ミクシィグループは、初主催となる学生向けイベント「夏だ!アートだ!モンストキャラデザ道場」を開催した。
今回のイベントは、XFLAG スタジオのアートディレクター兼イラストレーターの2人が"師範"となり、参加学生のみなさんを"門下生"として迎える道場スタイルで、講義とワークショップを実施。本稿では、イベントの内容をお届け。
■ヴェローナはいかにして制作されたのか
はじめに『モンスターストライク』(以下、『モンスト』)のキャラクター制作手法について講演があった。
『モンスト』では、図の様な行程を経てイラストを制作している。まずテーマ・モチーフ決めにて、そのイベントのキャラクターのラインナップやキャラクターの概要を決めていく。
つぎに、キャラクター概要から詳細な設定を練っていき、チームでの確認を通してキャラクター設定書をブラッシュアップ。そうして完成した設定書をもとに、作家さんや内製イラストレーターなどの割り振りを決定し、作画行程を経て完成……という流れになる。
作成した設定書をもとに、各制作担当者がラフ・線画・彩色・仕上げを行っていく。『モンスト』ではチーム内にて制作を行う場合と外部制作パートナーさんに依頼する場合の2パターンある。外部制作パートナーとは、イラスト制作会社、フリーランスのイラストレーターのこと。
外部制作パートナーに依頼する場合は担当アートディレクターと協力して制作を行うという。アートディレクターは、主に外部制作パートナーさんが制作してくれたラフや線画、彩色のデータを確認している。キャラクターをより一層魅力的に見せるにはどうするかなどを入念にチェックし、イラストの方向性やより良い表現方法などを提案していく仕事だ。
いよいよ設定書をもとにキャラクターの作画開始。『モンスト』では図のように、ラフ制作 > 線画制作 > 彩色 > 仕上げ と言う作業行程がある。作画行程では毎日「クリエイティブチェック」があり、そこで制作の進み具合、クオリティや全体のバランスを確認している。
ここでは、2016年6月前半にリリースされた「リコルの大冒険」シリーズに登場するヴェローナを例に、キャラクター完成までの工程を詳しく説明していく。
6月前半イベント「リコルの大冒険」では、まずテーマとして「RPG風ファンタジー」を扱うことが決まり、それに加えキャラクター性を掘り下げるひとつの要素として「タロットカード」をモチーフにすることを決めた。
ヴェローナは、「RPG風ファンタジー」という世界観の中での、主人公達に敵対する存在として「女魔王」を作ろうと言うところからはじまった。タロットカードには「正位置」と「逆位置」があり、それぞれで全く逆の意味になる。ヴェローナは「逆位置の意味」をコンセプトとしつつも、神化で逆転するという方向で、コンセプトやストーリーを練っていった。
今回のストーリーにおいては、「女魔王」に「ホイールオブフォーチュン」というタロットカードをモチーフに。
プラスのスパイスとして『モンスト』らしいことができないか、ということで、以前行ったRPGをテーマにしたシリーズの「ロイゼの大冒険」と繋がった世界観にしてみてはどうかという案が出て、さらに肉付け。ビジュアル的な意味でのクオリティはもちろんだが、こうした遊び心をもちながらも、総合的に見て楽しめるデザインに仕上げることで、「モンストらしい世界観」を築いているとのこと。
そして、キャラクターに進化前、進化、神化、それぞれにストーリーを持たせていく。
ヴェローナは、本来、勇者として魔王を倒したのだが、「魔王を倒したものが次の魔王になってしまう」という呪いがあったために、知らずのうちに、ヴェローナが魔王になってしまった、という一連のストーリー性を持たせている。
進化前・進化後では、魔王になってしまい暴走してしまうヴェローナのストーリーを表現し、神化では、勇者であるリコルに倒され、本来の姿に戻り、今度は次の魔王になってしまった妹のリコルを助けにいく…そんなストーリーを絵で表現。
これまで決定した「RPG風ファンタジー」という世界観、「タロットカードモチーフ」、過去キャラとのつながり…などから絵に落とし込む上で大事な要素をまとめあげていく。
