツーサイトでは国内No1のサービスとなりました。



 
■2010年にソーシャルゲームに参入

―――:創業時のサービスはWEBサービスだったんですね。ソーシャルゲームに参入したのはいつ頃だったのでしょうか?

2010年ですね。マーケットから見ると少し遅い参入でした。最初にリリースしたゲームは、会員数10万人ほど獲得できましたが、2作目は厳しい結果でした。自信作だったのですがフタをあけてみると、1日の売上が2000円程度でした(笑)。失敗の原因を考えるためゲーム内容を改めて見直したところ、流行している要素を詰め込んだだけのゲームに見えてきまして(笑)、プレイしてもらう価値がないゲームだな、という結論に至りました。

今度こそという意気込みでリリースしたタイトルが『単車の虎』です。企画段階では多くの機能を盛り込んだゲームでしたが、2作目までの反省からリリース直前まで試行錯誤しました。仮説・検証を繰り返し、機能を大幅に絞りました。結果、おまけ機能として組み込んでいたバイクとアバターの要素、そしてバトルを組み合わせたゲームとしてリリースしたのですが、リリース直後、驚くほどのヒットとなりました。ユーザー数が急拡大するなか、物理サーバーを追加投入したものの、トラフィックの増加に追い付くことはできない状態が続きました。

ユーザーから掲示板などで、弊社の対応を「エアメンテ」などと書かれたこともありました。つまり、アクセスにサーバーが追いつかない状態が続いたので、メンテナンスのフリをしているだけで何もしていないじゃないかといわれたわけです。サーバーを投入し続けていたんですが、ユーザーからみると全く変化がないように見えたので仕方ありません。とにかく総員をあげて、メール対応や電話もひっくるめてスピーディに対応しバタバタとしていました。

 


 
■価値のあるこだわりのあるゲームづくりを

―――:スマートフォンアプリに参入したのは、かなり早いタイミングでしたね。

「単車の虎」が順調に拡大して1年くらい経過したころに、スマートフォンアプリに参入することにしました。ソーシャルゲームの黎明期に参入した企業は、かなり先行者メリットを享受したことがわかっていましたので、ネイティブアプリでも同じことが起きるだろうと考え、いち早く参入することにしました。

とはいえ、フルネイティブアプリを開発する時間はないので、WEBベースのアプリをほぼそのまま出しました。課金機能も半年くらい実装しませんでした。課金機能より優先する開発項目があると考えていたことが理由です。リリース後、ユーザーが急激に増えていき、課金機能を導入したらものすごく売上が出るようになり、売上ランキングでも上位に入るようになりました。

 
―――:そういえば、しばらく課金機能は実装しませんでしたね。なぜだろうと思ったのを覚えています。それよりも優先する開発項目があったためということですが、もう少し詳しく考え方を教えていただけませんか?
 
無料でもゲーム自体に価値のある状態でないと、課金要素を追加しても多くのユーザーに遊んでいただけないと考えています。ゲームを長期的に運用するという観点からすると、課金機能はリリース当初に導入してなくても問題ありません。

また、事業計画の目標を達成するためにユーザー離れを招くような短期的施策を繰り返すことは、長い目で見て得策ではないと考えています。どちらかというと、ゲーム自体の価値を高めることに焦点をあて、ゆっくり育てる、という考え方です。当社は外部からの出資を受けておらず100%自己資本なんですね。そのため、短期的な利益追求への圧力はないので、そのような取り組みを行うことができます。


―――:最近までガチャ要素もありませんでしたよね。

ガチャは、ユーザーにとって価値のある状態を作った上で、プラスアルファの要素として入れないとゲームとして面白くないと考えています。ゲーム性とユーザー体験を高めることが重要だと考えているため、ガチャの優先順位が高くなかったということです。あとは先程申し上げたように、短期的な目標を追い求める必要がないことも大きいです。ガチャは、数字の辻褄を合わせるために使うことができる施策だと思うので、ガチャに関連した施策をするにしてもユーザーにとって価値があるのか、乱発していないか、といった点は注意しています。
 
―――:印象的なのは、飲食店やファッションブランド、バイク雑誌などとコラボをよくやっていましたね。
 
バイク雑誌やファッションブランド、飲食店とのコラボも行いました。例えば、ピザーラさま、エムグラントフードサービスさまの「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」などとの取り組みがあります。ゲームをリリースした当時は他企業様とのコラボレーションができるとは全く考えていませんでしたが、先方からお声がけいただくようになりました。

―――:『単車の虎』が現在も高い人気を保っているのはなぜでしょうか?

