本稿は、スマホゲームの運用方法を分析するサービス「Sp!cemart(スパイスマート)」を手掛ける株式会社ワンオブゼムで海外事業を担当する取締役 張青淳氏による寄稿である。「Sp!cemart」は、日本国内のタイトルに加え、2014年9月よりアジア圏の人気タイトルの分析も始め、様々なサービスを提供している。同社の独自取材で得られた旬の現地情報を紹介する本シリーズの第2回目は、中国のスマホゲームプロモーションを特集、その前編として、端末流通やアプリ配信の概況を解説する。
■海外大手デベロッパーが中国に独自進出しないワケ
来たる12月上旬、日本を代表するゲーム『モンスターストライク』はテンセント社をパブリッシャーとして中国に上陸する。どんな反響がありどういった初速が出るのか今からとても楽しみである。ところで中国のグロスランキングを眺めていると、海外タイトルの殆どは中国企業経由でリリースを行い、独自パブリッシングする会社は数えるほどしかない。
■中国展開する海外タイトルの共同運営事例(抜粋)
海外デベロッパー | 中国パブリッシャー | タイトル名 |
King Digital Entertainment(英) | Tencent | Candy Crush Soda Saga |
Super Cell(フィンランド) | Kunlun | BOOM BEACH |
スクウェア・エニックス(日) | Perfect World | CROSSGATE |
スクウェア・エニックス(日) | Shanda Games | 拡散性ミリオンアーサー |
セガ(日) | Shanda Games | チェインクロニクル |
サイバーエージェント(日) | Kongzhong | ウチの姫さまがいちばんカワイイ |
gumi(日) | Chukong Technologies | BRAVE FRONTIER |
Klab(日) | Shanda Games | ラブライブ! |
コロプラ(日) | Beijing Moyo Century Technology | 魔法使いと黒猫のウィズ |
CJ E&M(韓) | Tencent | Modoo Marble |
Electronic Arts(米) | Pvzallstars | Plants vs. Zombies |
中国進出がこうして提携先と組んでの展開となる背景としては、中国ならではの事情が大いに関係している。サーバ構築、負荷テスト、VIPシステム構築といったローカライズに伴う対応は、スマホゲームユーザー4億人に迫る勢いの市場への進出に際しては大きな課題であり、さらに多様なペイメントチャネルの存在、簡体字・繁体字のニュアンスの違いも含めた言語対応、中国ユーザーにうけるゲーム内イベント運営、外資企業の事業展開に際しての当局からのライセンス取得など、多くの難題に対応しなければならない。
スケール違いのユーザー規模に加え行政対応含めた特殊な事業環境や文化的背景によって、他国への進出と比較して多大な労力がかかるがゆえに、現地パートナーと組まざるを得ないという結果に行き着く。
さらに、現地企業と共同パブリッシングする最も大きな理由は、その特殊でカオスな様相を呈する「プロモーションマーケット」にあると筆者は考える。プロモーションにまつわる話の前に、中国におけるスマホ端末の流通事情について、これもカオスで驚きの実態をご説明しよう。
■ゲームアプリの売上: OSプラットフォームは中国でたった2割のシェア
台湾や韓国含むアジア圏では、プリペイドカードやコンビニ、大手ゲーム会社の発行するポイント決済などもゲームアプリの主要な決済手段の一つであり、必ずしもApp StoreとGoogle Playとで100%のシェアを占めるわけではないのだが、中国ではそれとも事情が違う。
非公式ルートで流通される端末や非正規品、脱獄(JailBreak、ジェイルブレイク)端末が多く存在し、それら端末向けに提供されるアプリが無数に存在しており、純正OSプラットフォームのランキングだけでは中国国内のゲームマーケットを計測出来ないのだ。
※脱獄(ジェイルブレイク):
通常iPhoneなどのiOSデバイスにインストールできるアプリはApp Storeで提供されるものだけであるが、特定のツールを使用して制限を開放(脱獄)することで様々なアプリなどをインストールすることができるようになる。
■正規品のスマホは全体の3割?! 「行貨」「水貨」とは
ユーザーの携帯端末購入ルートについて。Appleストアや通信キャリア大手のショップなどの公式ショップで正規品を購入するユーザーは希少であり、巷に数多くある非公式の(=闇の)携帯ショップや他の国で「行貨(ハンホォー)」「水貨(シュイホォー)」を購入し、キャリアの店頭でパケット契約を結ぶのが一般的である。
【「行貨」とは…】
税関を通過し、中国当局が発行する3Gライセンスをもった正規品。15日間のクーリングオフやメーカー品質保証、アフターサービスがついている。ただし購入ルートは非公式(公式ストアではない闇ショップ)。末端購入価格は公式ストアに比べて2割前後安い。
【「水貨」とは…】
中国国外向けに生産された端末を非公式に海外から国内に逆輸入した(または国内で流出させた)非正規品。中国における保証サービスがなく、通関もしておらず、末端購入価格は行貨よりさらに2割程安い。中国の端末はsimフリーのため、通信は別途契約をすれば利用が可能。国内流通端末の7割のシェアを占める。
<进网许可シール>
行政の発行する3Gライセンス。公式/非公式ルート問わず、正規品であれば端末にこのようなシールが貼られている。
<世界の携帯工場 深セン>