合わせて、モンスターストライクでは、進化前、進化、神化、獣神化というバリエーションがあり、プレイ画面上で表示されるキャラクターをデフォルメした「ボール絵」と言うものが存在。そのため、1キャラクターに付き4~6枚のイラストが必要。キャラクター制作では、キャラクターイラストとボール絵を平行して進めていく。
では、進化後の制作過程を細かく見ていこう。
設定書をもとに作画を開始。
ヴェローナは外部制作パートナーさんと共に制作を行っているが、今回はラフの初稿が2パターンが届いた。左のイラストは魔方陣のような輪っかの入り方のバランスが良いと感じ、右のイラストは構図がやや俯瞰になっており迫力が感じられる。両方とも大変魅力的なので、この2つの長所を取り入れる事はできないかと思い指示を行うことにした。
▲これらの具体的な要望などを図や文章で示して指示するチェックバック(略してCB)を行う。
▲伝えたCBをもとに第2稿として制作されたものがこちら。とても良く仕上がっていて、イメージに近づいてきたのが分かる。より魅力的に見せるため更にCBを繰り返す。
▲ラフが完成! 次はこちらのデータをもとに、線画を起こしていく。
作画については線画の太さのルールを決めているので、それに基づき制作を行うという。
・ラフのイメージを損なっていないか
・ラフの状態から正しい線を起こせているか
などをチェックし、CBではキャラのシルエットが見えづらいので、少し太くする調整をお願いしているようだ。
▲線画の完成! そしていよいよ線画に彩色する行程に入る。
初稿の段階で、塗り込みが丁寧に行われており良い出来に。キャラクタ-シルエットが周りの要素に埋もれて見え辛くなっている部分(特に腕など)があるので、見えやすくするための調整や、全体の色味をやや明るくしてもらうように調整を依頼。
第1稿のCBを踏まえて調整した第2稿。こちらの意図を汲み取っており、納品。ここから更に最終的なブラッシュアップである、レタッチと呼ばれている仕上げ作業を行う。
今回のレタッチ作業の要点は以下の3点。
・要素がきちんと見やすくまとまっているか
・空間が表現できているか
・より効果的なライティングの演出
実際のプレイ画面で見た時の見栄えを考慮しつつ色を調整。
羽の調整の一例を挙げると、青味が強い部分をおさえて、それぞれのパーツの金属の色の差を出す調整を行っている。これらをもってキャラ絵は完成! 次はボール絵の作業。
▲ボール絵では、しっかりとしたデフォルメを加えつつもキャラ絵との「印象」はしっかりと合わせていく作業を行う。
ボール絵というのは、小さくデフォルメされたキャラクターイラストなので、「キャラクターの個性として重要なもののみ、ボール絵に取り入れる」ということが基本。その中でも重要なのが、顔・武器・特徴的なパーツ(翼など)。
これが、実際のプレイ画面上ではっきりと認識できるようにそれぞれの要素のサイズ、色、線の太さに気をつけながらデフォルメしていく。逆に細かい装飾やエフェクトといった部分を省略することで、必要な要素がしっかり見えるように調整。
また、ボール絵でもう一つ重要なことは…キャラクターイラスト同様、シルエット。プレイ画面上で動き回って、敵にぶつかって縦横無尽に画面を駆け回るので、四角いシルエットになってしまうと、不自然に見えてしまう。より自然に「もうひとつのキャラクターイラスト」として見えるように、できるだけ丸みのあるシルエットを意識しているという。
▲これをもってキャラクター制作が完了。
ラフとの比較すると、こちらが意図するラスボスらしい迫力あるイラストに仕上がった。
イベント後半では、モンストではお馴染みの、亀のキャラクターケンチーを使って、「オリジナルご当地ケンチー」をデザイン。
20分間のワークショップの中で、皆さんそれぞれが思うご当地ケンチーをデザインしてもらうことに。個性豊かな様々なケンチー達に、「ここまで書いてくれるとは思わなかった!」と師範達も圧倒されていた。
完成した作品を一斉に張り出し、師範の2人が気になった作品に触れ、作成者にデザインの経緯やこだわった点などを質問。その際にはみなさんが集まって耳を傾ける場面も。
