モブキャストはなぜ「mobcast」のオープン化に踏み切ったのか?  その理由と狙いを佐藤 崇氏に聞く

 

モブキャスト<3664>は、4月22日より、スポーツコンテンツやスポーツ系ソーシャルゲームに特化したプラットフォーム「mobcast」を正式にオープン化した。これまで自社開発のゲームの提供を中心に行なうことで発展してきた「mobcast」プラットフォームだが、「GREE」や「Mobage」などと同様、外部のソーシャルゲーム提供会社に門戸を開くことになる。

今回、同社の取締役 CSO 兼 プラットフォーム事業本部長である佐藤 崇氏にオープン化の狙いはどういったところにあるのかを聞くとともに、昨秋から実施中の試験配信の状況、今後のプラットフォームの拡大戦略についても話を聞いた。

 

■多様なコンテンツを提供してプラットフォームを活性化

―――: まずオープン化に至った経緯を教えていだたきたいのですが。

佐藤氏: モブキャストは、コンテンツメーカーとして、そしてパブリッシャーとして事業を展開してきました。当社がこれまで発展させてきたゲームプラットフォームを他のゲーム提供会社が活用できるような仕組みを用意することになりました。

昨秋から試験的にサードパーティのコンテンツを提供してきたわけですが、タイトルの運営も軌道に乗ってくるものもでてきて、そして、システム的にも安定してきたので、タイトルを増やしたいと考えています。今年はメディア事業を本格的に展開して会員数を一気に増やす方針ですが、入会したユーザーが色々なコンテンツで遊べる状況にしておく必要があります。当社だけでは、提供できるコンテンツにも限界がありますから。

これまでは自分たちで企画して開発してユーザーが遊ぶという世界でしたが、自分たちが「場」を提供して、その場がスポーツエンターテインメントの発展につなげるような形にしたいと考えたわけです。これまでは特定の会社とお付き合いさせていただきましたが、今後は分け隔てなく幅広い会社とお付き合いできればと考えています。

―――: これまでサードパーティのタイトルを試験配信されてきたわけですが、どのように評価されてますか。

佐藤氏: 他社SNSの会員数は約3000万人なのに対し、「mobcast」は約300万人と10分の1ですので、まだまだ規模としては小さいです。ただ、試験配信して以来、課金率や課金単価、継続率などパフォーマンスがかなり改善してきました。コンテンツを提供していただいている会社には、今年はコンテンツの増加やメディア事業の本格展開に伴い、ユーザー数が大きく増えて、ビジネス的にもスケールする状況になることを期待していただいています。

―――: 試験配信の状況については計画通りと。

佐藤氏: 外製コンテンツへの送客に関してはまだ課題がありますが、現在の会員数での各種のパフォーマンスに関してはおおむね計画通りに進んでいます。

―――: 現状ではやはり内製ゲームが強い状況なのでしょうか。

佐藤氏: そうですね。大手ソーシャルゲームプラットフォームがオープン化した時と同様、当社のゲームは、作りこんだタイトルが多いこともあって、プラットフォーム内では強い状況にあります。早く良いコンテンツを多く揃えて切磋琢磨していく状況を作る必要があります。色々な良質なゲームを提供して、結果として、「mobcast」の会員としてずっと使い続けていただける状況を早く実現したいです。ユーザーの動きを見ていても、少しずつサードパーティのタイトルを使い始めていますが、まだ色々なタイトルで遊ぶ状況にはありません。本当はもっと伸ばせるはずですが、どういう施策ならば遊んでいただけるのか、試行錯誤しています。

―――: これまでの路線を継続してもユーザーを伸ばすことは可能と思えるのですが。

佐藤氏: もちろん、内製タイトルだけでも十分可能だとは考えています。しかし、『サンシャイン牧場』や、『ドラゴンコレクション』、『大乱闘!!ギルドバトル』などエポックメイキングなタイトルというのは、自社だけではなかなか生まれません。プラットフォームに参加する様々な会社が切磋琢磨して、相乗効果で初めて生まれるものですし、そういう状況を作りたいと考えています。

―――: 基本的なことですが、御社がプラットフォーマーとしてサードパーティに提供するサービスは「Mobage」や「GREE」などと同じでしょうか?

