クルーズのソーシャルゲームが好調だ。『アヴァロンの騎士』や『神魔×継承!ラグナブレイク』はいまや「Mobage」のランキング上位に入る人気タイトルだが、ゲームとしての爽快感やユーザー同士の協力、美麗グラフィックなどゲームとしての楽しさを追求している点もさることながら、ボタンの配置から演出などの細部に至るまで洗練され、遊ぶ側に余計なストレスを与えていない点も人気の一因となっている。今回、クルーズのUIデザインにフォーカスし、クルーズにおけるデザイン業務や品質向上への取り組みについて話を聞いた。
■UIデザイナー 渡嘉敷 博子氏
―――: 現在、どういった仕事を担当されていますか?
新作のネイティブアプリのUIデザインを担当しています。それ以前は、『アヴァロンの騎士』のデザインのサポートを行なっていました。ワイヤーや配置、レイアウト、グラフィック面での作りこみを行い、コーディングを担当している人に渡す、という流れです。書き出しなど細かい仕事も行なっていますし、イベントやゲームの仕様が固まってから初めて動くことになるため、次の人がすぐに仕事をできるようにスピード優先で仕事を進めています。
―――: 以前からデザイナーをされていたのですか?
いえ。前職では、プランナーをやっていました。デザインの専門学校を卒業し、ソーシャルゲームのデザイナーとして前職の会社に入ったのですが、そこでは仕様を理解できないまま、デザイン制作に入ることが多かったのです。ソーシャルゲームの最適なデザインをより深く理解するには、自分でアプリを作るしかないと思い、プランナーの仕事をするようになりました(笑)。そして、クルーズに入社し、晴れてデザイナーとなりました。しっかりと仕様を把握してからデザインができるようになったと思います。
―――: クルーズに入ってから実質的にデザイナーとしてキャリアをスタートしたわけですね。
そうですね。いろいろな人の作品をみたり、他の会社のアプリで遊んでみたりして、とにかく勉強しました。私自身、一番学んだのは、フォントの書体や文字サイズ、色の数、エフェクトの使い方です。PCのモニターでは非常に綺麗にみえるのに、実機で見るといまひとつということはよくありました。最近では、ネイティブアプリの仕事をやってみて、ブラウザとの違いを強く意識するようになりました。とにかく主観だけで作らないようにしています。
―――: なるほど。主観だけにならないようにするために、特に気をつけていることはありますか?
それは、人の意見を聞くことです。自分でベストのデザインを考えたと思ったら、ディレクターに自分のデザインを見てもらい、それに対する意見をもとに、ブラッシュアップをしていきます。私自身、ずっとデザインをしてきたわけではないので、デザインにはまだ自信がありませんから。あと、考え方として、自分の「作品」ではなく、あくまでユーザーがゲームを遊びやすくするため、と考えています。ですから、人の意見を聞くことは仕事を進める上で重要です。思わぬ意見が出て、とても良い気づきになることも多かったですね。
―――: これまで一番心に残る仕事はどんなことでしたか?
『アヴァロンの騎士』をリリースしたときと、テレビCMの連動キャンペーン・イベントに絡んだデザインをした時には本当に達成感がありました。色々なことをギリギリまで試行錯誤していましたから。
―――: テレビCMのときは本当にすごかったですね。ところでデザインに関して御社内でルールはあるのですか?
バナーのサイズや配色のガイドラインなど、おおまかなものはあります。ただ、コンテンツによってポイントが違うため、プロジェクトごとにガイドラインを作っています。もちろん、あるタイトルのUIがいいとなったら、他のコンテンツにも積極的に取り入れたりもしていますので、柔軟な動きをとっています。
―――: 業界内でも話題になりましたが、残れまテン制度はいかがですか?
そうですね。定時になるとナイアガラテレビ(社内の情報をフルオープンにし、映像や音をつけてどんどん流す社内広報ツール)から帰宅を促すアラートが流れます。業務量の多い日でも、午後9時45分頃に社内にアラートが出て、午後10時には完全退社をしています。そのため、時間に対する意識が非常に強くなりました。限られた時間でいかに効率よく仕上げるか、と考えるようになり、仕事の密度が濃くなりました。ダラダラと仕事をすることがなくなりましたね。
―――: この業界、夜遅くまで仕事なんて当たり前ですよね。10時までという制限のなか、一定のアウトプットを出すとなると、厳しいかと思うのですが、仕事のやり方は変わりましたか?
