【インタビュー】アカツキ塩田CEOに聞く『サウザンドメモリーズ』の開発秘話と好調の要因

『サウザンドメモリーズ(千メモ)』がリリース以来、好調だ。iOSアプリ版は事前登録だけで2万5000人を超えるユーザーを集め話題となったが、売上ランキングでもサービス開始2日後にトップ30に入り、12月19日には過去最高の12位まで順位を上げた。今回、『千メモ』の開発・運営を行っているアカツキ代表取締役CEOの塩田元規氏にインタビューを行い、ゲームの特徴やヒット要因、運営状況などについて語ってもらった。



―――: まず、御社の成り立ちを教えていただけますか。設立される前はディー・エヌ・エーさんにいらしたと聞きましたが。

塩田氏: はい。ただ、ディー・エヌ・エー(DeNA)では、ゲームではなく、広告営業をやっていました。大学生の頃から、27歳で起業し、世界を変えるような会社を作ると決めてましたので、2010年6月、アクセンチュアに勤務していた香田(取締役COOの香田哲朗氏)と一緒に起業しました。いわゆるソーシャルゲームだけでなく、ゲーミフィケーションやO2Oなども手がけていきたいと考えています。

―――: 設立後、ずっとブラウザゲームをやってましたよね。

塩田氏: 2010年10月に「育てて☆マイガール」をリリースして以来、「暴走堕天使」、「絆のファンタジア」、「シンデレラナイン」、「鬼神ブレイド」、「シンデレライレブン」といったブラウザゲームを提供してきました。ネイティブアプリに本格的に取り組むようになったのは、2012年12月ころからですね。社内体制を変えたのはこの頃です。

―――: ブラウザからネイティブにシフトした理由は。

塩田氏: グローバルなマーケットがあって、挑戦したいと考えていましたから、どう考えてもネイティブでしょ、というシンプルな理由からです(笑)。当社はブラウザで大きな成功を収めたわけではありませんので、ネイティブに容易にシフトできたという事情があります。いまからブラウザで新規タイトルでまくれるか、となると難しいかなと。ネイティブは、新しいゲーム体験や面白さが提供できれば、ヒットする土壌があります。ネイティブはリスクが高いといわれますが、ぼくは実はそんなことはないと思っています。

―――: そうはいってもネイティブの開発体制をつくるのは簡単ではなかったと思いますが。

塩田氏: ええ、死にました(笑)。でも、ぼくたちはベンチャーですから、常に新しいことに挑戦するのは当たり前です。ですから、メンバーも「そりゃそうだろう」と当然のように受け止めてくれました。想定した状況よりは大変でしたが、その分この1年でノウハウは大分たまりましたね。サーバーエンジニアがクライアントのコードを書いているような会社ですから(笑)。

―――: 『サウザンドメモリーズ』の開発で苦労された点は。

塩田氏: 仕様が見た目以上に複雑になっていることです。見た目は非常にシンプルなゲームにみえるかと思いますが、裏側では、ユーザーさんが飽きないように、様々な設定・ルールを取り込んでいます。例えば、キャラクターのスキルの発動条件など考えた要素やルールを細かく盛り込んでいて、実装するのがなかなか大変でした。あとは、インゲーム部分の手触り感ですね。気持ちよさの実装にも苦労しました。

 

■弱いデッキでも工夫次第で強力に


―――: バトル部分は面白いと思いました。次に何が来るマーカーがわかるようになっていて、それを念頭に置いてプレイする必要がありますよね。

塩田氏: バランス的には、サクサクできるけど、一定の思考性が必要という仕組みにしました。次に出てくるものが見えるようにすることで、ちょっと考えるという感じです。何度もプレイしてみて、試行錯誤しました。表示数をいくつにするかでもだいぶ変わりますから。

―――: 次、赤が3つくるから、このターンでは緑2つだけ消して赤を残そう、といった感じですよね。

塩田氏: ええ。このゲームでは、キャラをつなぐことによって攻撃力が増すように設計していますので、弱いデッキであってもうまくつなぐことで強力な敵にも勝てます。あと、リーダースキルでマーカー変換系のスキルがあるのですが、それを活用するといいと思います。次のターンでは、赤のマーカーがくるので、今回は緑だけを消してリーダースキルを使って一気に9つ全部を赤にすれば、大ダメージが与えられる、とか。

