「モバイルゲームはこの先どうなるのか?」…King・Rovio・グリー・KLabのトップが語る
2015年4月7日(火)・4月8日(水)、ホテルニューオータニで開催された新経済連盟主催の「新経済サミット2015」(以下「NES 2015」)において、トークセッション「進化し続けるゲーム業界-モバイルゲームはこの先どうなるのか?」が開催。
当日は、King CEO リカルド・ザッコーニ氏をはじめ、グリー株式会社 代表取締役会長兼社長 田中良和氏、Rovio Entertainment Ltd. CEO ペッカ・ランタラ 氏の3名が登壇。モデレーターは、KLab株式会社 代表取締役社長 真田哲弥氏が務めた。
本稿では、モバイルゲームのヒットメーカーの代表者が市場の行く末、海外展開の注意点、日本参入の裏話など、多岐に渡る内容について語ったトークセッションをレポートしていく。
■「課題もあるが、モバイルゲーム市場の未来は明るい」
【登壇者】(※写真右から)
Rovio Entertainment Ltd. CEO ペッカ・ランタラ 氏
グリー株式会社 代表取締役会長兼社長 田中 良和 氏
King CEO リカルド・ザッコーニ 氏
【モデレーター】
KLab株式会社 代表取締役社長 真田 哲弥 氏
はじめに、真田氏がモバイルゲーム市場の現状について説明。年々右肩上がりとなるモバイルゲーム市場の売上は、その90%を日本・欧米・中国が占めている。2015年現在で、最も売上規模が大きいのは日本だが、同国は成熟していることもあり、今後は伸び悩んでいく。そのなかで、中国の市場が飛躍的に成長していく…というのが一般的な予測だろう。
また、各国によって異なるゲームアプリのトレンドの変化も著しい。日本の人気カテゴリーでは断トツRPG、中国・韓国ではPCオンラインゲームの歴史に紐づくようにMMO・RPG、対して欧米ではカジノゲームやシミュレーションゲームが多くなっている。
ここからは、具体的なディスカッションに入っていった。
■何故、KingとRovioは全世界で成功できたのか?
まず、世界で最も売れているゲームアプリを開発しているKing(『キャンディークラッシュ』)とRovio(『アングリーバード』)の2社に、「どのようにして成功することができたのか…」その秘訣について語られた。
Rovio CEOのランタラ氏は、「簡単に申し上げれば、良いゲームを作ること。そこが終わりでもあり、はじまりでもある」と大前提を前置きしながらも、「とはいえ、良いゲームは毎回生まれるわけではない。むしろ年々開発は難しくなっていく」と現場の状況を吐露した。ランタラ氏は任天堂のファミリーコンピュータ(海外名:Nintendo Entertainment System - NES)を例に、「NESは発売から9年の間に約900本以上のゲームが発売されたが、アプリマーケットでは約72時間でその数に到達する」と、広い市場であることを説明しつつも、同時に競争が激化している状況についても示してくれた。
そして、同氏が成功法として挙げたのは“ブランディング”。「改善を繰り返して、いつもお客様には新鮮な形でコンテンツを提供していく」とランタラ氏。確かに『アングリーバード』では、モバイルゲームに留まらず、アニメや書籍、玩具、衣類など、様々な分野で商品を出すマーチャンダイジングが活発である。このほか、映画「スターウォーズ」や「トランスフォーマー」など、人気IPを用いたゲームタイトルの開発やクロスプロモーション、また様々なジャンルを提供することも大事だと語った。
▲『Angry Birds』の3DCG長編アニメーション映画は2016年公開予定
一方、King CEOのザッコーニ氏は、ランタラ氏と同様に「クオリティを持つことは最低条件だが、やはり難しい」と説明。思えばKingは、『キャンディークラッシュ』のみならず、姉妹作『キャンディークラッシュソーダ』、『バブルウィッチ』、『ペットレスキュー』、『ファームヒーロー』など、複数のタイトルが世界TOP10にランクインするほどの実績を持つ。このような好成績を打ち出せた要因について、同氏は「我々はカジュアルゲームに焦点を絞ったから」と語った。
今年で設立から数えて12年目を迎えるKingは、これまで200種類のカジュアルゲームを世に送り出してきた。なかでも当時のWEBゲームでは、1チーム3人の開発者が5ヵ月間で1本リリースするという、短期間かつ低コストでゲームを開発していたことを明かした。
「もちろん残念な作品もありましたが、なかには本当に優れた作品も出てきました。そのひとつが『キャンディークラッシュ』です。現在Kingでは、同作の成功モデルを踏襲して、他作品にも同じビジネスモデルを当てはめて開発に臨んでいる」と、成功モデルを創出し、見極め、踏襲していく形を語ってくれた。
まさに成功モデルを踏襲した姉妹作『キャンディークラッシュソーダ』では、一切のマーケティング施策を打たずして、アメリカのアプリストアでわずか2日で売上ランキングTOP5入りを果たした(関連記事)。
▲『キャンディークラッシュソーダ』
■日本市場にどのように参入していくのか?
