【CEDEC2015】DeNA野中氏「"楽しさ"の定量化はモバイルゲームの開発・運営をよりよいものに変える」


ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>は、8月27日、「CEDEC2015」で「『ゲームの面白さ』に対するチームの気持ちの揃え方~チーム戦やデッキ構築を評価するKPIが生み出されるまで~」と題するセッションを開催したので、その模様をレポートしておこう。セッションには、DeNAのアナリスト野中翔氏が登壇した。

野中氏は、冒頭、「ゲームの楽しさ」をいかに定量的に表現するか、そして、それと売上との関係は定量的にも証明されていない。つまり、楽しいゲームは本当に売上がいいのか、定量的に証明されていない。そこでゲームの楽しさをいかに表現し、KPIとの関係性を知るため、野中氏は試行錯誤して導いた方法論を事例を交えて紹介した。


 
■ゲームの楽しさを定量的に表現

ゲーム開発の現場で、ゲームの売上を決めるのはその楽しさなのか、疑問を持った人はいるだろう。レア度やステータスの高いキャラや装備の追加で売上を伸ばしているだけで、ゲームやイベントの楽しさは売上やユーザー数に影響を与えているのか不明だ。効果が不明確なため、施策の優先度が下がってしまう事態も発生しがちだ。

そこでゲームの楽しさを定量的に表現し、楽しいゲームのほうが売上が高いことを定量的に証明できれば、ゲームの開発・運営を変えていくことになるのではないかと考えたという。

スマートフォンゲームでは、売上を要素分解して分析する手法がよくとられている。売上は1人あたり課金額と課金者数に分け、ヘビーユーザー、ライトユーザーなど細かく分解・分析して、何があったのかが把握できる。同様に、統計ツールが昨今充実し、ビッグデータの活用が容易になりつつある。決定木やクラスター分析といった各種の統計手法は、あくまで変数の関係を説明するものだ。

KPI変動の構造分解やパラメーターの相関性の発見は、なぜ売上が下がったのか(上がったのか)という問いに対する答えにならない。例えば、XX層が課金アイテムを買わなくなった、YY層のARPPUが下がった、ZZ層の課金ユーザーのログイン回数が減り課金者数が減った、といった分析は、現象の説明にすぎない。なぜ課金アイテムを買わなくなったのかは説明できず、定性的な分析に頼ることになりがちだ。
 


ここで野中氏は、「ユーザーの楽しさ」の定量的な表現は、複雑な統計手法や大規模なデータの集計ではなく、ゲームの状況に則した変数を設計することで可能との見方を示した。ユーザーの感情は、ゲーム内での行動につながり、「ゲームの状況」となる。適切な絞り込みをかけることで、ゲームの状況がユーザーの感情を表現することになる。
 

続いて指標の作成例として、ゲーム内イベントでのGvG(Guild vs Guild)など「短期的な視点」のものと、ユーザーがゲームを続けて遊ぶモチベーションという中長期的な運営に関する事例を紹介した。


 
■GvGイベントから短期的な楽しさを表現

スマートフォンゲームで根強い人気を誇るGvGイベントの事例から紹介した。ギルドの仲間と協力して、敵ギルドと競っていくもので、接戦であったり、仲間と協力して戦ったりしていくところがポイントになる。「悔しい。あと少しで勝てた」「一緒に戦って楽しかった」といった感情は、報酬に関係なく、ギルドメンバーのアクティビティの向上や売上の伸びにもつながってくる。

ただし、GvGの運営難易度は高い。開発運営の想定に反して行動するユーザーが出てくる上、接戦を演出するためのギルド同士の「マッチング」や、チームメンバーを構成するための「グルーピング」に一定のノウハウが必要になるからだ。同じ程度の能力を持つメンバーを集めるだけでなく、ログイン回数やプレイ時間なども考慮に入れて調整する必要がある。
 


指標の作成に入る前に、「楽しさ」を言語化していくプロセスを入れているそうだ。ギルドバトルが楽しい状態とはどういうことか。ギルドメンバー全員が積極的に参加し、相手ギルドと接戦した状態になっていることだろう。つまり「ポイント差」が重要になる。勝利ギルドと敗北ギルドのポイント差、そして、ギルド内でのメンバー間のポイント差が指標となる。
 

同様に、イベント運営に失敗した場合も言語化しておく。マッチングに関しては、相手ギルドとのバトルで、ポイント差が開きすぎてしまい、プレイする気力を失ってしまう状態があげられる。グルーピングについては、ギルドメンバー全員ではなく、特定のユーザーのみがギルド内で活動している状態といえる。