はい。例えば、このままでは時間内に終わらないと思ったら、人に相談して解決策を導き出したり、お互いに手伝ったりしています。またデザインをしていると悩む時間が多いのですが、そういう時間があったら、自分で調べたり、他の人に聞いたりして、時間を無駄にしないようにしています。制度で起こった大きなアクションだと思います。
―――: お話を聞いていて思ったのですが、御社はコミュニケーションをすごく重視されていますね。
ええ。コミュニケーションは、作業したら忘れがちになりますよね。チーム単位で動くものになりますと、自分のやっていることを理解しないと進めません。あと、社内には「サービス意見箱」という社員の意見を自社サービスに積極的に反映していくためのシステムもあります。自分たちのゲームに対して、他のプロジェクトの人たちが意見を出せるもので、イベントの仕様からバナーのクオリティまで様々な意見をもらうことができます。「このイベントはもっとこうしたほうがいい」など意見が出て、非常に参考になりますね。
―――: 最後にご自身の課題や夢はありますか?
安定したクオリティのデザインを作れるデザイナーになりたいですね。会社としては自分の担当しているプロジェクトを何としても成功させたいです。
■デザイン統括部部長 林 竜宏氏
―――: 現在のお仕事をお聞きしたいのですが。
デザイン部門の統括を担当しています。デザイナーの生産性やクオリティ向上といった管理的な仕事をメインにしています。この業界はスピード感も重要ですから、デザイナーたちがデザイン以外の事に意識を取られず、できるだけ作業に集中できる環境を整えることも役割です。生産性の向上やデザインスキルの向上のためには、人の教育はもちろんですが、デザインに集中できる環境を整えることもとても重要なことだと考えています。その上で、デザイナーたちが色々な挑戦的なことができ、良いプロダクトを生み出せるようにしたいですね。また、デザイナーでもデザインだけをやりたいという人もいるでしょうし、ディレクションもやってプランナー寄りの仕事をやりたいという人もいるでしょうからそういった素養も見つけ、やりがいを感じられるチャレンジングな場所として活性化を図れたらいいと思っています。
―――: 環境といいますと・・・?
ご説明するのはなかなか難しいのですが、生産性の向上という観点から考えると、集中して仕事ができる状況にあることですね。そして、より早い伝達力を持って考える時間をなるべく少なくしてよい良いものを創造できるようにすること、社内で活発な意見が出し合える場を作る、といったことですね。もちろん、高性能のパソコンが発売されたらいち早く導入したり、あるいは大きなモニターを使ったりする、といったことは以前から取り組んでいます。
―――: 先ほど渡嘉敷さんにお話を聞いたとき、コミュニケーションがすごく活発になっているという印象を持ちました。
そうですね。意見の交換に関しては非常に活性化しています。例えば、サービス意見箱という制度があります。これは社内で起こっている出来事やプロジェクトについて、プロジェクト外の人でも意見を出せるようにしたり、こういうことをやりたいと表明する機会になるようにしています。「このプロジェクトのデザインは、こうした方がいい」といった意見もありますし、「こんなサービスを出すといいのではないか」といった意見が出ていますね。
―――: サービス意見箱のような制度は、作ること自体は決して難しくないと思うのですが、きちんと運用することはとても難しいですよね。
これはデザインというよりは、会社全体のことですが、会社に対する意見を放っておこうという環境ではないですね。社内にいれば、掲示板はだれでも見られるものですので、誰もがいいと思う意見であれば、主管する業務のマネージャーが答えなければならなくなります。生きた声を出すという意味では透明感が非常に増すように思います。文句や不満を抱えているくらいなら、意見として出したほうが良いということになりますので、ポジティブになりますね。
―――: デザインに関してクオリティ向上のために気をつけていることはありますか?