続いて、RovioとKingが日本参入における方法や苦労したことについて。Rovio CEOのランタラ氏は、以前勤めていたフィンランドの電気通信機器メーカー「ノキア」の頃から振り返り、当時から日本市場に苦労していたことを明かした。そんな日本のマーケットで苦労しないための解決策として、ランタラ氏は「現地のパートナーシップを見つけること」と説明。直近、日本でもリリース予定の『Angry Birds Fight!』も現地パートナーと組んで配信予定という。
▲『Angry Birds Fight!』
King CEOのザッコーニ氏は、「日本は大きく先行している。まずは日本を学ぶことが大切」とした。日本の市場については、「多くのゲームは若い男性向けが多く、ミッドコア・コアのタイトルが人気。対して、日本以外の国ではカジュアルゲームが人気のため、日本市場ではこれまでとは異なるアプローチで仕掛けていく必要がある」と、カルチャライズの重要性も指摘。また、日本独特のライブオペレーションも取り上げ、「日本のゲームは何らかのイベントを毎回行っている。作品を長く遊んでもらうための施策として、我々も日本支社と協力して実施していく」と説明した。
■日本国内でゲームを開発することについて
日本国内でゲームを開発することについて、Rovio CEOのランタラ氏は「大変興味を持っている。『Angry Birds Fight!』も日本で開発が進んでいる」とコメント。また、日本のユーザー層について「彼らは複雑かつやり応えのあるゲームを求めている。そういう意味では、日本国内でゲームを開発して同国の市場を理解していきたい」とも述べた。
King CEOのザッコーニ氏は、日本国内の重要性はもとより、あくまでもグローバルマーケットに焦点をあてた開発・施策も考慮するとした。現在同社は、シンガポールやシアトルのゲーム開発会社を買収して、それらの展開に備えている。「日本でもそうした取り組みがあれば嬉しい」と、日本のゲーム開発会社との共同開発についても意欲を示した。
■日本のゲーム会社が世界で成功するためには?
ここでは、グリーの田中氏とKLabの真田氏がコメント。田中氏は、「まさに今頑張っているところ。北米のタイトルなどは、日本では作らず現地開発が中心となる。現在は2社ほどアメリカのゲーム会社を買収して、約300人が海外向けタイトルに関わっている」と現在の開発体制を説明した。また、オペレーションなども現地で行っているとのこと。韓国と日本の市場が近づいていることから、韓国スタジオと共同開発していることも明かした。
KLabの真田氏は、「企画は現地で、開発は日本で行っている」と説明。たとえば、人気海外ドラマ「Glee」(グリー)を題材とした音楽ゲームは、現地で企画されて、KLabがブシロードと共同で開発・提供する『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』で培った技術とノウハウを用いて開発していく体制のため、まさに真田氏が挙げた内容に繋がる。また、アジアひとつとっても、日本・韓国・中国とそれぞれ全く異なるゲーム性であることも挙げて、各国で別の企画を走らせているという。
■What's next?
最後に今後の市場変化とそれに関する対策について、各社コメントした。
Rovio CEOのランタラ氏は、「課題はあるが、スマホゲーム市場の今後は明るい。開発者の技術力も深まっているし、何より消費者がお金を使うことに慣れてきて、市場全体で売上が伸びている」と述べた。さらに、今後はハードウェアやネットワークの向上により、マルチプレイが活性していくことにも触れ、「Rovioのタイトルでもマルチプレイのゲームを増やしていく」とコメント。このほか、前述したアニメや玩具などのクロスマーケティングにも力を注いでいくという。
グリーの田中氏も同様に、「重要なのは、全世界のゲーム市場の売上比率が今後も大きくなること」を挙げた。日本は成熟しつつあるが、爆発的な勢いで伸びている中国を筆頭に、東南アジアなど、まだ成長が期待される国があることも大きなポイントとのこと。また、今以上にスマートフォンが生活のなかで使われて、ゲームで遊ぶ敷居が下がる点もマーケットの拡大に繋がるとした。「10年後には大規模な市場になっている。それを見越した体制で今後も開発に臨んでいく」と田中氏は語った。
King CEOのザッコーニ氏は、現在のアメリカにおけるエンタメ事情を引き合いに出し、「テレビやラジオなど、様々なエンタメがあるなかで、現地ではモバイルに費やす時間がテレビの次となっている」と、スマートデバイスが決してテレビの時間を奪っていないということを述べた。そもそもスマートデバイスは、手持無沙汰な通勤時間や、それこそテレビを見ながらでも触れられる端末のため、やはり数分で遊べるものが求められてくるという。また、「何を遊ぶのではなく、誰と遊ぶのかが重要。もちろんブランディングの配慮も大切です」と言葉を添えた。
なお、今回の登壇者にgumi 代表取締役社長 國光宏尚氏も予定していたが、諸事情により欠席となった。
(取材・文:編集部 原孝則)
会社情報
- 会社名
- グリー株式会社
- 設立
- 2004年12月
- 代表者
- 代表取締役会長兼社長 田中 良和
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3632
会社情報
- 会社名
- KLab株式会社
- 設立
- 2000年8月
- 代表者
- 代表取締役社長CEO 森田 英克/代表取締役副会長 五十嵐 洋介
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上高107億1700万円、営業損益11億2700万円の赤字、経常損益7億6100万円の赤字、最終損益17億2800万円の赤字(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3656
会社情報
- 会社名
- Rovio Entertainment