【インタビュー】ファミコンからスマホまで…ゲーム音楽のコンサート興業の可能性をJAGMO代表の泉志谷氏に訊く 10月公演は『モンスト』も演奏


カヤック<3904>は、2015年10月24日(土)・25日(日)、東京・新宿文化センター 大ホールにおいて、ゲーム音楽交響楽団「JAGMO」によるフルオーケストラ公演「伝説の音楽祭 - 勇者たちの響宴 -」を開催する。

JAGMOは“ゲーム音楽を音楽史に残る文化に”というビジョンのもと、これまで高い芸術性を保持するオーケストラ公演を実施している。一方でカヤックは、去る2015年3月31日にJAGMOの全事業を譲受し、同社が持つコンテンツやクリエイティブの強みを活かして、JAGMOが開催した7月の夏公演をサポートし、満員御礼の大成功を収めた。

本稿では、次回公演の開催が迫るなか、JAGMO代表の泉志谷忠和氏にインタビューを実施。ゲーム音楽におけるコンサート興行の可能性をはじめ、実際に演奏も行ったスマホゲーム音楽に対する印象についても伺ってきた。

 

■ゲーム音楽専門のコンサート…その体制や収益は

 

JAGMO CEO & Founder
泉志谷忠和

――:本日はよろしくお願いいたします。はじめに泉志谷さんのご経歴から教えてください。

両親が音楽系の仕事をしていますので、幼い頃から作曲やピアノなど、クラシックの勉強をしてきました。音大に入ることを勧められてきたのですが、中学卒業後アメリカに留学し、様々な地域でエンターテインメントビジネスを学びました。アメリカ滞在中は、いくつもの本当に素晴らしいエンターテインメントに触れて、将来はこういう仕事に就ければと目標を持ったものです。帰国後は慶應義塾大学に進学し、卒業後は音楽プロデューサーのもとに弟子入りをしました。


――:では、そこからどのようにしてJAGMOを設立したのでしょうか。

JAGMOの前身となる「日本BGMフィルハーモニー管弦楽団」の運営が難しい状況にある」という話を友人の演奏家より聞きました。当時の楽団の代表だった遠藤雅伸さん(ゲームクリエイター、日本デジタルゲーム学会理事研究委員長、代表作に『ゼビウス』ほか)と、古代祐三さん(作曲家、代表作に『イース』『世界樹の迷宮』ほか)のおふたりも、存続は難しいと考えていたようです。せっかく素晴らしいコンセプトの楽団なので、存続について遠藤さんに訴えかけたところ、それならば、次のコンサートをプロデュースするのはどうかと言われました。


――:突然楽団運営を担うことになったのですね。いつ頃の話でしょうか。

2013年10月頃です。その時点で、2014年3月公演として1800人ほどが入る文京シビックホールを一日抑えていたのですが、公演内容が決まっておらず、 “さあどうしようか”という状況からのスタートでした。


――:ご苦労があったかと思います。結果はいかがでしたか。
 

1日2公演で合計3600人を集客することができ、収益は黒字化で落ち着きました。無事公演も成功させて、私もこのまま 別の方に運営を委ねようかと考えていたのですが、遠藤さんから「君が続けなければやっぱり解散だ」と。


――:なかば強引に(笑)。とはいえ、遠藤さんも泉志谷さんであれば、運営を続けていける可能性を見出していたからこそのアサインだったのかもしれません。実際に泉志谷さんが了承したのは何故ですか。

やはり私自身ゲームが大好きですし、クラッシク音楽も大好きだったからです。中学生のときに『ファイナルファンタジー』のコンサートを見に行ったことがあるのですが、物凄く感動して、“いつかゲーム音楽のコンサートをやってみたい”と思ったのをよく覚えていて、腹を括りました。それに“ゲーム音楽専門のコンサート”という事業に可能性を強く持っていたのもあります。その後は当時勤めていた外資系企業の勤務を経て、正式に株式会社JAGMOを設立しました。


