【セミナー】「優れた企画を活かすのはプログラマー」…レベルファイブのクリエイターが語る“リアル”な開発現場を取材



レベルファイブは、2017年2月に「大学・短大・専門学校生向け“クリエイターを目指す者たちへのカンファレンス” 」を東京・大阪・福岡の3都市にて開催した。
 
カンファレンス当日は「イナズマイレブン」「二ノ国」「妖怪ウォッチ」各シリーズなど人気作品を多数生み出してきた同社のクリエイター陣が、ゲーム業界へ就職を希望している学生に向け、ゲーム制作現場における取り組みを語った。
 
本稿では、2月26日(日)に実施された東京会場の講演から、「オンラインゲームにおけるゲームデザインのコツ」「ゲームの完成度に関わる技術力・プランニング力」を取材。なお、カンファレンスはゲーム業界を志す“大学・短大・専門学校生向け”の講演となった。

 

■ゲームデザインの軸について


「オンラインゲームにおけるゲームデザインのコツ」では、新作モバイルオンラインゲーム『ファンタジーライフ オンライン』を題材に、“プログラマーも知るべきゲームデザイン”について講演。登壇したのは、『ファンタジーライフ オンライン』のディレクターを務める、レベルファイブ プロジェクト推進部 プランニングチーム ディレクターの潮田太一氏(写真左)。
 

はじめに潮田氏は、「オンラインゲームの魅力」について解説した。魅力の大部分を占めるのは、オンラインでの仲間たちとの関わり、つまり「コミュニティ」が中心。スマートフォン向けオンラインRPGにおけるゲームサイクルは、おおまかに「キャラ入手/成長」→「冒険」→「バトル」→「クリア・報酬」→「キャラ入手/成長」…という流れがあるものだが、そのサイクルの中心に位置するのがコミュニティだ。



たとえば、「キャラ入手/成長」では他プレイヤーに“自慢”したい、「冒険」では他プレイヤーと“協力”したい、「バトル」では他プレイヤーと“協力”または“競争”したい、そして「クリア・報酬」でも“自慢”したいという…他プレイヤーとの関わり、つまりコミュニティが最もゲームデザインの“軸”になっているのが分かる。

しかし、これらの魅力があっても、まだまだオンラインゲームを開発するうえでは要素が欠けているという。オンラインゲームには、前述したコミュニティも兼ね備えた「①魅力」に加えて、「②快適さ」+「③長期間設計」という重要なキーワードも必要となってくる。



今回は、まだ未配信の『ファンタジーライフ オンライン』の実機プレイをもとに、「①魅力」と「②快適さ」のふたつについて解説してくれた。

そもそも『ファンタジーライフ オンライン』は、美しく広大な世界「ファンタジール」を舞台に、多彩なライフ(職業)を選んで自由気ままに生活を楽しめるスマートフォン向けのオンラインRPG。12のライフでの冒険&生活はもちろん、仲間と暮らす自分だけの「ビレッジ」作りや、最大4人でのマルチプレイが楽しめるのが特徴だ。2017年4月サービス開始予定。

実機では、潮田氏とアシスタントとして広報・河野氏のふたりでマルチプレイを披露。

本作の世界では、協力して敵を倒すだけではなく、木を切ったり、魚を釣ったりと思い思いのアクションを楽しめる。先ほどの「①魅力」で語ったように、コミュニティ部分として定型文や感情表現、スタンプなどを用いて、他プレイヤーと交流をはかれる要素がきちんと実装されている。当然、協力すれば強い敵を倒せたり、魚釣りも複数だと釣りやすくなったりと、交流することで得られる恩恵をゲーム内で感じ取れるようだ。

なかでも象徴的なのがマルチプレイの接続。じつは『ファンタジーライフ オンライン』では、他プレイヤーが立ち上げたフィールドに途中参加できる。従来のスマホゲームだと、4人揃って「準備OK」で一斉に始めることが多いが、本作では個人ベースで好きなタイミングに他プレイヤーのフィールドに入れるという新しい試みに挑戦している。

この挑戦に開発現場では、プランナーとプログラマーとの積極的な掛け合いが繰り広げられたという。つね日頃、様々な要望や提案がプランナーからあがってきては、それをこなしていくプログラマー。ときに難題な要望もあがってくるが、開発当初に決めたゲームデザインを、チーム内で共有しつつ、コンセプトをぶらさず持ち続けていれば、プログラマーも比較的快く承諾してくれると語った。



また、マルチプレイには「②快適さ」も必要不可欠。こちらも開発初期に直面した問題だが、当初はマルチプレイ時の通信量が非常に多く、遊んでいるとすぐに通信制限になってしまう問題が生じたのだ。

そこで「②快適さ」を考慮して、通信回数を1/2にすると共に、様々な施策を講じることで、通信量を1/10以下に大幅に改善。しかし、ここでさらに問題が発生し、通信回数を1/2にしたことで、キャラクターの動きがカクついてしまったのだ。するとプログラマーは、行動の先読みプログラムを実装して無事解決を果たした。



