【インタビュー】Cygamesのシナリオチームリーダー・佐藤氏に訊く…ソーシャルゲームにおけるシナリオ作り

『神撃のバハムート』『グランブルーファンタジー』、さらに2016年には本格スマホカードバトル『Shadowverse(シャドウバース)』の大ヒットなど、オリジナルタイトルを始め、他社IPの受託開発でもクオリティの高い作品を配信し躍進を続けるCygames。
 
各タイトルにおいては、ゲームシステムはもちろん、シナリオにおいても強くユーザーを惹き付けている。そんな人気作を生み出すCygamesのシナリオチームはどのような体制で運営されているのだろうか。シナリオチーム リーダーである佐藤孝昌氏にインタビューを実施した。
 
 

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■Cygamesのシナリオチームとは?

 

──:まず始めに、Cygamesのシナリオチームは、どのような業務を担当なさっているのでしょうか。
 
テキストの執筆はもちろん、世界観の設定やキャラクターの原案、収録の立ち合いやスクリプトの演出に至るまで、物語を描く上で必要なすべての業務を担当しています。変わったところでは、ラジオの収録立ち合いや、グッズのアイデア出し・監修などを行うこともありますね。
 
――:本当に多岐に渡っているんですね。これらすべてを一人が担当するのでしょうか?
 
チームによって異なりますね。立ち上げたばかりの小さなチームであれば全てを担当することもありますが、大規模なプロジェクトでは分業しているところもあります。適性と本人の希望によってポジションが決まっていきます。
 
──:佐藤さんは現在、どのような業務を担当されているのでしょうか?
 
既存タイトルでは『神撃のバハムート』と『シャドウバース』のシナリオリーダーを担当しています。それ以外には新規タイトルの立ち上げに関わったり、各シナリオリーダーの悩みを聞くなどのマネジメントも並行して行っています。
 
――:プレイヤーとしてもマネージャーとしても動いているわけですね。差し支えなければ佐藤さんの経歴についてもお聞かせください。
 
大学時代から自主制作アニメや映画に関わっておりまして、その縁があって新卒でコンテンツベンチャーに就職しました。そこでは脚本を書かせてもらいつつ、アシスタントプロデューサーとしてアニメや実写映画に関わりました。海外事業も行っている会社でしたので、毎日が刺激的でしたね。その後、大学院を経て編集者となり、翻訳出版やライトノベルを担当しました。
 
──:そこからどういった経緯でCygamesに入社されたのでしょうか?
 

編集という仕事も非常に面白くて手ごたえも感じてはいたのですが、ある日の通勤電車の中で、「本を読んでいる人がいないな」と気づいてしまったんです。じゃあ、代わりに何をやっているのかと言えば、携帯電話でゲームをしていました。それなら自分もやってみようかなと思いまして『神撃のバハムート』をプレイしてみたんです。
 
やってみたら、すごく面白かったんです。王道のファンタジー世界に24時間いつでもどこでもアクセスできる。ビジュアルも綺麗で、戦闘もシンプルだけど「やってる感」がある。「もしかしたらこの媒体が今一番物語を読んでもらえるのではないか」と感じて、ゲーム業界への転職を決意しました。
 
Cygamesに入社してからは、幸運にも『神撃のバハムート』に配属されました。最初に驚いたのは同僚の若さでしたね。しかも、非常に優秀で活気があることに感動しました。


――:佐藤さんは最初からシナリオ担当だったのですか?
 
入社当初、Cygamesにはシナリオチームは存在しなかったので、プランナー配属でしたが、やっていることは今のシナリオチームが行っている業務とほとんど変わりませんでした。具体的には、毎週リリースされるイベントのストーリー原案や、テキストの執筆とか、アートの発注からボイス周りの演出ですね。
 
――:最初はプランナー、ということでしたが、そこからシナリオチームが分かれたということでしょうか。
 
そういうことです。会社の規模が拡大する中で、ライターの組織化が必要となりまして、プランナーセクションからシナリオチームが独立しました。
 
――:当初からリーダーは佐藤さんだったのですか?
 
そうですね。私よりも若くて優秀なライターはたくさんいましたが、私が年長者だったのと、サポート役や他のプロジェクトのヘルプも行っていたことから、推薦を受けました。
 
前職が編集者だったので、そのコネクションを用いて採用の手伝いをしていたのも大きかったかもしれません。

 
 
――:シナリオチームが社内にあるソーシャルゲーム企業は珍しいと思うのですが、社内にチームを持つメリットを教えていただけませんでしょうか。
 
クオリティにこだわれること。これに尽きます。たとえば新規タイトルのチュートリアルなどは、細かい仕様変更を合わせると100回近く書き直しています。これは外注ライターさんとのやりとりでは不可能な回数です。
 
――:でも、ライターさんは大変ではないですか。
 
仰る通り大変です。ライターはもちろん、プロジェクトに関わる全員が「最高のコンテンツを作る会社」という理念を追求していなければこれだけのリテイクには耐えられないと思います。
 