―――: そのあたりがゲームの攻略ポイントですか。

塩田氏: そうですね。結構堅い敵が多いので、いかに9リンクをするかが重要なんです。上級者になりますと、9リンクに加えて、数ターン攻撃力がアップするスキルも組み合わせて、何十倍みたいな攻撃力を実現したりしてます。ぼくもプレイしていますけど、そこまでやっていますね。

―――: そこまでやれるようになるのですか。

塩田氏: あと、モンスタースキルも凝っています。モンスターのスキルとの駆け引きはユーザーさんに遊んでもらいたいポイントです。初期では、アーマーの概念のあるモンスターもいます。例えば、丸丸三角三角で攻撃するとアーマーがブレイクして多くダメージが与えられる、といった感じです。ゲームを進めると、3ターン後に丸と三角、四角だけ攻撃する、といったモンスターも出てきます。ですから、それに対応するため、敵が攻撃するまでに3つを消してハートと星だけにすると、攻撃が当たらないといった対応も可能で、モンスターとの駆け引きも楽しめる要素にしました。

―――: リリース当初、バトル部分でバランス調整を行ったと聞いていますが、そんなにやったのですか。

塩田氏: リリース当初、モンスタースキルがの発動率が高く設定されすぎており、ユーザーさんからお叱りを受けました。麻痺スキルが多数発動して、難易度が高すぎたりしてました。急いでバランス調整で対応しましたが、これは大きな反省点ですね。リリース後の2日間でとにかく調整しました。

―――: このスピート対応が良かったんですね。

塩田氏: ええ、そうかもしれません。幸い「この運営、スピードだけは鬼だな」という評価をいただいています。ベンチャー企業ですから、とにかくスピードは最重視していきたいと思っています。ユーザーさんに満足していただける機能もどんどん追加していきたいですね。ユーザーさんから寄せられるご意見・ご感想はもちろん、色々な掲示板なども含めてくまなくウォッチするようにしています。ただ、カスタマーサポートについてリリース当初は、レスポンスが遅れがちでユーザーさんにご迷惑をおかけしました。最初はこんなにヒットするとは思いもよらなかったので、カスタマーサポートがおいつかなかったです。今後カスタマーサポート体制は強化していきたいと思います。

―――: カスタマーサポートは重要ですよね。

塩田氏: はい。ぼくたちとしては、ユーザーさんと一緒に面白いゲームを作っていきたいという思いがあります。少人数で運営しているタイトルですし、自分たちだけで良いアイディアを出し続けることが可能であるとは思っていません。ユーザーさんからアイディアをいただき、ユーザーさんが面白いと思ってもらえるようなゲームにしたいですね。ユーザーさんの声には最速で対応したいですね。

 

■愛着の持てるキャラクター育成に


―――: 続いてキャラクター育成ですが、キャラクター合成じゃないんですね。

塩田氏: はい。カードゲームっぽくしたくない、と考えていました。ですから、キャラクターを囲む枠もなくしました。クエストや探索で獲得したステータスポイントを振り分けて育てていく方式です。「シンデレラナイン」や「シンデレライレブン」でポイントを走力や守備力などに振り分けるモデルがありまして、近いモデルを踏襲しました。こういう方式にしたもうひとつの理由は、ユーザーさんには合成よりも育てている感覚が持てると考えたことがあります。そして、同じキャラクターで装備を変えることで能力も変化するため、自分だけの育て方を追求することができ、結果として、キャラクターに愛着を持ってもらえるのではないかとも考えました。

―――: なるほど。

塩田氏: もうひとつは、「閃きシステム」です。キャラクターは、バトル中に敵を倒してスキル覚えることがあります。獲得したスキルが好きでないものでしたら、今後、実装される忘却システムを利用して再度、スキルを取得し直すこともできます。攻撃型のパーティを組みたいから、このキャラクターには攻撃的なスキルを身につけさせたいといったこともできるわけです。

―――: キャラクターに愛着を持ってもらうということでは、育成方法以外にはなにか導入したものはあるのでしょうか。

塩田氏: いろいろありますが、全キャラクターにボイスが入っていて、あらゆるところでしゃべるようにしました。キャラクターの詳細画面で何度かタップするとその度に話す内容が変わります。あとは出撃する時に選ぶと、「いくぜ!」としゃべったり…。カードではなくキャラクターという要素を強調しました。

