【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:安藤武博氏
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」
これからはスマホでも
(A)「対戦」が来ます。
(B)遊んでいない人も楽しめる「価値」がないとダメです。
どちらかといえば今後は(B)の要素がとてもアツくなり、(B)を最大化しやすいゲームシステムが(A)といった感じです。(B)を満たしていれば対戦である必要はないが、これまでのゲームの歴史だけみると、対戦に帰結することが多いですね。
特にアーケードゲームに関しては、ほとんどが対戦を軸にして運営やイベントが回っています。対戦が軸になると、お客様の支払う熱量(コスト)がプレイスキルを磨くことに割かれます。運営側はすぐに消費され尽くしてしまう物量を作り続けることから、ある程度解放されゲームのチューニングに集中できます。よって物量の投下に比例することなくお客様のモチベーションを高めることができる。『ストII』の時代からアーケードが基本にしてきているこのやり方は、量産作業に日々追われている開発者へのひとつの回答です。PCゲームのDotAや『LOL』を見ていても同じことが言えますね。
▲対戦格闘ゲーム『ストリートファイターIV』(アプリ版)
例えばSEGAの『ワンダーランドウォーズ』(公式サイト)をスマホにアレンジしたらすごく売れると思います。SEGAのMOBA系ゲームといえば『デーモントライヴ』という意欲作がありましたね。とても要素が多い作品でしたが、あれがスマホ向けにもっと収斂されると集大成になるかもしれないですね。
『ワンダーランドウォーズ』のようなMOBA(Multiplayer online battle arena)はスマホに向いています。古くはGameloftの『Heroes of Order & Chaos』(公式サイト)がありますし、最近ではSuper Evil Megacorpの『VAINGLORY』(公式サイト)がまさにそう。特に『VAINGROLY』はお金を払わずにずっと遊べるので、売上でビジネスをするつもりが無い(ほとんどを投資によってまかなっているのでしょう)ように見えますが、マネタイズにも本腰を入れた作品が出たときは爆発するでしょう。
▲3人編成の2チームがリアルタイムで戦うマルチプレイヤー向けバトルゲーム『VAINGROLY』
本邦においてはMOBAと言われても、コア過ぎてピンとこないお客さんがほとんどでしょうから、そういった売り文句ではないけども、中身は実はMOBAみたいなゲームがいいですね。『剣と魔法のログレス』はライト層にMMORPGと意識させていませんが、あの感じです。たとえば『妖怪ウォッチバスターズ』(公式サイト)にプレイヤー同士の対戦要素が入った瞬間、もはや完全なるMOBAです。このくらい見た目がスマホ向けにPOPにプロデュースされたものが国内では勝ちます。
■なぜスポーツ観戦は盛り上がるのか
■今回の記事
■スクエニ、『ヘブンストライク ライバルズ』日本版配信を開始…日英のクリエイターが組み上げたスクエニ流タクティカルRPG
本作は「対戦」がエンドコンテンツ(プレイヤーが最終的にコストを支払い続けることができるポイント)になっています。「対戦」は欧米の人が特に嫌うPay to Win(課金額で勝敗が決まってしまうゲーム)になりにくいという特徴があるので、世界展開がしやすいというメリットがあります。Pay to Winでないという事はお金をかけずに遊ぶことができるということなので、長期的な売り上げを維持できるかが課題になりますが、本作は良い出だしになっています。
エンドコンテンツとして対戦が優秀であることに皆が気づくのは時間の問題です。結果、対戦機能が標準化され数年後には、それ自体が陳腐化する事になります。その時に生き残っているのが前述(B)の要素を持っているもの。遊んでいない人にもバリューがあるタイトルです。それは何か?