世界一の規模を誇る携帯端末生産基地である深セン。多くの世界的メーカーおよびその下請工場が集積しており、中国国内で流通する携帯台数の8割は、公式/非公式ルート・正規品/非正規品問わず、深センで生産されたものだと言われる。海外向け生産品の一部は闇化して深センと陸続きの香港を経由し中国国内に入る闇ルートが有名。中国向け流通の大動脈だ。
▲深センの街並みと工場
携帯端末販売専門店のみが入居するショッピングモール。上海人の半分はここで携帯を購入していると言われている。
各店舗の仕入れは大体同じような闇ルートであり、販売価格も似たり寄ったり、ある種一つの相場が形成されている。
正規品として生産し流通する過程で非公式なルートにのった行貨、もとは正規品としての生産だったもののライセンスや関税が違法で闇化した水貨のほかにも、コピー商品や海外仕様の中古品など企画や仕様が統一されていない端末が数多く利用されており、ゲームアプリの配信形態やそのプロモーションは日本人の我々が想像もできない様相になっているのである。
■中国のゲームアプリ配信事情
ここで、中国におけるゲーム配信プラットフォームについて触れてみよう。
先にも触れたが純正OSプラットフォームは売上シェアで全体の2割、それ以外にも数多く林立しており配信プラットフォームとしては実に多彩である。その林立ぶりには端末流通事情が大いに関係している。非公式ルートや非正規品がほとんどであるがゆえに、純正OSプラットフォームへの接続がそもそもできないという事情や、流通過程で様々な事業者が入り込む余地が多いといった理由があって、数百を数えるプラットフォームが存在している。
中でも、Baidu(バイドゥ)やTencent(テンセント)といったポータルサービスの巨人はじめ多くの事業者が手がけ隆盛しているのがAndroid向けサードパーティプラットフォーム。そして、中国ユーザーの大多数はクラウド上でのアプリ管理を好まず、アプリをPC同期し管理するツールを使いこなしており、そのツールサービスの中で事業者は独自にホストしたりアグリゲーションしたりして、ユーザーにアプリを届けるプラットフォームを展開している。これはサードパーティの一形態とも言える。
また、端末メーカーが提供するものもある。今期サムスンを抜き中国市場で出荷台数の首位となったXiaomi(シャオミ)はじめ、Lenobo(レノボ)、Huawei(ファーウェイ)など有力地場メーカーやサムスンなど、年間出荷台数が数千万もいく大手メーカーはアプリマーケットをプレインストールすることが可能だ。そして、巨大なユーザーを抱える通信キャリア。中国電信(チャイナ・テレコム)、中国移動(チャイナ・モバイル)、中国聯通(チャイナ・ユニコム)、彼らももちろん配信プラットフォームを手がけている。
端末の流通経路の複雑さ・不透明さの一つの側面として、これらプラットフォームにアクセスするアプリを端末にプレインストールする中間業者が多く存在し、流通過程において様々なプレイヤーが利潤を追求している実態もある。
【アプリ配信プラットフォームの分類】
・OSプラットフォーム(AppStore、GooglePlay)
・サードパーティプラットフォーム(Hiapk、Anzhi、Gfan、Mumayi他多数)
・アプリ管理アシスタント系プラットフォーム(Wandoujia、360、91、Baidu、他多数)
・メーカープラットフォーム(Xiaomi、Huawei、Samsung他)
・通信キャリアプラットフォーム(中国電信、中国移動、中国聯通)
・WEBポータル系プラットフォーム(Tencent、Baidu、他多数)
・ジェイルブレイク端末向けプラットフォーム(91、他多数)
※利用されているiPhone端末の半数がジェイルブレイクしているとのデータもあり、中国は世界一の脱獄市場。中でも91が圧倒的なシェアを占める。
巨大なモバイルユーザーが存在する中国では、数多くの事業者がユーザー接点のそのボリュームの大きさを利用して、サードパーティとしてホストしたりアグリゲーションしたり、アプリを届けるインフラを提供している。彼らは、アプリ課金からの収入という目的に加えてアプリのプロモーションメディアとして稼ぐといううまみも追求しているのである。
■ゲームアプリのプロモーション
こうして配信チャネルがひしめき合う煩雑なマーケットにおいて、月間10億円規模の収益をあげているゲームアプリがいくつも存在し、いったいどうやってダウンロードを稼ぎ収益を作っているのか、そのプロモーションに大きな興味が湧くことであろう。ご想像のとおり、プロモーションチャネルは日々多様化しており、そのマーケットは複雑を極める。
次稿は、中国におけるゲームアプリのプロモーション事情を解説、そして成功したプロモ事例をご紹介しよう。
■著者 : 張 青淳(ちょうせいじゅん)
2003年国内大手インターネット企業に入社。投資事業部門に所属、中国での投資事業の立ち上げに関わり、約7年に渡る上海駐在の間、中国・ 台湾・香港など、中華圏のベンチャー投資活動を行う。2013年モバイルゲーム開発の株式会社ワンオブゼムに参画、取締役就任。ゲーム運営部門の責任者を経て現在海外事業および新規事業開発担当。主力事業「Sp!cemart」や国内外のゲーム企業へのソリューション提供を手掛ける。
株式会社ワンオブゼム:http://oneofthem.jp/
Sp!cemart:http://oneofthem.jp/apps/spicemart/
Sp!cemartに関するお問い合わせ
メール:spicemart@oneofthem.jp
電 話:03-5919-1181
担 当:高橋 遥人(たかはしのりひと)
<バックナンバー>
■驚愕予算?! 中華圏にみるゲームの大規模プロモーション事例 vol.1 〜台湾編〜
会社情報
- 会社名
- 株式会社ワンオブゼム
- 設立
- 2011年1月
- 代表者
- 代表取締役 武石 幸之助
- 決算期
- 12月