【CEDEC2015】グリー下田氏・櫻井氏が振り返る『消滅都市』の1年半…ユーザーの感情を動かすドラマや演出、ゲームをいかに作るか

グリー<3632>Wright Flyer Studiosは、8月27日、「CEDEC 2015」で、「お客様に驚きを提供する運営 -消滅都市の事例から-」と題するセッションを行った。消滅都市チームのリードゲームデザイナーである下田 翔大氏と、シニアアーティストである櫻井 慶子氏が登壇した。

いまやグリーの看板タイトルに育った『消滅都市』だが、サービス開始から1年半の月日が経過した。セッションでは、これまでの運営を振り返り、ユーザーに提供した「驚き」や、感情を揺さぶる「新機能」について、具体的な取組や事例を交えながら説明していった。


 
■運用1年半を振り返る~コンテンツ不足期から成長期、安定運用まで

まず、下田氏(写真)が登壇し、ゲームの紹介を行った。『消滅都市』は、ドラマ×アクション×RPGのコンセプトで企画・開発された。累計500万ダウンロードを突破した。ユーザー層は、男性60%、女性40%と女性の比率が高く、20代を中心に10~30代に指示を集めているという。
 

30日継続率の推移を示しながら、「コンテンツの不足期」「運用スタイル確立期」「CM~成長期」「安定運用期」に分けて説明を進めていった。
 

「コンテンツ不足期」ではゲーム開始時点で、第3章までメインストーリーを実装していたものの、すぐにコンテンツの不足する状態に陥った。インストールからクリアまで21日で全コンテンツをクリアする人が多く、30日継続率の上がらない状態となり、下田氏ら2人のプランナーが「コンテンツを作りまくった」が、プレイヤーからの満足度が上がらず、思うようにはいかなかったそうだ。
 

例えば、6月6日に開始したイベントは、難易度が高く設定されていたため、クリアできない人が続出し、批判が集まった。その反省から難易度の低いイベントを実施したが、今度逆に早くクリアできてしまい、再びコンテンツ不足に陥った。さらに「繰り返す1日」というイベントを出したが、同じシナリオを何度も読むのは飽きるとの批判があがった。

その後出した2つのイベントが運営の方向性を決めた。1つめは、7月に配信したイベント「呪われし工場からの脱出」で、長時間遊べて飽きないコンテンツとするため、暗号を解いていく要素を追加した。1日1話公開のストーリーと謎解き、キャラクター「ギーク」がTwitter上で間違った推理を展開することが話題になった。この結果、『消滅都市』のファンが増えたと振り返った。
 

2つめは、「批判を覚悟」で追加した高難易度コンテンツ「超存在ツキ降臨」だった。批判を集めたところもあったが、その後、プレイヤーの目標の一つとなった。飽きないイベントと目標の追加がユーザーからの評価につながり、30日継続率も目に見えて上がっていったとのこと。
 


「運用スタイルの確立期」では、「既存の概念のとらわれず驚きを提供すること」と「ドラマとゲームが一体となった体験を提供すること」という運営コンセプトが固まった時期だったという。9月に実施したランキングイベントでは、ゲームで長時間遊んでスコア数を競う「マラソンイベント」ではなく、ハイスコア制のランキングにしたとのこと。これが結果的に差別化につながった。
 

9月には第4章が追加された。ストーリーを終わりから初めて時系列を逆向きにする映画「メメント」を参考にしたものとし、時間軸が入れ替わるトリックの導入や、1枚絵の表示機能を駆使して演出の大幅な改善を行った。見慣れたホーム画面がバグったり、バトル中に心理描写や回想シーンを流したりして、感情を盛り上げたり、ユーザーを物語に引き込むといったことを行った。
 


同時に、小さな改善を繰り返した結果、安定運用の可能な状態となった。こうした取り組みの結果、30日継続率は一段と上昇し、上のステージに入った。
 

「CM~成長期」では、30日継続率は横バイを維持したが、ユーザー数自体が非常に増えている状態のなかにあって、高い継続率を維持できたことが大きかったという。

テレビCMは、プロデューサーとディレクターがフルコミットして制作したという。代理店などとコミュニケーションプランをつくりつつ、キャッチコピーとして「だけど、生きていく」に決定した。同時に、テレビCMにあわせて、ゲーム序盤の改善も行っていった。

テレビCMを見たユーザーがゲームを開始してその後も継続的に楽しむまでの理想のプロセスを考え、それをいかに実現していくかの施策を行った。具体的には、

(1)エモーションの継続…テレビCMをきっかけにゲームをユーザーがテレビCMを見た時の感情のまま楽しめるようにする。攻撃名やTIPS、ノベル全般を調整する。
(2)攻略要素の明確化…1章全般のバランスの調整
(3)攻略方法の拡充…ここをクリアしたら会えるといった

だった。この結果、1日後継続率が劇的に改善していった。
 


同時に、第5章を追加するときに、バトル時のプレイヤーの感情の動きとシナリオを密接に関連付けるような演出を導入していった。「ゲームの面白さや気持ちよさは緊張からの解放によって生まれる」という考えから、ゲームプレイ中にHPギリギリとなるバトルを設計してドキドキ感を演出しつつ、ユーザーが「おかしい」と思うタイミングで、初期タマシイ「アキラ」がスキルを発動してユーザーを助けてくれる展開にした。
 



