このセッションにはモデレーターとして、インフィニティ・ベンチャーズLLPの共同代表パートナー・田中章雄氏が登壇。さらにパネリストには中国を拠点にでVRヘッドマウントディスプレイをリリースするBeijing Pico TechnologyのCMO・Karen Zu氏、3Glassesの執行役員&CFOのGeorge Lin氏、BaoFeng MojingからZeng Xianzhong氏、そしてShanghai FamikuからFrederick氏の5名が登壇。現在盛り上がりを見せる中国VR市場について、さまざまな話題が飛び出した。
■中国のVR市場は加熱の一途をたどる
まずは田中氏から、中国におけるVRデバイスの普及率について説明が入る。それによると中国でのVRはモバイル向けが多く、ソフトではゲームが中心になっているという。成長の速度は凄まじく、田中氏は「2020年にはVRユーザーの1/3が中国人になる」と予測するほどだ。現在もモバイルVR機器を中心に普及が進んでおり「今はまだ黎明期だが、スマートフォンと同じ推移をたどるのでは」と予想を示した。
そんな中国市場の恩恵を受けているのが、Pico TechnologyのKaren氏である。同社はモバイル/PC用VRデバイス「pico neo」などをリリースし、現在では中国トップクラスの売上を誇る。設立当初は開発人数や機材の問題で苦戦したとも話したが、2017年には日本、アメリカへの進出も予定しているなど勢いに乗っている企業だ。
George氏が率いる3Glassesも、同様に中国トップクラスのPC VRメーカーと言われている。同社はデバイスを開発・販売すると同時に、ショッピングセンターなどでVRを体験できるビジネスモデルを確立。現在ではVR体験センターが中国全土に約3000ヵ所以上も存在。オフラインでのビジネスモデルで世界をリードしている存在だ。
Zeng氏がVice Presidentを務めるBaofeng Mojingは、中国最大級の動画プレーヤーアプリ&動画コンテンツ配信サービスを展開している企業・Baofengが設立したVR専門企業だ。このサービスを背景にモバイルVRヘッドセットを開発すると、これが順調な推移を見せている。
同社のヘッドセットがヒットした理由のひとつとして、安価なコンパクト版を売り出したことが挙げられる。コンパクト版は女性層を意識して、デザインや色使いにも配慮。カラフルなイメージを持たせたことで、それまで縁のなかった女性層を取り込むことに成功した。
そしてShanghai FamikuのFrederick氏は、VRアミューズメント施設の運営という、ほかの3社とは違うアプローチでVRの普及に貢献している。同社は元々アーケードゲームの開発を行っていたが、そのノウハウを生かしてVRのアーケード化を実現したというのだ。
Shanghai FamikuがVRに着目した背景には、カラオケや映画館といった従来のアミューズメント施設の陳腐化があったという。体験は有料で、チケットは2時間で150元。これは映画を1本見るのと同じ程度の価格帯だ。このサービス設定がヒットし、現在ではゲームセンター市場のユーザーも取り込めるまでに成長したというのだ。
■中国VR市場の実情を知る
続いて「中国でVRはどの程度普及しているのか」という議題に入る。Karen氏は市場全体を見て「個人の感覚ではこの1年でVRの市場は一気に認知度が高まった」と振り返る。「VRとはなにかを説明する必要がなくなった」のが、特に大きな手応えであると話した。その反面、海賊版が正規のメーカー以上に大きな存在になっていると問題点も指摘する。
George氏は「スタートしたばかりなのでまだまだ赤字」と現状を吐露する。しかし深センにある問屋街では毎月3,000万台のVRデバイスが取り引きされており、未来への希望も感じているという。3,000万台の中でも特に好調なのがカードボードタイプのモデル。使い捨てのモデルが出てくるなど、面白い試みも中国では行われているようだ。
Zeng氏は中国市場の問題点として、ソフト面の弱さを挙げた。ハードもプラットフォームは揃っているものの、それを使いこなすコンテンツが乏しいというのだ。コンテンツでは日本が強いので、中国ではそれらを生かし、ビジネスにつなげていきたいと展望を語った。
かつてAndroidのプラットフォームが確立され、世界基準へと成長していった。そのときスマートフォンの端末ビジネスで中国のプレイヤーが大半を占めることになった。同じことがVR市場でも起こるのか注目が集まるが、Karen氏はそのために「VRがコンシューマ化したデバイスになっていく必要になる」と答える。
Karen氏の言葉はVRが特別な体験ではなく、生活の一部分になっていくことを願ってのものだが、これを実現するには「3年から5年の時間がかかる」とも語った。
Frederick氏は未来に向けて明るい展望を持っており、「VRの技術は成熟し、現在の海外優位の状況が薄れていく」と話す。こちらも数年後の話ではあるが、どの国も同じ技術力を持てるようになれば、中国はもちろん、日本にもVR市場をリードするチャンスはあるとのこと。
田中氏から「中国企業と日本企業はいかに協力していくべきか」という質問が投げられる。Zeng氏は日本企業には中国のブランドより競争力があるとし、「日本企業ならVRでも成功すると思っている」と述べた。また中国はモバイル向けに注力しており、PCなどハイエンド向けのコンテンツに力が入れていない現状があると指摘。
しかしハイエンドコンテンツへの需要も高まっており、これが日本企業成功のカギになる。「コンテンツの面で日本は優位性を持っているので、そのまま持ってきても躍進できる」と話し、自身のトークを締めくくった。
George氏は「日本のコンテンツに見合う、最高のハードウェアを作りたい」と展望を明かすと、「ぜひとも我々のハードウェアを活用していただき、日本市場、中国市場の両方を活性化していきたい」と意気込みを語った。
一方のZeng氏は「日本企業とはすでに協力体制にあり、日本のコンテンツをそのまま流すだけでも十分な人気を獲得できている」とアピール。中国市場はハードの盛り上がりとは裏腹に、コンテンツ面の不足が指摘されている。そのため日本産のコンテンツが渇望されており、Baofeng Mojingはそれを上手く活用しているというのだ。
最後にFrederick氏は「コンテンツはまだまだ少ないので、良い商品を積極的に持ってきてほしい」と会場にいる日本企業のスタッフに訴える。だが、既存のものを持っていくだけでなく、中国的なスタイルにカルチャライズする必要があると持論を展開。どのようなコンテンツが喜ばれるか、「日本の皆さんと協力しながら模索していきたい」という言葉でセッションは幕を閉じた。
(取材・文:ライター ユマ)