ひとつの答えがe-sportsです。
■今回の記事
■【イベント】賞品賞金総額は1000万円…アソビモが贈るスマホ向けオンラインゲームの公式大会「GO-ONE」を取材。見えてくる課題と未来の展開
■Aiming、e-sportsプロチーム「DeToNator」のメインスポンサーに就任
競うことができるゲーム、賞金を出す主催者、参加するプロゲーマー、それをサポートするスポンサーがいれば、あとはお客さんが入ることで興行として成立します。プレイヤーが獲得する賞金がクローズアップされがちですが、そこも含めて「イベント自体が盛り上がっているかどうか?」が大事になってくる。
▲アソビモ主催のスマホ向けオンラインゲームタイトルによるe-sports大会「GO-ONE」
ほとんどのプロスポーツがアメリカで興行化されていったように、e-sportsもエンターテイメントとしてビジネス化できるかどうかが鍵になります。そのために必要なルールや放送形式などをいち早く整えて完成させ、ゲームを遊んでいない人、つまりスポーツにおける「観客」にもっともリーチしたゲームが売れると思います。
これが何を意味するのか? 今後はゲーム制作・運営の職掌に、スポーツ中継に近いリアルイベント向けの要素も入ってくるということです。制作者もこの範疇にいれましたが、それはなぜか? 熱狂できるスポーツは観客が見てあらかじめ「そのようにゲームが設計されているから」です。
なぜNBAでドラマティックなブザービーターが起こるのか? なぜアイスホッケーの1ピリオドが20分に設計されているのか? NFLのハーフタイム、F1のピット戦略、サッカーのゴールデンゴールやPK、これらはすべてイベントが盛り上がるためにデザインされています。当然、ゲームデザインも同じ。現在はこれを意識せずに出来上がった作品に無理やりゲーム実況を放り込んでいる感じですが、まだまだ洗練の余地がありますよね。
e-sportsにもいずれパッキャオvsメイウェザーのような状況が生まれるかと思うと、今は未来過ぎて荒唐無稽な感じがしますが、選手権の組成や放送のマネタイズ化に長けたアメリカのような国が本気で取り組むとリアリティが出てきますね。一方、日本人は料理をも対戦化してTVで流し、良質なエンターテインメントにしてしまいます。お坊さんのバラエティ番組(公式サイト)が成立する国なんてなかなかない。そう考えるとゲーム業界とテレビ業界は今後一層近くなりますね。そのうちe-sportsでもプロレスのような興行を打つ人が現れるわけです。ゲームを中心にどんなブック(段取りや筋書き)が展開されるのか? 想像するとかなりウケますね。
最初に言った「(B)遊んでいない人も楽しめる「価値」がないとダメ」という一例をアメリカンスポーツ中心に例えるとこんな感じですが、静的に戦略を論じあいながら見るラグビーや、もっと言えば囲碁将棋チェスの解説、感想戦のようなものでも良い。麻雀における「割れ目でポン」みたいな感じでも、「ケータイ大喜利」のような感性で勝敗が付くようなものでも、とにかく盛り上がればどのような形でも良いのです。
観客や視聴者と一緒に“何が盛り上がるのか”を考えてゲームをつくる、ないしはすでにある遊びをイベント向けに洗練させて行く。ライバルが多すぎる業界ですからこのくらいの差別化は当たり前にやらないと勝てない時代です。
スポーツ、テレビ、ゲームがそれぞれ持っていた面白さが、どこにでも持っていける端末(スマホ)、参加容易な仕組み(インターネット)、どこでも同じサービスが楽しめる環境(クラウド)、これらの組み合わせによって新しいエンターテインメントになる。めっちゃ新しいものになりますね。
そろそろスマホ単体でのゲームビジネスは限界を迎えてきています。要するにお金がかかる割に当たりにくい、リスクを取る人が減って、似たようなゲームが増えてお客様も飽きる……。こんな状態になる前に、大胆な変化を起こす必要があります。そのためにどうしたらよいか? 最近はこればっかり考えています。それではまた!
■著者 : 安藤武博
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部)ディビジョンエグゼクティブ兼プロデューサー。同社ではスマートフォンゲーム事業に携わり、F2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。
■スクウェア・エニックス
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■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)