その結果、「たくさんのお褒めの言葉をいただいた。複雑な仕組みが全てではなく、既存のゲーム文法のなかでの物語体験をつくることは、特殊処理を用意するより、効果的に物語を体験してもらえる」と振り返った。そして、ユーザーの瞬間瞬間の感情を想像しながらゲームを設計すること、そして仲間との意見交換やテストプレイといったことも重要であると指摘した。

その後、季節イベントや、ゲームの設定やストーリーがより楽しめるイベントを行ったほか、コラボイベントにも力を入れた。特にNARUTOとのコラボは非常に評価がよく、ユーザーからの評価も上がったという。コラボでは、キャラクターを登場させるコラボではなく、世界観まで踏み込んでコラボを行うように心がけたそうだ。

「安定運用期」では、月4回のランキングという運営スタイルを確立した。ランキングでキャラクターを掘り下げ、あわせて既存タマシイの上方修正を行うといったことも実施した。テレビCMと連動させたコラボや、密接に絡むイベントなどのチャレンジも行った。安定運用しながら新しいチャレンジを仕込むといったことができるようになった。

事例として、ハローキティとのコラボを紹介した。CMでは「キティのりボンが消えた」という事件性とその泣いてしまうというエモーショナルな感情だけを伝えるものとした。そして、ゲーム内でも街のキティからリボンが消えてしまうというストーリーが展開された。さらにTwitter上の暗号を解いていくと、「キティのぬいぐるみ」が手に入り、クエストが進むとともに真相にたどり着くことができるようにした。
 



こうした他のコンテンツとのコラボを積極的に行ったところ、ダウンロード数(=ユーザー数)を伸ばしながら、継続率も高めていくといったことができたそうだ。下田氏は、この要因として、広告代理店との深いレベルでのゲームのメッセージの共有ができたことと、権利保有者であるサンリオウェーブがイベントの趣旨に深く理解してくれたことをあげた。
 


 
 
■感情を揺さぶるシステムを考える

続いて、櫻井氏が登壇し、「感情を揺さぶるシステムを考える」と題して、プロジェクトの運営と同時並行で行った新機能開発について説明した。

『消滅都市』のコンセプトは「信頼」だ。ストーリーとしては他人だった2人が信頼関係を築いていくことだった。そして、最も「信頼」を感じるのは、ともにピンチを切り抜けた時に開放感にあると定義したという。この流れを効果的に作っていくにはどうしたらいいか。
 


その一例として、バトル中の「チェインシステム」がある。右の方から流れてくる同じ色のスフィアを取っていくと、チェインが増えて、バイクのスピードが上がる、スフィアの配置が変わる、与えるダメージが増える、フィーバーモードに入れるといった効果があるという。「チェイン」が増えていくと与えるダメージが増える一方、トラップが複雑化し、ステージが難しくなる分、それを乗り越えるととても良いリワードが待っているようにする。
 


このように安全な時間があるからこそ、ピンチの時にメリハリが生まれ、緊張感が増す。そこからさらにユーザーを有利な状態にもっていくと爽快感が生まれる。こういったメリハリを意識した機能追加が重要であったとのことだった。
 

ただ、全てが受け入れられたわけではなく、受け入れられなかった機能もあった。例えば、命中率低下や毒、死神(一定時間経過で死亡)といった状態異常で、プレイ時の障害が増えたり、連れて行くタマシイの自由度を減らしたりするなどユーザーにとってのストレスになった。

開発側の狙いについて、櫻井氏は、ストレスを乗り越えて爽快感を得てもらうことだったが、かかるストレスが上がった割に相応の爽快感が得られないものとなってしまったため、ユーザーには不評だったと述べた。エネミースキルに対抗するために追加された手段がマイナス分をもとに戻すだけもしくはなしの状態だった。
 


セッションの後半では、今後のアップデート要素として、巨大ボス接近戦が公開された。通常のボスよりも格段に大きく、HPも多い強敵との一騎打ちバトルとなる。「いままでにないドラマチックなバトル」と「物語とゲームの完全融合を実現」がコンセプトで、遠距離と近距離の2つのフェーズで戦っていくという。こちらも先ほど紹介された「通常」と「緊張」「解放」のメリハリを付けることを心がけているという。
 





1年以上にわたって開発してきたチームだったが、いくつかの課題に直面したそうだ。仕様をテキストで共有することはできたが、演出の認識は感覚的になりがちで共有することが難しかったという。見た目の差や時間経過の変化具合、フェーズの切り替え方法など、全体の流れをイメージするのに時間がかかった。またゲーム仕様のコア部分を変更するため、動きやタマシイのパース感、背景、各種エフェクトなど既存素材に違和感が生じた。


演出イメージの共有を図るためには、より踏み込んだコミュニケーションが必要であるとし、

(1)「ブレない」:コンセプトを明確にしてゴールを設定する。新規開発メンバー専用のチャットを設立したほか、モックをしっかりと作る
(2)「遠慮しない」:気になったことはなるべく早い段階で意見をいう
(3)「(無責任に)信頼しない」:皆がイメージするものが違うのは当たり前。レビュー会を定期的に行い、テストプレイを繰り返す。それぞれ当事者意識を持って行動する。
「(4)RESPECT」:ありがとうは忘れずに。ネガティブなフィードバックは論理的にわかりやすく行う。ポジティブなフィードバックは積極的に行う。

といったことをあげた。
 
(編集部 木村英彦)
 
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グリー株式会社
http://www.gree.co.jp/

会社情報

会社名
グリー株式会社
設立
2004年12月
代表者
代表取締役会長兼社長 田中 良和
決算期
6月
直近業績
売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3632
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