アプリプロモーションの手法は、大きな変化を遂げつつある。これまでリワード広告やアドネットワークを使った手法だったが、サービス提供を一定期間行い、一気にユーザーを増やす手法としてテレビCMの有効活用が脚光を浴びる一方、いわゆる事前の告知とともに事前登録を活用してサービス開始前にユーザーを集める手法が徐々に広がりつつある。またソーシャルメディアの活用も以前に比べて広がりを見せている。
今回、株式会社CyberZの広報室室長の椛嶋麻菜美氏(写真右)と、スマートデバイスイノベーション事業部グローバルマーケティグマネージャーの加藤雅人氏(写真左)に最近のアプリプロモーション手法の変化と、同社のサービス展開、そして、新しいプロモーション手法の特徴と効果についてインタビューを行った。
―――: 本日はよろしくお願いいたします。馴染みのない方もいると思いますので、まず御社の紹介をお願い致します。
椛嶋氏: 当社は、2009年に設立されたスマートフォンに特化した広告代理事業を展開しています。米国サンフランシスコをはじめ、中国などにも拠点を設けており、国内外で広告主のマーケティング支援を行っています。設立当初はフィーチャーフォン専門の広告代理事業でしたが、2011年2月にスマートフォン専業へと一気に舵を切り、現在はサイバーエージェントのスマートフォン広告事業として国内トップシェアまで成長することができました。スマートフォン専業として業界で初めてスマートフォン広告向けの効果測定ツール「Force Operation X」(以下、「F.O.X」)をリリースしたことが、当社の競争力になっています。
―――: 2011年2月ですか。かなり早い段階からの参入だったんですね。
椛嶋氏: はい。アプリ広告とWEB広告を横断的に計測対応できたのが速かったため、スマートフォン向け広告を出稿したいという広告主からの引き合いにすぐに対応でき、大きなシェアを取ることができたと考えています。現在の「F.O.X」の連携媒体社数は、170社を超え、国内ツールでは最大級です。媒体社は、復数の媒体を束ねておりますので、連携媒体数にすると数万にのぼります。また『LINE』や『Facebook』とも連携しており、こうした点が早期参入したからこその強みになっていると思います。
―――: 初歩的なことなのですが、計測しているデータはインプレッションやクリックレート、クリック単価、インストール単価などがあるでしょうが、それ以外には何を計測しているのでしょうか。
加藤氏: 当初は、広告効果の測定だけでしたが、技術的な進歩もあって、インストールした後の継続率や課金部分に関しても計測できるようになっています。ユーザーがゲームをダウンロードして、その後、継続して遊んでもらっているか、どの程度課金をしているかを媒体ごとに計測可能です。例えば、「このメディアは継続率や課金率も高く効果的なので配信を強化する」といった判断もできます。このため、効果的な媒体により予算を振り向けて、顧客の広告効果を高めることもできます。それと、レベルや課金額なども計測しておりますので、ユーザーの遊び方に応じて最適なPUSH通知も行えるようになっています。
―――: そこまでできているのですか。外部から見ているとなかなかわからないもので。効果測定だけではなく、最近では広告配信もされているようですね。
加藤氏: はい。計測機能だけでなく、「F.O.X」に蓄積した様々なデータを使って、第三者配信も今後強化していきます。集客から計測、マネタイズするところまで全てカバーできるようになりつつあります。
―――: ゲーム会社の利用はどういった形でしょうか。
加藤氏: いままでですと、広告主のマーケティング担当者が広告効果の測定に使っていましたが、その利用方法も徐々にゲームの運営やマネタイズに係る部分にも活用して頂いています。ゲーム内での利用については、例えばゲーム内イベント前後の振り返りなどに使われていますね。課金額も追えていますので、イベント前に多めに出稿した広告の費用対効果はどうだったのか、クリエイティブの効果はどうだったのか、イベント前に獲得したユーザーの継続率はどうなのか、といった検証方法を、弊社からは提案しております。当然、蓄積されるデータ量も比較にならないほど膨大になっていきますので、日々、サーバーの増強に追われています(笑)。