講義でお話した「モンストらしい世界観」を自分なりに解釈し、早速デザインに落とし込んでいる方もいて、とても面白いワークショップとなった。
最後に、XFLAG スタジオの妥協しないモノ作りについて講演。
師範2人をはじめとするデザイナー達は、今手がけているキャラクターのクオリティでユーザーの皆さんに喜んでもらえるのか、本当に価値のあるものになっているのかを考えながらギリギリまで突き詰めてキャラクターたちを創りだしていく。それはオリジナルのキャラクターイラストだけではなく、コラボのキャラクターに対してももちろん同じ姿勢で挑む。
・既存のモンストユーザーが楽しんでもらえるものになっているか
・コラボの作品のファンにも楽しんでもらえるものなのか
モンストの世界観を出しつつも相互のファンに楽しんでもらえるためにはどうすれば良いかを強く意識して、制作を行っている。
なぜなら、未だかつて無い新しい価値の創出、皆さんに楽しんでもらう事を前提としたもの作り、そこへ向かって情熱を傾ける事で”アドレナリン全開”のバトルエンターテインメントを提供できると信じているから。
その情熱はユーザーの皆さんに必ず届く。そして、それはファンのみなさんの熱となって、自分の心に還ってくる。それが、また素晴らしいものを作ろうという次への意欲に繋がっていくという。そうした大きなやりがいが、XFLAG スタジオにはあるようだ。
■抽選でポートフォリオアドバイス会も実施
ここで、会場の学生さんから寄せられた質問内容を合わせて紹介。
Q1、ヴェローナの作成日程は?
A、大体1ヶ月弱くらい。
Q2、キャラクターデザインをする上でつらいことは?
A、良いキャラを、もう一歩良くするために悩むこと。そこがうまくアウトプット出来た時は楽しい。
Q3、制作でつかっているソフトは?
A、レイヤーもわけつつ、Photoshopにて統一。
Q4、チーム内でキャラクターデザインする場合の人数は?
A、10人弱くらい。
Q5、モンストらしいキャラクター作りの秘訣は?
A、神話や歴史上の人物はすでに多くのゲームでもキャラクターとして登場しているので、重複しないように工夫。例えば、織田信長はモンストだと女性。史実の解釈から、より面白みを出すための設定にしています。
ほかにも、例えばモンストでの宮本武蔵と佐々木小次郎についてなのですが、巌流島で武蔵に待たされる小次郎…というエピソードから、「武蔵とのデートで待ち合わせしている小次郎」という解釈で、小次郎を女性キャラクターに設定し、武蔵と恋仲・夫婦という関係にしています。このように史実の出来事を元に、今までに無い方向性のストーリーに発展させ、キャラクターを作り上げて行くのもモンストらしいところだと思います。
Q6、外部制作パートナーとの付き合いの秘訣は?
A、意図が伝わりづらいところもあるので、密にコミュニケーションをとるなど、気をつけています。
Q7、モンストの進化前・進化・神化などの制作者は1人?
A、そのとおり。つまり、3体+ボール絵3体の合計6体を同時に作成しています!
▲イベント後は抽選で選ばれた方々に「ポートフォリオアドバイス会」を実施。
デジタル絵本のポートフォリオの見せ方、自分の強みを相手に分かりやすく伝えるためのポートフォリオのまとめ方などをアドバイス。自分がどういったキャラクターが好きなのか、自分の強みがこれだ!と絵から感じるように作成することがポイントとのこと。1:1でアドバイスを聞けるということもあり、皆さんの表情も真剣そのものだった。
会社情報
- 会社名
- 株式会社MIXI
- 設立
- 1997年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 木村 弘毅
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1468億6800万円、営業利益:191億7700万円、経常利益156億6900万円、最終利益70億8200万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2121