【NDC16】『HIT』のヒットから読み解く、クオリティの高いゲーム制作を行うための組織づくりとは MMORPGとモバイルゲーム制作の違い

 
ネクソン<3659>の連結子会社であるネクソンコリアが、4月26日~4月28日の期間、ネクソンコリアのオフィスおよび近隣施設にて、開催している韓国最大規模のゲーム開発者の祭典「Nexon Developers Conference 16(NDC16)」。
 
今年で10周年を迎えるNDCは、世界中からゲーム開発者が集いゲーム開発に関するノウハウや経験の共有を目的に、2007年より開催されているカンファレンスだ。
 
NDC16では、「Diversity(多様性)」をテーマに、ゲーム業界の新たな可能性と今後の方向性を追求。モバイルゲームでは、『HIT』や『野生の地:Durango』など、ネクソンのゲームの事例を通じてゲーム開発および運用経験を共有するセッションが実施されるほか、『Monument Valley』を手掛けたustwo gamesのDaniel Gray氏など、海外の著名なゲーム開発会社を招待し、グローバル市場で競うための知識やノウハウを共有するセッションを開催している。
 
本稿では、NAT Gamesゲームデザイン室 室長のキム・イヒョン氏が登壇した講演「【HIT】配信開始直後に売上ランキング首位を獲得した『HIT』の制作過程と事後検証」をレポートしていく。
 

■MMORPGからモバイルへ、『HIT』が完成するまでの苦悩と苦労

 
▲NAT Gamesゲームデザイン室 室長のキム・イヒョン氏。
 
まずキム氏は、講演を始めるにあたり、本講演の題材となるタイトル『HIT』を紹介した。
 
本作は、『リネージュ』や『TERA』といった大ヒットMMORPGを開発したパク・ヨンヒョン氏が手掛ける初のモバイルゲーム。2015年11月にリリースされ、Unreal Engine 4を使用した最高レベルのグラフィックを始め、アクションRPGのカテゴリとしては最短期間で売上ランキングの1位を達成するなど、多くのユーザーから愛されているゲームだ。
 
続いてキム氏は、『HIT』開発の経緯について語る。元々はPC用MMORPGを制作するために集まったチームだったが、2014年に資金難に直面したこともあり、モバイルに推移したという事情があったようだ。
 
そこから、モバイル向けにどういった内容にすべきかをチームで共有し、戦闘をしてアイテムを取得する過程がPC用MMORPGと似ているという理由から、ジャンルをアクションRPGにすることを決めた。また、Unreal Engine 4を使用した経緯については、従来の経験を活かしたいという理由があったとキム氏は語る。
 
こうして、2014年5月頃から開発がスタート。3ヶ月かけて戦闘のプロトタイプを変更し、ゲームの方向性と枠組み作りに取り組んだ。同時に、企画面以外の部分でリソースの量産体制を作ったという。その後、戦闘のプロトタイプが良い仕上がりになったので、目立った修正はなく量産体制に入れたとの話だった。
 
そこからはおよそ1年がかりでゲーム制作を完了させ、パブリッシャーがネクソンに決まると、3カ月の作業を経て出資に至った。この件に関してキム氏は「『HIT』はネットゲーム初のモバイルゲームながらも、1年半足らずでクオリティの高いゲームが完成した」と自負する。その理由として、今までの経験からPC用MMORPGの制作に慣れていたことや、50人以上という大人数で開発にあたっていたためリソースの生産体制に特化していたことを挙げた。
 
また、制作時に問題が発覚した際、素早く対処するために、問題を解決する「タスクフォースチーム」を結成していたことを明かした。その中で、制作時に1番厳しかったのは「UI」と「エフェクト」だという。そこで、このタスクフォースチームで迅速なコミュニケーションやコスト制限を図り、クオリティを高めることに注力した。
 
さらにキム氏は、タスクフォースチームにとって一番重要なのは「決定権を持つべきだ」と断言する。また、外部でタスクフォースチームを組む場合は、クオリティが望む方向にいかない経験があったことから、リソースを適切に入れなければならないことや、余裕のある人員配置にしなければいけないこと、結果物が悪かった場合にはより人員を投入して質の向上に努めていたことなどを話した。ちなみに、増やした人員は、アプリのリリース後は常設組織として運営を担っているとのこと。
 


▲最初にあがってきたUIは良い出来ではなかったため、タスクフォースチームの人員を10人以上増やすことで解決に導いたという。
 
一方、エフェクトについては、モバイルゲームの制作経験が全くなかったことがクオリティに直結してしまったとの話。方向性を変更する際も、アニメーターやサウンドクリエイターに伝えるときに問題が発生し、開発初期には、見た目は氷のエフェクトなのに炎の音が入っているなどといった行き違いもあったようだ。こういった事故を防ぐため、キム氏は、作業者が集まって中間の作業物を共有、フィードバックを受けられる過程が必要だと感じたことから、エフェクトにもタスクフォースチームを適応したという。そうしたところ、コミュニケーションに関する問題が解決されたことで、制作が円滑に回り、クオリティの高いものが作られるようになったと結果を述べた。
 
そのほか、ゲームにも映画のように編集者が必要だという考えや、開発者もユーザーの目線で見直すようなフィードバックが必要だと感じたことから、制作中にFQAを始めたという話を展開した。当初は実験的に試みられたものだったが、キム氏曰く、これが後天的に前向きな結果をもたらしたという。ステージの難易度やレベル、勝敗値など、企画段階からユーザーの目線で見るフィードバックを受けられるので、多大なサポートを受けられたと語った。
 
また、キム氏が今まで感じていたPC用MMORPGのライブサービスの概念と比べ、モバイルゲームの更新周期はより速く感じたとのこと。具体的には、PC用MMORPGだと6カ月に一度アップデートを行うが、モバイルゲームは月1回以上アップデートをしなければいけなかったので、ミスも多発してしまったという。特に、アップデートの周期とコンテンツの量に関して、遅く多くより、少なくても早く頻繁に行った方が良いとの判断から、これをライブサービスに適応している。
 
最後にキム氏は『HIT』の制作を経て、モバイルゲームはコンテンツを作ることも重要だが、ライブサービスが難しく、多くの人材が必要であること、その部分が重要だと感じたと感想を述べた。良いサービスを提供するためには、開発の段階から工夫する必要があるほか、リリース後の指標分析やユーザーモニタリングなどから、ユーザーがどのようなリソースやシステムを望んでいるのかを把握し、持続的に開発し、ライブサービスに適応することが必要だというアドバイスを送り、本講演の締めとした。

 
(取材・文:編集部 山岡広樹)
 
 
 
■関連サイト
 

公式サイト(韓国語)

株式会社ネクソン
http://www.nexon.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ネクソン
設立
2002年12月
代表者
代表取締役社長 イ・ジョンホン(李 政憲)/代表取締役CFO 植村 士朗
決算期
12月
直近業績
売上収益4233億5600万円、営業利益1347億4500万円、最終利益706億0900万円(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3659
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NEXON Korea(ネクソンコリア)

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