――:法人化してからはいかがでしたか。

最初はなかなか会場が取れませんでしたし、会場が取れても満員にしないと赤字になるような形でした。徐々に認知はあがってきており、2015年2月の初のフルオーケストラ公演は無事成功をおさめることができましたが、今後も安定的に公演を開催していくためには、安定した地盤を固めることが必要で、そのために、どこかのタイミングで従来のやり方とは異なる運営を考えなければならないと思っていました。
 
そんな折、カヤックの柳澤さん(カヤック CEO 柳澤大輔氏)からJAGMOにおける今後の文化的な可能性や海外展開などのアドバイスをはじめ、演奏者の能力も高くかっていただき、2015年3月末、正式にカヤックに参画することになりました。


 

■ファミコンからスマホまで…時代を跨いで奏でるゲーム音楽

 

――:ここからは具体的にJAGMOの運営体制についてお伺いいたします。楽団といえば、演奏者が“所属”しているイメージですが、JAGMOも同様なのでしょうか。

いえ、オーディション形式で毎回演奏者を決めております。オーケストラの世界では、特に人数の少ない管楽器など、若手奏者の活躍の場が限られているという現状があります。年齢に関わらず能力の高い演奏者はたくさんいますので、あえて所属という形にはせずに、厳しい審査を通して選りすぐりの質の高いチームを作り、同時に若手奏者の育成にも寄与するというのが、JAGMOのひとつのコンセプトですね。


――:運営を行う株式会社JAGMOとしては、カヤックとどのような連携をとっていますか。

演奏者・会場の手配や音響監督との打ち合わせ、その他雑用など様々な業務をおこなっています。カヤック側は、WEBサイトの制作など、同社の強みであるソーシャル性を活かした施策で、JAGMOの露出をしたり、バイラル効果で動員数を増やしたり、ガッチリと上手く連携しています。


――:2015年7月には、「伝説の戦闘組曲」と題してバトルBGMを中心に扱った公演を展開されました。『ファイナルファンタジー』や『クロノ・トリガー』、『MOTHER』など心躍る楽曲が並んでいますが、プログラムはどのように決めているのでしょうか。
 

3つのフィルターをかけるようにしています。まずは私自身で決めていきます。というのも、JAGMOが据えるメインターゲットは、勉強や業務中のときに作業用BGMとしてゲーム音楽を流している20~30代の男女半々で、それは同時に私自身でもあるからです。

そこから音楽監督・編曲家に提出して、全体的な曲の流れや構成などを見ていただき、コンサートとして成立しているか確認をしてもらいます。また、公演の際にご来場者様に記入いただいたアンケートは全て目を通します。特に楽曲のリクエスト欄は注意してみます。今回はTwitter上でリクエストも受付け、それも全て目を通しました。

毎回、考えに考え抜いてプログラムをつくっていきますが、今後はファンクラブであるパトロネージュに入会されている皆様と実際にお会いして演奏楽曲について考るなど、ファンの皆さんと一緒にコンサートをつくりあげていくスタイルを強化していきたいと考えております。



――:また、その公演で面白いのがスマホゲームの『チェインクロニクル』(以下、『チェンクロ』)の楽曲がプログラムに入っていたことですよね。こちらはどのような経緯で演奏することになったのでしょうか。

じつはカヤックの「Lobi」チームからのご縁でお話が生まれました。曲を聴いた音楽監督も「これは行ける」と意気込み、周囲からの反応も「ぜひやってほしい」と上々で、セガゲームスさんにはミュージックパートナーという形で演奏させていただくことになりました。


――:従来のゲーム音楽のコンサートは、昔の有名な作品に寄りがちですが、スマホゲームでこんなにも真新しいタイトルを演奏するのは新しい試みかと思います。

スマホゲームの歴史はまだ浅いですが、今回の公演でも『チェンクロ』の楽曲は存在感を放っていましたし、ご好評をいただけました。確かな手応えを感じましたね。

また、スマホゲームの話で言うと、オーケストラの待ち時間が面白かったです。だいたいほかの楽団では、演奏者は外出していたりするのですが、JAGMOの場合は年齢層が若いため、みんなスマホゲームで遊んでいるのです。そういう意味では、演奏者も足を運んでくれるお客様に対しても、スマホゲームタイトルの演奏は親和性があるのかもしれません。