しかしながら、同時にやりがいも感じられますし、成長出来ると思います。これだけのリテイクを許される現場も、今の時代では珍しいので。書き直せばその分時間もコストもかさみますし、各部署への負担もかかってしまうわけですから。

 
──:そこまでのクオリティアップを可能にしている理由を教えてください。
 
経営陣の覚悟だと思います。全員が現場を知る元クリエイターですから、良い物を作るために、どれくらいの時間やコスト、そして能力が必要だという感覚が身に染みて分かっているのです。だからこそ、コストとクオリティを比較する際にもクオリティを優先する判断が出来るのだと思います。また、良いものを作る為ならば周囲が協力を惜しまないという企業風土がクオリティアップを支えてくれていると思います。
 
例えば、『シャドウバース』の対戦画面はCygamesのクオリティに対する姿勢が生んだものだと思います。これは、公式チャンネルで配信されている動画ラジオ『しゃどばすチャンネル』を順番に見ていただくとわかるのですが、第0回、第1回、第2回と回を追うごとに対戦画面がアップデートされているのです。元々はフレーバーテキストしか入っていなかった仕様からボイスが入り、エフェクトが追加され、UIも変化し、テンポも良くなっています。シナリオチームはもちろん、他のセクションと協力して作り上げてきたからこそ、誰が見ても良くなったと感じられる変更になっています。これは、フリーライターでは絶対に体験のできない領域ではないでしょうか。

 

▲しゃどばすチャンネル 第0回


▲しゃどばすチャンネル 第1回


▲しゃどばすチャンネル 第2回

――:ライターにとっても理想の環境のように思います。
 
確かに理想に近い環境です。とはいえ、「やりたいことを言えば何でもやれる」というわけではありません。自分から提案すれば、その分覚悟が試されます。その中身が、熱量でも技術でも、ある種のずる賢さでもいいと思いますが、何か一つは勝ち目がないとプレッシャーに押しつぶされてしまうのではないでしょうか。もちろん、他では挑戦させてもらえないことを挑戦させてくれるだけでもありがたい環境だと思いますので、やりたいことがある人はぜひともCygamesの門をたたいていただければと思います。
 

■多様な人材が集まるチーム

 
──:現在、シナリオチームにはどういった方が在籍しておられるのでしょうか?
 
人材の多様性を維持することを意識しています。男女比率や年代、キャリアのバランスに気を遣って、ベテランとして十何年も業界にいる方もおられますし、Cygamesに来るまではライティングをしたことがなかった新卒社員も在籍しています。ゲーム業界以外には、映像業界に勤めておられた方もいますし、他業種からの転職も珍しくありません。
 
私の考えではあるのですが、多様性を保っていかなければ環境の変化に対応できなくなってしまいます。実際、ソーシャルゲーム業界もライターに求められるスキルが年々変化しています。具体的には、一昔前はテキストの量が少なかったので、コピーライターに近いスキルを求められていました。しかしながら、現在はシナリオのボリュームが増え、ボイスも付いているので、映像演出にも気を遣えなければいけません。この先、VRが主流になれば”触れるはずなのに触れない物”を、テキストでどう表現するかを考えなければいけないでしょう。そういった新しいノウハウを作るためには若い人材が必要だと思っています。そして、若手が成長するには参考になるベテランがいなければなりません。そういった意味でも人材の多様性が重要になります。

 
 
──:経歴やスキルで求めているものはございますか?
 
ゲームが好きな人であれば、誰でもいいと思っています。その熱が高ければ高いほど、Cygamesという場を楽しめるんじゃないかな、と。スキルとしては色々ありますが、一番大切なのは短い時間の中で人の心を掴める力ですね。例えば、10分で笑えるすべらない話を持っている人は強いと思います。ゲームのチュートリアルは3分~5分で「面白い」と思わせる何かを見せなければいけません。そういったスキルや感覚を持っている人が来てくれれば、より面白い組織になるのではないでしょうか。
 
あとは……そうですね。若くて悩んでいる人がいいかもしれないです。「世界を見て帰ってきたけど、日本に居場所がなかった」みたいな(笑)。

 

■Cygames流、シナリオの書き方

 
──:少し、話はズレてしまいますが、佐藤さんは普段、テキストを書くためのインプットとしてはどのようなことをされていますか?
 