ユーザーの好みにあったゲームサービスを提供できていることが大きいと考えています。ゲームシステムはもちろんですが、世界観、キャラクターやシナリオなどゲーム内の言葉遣いには相当こだわりました。ユーザーが読む雑誌を100冊以上購入して読み、ユーザーを研究・調査し、楽しいと思ってもらえる要素をゲームに盛り込みました。
 
フルネイティブ、3Dなどの要素は、ユーザーにとって必ずしも本質的なポイントではないと感じていまして。マーケットの状況が過去と現在では全く違いますので、いまリリースしたら遊んでいただけるかわからないですが、フルネイティブでグラフィックが綺麗だから遊び続けるのかどうかは疑問です。この手の議論はコンシューマーゲームでみられたものですが、ゲームとしての楽しさをいかに提供するかという点が重要だと考えています。



 
■拡大フェーズに入った『Tokyo 7thシスターズ』

―――:その後も複数のタイトルをリリースされていますが、『7thシスターズ』のリリースは業界でも注目されています。「Donutsからアイドルゲーム?」と思ったものですが、これまでの御社の事業展開を考えると、それほど不思議なことでもなかったんですね。

はい。当社では新しいプロダクトは、既存のWEBサービスやゲームと全く関係ないジャンルでも構わないと考えています。いわば、アパレルメーカーがブランドを複数立ち上げるのと同じようにプロダクトを出していくイメージです。既存のプロダクトとはちょっと違ったアプローチのゲームを提供して、売上を1.2倍、1.3倍にするより、大幅に違うジャンルでプロダクトを出して2倍、3倍にすることが望ましいと考えています。

―――:『7thシスターズ』も相当長い期間、課金を入れませんでしたよね。
 
そうなんですよね。2014年2月にリリースしたのですが、2014年の10月に有料コンテンツの提供を開始しました。課金機能導入前から、ユーザーから「お金を使わせてほしい」とお問い合わせが来るくらいでした(笑) 今年の5月にライブもやりましたし、今後もマルチメディア展開とやっていこうと思っています。最初の企画のスタートから時間が経過していますが、着実に伸びており、今期は『7thシスターズ』が当社の柱の一つと成長することを期待しています。ゲームとしてだけでなく、音楽やライブ、書籍化などのメディアミックス展開を行い、コンテンツとしても大々的な仕掛けをしていく予定です。
 

―――:運営されていて苦労した点はありますか?

リリース後、ユーザーがなかなか集まらなかったことですね。事前登録は順調に伸びたものの、事前登録の受付開始からリリースまで時間が経過していましたし、ゲーム自体も十分作りこめていませんでした。壮大な計画はありましたが、チームのメンバーが小数でしたし、限られた期間でどこまで実現するのか、悩ましいところがありました。

スケジュールと自分たちの作りたいものとの間での折り合いをつけた状態でリリースできたと思ったのですが、実際運営してみると色々と足りない部分が見えてきました。その後、データ分析と仮説検証を繰り返してコツコツと修正を加えていきまして、昨年秋には音ゲー部分を中心に大きくリニューアルし、ようやく伸びるフェーズに入ったと思います。WEBサービスではグロースハックが流行っていますが、ゲームのグロースハックをしている感覚がありますね。



 
■『戦国の虎』を3本目の柱へ
 
―――:なるほど。『戦国の虎』はいかがですか?
 
『戦国の虎』は、オリジナルの世界観で作られています。昨年の8月にリリースしました。リリース後、じっくりと改善しながら運営を行っております。「戦国の虎Z」では、『逆転裁判』の岩元辰郎さんにキャラクターデザインをお願いしております。岩元氏は歴史に非常に詳しく強いこだわりがある方で、残すべきところアレンジするべきところをプランナー陣と何度も議論を重ねて独特な世界観を創りあげました。例えば、織田信長はクレイジーさと男のセクシーさにこだわってデザインされております。その結果、頭蓋骨から炎が出るというアレンジに(笑)

―――:これはかなりオリジナルですね。イラストを見ただけではもちろん、織田信長といわれても「え?」となるかもしれませんね。ブラウザゲームの『戦国の虎』がありますが、同じようなゲームなのでしょうか?
 
おっしゃるように、『戦国の虎』は、もともとブラウザゲームとして出したタイトルで、タイトルこそ引き継いでいますが、全く違った世界観になっています。『戦国の虎Z』『戦国の虎』両ゲームに共通している点は、プレイヤーがオリジナル武将となり、強い装備を着せ替えながら敵として登場する戦国武将と戦っていくところです。世界観はもちろん、ユーザーの立ち位置も戦国☓アバターの組み合わせもオリジナルです。『7thシスターズ』と同じく成長が期待できるタイトルです。 
 

―――:なるほど。その結果、アプリストアの売上ランキングでも徐々に上がってきましたね。

そうですね。着実に伸びてきますし、Donutsは、『単車の虎』だけではないと思ってもらえるようにしたいですね。このタイトルの伸びも、ユーザーにとって楽しめるものなのか、長期間にわたって楽しんでもらえるものなのかという観点で、ゲーム作りを進めた結果だと考えています。

―――:今後の展開で注目ポイントは。

まず、ゲームに関しては、新規で3タイトルほどリリース予定でいます。『単車の虎』や『戦国の虎Z』『7thシスターズ』とは違ったところでやっていこうとしています。また、その他新規タイトルを継続して企画・立案しており、人員を増員しています。コーポレートスローガンを「Change the Geme.」としているのですが、時流を変え、10年後、20年後も楽しまれるコンテンツ・ゲーム作りに取り組んでいます。

もうひとつは海外展開の強化です。ベトナムとタイに支社を設立しているのですがローカライズ、パブリッシング、運営を担います。両支社も中核となるメンバーがいて、徐々に人員を増やしています。タイは2年前に立ち上げていて、ベトナムは昨年です。試行錯誤していますが、今期プロダクトをリリースする予定です。期待していてください。


 
(編集部 木村英彦)

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