ちょっと抽象的なのですが、ゲームというものは、ユーザーに対して常にストレスを与えるものだと考えています。例えば、ゲームを始めると、クエストをクリアするためにカードを収集してください、カードを強化・進化させてください…など、次から次へと要望が出てきます。それをクリアすることで楽しさや達成感が出てくるわけですが、ゲームのストーリーに集中して楽しんでもらうためには、ゲームの本質的な部分以外、たとえば操作や見た目でストレスを与えてはいけないと考えています。例えば、ボタンの配置が使いづらいと考えるユーザーがいたとすると、操作部分に気を取られてゲームに集中できずに離脱してしまう可能性があります。UIと呼ばれるものに対する考えの一つとしては、ゲーム以外の部分でストレスを与えないようにすることですね。そこが大前提としてあって、押すボタンの色や、画面遷移をどうするといった話が出てきます。またUIは、我々だけが決めるものではなく、ユーザーと決める部分でもあります。「こうしたらもっと遊びやすくなる」、「この操作をしている時にここにボタンが出たら嫌じゃん」といった意見に対応していきます。そうした積み重ねこそがクリエイティブの向上につながってゆくと考えています。
―――: ガイドラインのようなものはあるのですか?
もちろんあります。ルールと言うよりも、「こうするとより良いです」ということを示すガイドラインですね。クルーズとしての品質向上や品質を守るためでもありますし、一種のレギュレーションがあることで、教育コストの低減につなげている部分もあります。ただ、あまりがんじがらめにすると、発展性がなくなってしまいます。そのへんは気をつけて運用している状況です。レギュレーションがあることで、個々のデザイナーは、余分なことに時間を使わずに、デザインセンスを高めたり、パーツを作ったりすることに時間を使えるようになります。
―――: 残れまテンは業界内でも非常に珍しい制度ですよね。
働く側からすると、これ以上残らなくていいという安心感がありますね(笑)。さらに仕事をきちんと終わらせたうえで、帰るためにどうするべきなのかといった提案も出てきますし、各人の工夫が自然に出てきますよね。ダラダラ仕事しない分、ゴールやフィックスが早くなるといったメリットがあります。もちろん、新規サービスの開始前後は残らなくてはならないときもありますが、それ以外の通常の日は、みんなで効率化を考えるようになります。何より、社員の健康が保たれるというのが大きいですね。
―――: デザイナーという立場からするとどうでしょうか?
デザイナーという立場からは、頭を切り替えて適当に休むことはとても重要なことです。余った時間で情報収集を行ったり、他の会社のゲームで遊んだり、絵画や映画などを鑑賞したり、お酒を飲みながら語り合ったりするなど、業務以外の時間でインプットを行うことが大切なんです。業務の中で表現することは自分たちが見てきたものを踏襲するにすぎません。業務外の時間も大切にしないと、絶対にデザインの質は良くなりません。そういう意味ではすごく良い制度だと思います。
―――: デザイナーでこういう人がほしいといったイメージがありますか?
作業とスキル、考え方などデザイナーに必要な素養はありますが、どんな分野であってもデザインに強い関心を持っていることが重要ですね。これなら負けないというところを持っていて欲しいですね。紙媒体やソーシャルゲームなどを問わず、どんな媒体であっても、デザイン業務に従事してきた方の蓄積してきたものは評価しています。また提案力や目的意識の高い人がほしいですね。コミュニケーション力を重視していますので、受け身よりは提案型や活発に意見を交わせる人やクオリティに対して貪欲な人を求めています。あとはソーシャルゲーム業界自体、まだ歴史が浅いですし、これからも発展していく分野です。ですから多くゲームリテラシーの高い人も求めています。
―――: 課題や目標としてどういったことがありますか?
クルーズのゲームはカッコイイ、オモシロイ、だから遊ぶ!と無条件に思ってもらえるようにしたいですね。ユーザーから選定される基準を「クルーズ」という会社にしてもらうと、我々のモチベーションもあがりますし、ユーザーには安心を提供する形になります。そういう観点からもデザインも大きな役割を果たせると思います。そして、デザインについては、こちらから何か語るのではなく、ユーザーに「カッコイイ」と感じて語ってもらえるような状況にしたいですね。
■関連サイト
会社情報
- 会社名
- クルーズ株式会社
- 設立
- 2001年5月
- 代表者
- 代表取締役社長 小渕 宏二
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高140億円、営業利益6億4400万円、経常利益6億2800万円、最終利益2億5400万円(2023年3月期)
- 上場区分
- 東証スタンダード
- 証券コード
- 2138