ランキング上位の映画やゲームアプリは欠かさずチェックしています。可能であれば、国外のランキングも見ています。それとは別に、自分の好きなものについては徹底的に調べますし、明確なデータを覚えておきます。漫画や小説なら、何巻が何日に発売されて、初版部数が何冊だったかなどですね。これを行っておくことで、今何がメジャーなのか、自分が好きなものがどれくらいメジャーなのかを知ることが出来ます。
 
ライターってそれぞれ趣味があって、書きたいことがあるんです。でも、書きたいものをどうマネタイズしていくかは非常に難しい。そんな時に、好きなものがどれくらいの数字を持っていて、それに近いメジャーなものがどれくらいの数字を持っているのかがわかっていれば、自分の書きたいものを出したい数字で出すことが可能になるからです。
 
もしも時間がない場合には「コンビニに置かれている雑誌を全部買う」のもおすすめです。コンビニに置かれている時点である程度メジャーな雑誌ですから、トレンドチェックも出来ますし、自分が普段触れない分野のメジャーなものに触れる良い機会となります。
 
あとは、徹底して辞書を引くことですね。少しでも違和感をもったら調べる。これだけで基礎的な日本語力が鍛えられます。それと、人に薦められたものは、その人との関係性に関わらず必ず見るようにしています。薦めてもらった人のこともより深く知ることができますし、薦められるということは必ず意味がありますから。
 
その上で、個人的には最近、読めない本を読むことにチャレンジしています。

 
──:”読めない本”とはどういった意味でしょうか?
 
言葉の通り、自分に知識がまったくないものや他言語で書かれている本ですね。自分の知識の幅が広がることが面白いと感じています。それに、読みづらい文章を読むことで、自分の練習にもなるんですよ(笑)。
 
──:ちなみに、佐藤さんが考える文章の読みやすさとはどういったものでしょうか?
 
色々とありますが、書き手が文法を守っているかどうかが一番重要ですね。日本語は簡単に主語を省略できてしまうので、書き手が視点を意識していないとすぐに誤読を招いてしまうんです。
 

──:シナリオを執筆するうえで、ゲームシステムとの兼ね合いで苦労される部分はございますか?
 
大前提として、このシーンでこのキャラクターに、このセリフを言わせなければいけないという、ディレクターやプランナーから要求されるゲーム上の仕様があります。これを守るのはそんなに難しいことではありません。難しいのは、「ユーザー体験として相応しいシナリオになっているか」です。
 
『シャドウバース』を例として挙げますと、カードのレアリティによってユーザー体験が異なるものになる必要があります。レアリティが低くて強いカードと、レアリティが高くて効果が尖ったカードでは、どんなユーザーが使用するのかが異なるわけです。そこで、ボイスをつける際にそれぞれのユーザーにとって耳心地のいい内容とキャスティングになるように気を配っています。

 
──:確かにゲームならではの要素ですね。
 
はい。小説や映像コンテンツとは異なる部分ですね。これらのコンテンツはユーザーの読む順番、聞く順番が決まっていますから。ゲームの場合には、ユーザーはどこから読んでも、どこから聞いても良いわけです。だからこそ、どう読まれるか、どう聞かれるかをより強く意識する必要があると考えています。
 

──:よろしければ成功事例をお聞かせいただきたいのですが。
 
『シャドウバース』の例になりますが、「スノーマン」や「ベルエンジェル」のボイスが話題になったことは、成功事例と言えるかもしれません。『シャドウバース』の世界観はダークファンタジーで、シリアスでかっこいいカードが多い中に、コミカルなカードを混ぜるバランスで作っています。その方がコミカルなカードを見つけた時にユーザーの喜びが増しますから。
 

また、個人的には二年ほど前に『神撃のバハムート』で「魔法少女イベント」と「堕天使オリヴィエのイベント」という両極端のシナリオを続けてリリースした時にも、手ごたえを感じました。前者では普段と異なる客層のユーザーを、後者では以前から遊んでくれているユーザーをそれぞれ盛り上げることが出来たので、『バハムート』というコンテンツの幅広さを見せられたかな、と。
 
──:最後に、シナリオチームの今後の展望や目標をお聞かせください。
 
現在、Cygamesのシナリオチームには50人ほどのライターが在籍しています。今後リリースされるタイトルを含めると、100人以上の規模になるかと思います。ライターが100人集う会社は、明治時代、日本に新聞社が生まれて以来のことです。100年ぶりにこのような組織が生まれれば「21世紀を代表する会社を創る」というサイバーエージェントグループのビジョンにも合致しますし、現代において、ライターの受け皿になる場所としてゲーム業界が手を挙げたいという想いもあります。ライターが定年まで安心して働ける場所を作ることは、社会的にも意味のあることだと思います。
 
そのためにも、2017年はRPGの分野で更なる成功を収めたいと考えています。『神撃のバハムート』も新しいシステムが追加されますし、『グランブルーファンタジー』も3周年を迎えてもっともっと加速していきます。これに加えて新規のタイトルからスーパーヒットを出して、面白い物語を発信し続けたいと考えています。
 
他にも、個人的には小説賞やゲームシナリオのアーカイブなど、文化的な事業にも手を付けていきたいと考えています。
 
最終的にはよぼよぼのおじいさんになっても、ライターとして何かを書いていられればいいかな、と(笑)。

 
――:本日はありがとうございました。
 
 
(取材・構成:編集部 山岡広樹)
(文:ライター 宮居春馬)
 
 
 

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