佐藤氏: ええ、全く一緒です。いわゆるソーシャル要素に関係する各種API、認証と決済といったサービスです。ブラウザベースのフィーチャーフォンとスマートフォン向けでそれぞれ用意しています。ただ、ネイティブアプリの連携仕様は準備中です。当社もネイティブアプリは複数リリースしていますが、ブラウザゲームのカジュアルさを大切にしているため、いわゆる側ネイティブとして提供しています。

 

■実名・実写系のスポーツゲームは有望

―――: やはりサードパーティにはスポーツ系のゲームを出してもらいたいと。

佐藤氏: そうですね。スポーツを題材にしたゲーム・アプリでしたら、特に条件はありません。いわゆる美少女が出てくる萌系のスポーツゲームでも構いません。ただ、当社の内製ゲームでも経験したように、やはり実名・実写のゲームが見た目としてもいいですし、多くのユーザーに好まれる傾向にありますね。そういったタイトルを中心に誘致しつつ、幅広いタイトルを集めたいです。いわゆる公式サイトでも歓迎します。スポーツゲームやコンテンツを作れる会社はそれほど多くはありませんので、幅広い会社に対応します。ただ、スポーツSNSのような「mobcast」と競合するサービスや、個人開発のアプリは難しいです。

―――: 御社の『モバプロ』や『モバサカ』が好例ですね。サードパーティではどういった実例はあるでしょうか?

佐藤氏: 例えば、スマイキーさんのプロバスケットボール「BJリーグ」をテーマにしたソーシャルゲームが好調です。野球やサッカーなどのメジャースポーツに比べてファン数こそ少ないですが、熱心なファンの方に継続的に遊んでいただいています。他のプラットフォームで提供されていないことも大きいとは思いますが、1人のユーザー様が何人も友達招待をしていただき、強力なバイラルが効いています。

―――: それは非常に興味深いですね。

佐藤氏: そうなんです。BJリーグは、地元密着を志向する21チームが参加する国内のプロバスケットボールリーグです。沖縄や秋田、青森など、プロサッカーやプロ野球がない地域で非常に人気があります。実際、ゲーム内でも沖縄や秋田、青森のチームの選手は人気ですね。

―――: そういうことは東京にいるとなかなかわからないですね。

佐藤氏: ええ、しかも私自身も携帯コンテンツビジネスに長く携わっていますが、携帯電話でのコンテンツ利用に積極的なユーザー様の多い地域でもあります。こうした地域にフォーカスしたマーケティングをすればさらに多くの方に遊んでいただけるのではないかと期待しています。

―――: なるほど。それはとても良いお話を聞きました。

佐藤氏: これは出してみてわかったことで本当に勉強になったのですが、総合ソーシャルプラットフォームでは陽の目を見なかったスポーツソーシャルゲームもスポーツに特化した「mobcast」でならば、輝く状況を作れるのではないかと感じています。これを通じて、提供するスポーツの発展にも貢献できれば、ゲームの提供会社はもちろん、当社にとってもプラスになるはずです。BJリーグはそれなりの規模ではありますが、今後、ニッチだけども熱心なファンのいるスポーツを深堀りしていく、というのも良いかもしれませんね。

―――: 今期中にどのくらいまでタイトルを増やしたいう目標はありますか?

佐藤氏: その点については、今年はとりあえず20タイトルを目標にしていますが、一気に20タイトルというわけではなく、「mobcast」会員の増え方に応じて提供タイトルを増やしたいと考えています。現状の規模で、100タイトル増やしたら供給過多になってしまいますよね。その点は、iモードのケースが参考になります。コンテンツ同士が被らないようにしたり、同一ジャンルやカテゴリーのタイトル数を制限したり、計画的にやっていきます。

―――: サードパーティの開拓に向けた営業などはすでに着手されているのですか?