―――: ストーリーも力を入れていますよね。

塩田氏: あまり狭すぎない世界で、適度な中二感を持ちつつ、なおかつ女性でも楽しめるようなストーリーにしています。最後まで遊ぶとひとつの謎が解けるのですが、そこで一旦、エンディングを迎え、第2章以降に続きます。これまでのソーシャルゲームでは、ストーリーやエンディングがないものが多いですが、普通に遊んでいると1カ月タームでストーリーが終わり、そして続きが配信されるというイメージです。今回のストーリーは個人的には泣けました(笑)。FFシリーズにハマった世代ですので、ストーリーにはどうしても力を入れたいと考えました。

―――: 演出も凝っていますね。

塩田氏: ストーリーの演出も何回か作りなおしました。システムを拡張性のあるものに作り変えて、ストーリー中に様々な演出を盛り込めるようにしました。実は、最初は立ち絵だけでしゃべっていれば良いのではないかと議論していましたが、「ちびキャラ」を登場させて動くなど、ストーリーがより楽しめる演出を盛り込んでいます。

―――: ストーリーも読みやすくなっていると感じました。

塩田氏: ストーリーについては、スマホでも読めるように意識しています。あまり深くしすぎず、かといって浅くならないように。男性でも女性でもなんか可愛くて楽しい、といったバランスを意識しました。ストーリーは今後も追加していきます。早めに新しいストーリーを出したいですね。その後はユーザーさんのゲームの進行度を見ながらとなりますが、目標としては1カ月〜2カ月に1度くらいのペースでアップデートしたいです。

―――: ただ、ストーリーを追加するのは大変ですよね。単にお話を書くだけでなく、それに合わせた演出やクエスト、さらに武器やキャラクター、敵キャラクターの追加なども考えなくてはならないわけですから。

塩田氏: そのとおりです(笑)。さらに、ストーリーを追加ごとに新しく有名声優さんがしゃべるイベントキャラクターを追加していこうと思っています。

 

■高水準の継続率


―――: ビジネスの話を聞きたいのですが、まず事前登録は、iOSだけで2万5000人を超えたのですか?

塩田氏: 自社サイト経由で一部Androidのユーザーさんの事前登録を受け付けていますが、大半はiOSだけの数字とお考えください。Androidについてはこれから本格的に告知していきます。

―――: それにしてもかなりのユーザーが集まりましたよね。

塩田氏: ぼくらも驚きました。ほとんど自然流入のユーザーでして、ゲームのコンセプトが受け入れられた、ということかもしれません。ここまで多くの方に登録していただけた理由については、あれこれと推測できますが、本当のところ、ぼくらもよくわからないんですよ(笑)。

―――: Twitterでの告知も目立ちましたね。

塩田氏: Twitterキャンペーンについては、比較的目立てなのかなと思っております。公式Twitterアカウントのフォロワーが初期から多かったですし、アカウント運用についても開発のかたわら、その状況を逐次ツイートしてましたので、そういった情報発信がユーザーさんから期待していただけたのかもしれません。

―――: で、リリース後ですが、売上ランキングで急上昇しましたね。

塩田氏: 本当に嬉しかったです。登録ユーザー数も30万人に近いですし、こんなに多くの方に遊んでいただけるとは思いませんでした(注:12月12日に30万人を突破した旨のアナウンスがゲーム内でされている)。まだ、大々的なプロモーションも行っていないですし、ソーシャルメディアを通じたバイラルで関心を持ったユーザーさんがダウンロードしてくれているようです。Twitterでも友だちに「遊ぼうよ!」といったつぶやきをよく見ました。

―――: ユーザーの遊び方に特徴はありますか?

塩田氏: おそらく他のネイティブのゲームと変わらないです。通勤時とお昼休みなどにちょっと遊んで、帰宅後、家に帰ってガッツリと遊ぶ方が多いようです。

―――: 継続率は高いんですか?

