【連載】スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第2回「岩野はこう作ってます」


『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター・安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


 

■第2回「岩野はこう作ってます」


業界の「未来」を予言する『安藤・岩野の「これからこうなる!」』。第2回目はわたくし岩野弘明が書かせていただきます。今後、上司である安藤と交互にとはいえど、毎週連載ということで「そんなに書くことあるかしら」と既に心配なのですが、現場でプロデュースしているならではの視点で「これからこうなる!」をお伝えしていきたいと思います。

さて、「予言」と一言でいっても、その導き出し方は様々かと思います。例えば、ゲームアナリストやコンサルは過去のデータを元に未来を占いますが、私はそういった分析をあんまりやりません。

もちろん、そういった情報を参考にすることはあるのですが、現場でゲームを作っている人間からしてみたら、そういった情報は多くの場合ノイズでしかないのです。なぜならゲームの「おもしろさ」は情報によって理解するものではなく、「体験」によって理解するからです。だから私は自分で体験したおもしろさにおいてのみ可能性を見出します。

そうやってゲームを作るにあたり、「じゃあまずどうしてるの?」というところから書いていこうと思います。

 

■ヒットは「新体験」から生まれる


本連載の第一回で安藤も言っているように「これからは圧倒的な差別化がないと勝てない」です。ちょっと前までなら二番煎じでもある程度売れたのですが、当然そういったことを考える人はたくさんいるわけで、同じことをしていても目立たないし売れません。お客様からしても、似たようなゲームをプレイするモチベーションは今やないでしょう。

お客様は「新体験」を望まれています。

「そんなこと言われんでもわかっとるわ!」という声が聞こえてきそうですが、実際ここを意識してスタートしないと本当の新体験は生まれません。じゃあ私はというと、こんな感じ↓で企画を考えています。

■スマホゲームに限らずおもしろいものはいっぱいあるよね
■スマホの利点は「圧倒的な普及率」「インターネット常時接続」そして「場所の制約がない」こと
■じゃあ、おもしろいのに遊び相手や場所の制限があってなかなか楽しめないものをスマホゲームに落とし込んだら…?


実は私が最近プロデュースした『乖離性ミリオンアーサー』もこの考え方で作りました。個人的に大好きなトレーディングカードゲーム(以降TCG)をスマホに「最適化」したわけです
 


▲『乖離性ミリオンアーサー』

TCGはすごくおもしろいのですが、プレイするには必ず相手とプレイスペースが必要です。それがハードルとなってなかなかプレイのきっかけがつかめない。でも、おもしろさは確かにある。TCGのプレイ人口から逆算すると、そのおもしろさに気づいていない人が世の中にはたくさんいるんじゃないか? じゃあそのおもしろさをスマホに持ってきたらウケるんじゃないか? …という感じで『乖離性ミリオンアーサー』はスタートしました。

あくまで私見ですが、『モンスターストライク』はピンボールやビリヤード、『釣りスタ』は釣り、『剣と魔法のログレス いにしえの女神』はMMO、いずれも相手と場所がないとなかなか楽しめないものがスマホに落とし込まれています。(釣りスタの場合は魚が相手)
 
  
▲『モンスターストライク』、『剣と魔法のログレス いにしえの女神』、『釣りスタ』

余談ですが、ゲームそのものではないですがドラマバラエティである「実在性ミリオンアーサー」(関連記事)もまたそんな考え方がきっかけで生まれたと思っています。

思い起こせば2年程前。あれは「ラブライブ!」の3rdライブを見に行った時でした。もう会場の熱量がハンパなくて、その時完全に「負けた」と思いました。完敗です。バーチャルにバーチャルの魅力があるように、当然ながらリアルにはリアルの魅力がある。

「ライブっていいなぁ」ということを安藤に話した際「それ、ミリオンアーサーでもできへんかな」という話になったのですが、今思えばそれが「実在性ミリオンアーサー」の制作のきっかけの一つになったように思います。
 


▲「実在性ミリオンアーサー」は、“『拡散性ミリオンアーサー』の世界が実在したら…”をコンセプトに、キャラクタービジュアル、CG により世界観設定の再現にとどまらず、音楽コーナーやアクションシーンなど、ゲームにはない新要素も盛りこんだ、オール女性キャストによるドラマバラエティ番組。


話は戻ります。この手の話はよく聞くだろうし、すごく当たり前のことを言っているのですが、落とし込みたいもののおもしろさを体験し、真に理解した上で、なおかつそのおもしろさがスマホの特性にマッチしているかを見極めてから作りはじめないと、なんとなくやった気になるだけで、結果あんまりおもしろくないゲームが出来上がります。

きょうび、全く新しいものを0からつくる事は不可能に近く、かといって二番煎じでは目立ちません。だからこそ「○○をスマホに落とし込む」「○○+△△」といった足し算の考え方でスマホでの「新体験」を作るわけですが、それも最速である必要がある。(最速でない場合は見た目のクオリティや完成度を高めるしかないですが、スペックや予算問題が付きまといます)

そういったネタをいかに早く思いつくかが大事なので、私は先輩に「とにかくたくさんインプットしろ」ということを教え込まれましたし、今ではそれを後輩に教えています。まさに体験の引き出しがものをいうのです。

さて、こう考えていくと、まだまだスマホに落とし込まれていないおもしろさが世の中には溢れているとは思いませんか? 私の中ではすぐにでも形にしたいものが3つほどあって、でも一度に3つは無理なのでどれを先に仕掛けようかと考えているところです。

そして、今更ですが読み返してみるとここまでの内容、予言って感じじゃないですね。「自分はこうして未来のヒット作を作る!」という感じの内容になってしまっているんですが、それもまた安藤との違いになりそうなので基本的にこのスタイルでいこうかと思います。

そんなわけで、上に書いた検討中の企画をこの連載中に立ち上げ、リリースして、結果を考察する、ということをしていくのもおもしろいかも、と思いました。着手からリリースまで1年~1年半くらいかかるこのご時世。果たしてそれまで連載は続くのか!? という心配はさておき、開発レポート的な要素も入れていければと思いますので、その辺もご期待ください。

来週はまた安藤が寄稿します。SGIで掲載されるまで私も内容はわからないので楽しみです。 ではでは今日はこの辺で!
 

■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。


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■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第一回「ここに未来は予言される」 (安藤)


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会社情報

会社名
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設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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