佐藤氏: すでに始めていますが、人員の関係もあり、まだまだ不足しています。営業も重要なのですが、こちらからサードパーティ向けのディベロップメントサイトを開設したり、5月21日にはディベロッパーカンファレンスを開催したりして、こちらからどんどん情報提供を行い、ゲーム開発会社の方々に興味を持ってもらうようにしています。カンファレンスについては、当社のプラットフォームの宣伝というよりも、スポーツソーシャルゲームをテーマにしたパネルディスカッションにする予定で、私個人としてもぜひ聞きたいと思っています。

―――: お金に関わる話ですが、プラットフォームの手数料はどのくらいにされていますか?

佐藤氏: 詳細についてはお話できませんが、他のプラットフォームとほぼ同じとお考えください。今後、当社がプラットフォーマーとして十分なサービスを提供できていないということになれば、下げることになりますし、逆に、上げるべきということになれば、そのようになります。状況に応じて変えていきます。

 

■クロスメディア展開で集客を支援

―――: 集客支援の一環として、インフォマーシャルなどでサードパーティのタイトルも紹介されるとのことでしたが。

佐藤氏: すでにやっているのですが、様々な取り組みを行なっていきます。当社は、テレビ番組を持っていますし、アイドルグループ「mobcastガールズ」がいます。「mobcastガールズ」がインフォマーシャルでゲームを紹介し、球場などでゲームの提供会社と当社でマーケティング活動を行うなどクロスメディア展開を行っていくというのも一例です。スポーツは観るだけでなく参加するものですし、リアルなものとバーチャルなものを組み合わせることで高い効果を発揮すると考えています。

―――: インフォマーシャルというのもポイントなんでしょうか。

佐藤氏: インフォマーシャルは、テレビCMに比べて効果的ですし、紹介するmobcastガールズも人気がありますから。毎回、テレビに合わせて収録していますので、例えば、「明日天皇賞がありますから、ゲーム内で連動イベントをやります」といった告知をタイムリーに出すことも可能です。メディア事業を運営する当社ならではの味付けと自負しています。

―――: なるほど。こういったきめ細かい対応は、画一的なテレビCMではなかなかできないことですよね。

佐藤氏: そういう部分は当社も非常にこだわっている部分ですので。ただ、時々、やり過ぎじゃないかと感じることはありますね(笑)。その点は、ものづくりを行う会社のいいところですので、できる限り尊重したいと思っています。

 

■スポーツメディアとしてユーザー数が急拡大中

―――: 「mobcast」プラットフォームの課題はどういったところにあるでしょうか。

佐藤氏: 春先からユーザー数が急速に伸びているものの、会員数がまだ少ないことでしょう。すでに月商数千万円規模になっているサードパーティのタイトルも出てきていますが、提供されるタイトルやサービスを充実させるには一定の規模が必要です。

―――: その点は、冒頭のお話に通じることですね。

佐藤氏: もうひとつは、ユーザーには「『モバプロ』で遊んでいる」ではなく、「mobcast」にある『モバプロ』で遊んでいると思ってもらうことも重要です。そういう意識ができてくれば、ユーザーは、プラットフォーム内でゲームを探すようになるはずです。とはいえ、「探す」というアクションにつながっているユーザーはまだ過半数にも達していません。例えば、『モバプロ』で遊んでいて、関連するキャンペーンを実施して初めて他のゲームで遊び始めるユーザーが増えていますが、自分でゲームを探すという行動に移すユーザーはまだまだ少ないのが現状です。

―――: プロモーションも去年は『モバプロ』や『モバダビ』など個別コンテンツで押していましたが、最近はプラットフォームを押したものになっていますね。

佐藤氏: はい。これまで『モバプロ』など個別のコンテンツを全面に出したプロモーションを行なってきましたが、最近では、「mobcast」というブランドで広告宣伝を強化するとともに、メディアとしてニュース配信や公式サイトの情報配信などを行って「mobcast」プラットフォーム内を回遊してもらうようにしなくてはなりません。内製ゲームでも、例えば、ゲーム画面の上と下に「mobcast」へのリンクを張るようにしています。