そこで導かれた算式は以下のようになる。
 

接戦度=敗北チームの獲得ポイント÷勝利チームの獲得ポイント
(※お互いのポイントが極端に低いために接戦状態にみえる場合もあるため、一定のフィルターをかける必要がある)

ギルド内格差=ギルド内の特定メンバーの獲得ポイント÷ギルド内の獲得ポイント
 

ギルド内格差については、イベント設計によっては、アクティビティ量などの指標で評価してもいいそうだ。

では、この指標をどうやって使うか。横軸に時間をとり、縦軸に作成した変数を入れて、時系列の変化を追うことができる。スライドの接戦度に関しは、接戦度の高い組み合わせが時間の経過にともなって減っていることが確認できる。マッチングに失敗し、やる気を失わせる組み合わせが増えていることを示す。ユーザーのステータス別に分析することもできる。
 


これだけでは不十分で、両者を組み合わせることでユーザーの感情を推定することができるという。縦軸にチーム内格差・横軸に接戦度をとった象限儀(四分儀)を描いたのが下のスライドとなる。
 

続いて分析例を示したのが下のスライドだ。
 

接戦度が高く、ギルド内格差が高い場合、売上が想定より下がっているのであれば、チームメンバーの負担が一部に集中してしまい、離脱要因をつくっている可能性があるという。逆に想定よりも売上が高ければ、チーム内で行動してなかったユーザーに関しては売上増となる可能性がある。その一方で、行動しているユーザーに関して離脱リスクが高まっている状態でもあるとのこと。

また接戦度が低くチーム格差が高い場合、売上が想定よりも下がっている場合、マッチングに問題があった可能性がある。格上、格下の対戦相手により、ユーザーが早期に諦めてしまうことで全体としてアクティビティ量を減らしてしまっている可能性があるという。


 
■中長期のユーザーのモチベーションの評価

2つ目の事例として、中長期にかかるユーザーのモチベーションのモニタリング手法だ。ユーザーの獲得コストが上がっている昨今、ゲームの継続率を高めていくことが重要になっている。ユーザーが長期的なゲームへのモチベーションは、ユーザーのステータスに大きな影響を与えると指摘した。「パーティが強くなっているという感覚がモチベーションにつながる」。
 

指標の設計に入って行くと、今回も言語化して指標に落としていく。成長することの楽しさとはなにか。強いキャラクターでパーティが埋まっていく状態であること、そして、パーティのメンバーが入れ替わるたびに成長しているという実感が得られることにあるという。そこで、特定のレアリティ・ステータスのキャラの占有率や、パーティへのキャラクターの入替回数や取得回数が指標になる。
 

ここで分析例は以下のとおり。最高レアリティキャラクターの平均占有率の時系列の推移を示したのが下のスライドだ。変化の仕方に違いが出ている。継続ユーザーの占有率が上がる一方、離脱ユーザーは占有率が上がっていないことが確認できる。なぜ占有率だけではなぜ成長を感じなかったのか確認ができないため、入替回数や取得回数と組み合わせることで分析していく必要があるとのこと。
 

例えば、占有率とパーティキャラクターの入替回数を組み合わせると、入替え回数に対して占有率が高まっていない場合、ユーザーにキャラクターの価値をきちんと説明できていない可能性がある。他方、キャラクターの配布量と組合せると、配布料に対して占有率が上がらない場合、配布されたキャラクターの価値が説明できていない、または当初の設計に反してユーザーには無用なものになっている可能性がある。
 

ここで作成した指標と、分解したKPIを組み合わせることで有用な分析が可能になる。下のスライドのグラフは、課金ユーザーのキャラクター占有率別にみたDAUの時系列推移を示したものだ。これをみると、最高レアリティのキャラクターの占有率の高いユーザーのDAUが落ち込んでいることが確認できる。つまり、ゲームにおける目標を達成し、やることがなくなっている状態にあると分析できる。
 

なお、自分のタイトルで指標を作る場合、ゲームのルールやイベント内容、ユーザーの性質などによって異なるため、その都度、楽しさを表す指標を作っていく必要があるそうだ。

最後に、「複雑な統計手法や集計方法を使うことが分析の価値ではないと考えている。データの活用を通して、ゲームづくりへの最短距離を示すことが最も価値のある分析だ。単純な指標でも組み合わせや切り口の設定で複雑な指標に勝る示唆を短時間かつチームメンバーにわかりやすい形で表現することができるのではないか」と述べ、セッションを締めくくった。

 
(編集部 木村英彦)


 
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会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
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