■アプリプロモーションの変化
―――: さて、本題に入りますが、スマートフォンアプリのプロモーション手法の最近の変化ですが、どうお考えでしょうか。
加藤氏: まず、これまでのスマートフォンのアプリのプロモーション手法をお話しますと、リリース直後にリワード広告を出稿して、ランキングを上げて、自然流入のユーザーを獲得します(図参照)。そして次の段階で、アドネットワークへのテスト出稿、リワード広告への再出稿とアドネットワークやソーシャルメディアへの本配信を行って、質の高いユーザーを獲得し、DAU(Daily Active Users)を上げていきましょう、という流れが主流でした。
―――: 最近、テレビCMなども注目される一方、主戦場がリリース前に移りつつあるのかなという印象も持っていますが、いかがでしょうか。
加藤氏: そうですね。ここ半年ほどで、事前プロモーションの比重が高まっています。リリース前に事前登録を行ってユーザーを集めたり、リリース前に記事広告などを行ったりしています。コンシューマーゲームでは発売前の予告広告などは一般的に実施されていますが、そういった流れです。スクウェア・エニックスさんが『拡散性ミリオンアーサー』を韓国で展開した際、事前プロモーションを行い、大きな成果を上げましたが、その流れで国内でも一気に広がった感があります。
―――: そちら経由ですか。ここ数カ月、事前登録を専門に行うサービスが出てきましたね。
加藤氏: そうですね。弊社では「イチハヤ!」というサービスを提供しています。ユーザーが事前登録すると、サービス開始時にアイテムを付与するという仕組みです。3日後、1週間後の継続率はもちろん、課金率などもかなり好調で、自然流入のユーザーに比べて1週間の継続率ですと20%高いですね。自然流入のユーザーはゲームに対して興味を持って入ってきたため、継続率は20%~30%と高いのですが、事前登録ユーザーはそれを上回ります。アドネットワークも20%~30%ですので、リリース後のプロモーションに比べても、非常に質の高いユーザーが取れていると思います。
―――: 獲得できる件数はどのくらいになるのでしょうか。
椛嶋氏: 期間やゲームによりけりですが、例えば、「イチハヤ!」で2週間前に事前登録の募集をすると、約2000~3000件の事前登録がされるようになっています。タイトルの話題性や他メディアとの連携を強化した場合は、1万件まで伸びるケースもあります。リリース当初から多くのユーザーに遊んでもらう場合には、非常に効率的な手法となりました。コンシューマーゲームと同様に、スマートフォンでもメディアが揃ってきて、事前プロモーションも大規模にできる環境になってきたと思います。
―――: 「Mobage」や「GREE」ではかなり前からポピュラーな手法でしたし、PCオンラインゲームでも複数回テストを行なって、サービス開始時に特典を配布するということが行われていましたよね。広告主の課金の形態はどういった形でしょうか。
加藤氏: インストール単価となります。登録1件あたりいくら、といった形です。CPIでは、最低入札単価は200円からですので、平均的には300~400円ですね。
―――: リリース前の比重が上がった一方、リリース後のプロモーションの方法に変化はあったんでしょうか。
加藤氏: リリース後のプロモーションは引き続き重要視されています。リリース後にリワード広告を出すのは定石ですし、アドネットワークについても在庫量は毎月堅調に伸びており、定常的に良質なユーザーを獲得するためには有効なプロモーションです。リリース前のプロモーションがスマートフォン市場で一般的になってきたため、広告主のプロモーション予算配分も変わってきています。
■レイド型CPI広告「Double App Games」
―――: 先日リリースされたレイド型CPI広告も事後プロモーションのひとつのサービスですよね。
椛嶋氏: はい。レイド型CPI広告「Double App Games」を11月19日にリリースしました。これは、アプリレビューサイトや大手ゲーム情報ポータルサイトと提携し、24時間限定で広告に掲載されたアプリのダウンロード数に応じて、ユーザーが入手できるゲーム内アイテムが増えるという仕様になっています。かつて、リワード広告が全盛期だったころは、時間限定で、別サービスのインセンティブを付与することで、ユーザーにアプリをインストールさせる手法が盛んでしたが、「Double App Games」は、継続率や課金を上げることを一番の狙いとしており、CPI広告としてフラッシュマーケティング要素を盛り込んだ商品は国内でも新しい取り組みになっています。