――:今後もスマホゲームタイトルの楽曲は演奏する予定があるのでしょうか。

はい。一度聞かせていただき、オーケストラの演奏として可能性があるならば、積極的に展開していきたいと思います。また、今回のようにミュージックパートナーという形で、最終的には演奏したスマホゲームのプロモーションにも繋がればと考えています


――:素晴らしい試みです。まだまだスマホゲームは、チープな印象を持たれてしまうものですが、他プラットフォームと変わらず同じゲームですし、何より1タイトルで数百万人規模の方が遊んでいるという現実もあります。

JAGMOでは、“ゲーム音楽を音楽史に残る文化に”…というビジョンを持っています。そこには当然スマホゲームも入りますし、活動の歩みとともに、生演奏を通じてゲーム音楽の歴史に貢献していければと考えています。

今回ゲーム史における新旧の楽曲を披露しましたが、意外と「両方分かる」と思った人もいるのではないでしょうか。ファミコンからスマホまで、時代を跨いでゲーム音楽をコンサートで楽しめるよう、新鮮味のある試みができたのではないかと思います。



――:コンサート当日において、何か泉志谷さんのほうで心掛けていることはありますか。

コンサートは非常に神聖な場所だと考えています。演奏家もひとりひとり命を込めて伝えていますし、お客様も真剣に耳を傾けて聞いていただいています。そういう状態が2時間程度続くため、絶対にその空間を邪魔しないような配慮をしなければなりません。一切のストレスがなく純粋に音楽を楽しんでもらうためには、チケットの対応やドアの開閉のタイミングまで、つねに細やかな気配りを意識しています。


――:また、JAGMOでは今年フランスで開催されたジャパンエキスポにも参加し、外務省後援を得て初の海外公演「JAGMO巴里弦楽四重奏団」を2ステージ実施されましたよね(関連記事)。反響はいかがでしたか。

海外公演は初めての試みでしたので、集客はとても心配でした。ですが実際に蓋を開けてみたら、朝一番の公演にも関わらず約5000名の動員に成功しました。当日は、コスプレを身にまとった弦楽四重奏団による『ファイナルファンタジー』や『クロノ・トリガー』などの名曲メドレーを演奏しました。

外務省の後援をいただき、応援をいただいたということはとても心強く、より広い世界に日本文化、ゲーム音楽を伝える、という使命感が生まれました。日本はクラシック音楽が浸透しており、欧州を始め素晴らしい奏者が留学や移住をしています。この流れが文化の架け橋になれば、と考えています。

現在は海外公演プロジェクト「JAGMO WORLD PROJECT」を始動して、ヨーロッパ、アジア圏での公演からスタートし、5年以内に全大陸での公演達成を目標としています。

【海外公演の様子】




――:恐らくマネタイズとしては、公演チケット、グッズ販売などがおもな売上かと思います。それと同時に「JAGMOパトロネージュプログラム」として、運営を支える個人・企業からの支援についてもありますよね。
 
はい。いつの時代にも音楽や芸術は、支える人々、ファンの皆様、応援してくださる皆様がいらっしゃってこそ成り立つものです。今後もJAGMOではより良い演奏を届けるために、ご支援の気持ちを直接活かすプログラムを立ち上げました。ご支援者にはJAGMOオリジナルグッズや公演チケットの優先購入権など、様々な特典を用意しています。

また、それと同時に新しい事業も生み出していきたいと考えていますし、ご支援者の皆様と対話し、より良いコンサートつくりを実現したいです。ご支援者・JAGMO双方にとって良い関係を築くことで、ご支援者がJAGMOをよりよいものに、JAGMOがご支援者により良い価値をと、良い循環をつくることが出来ればと思っています。



――:これまで何公演もやられてきたJAGMOですが、何か思い出深いエピソードはありますか。

7月に開催した前回の公演では、「レベルアップ交響曲」という初めてのオリジナル楽曲を演奏しました。これはカヤック側でお客様からレベルアップするときのオリジナル効果音をTwitterで募集し、実際に採用した効果音を公演で演奏するというものです。
 