―――: 上下にロゴですか。どういった意味でしょうか。

佐藤氏: ページの一番上と下に「mobcast」へのリンクを張ることは、ユーザーがプラットフォーム上の他のゲームに移ってしまう可能性もありますので、ゲームの開発者が嫌がることです。その点はとても正しいのですが、例えば、『モバプロ』だけで遊ぶように作り込んでいると、一度飽きてしまったら、他のプラットフォームでゲームを探すようになるなど、本末転倒となりかねません。「mobcast」のコンテンツを意識してもらうことで、結果として高い継続率につながります。逆に、「mobcast」を強調しすぎてゲームの運営に支障が出るのはまずいですから、バランスをとることが重要です。

―――: 会員数の増加のカギとしてメディア事業を位置づけておられますが、ニュース配信にも力を入れてますね。

佐藤氏: はい。ほかのサイトに行かなくても、「mobcast」を見れば、スポーツの情報が得られるようにします。当日のスポーツの試合結果だけでなく、ヒーローインタビューの全文配信などオリジナルニュースも配信しています。今後は、大手ポータルサイトへのコンテンツ配信を行うだけでなく、Googleなどの検索ロボットをクロールできるようにしたり、サイトの見やすさを改善したり、といった対応は必要です。スポーツ系の情報を無料で惜しみなく提供できる会社は少なく、競合はそれほど多くはありません。

当社は、これまではゲームだけでユーザーを増やしてきました。今後は、毎日アクセスしたくなるスポーツ情報を提供して、スポーツを愛する方々に使っていただける状況を作っていく必要があります。スポーツエンターテインメントを提供するという当社のスタンスからすると、ヘビーなゲームユーザーだけでなく、スポーツメディアの展開やテレビ番組でのゲームの露出、球場などでのタイアップなど様々な手段を組み合わせて、幅広い方々に興味を持っていただいて、入会もしくは継続、そしてアクセスしなくなった方にも再開していただけるような仕組み・仕掛けをつくりたいと考えています。

―――: プロ野球やサッカーチームの公式サイトといったコアな情報も配信されてますよね。

佐藤氏: F.C.バルセロナやリバプールFC、アーセナルなど海外の有名なサッカーチームの公式サイトだけでなく、パ・リーグ全球団の公式サイトを利用できるようにしています。フィーチャーフォン時代、スポーツチームの公式サイトは儲からないビジネスの烙印を押されていました。しかし、BJリーグの話ではないですが、熱心なファンがずっと使い続けてくれるビジネスと理解しています。「mobcast」で提供していれば、ファンもスポーツゲームで遊んでくれたり、ゲームを再開してくれたりする可能性もあります。いろいろな議論があるのは事実ですが、チャレンジしていきたいと考えています。

―――: 最後に「mobcast」プラットフォームの強みを教えてください。

佐藤氏: まず、マーケティング支援のところでも申し上げましたが、クロスメディア連携なども行えることです。2点目は、これから会員数の伸び代が大きく、プラットフォームとしてポテンシャルが大きいことが挙げられます。3点目は、それと関連してですが、中小規模のマーケットしかないと考えられているようなスポーツコンテンツや、総合ソーシャルゲームプラットフォームやApp Storeなどで埋もれてしまうようなコンテンツであっても、ヒットさせることができる点にあると考えています。

―――: ありがとうございました。

株式会社モブキャストホールディングス
https://mobcast.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社モブキャストホールディングス
設立
2004年3月
代表者
代表取締役CEO 藪 考樹
決算期
12月
直近業績
売上高33億7100万円、営業損益4億2800万円の赤字、経常損益4億3600万円の赤字、最終損益3億8000万円の赤字(2023年12月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
3664
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