―――: サービスを企画した経緯を教えて下さい。
椛嶋氏: 「イチハヤ!」が自然流入のユーザーよりも継続率が高いという実績を踏まえて、継続率の高い新規ユーザーを集めるために企画しました。配布する特典はインストール対象のゲームアプリ内で使用するものなので、そのアプリで遊びたいユーザーしか集まらないことが特徴です。他のアプリをインストールするとインセンティブが付与されるといったリワード広告とは異なります。
―――: まだサービス開始から間もないですが、いかがでしょうか。
椛嶋氏: 最近ではユーザー同士が集まって(=レイド型)ボスを倒すといったゲーム手法も一般的ですので、このレイド型という手法を本サービスに採用し、ソーシャルメディアとの親和性の高いサービスとして設計していますので、順調にユーザー数が伸びています。先日、テスト的に配信したところ、自然流入よりも約10%継続率が高く、さらに、課金ユーザー転換率が通常のプロモーションの約2倍という結果になりました。まだ初動ですので、これからより傾向がみえてくると思います。
―――: 広告出稿はどういった局面が有効なんでしょうか。
加藤氏: 広告自体はどんな局面で出しても有効です。リリース初期はもちろん、第1回のリワード広告の出稿を終えてアドネットワークを増やしてDAUを徐々に高めていく局面でも、ですね。また長期間、ゲームを運営してきて、ある程度、安定期に入ったゲームを運営されているゲームのニーズも大きいですね。
椛嶋氏: これまでの広告では在庫に限りがありますので、新しい広告商材が出たら積極的に試したいというニーズが強いです。
■ソーシャルメディアの比重も高まる
―――: なるほど。広告商材もどんどん増えていますね。
加藤氏: はい。それと、もうひとつ大きな流れとして、FacebookやTwitter、LINEといったソーシャルメディアの広告が注目されています。例えば、Facebookですが、1年ほど前にモバイルアプリのインストール向けの広告商品がリリースされ、非常に伸びています。Facebookの広告収益の半分以上はモバイル広告の売り上げと発表されていますが、当社はおそらくFacebookのモバイルアプリ広告では国内では一番取り扱っているかもしれません。海外では、Facebookの在庫量とユーザーの継続率を加味して、プロモーション予算の半分近くをFacebook広告に投資される広告主もいらっしゃいます。
―――: Facebookならではの特徴とは何でしょうか。
加藤氏: 全世界でユーザー数が11億人以上と他のメディアに比べてケタ違いに多いですから、非常に多くのユーザーが獲得できます。広告の配信手法も、全世界のユーザーにFacebookのもつ正確なユーザー情報に基づいて、ターゲティング配信ができます。また、国別の配信やターゲティング配信が可能なため、テストマーケティングに活用されるケースも多くなっています。カナダ等でアプリをリリースしてアプリ内部のKPIを確認してから、アメリカ等の市場規模の大きなマーケットでプロモーションを本格的に実施する、といったケースです。
―――: Facebook広告で獲得できるユーザーの特徴はなんでしょうか。
加藤氏: ユーザーの質は非常に高く、アプリやサービスによって異なりますが、アドネットワークに比べて継続率などの指標は高い傾向にあります。Facebook広告は正確なターゲティング配信が可能なため、広告主のアプリ、サービスと相性の良いユーザーにリーチすることができます。また、ニュースフィード上にかなり大きく広告が表示されますので、アドネットワークのような無駄タップが少ないため、インストールするユーザーのモチベーションも高いです。ゲームの広告と認知してタップしていただけるわけですから。国内外問わず、継続率や課金率も高く、特に北米を中心に展開する場合では、非常に大きなインベントリーを持っているので、Facebook広告への投資額が多くなる傾向にあります。