塩田氏: 高いですね。リリースされた当初にインストールしていただいたユーザーさんですと、当社の既存タイトルでは見たことがない水準です。

―――: 先日、CyberZさんにインタビューした時、事前登録から入ったユーザーの1週間後の継続率は、20%程度高いというお話を聞きました。自然流入が20〜30%程度ですから、だいたい40%〜50%となりますね。

塩田氏: ああ、なるほど。当社の事前登録から入った方はそれよりも高いですね。現在だと新規で初めてくれる方も、その自然流入のレンジよりも上ですね。

―――: これだけユーザーが増えると、サーバーの負荷も大変じゃないですか。

塩田氏: 実はサーバーについてはそれほど心配はしていません。もともとブラウザゲームをやっていた経験もありますので、大量のトラフィックをさばくノウハウも技術もありますから。実際、サーバー担当者も「全然余裕っす!」と心強いことをいってくれています。

―――: 以前もお聞きましたが、改めてヒットした要因は。

塩田氏: ちびキャラをつなぐ爽快感やRPGバトルの駆け引きなどが受け入れられているのではないかと思います。ゲームシステムもそうですが、演出やストーリーなどにも力を入れて良かったです。スマートフォンでちゃんとしたファンタジーRPGをつくるなら、こういう形がいいのではないかと考えていたことをまとめたのが『千メモ』です。単純にボコボコにするだけでなく、スキルの発動条件もそうですし、キャラクターについてもじっくりと考えるようにして手軽さと深さを実現するよう意識しました。

 

■長く遊べるゲームを目指す


―――: 今後の運営方針ですが、どういったイベントを行う予定でしょうか。

塩田氏: 一般的にあるイベントはもちろんですが、それとはまた違うものを入れたいと考えています。例えば、10ステージを最速でクリアするようなタイムアタックのようなイベントも考えています。ちょっとしたアクションゲームのような楽しみ方になりますよね。

―――: ユーザー同士の対戦などPvP要素を入れる予定はありますか?

塩田氏: それも検討はしていますが、迷っています。バトルもパラメーターの大小を競うものではなく、キャラクターをつなぐ必要がありますから。相手が最善のつなぎ方をするように計算するとか、考えてつないでいるようにするとか、色々と難しいところです。これを入れることでユーザーさんの遊び方も変わってしまいますので、導入する時期以前に、入れるかどうかすらも検討しているところです。

―――: Android版についてはいかがでしょうか。待っている方も多いと思いますが。

塩田氏: 年内には出せると思います。開発は順調に進んでいます。ただ、Androidのバージョンは4.0以上になるかもしれません。すでに多くの方から要望が届いていますし、iOS版から時間が経過してしまうと、ステータスに差が大きくなりすぎるので、早めに出したいと思います。

―――: 運営上の目標はありますか?

塩田氏: ユーザーさんにはとにかく長く遊んでもらえるようにしたいですね。お金を使ってくれている人は強くなりますが、お金を使わない人でも楽しめるゲームにしたいです。ですから、KPIとしては、売上高よりもDAU(Daily Active Users)やMAU(Monthly Active Users)を重視しています。売上については、あくまで多くの方に遊んでいただいた結果と認識していますが、まずはトップ10入りを目標にしています。

―――: そのための課題は。

塩田氏: 先ほど話したサポートも含めて運用体制を強化することですね。あとは、イベントサイクルをきちんとつくって、ユーザーさんに意識してもらうことかなと思っています。突発的にイベントやキャンペーン、アップデートをやってもユーザーさんがついていけないと思いますから。ユーザーさんのプレイサイクルを確立する、というか。これはもっと早くできると思っていたのですが、サービス開始当初のバタバタでできていませんでした。

―――: 最後にゲームと会社をこんな状態にしたいというイメージはありますか。

塩田氏: ゲームについては、田舎に行っても『千メモ』が知られている状況を作りたいですね。ぼくの実家は、島根県なのですが、実家に戻った時、親戚が遊んでいる、といった状況を目指しています(笑)。会社としては、Apple、google、Facebookを超える会社を目指しているので、早くグローバルに打って出たいです。世界を変え続ける会社を目指します。

―――: ありがとうございました。

株式会社アカツキ
http://aktsk.jp/

会社情報

会社名
株式会社アカツキ
設立
2010年6月
代表者
代表取締役CEO 香田 哲朗
決算期
3月
直近業績
売上高243億3600万円、営業利益57億円、経常利益52億700万円、最終利益13億4200万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3932
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