お客様は「テテテテッテーテー」などオノマトペ(擬音語)でつぶやいて、それを元に作曲家が音楽にしていき、主人公が旅しているような物語を演奏で表現していきます。楽曲の序盤では主人公のレベルが低いのでわざと下手に演奏します(笑)。レベルアップの効果音を演奏するたびに、どんどんハーモニーが生まれて、最後はエンディングのような大団円を迎えるという。



――:面白いのが完全オリジナルの楽曲にも関わらず、レベルアップというゲームの概念から外れていない要素を題材にしているため、全員が全員共感できる内容ですよね。

楽器の特性を活かすなど、オーケストラとしても新たな試みですし、何より多くの方々に理解してもらい、楽しんでもらえたのが良かったですね。10月公演ではオリジナル楽曲は一度お休みという形で演奏しませんが、今後の公演でもこのような企画は考えていきたいと思います。


――:まさにJAGMOとカヤック社の相乗効果だからこそ出来た、オリジナルのオーケストラ楽曲かと思います。10月24日(土)・25日(日)に行われる公演では何かコンセプトはあるのでしょうか。

秋ということで“音楽祭”です。前回の戦闘曲が中心のプログラムとは違い、フィールドやイベントの楽曲など、多種多様なプログラムとなっています。新曲としては、『サクラ大戦』の「檄!帝国華撃団」をはじめ、スマホゲームでは『モンスターストライク』の楽曲も演奏します。

【10月公演のプログラム】
■『クロノ・クロス』より
「CHRONO CROSS ~時の傷痕~」

■『クロノ・トリガー』より
「クロノ・トリガー」「風の憧憬」「時の回廊」「王国裁判」「カエルのテーマ」「魔王決戦」「世界変革の時」

■『サクラ大戦』
「檄!帝国華撃団」

■『モンスターストライク』
「タイトル BGM」「メニュー BGM」「イベントクエスト:極 BGM」「降臨クエスト:究極、超絶 BGM」「降臨クエスト:BOSS BGM」「勝利 BGM」

●『MOTHER』より
「Eight Melodies」「Bein' Friends」「Pollyanna」「SMILES and TEARS」

●『ロマンシング サ・ガ3』より
「オープニング」「四魔貴族バトル」「四魔貴族バトル2」「玄城バトル」「ラストバトル」

●『キングダムハーツ』より
「Dearly Beloved」「Traverse Town」「Roxas」「Tension Rising」

●『FINAL FANTASY IV』より
「ゴルベーザ四天王とのバトル」

●『FINAL FANTASY V』より
「ビッグブリッヂの死闘」

●『FINAL FANTASY VII』より
「片翼の天使」

●『FINAL FANTASY VIII』より
「Eyes on me(24日 夜公演限定)」

●『FINAL FANTASY X』より
「ザナルカンドにて」「ノーマルバトル」「シーモアバトル」「Other World」「決戦」「Brass de Chocobo」「素敵だね(24日 昼公演限定)」

●『FINAL FANTASY XII』より
「KISS ME GOOD BYE(25日 昼公演限定)」



――:それでは、最後に今後の展望について教えてください。

今後もフルオーケストラは1年で4回の公演を目標として、四季折々のプログラムを表現できるようにしていきます。また、日本国内の主要都市を回るのはもちろんですが、「世界に通用するJAGMO」として海外公演も積極的に展開していきたいと思います。“ゲーム音楽を音楽史に残る文化にする”というビジョンのため、これからも世界に認めてもらえるように真摯に取り組んでまいります。


――:本日はありがとうございました。
 
(取材・文:編集部  原孝則)


■10月公演「勇者たちの響宴」
 


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株式会社カヤック
http://www.kayac.com/

会社情報

会社名
株式会社カヤック
設立
2005年1月
代表者
代表取締役CEO 柳澤 大輔/代表取締役CTO 貝畑 政徳/代表取締役CBO 久場 智喜
決算期
12月
直近業績
売上高174億6700万円、営業利益10億2100万円、経常利益10億3800万円、最終利益5億1100万円(2023年12月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
3904
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