―――: 何か事例のようなものはありますか。
加藤氏: 全世界でアプリを配信したケースがありました。国ごとに継続率を見ていて、結論としては北米で高い数値がでたのでそちらに集中して広告予算を投資しました。ただし、国ごとに傾向がかなり出ていて、東南アジア圏ですと、インストール単価は安いが継続率が低かったり、一部のユーザーが課金額のほとんどを占めていたり、イギリスやドイツなどのヨーロッパ圏は北米に続いて継続率・課金率が高いのでプロモーションを行うといった国別の予算ポートフォリオの変更や、ユーザー特性を把握することができました。獲得規模の話をすると、Facebook広告のみで1日あたり3000~4000ユーザーを獲得できた事例があります。定常的に出稿していた他のメディアを含めるとFacebook広告が全体の半分程度を占めたことになります。国内外でFacebookは熱いですね。
―――: そんなにとれているのですか。そういえば、既存のアドネットワークもかなり変わりつつありますよね。
加藤氏: ええ。アドネットワークも引き続き伸びています。毎月堅調に在庫量は伸びており、広告の種類も以前のようなバナー広告だけでなく、アイコン型の広告や、無料ゲームなどで用いられるスプラッシュ広告など効果の高い広告商材が生まれてきています。アドネットワークにアイコン型広告を出稿して、検証してアプリマーケットのアイコンを変更することもできます。獲得単価も300~400円程度と安いうえ、質の高いユーザーが取れています。アドネットワークについては新しい試みがでており、今後も注目されるでしょう。
―――: スマートフォン広告の進化がすごいんですね。
椛嶋氏: 市場規模は今年1000億を突破する予測ですし、ここ1年での変化は大きいと感じています。アドネットワークの多様化、LINEやFacebookといった大型メディアも広告商材として扱えるようになってきました。それに合わせて、弊社の「Force Operation X」をはじめ、全世界における広告効果計測データのボリュームも量質ともに拡大しているので、ビッグデータを活用した配信や最適化のドメインも含めて、市場が伸びるポテンシャルは大きいと思います。
■広告主の変化と今後の見通し
―――: 一方、出稿する側についてですが、何か変化はありますか。
加藤氏: 出稿する広告主は、CPIだけでなく、継続して遊ぶユーザーを獲得する単価を示す指標「CPR」(Cost Per Retention)や、出稿した広告費用から発生した売上額を示す「ROAS」(Return On Advertising Spend)を重視する傾向が強まっています。広告商品の増加とともに、CPIだけでなく、CPRやROASなどのアプリ内でのユーザーの動きをKPIとして設定して、メディアの選定や日々の広告運用に取り組んでいます。こうした点もアプリマーケティングにおける大きな変化と言えます。
―――: 最後に、今後の見通しについてどうお考えですか。
加藤氏: 引き続きソーシャルメディアや、新しい広告商品が生まれていくと思います。とはいえ、そうしたなかでも、リワードやアドネットワークは引き続き伸びていくでしょう。個人的にはデータを使った広告配信が注目されていくとみています。例えば、DSPやDMPはすでにPCでは一般的ですが、スマートフォンではますます盛り上がっていく領域だと思います。チュートリアルを突破したユーザーと毎月課金してくれるユーザーとでは届けるべきメッセージや広告媒体を変えていくべきです。そうしたことをユーザー毎に実現できる技術や仕組みが徐々にできるようになってきています。また、InstagramやPinterestなど、FacebookやLINEに続くソーシャルメディアが徐々にマネタイズフェーズに入っています。マネタイズの戦略として「広告」に重点が置かれるでしょうから、私どもとしても注目しています。「Force Operation X」をさらに進化させ、計測と配信の両面から広告主のマーケティング全般の支援を強化していきたいと考えています。
―――: ありがとうございました。
■関連サイト
CyberZ
会社情報
- 会社名
- 株式会社CyberZ
- 設立
- 2009年4月
- 代表者
- 代表取締役社長CEO 山内 隆裕
- 決算期
- 9月