快適さに関するこれらの事例は、ゲーム開発としては初歩の対応ではあると付け加えていたが、学生からすれば、日頃意識しない開発部分に触れられたのではないだろうか。

潮田氏は、プランナーを志す学生に向けて「何かを解決するためには、様々な困難がある。それらをプログラマーさんと一緒に解決していく」と、開発現場におけるトラブル発生後のアクション、そしてチームプレイの大切さについて語った。

時間の都合上、これにて講演は終了。最後に潮田氏は「ゲームデザインは突き詰めれば、ひとつひとつ細かく分かれていくもの。しかし、大事なのは軸。より良いゲームづくりのために、ゲームデザインも意識してみてください」とエールを送って講演を締めくくった。

 

■「優れた企画を活かすのはプログラマー」


続いての講演は「ゲームの完成度に関わる技術力・プランニング力」。登壇したのは、レベルファイブ 専務取締役/CTO 制作統括1部 ゼネラルマネージャー 赤坂泰洋氏(写真左)と、制作統括1部 開発1部 チーフ 森雄二氏(写真右)のふたり。今回は学生向けということもあり、レベルファイブだからこそできる“プログラマーの多岐に渡る仕事の魅力”について講演してくれた。
 

はじめに、ゲームプログラマーのイメージについて。恐らく開発現場を知らない方であれば、プログラマーと聞くと黙々とPCに向かって作業しているイメージを持つのではないだろうか。しかし、赤坂氏は「ほかの部署とのやり取りが頻繁に発生する」と切り返し、プログラマーがゲームを面白くするための提案、企画力も求められる重要な役割を担っていることを話してくれた。

開発現場におけるプログラマーとは、様々なデータが集まるポジションでもあるという。たとえば、マップ、エフェクト、キャラクター、ゲームデータスクリプトなど、ありとあらゆるデータがプログラマーに集まり、それらをゲーム内で実装していくのだ。言わば、プログラマーをひとつひとつの素材(データ)を調理する料理人ともいえる。



「プログラマーの作業で重要なことは、プランナーやデザイナーなど他のセクションがゲーム制作に集中できる仕組みを作ること」。ゲーム制作は限られた時間のなかで、クオリティの高いコンテンツを生み出さなければならない。

加えてレベルファイブは、アニメやまんが、映画などの複数のメディアと連携する“クロスメディア展開”を意識した取り組みも行っているため、ゲームの発売が遅れると、協力各社との連携が上手く取れなかったり、他の取り組みに影響が生じたりと、納期を守ることは絶対だ(当然それ以外の作品でも)。

そのためプログラマーは、クリエイティブに集中できる環境作りも必要になってくるという。



たとえば、広大な世界を構築するために、デザイナーやプランナーから膨大な要望が出てくる。「たくさんの草木を簡単に配置したい」「城や塔などを置きたい」などなど。そこで赤坂氏らは、デザイナーが簡単に地形を編集できる社内ツールを作成した。つまり、先ほどの「たくさんの草木を簡単に配置したい」という要望も、デザイナーが簡単にブラシでなぞれば、いい塩梅でランダム感のある形に草木が簡単に配置できるようなツールを作ったのだ。



こうした社内ツールの作成もプログラマーが担っており、赤坂氏としては「いかに使いやすいツールにするかは、プログラマーの腕の見せ所」と言葉を添えた。

そのほか、イベントシーンの編集確認作業がスムーズにできる環境も構築。一見ムービーのようなシーンでも、どのタイミングでエフェクトを入れるかなど、リアルタイムで編集ができるという。



実際にこのツールは「妖怪ウォッチ」シリーズでも使用されているほか、別のプロジェクトでも共有されているとのこと。何より、プランナーだけで新しいクエストを組み込めるなど、プログラマーに依頼せずとも他職種でも手軽に使えることが大きい。質の高いコンテンツを迅速に開発できる環境は、ひいてはチーム内の士気の向上にも繋がるようだ。

また、テスト用のステージマップも構築。無機質なステージマップには、様々な建物や地形がライン上に置いてあり、開発者はそこでキャラクターを動かしながら、アクション要素のチューニングを行うことができるという。たとえば、水の上を歩いたらどんな音がするのか、高いところから飛び降りたときの動作は…など、細かいモーションを確認できる。



プランナーは面白い企画を作り、デザイナーはいいデザインデータを作ってくれる。しかし、それを形に出来ないと、結果としていいコンテンツは生まれないため、赤坂氏は「優れた企画を活かすのはプログラマー」と重要なポジションであることを改めて説明した。



このスライドは『妖怪ウォッチバスターズ 赤猫団/白犬隊』に登場するボス・黒鬼の仕様書。じつは、はじめにプランナーからあがってきた仕様書をもとにプログラマーが組んでみたら、執拗にプレイヤーを追いかけまわし、戦略性を感じられない只あまりにも強すぎるボスになってしまったようだ。

そこで赤坂氏は、出来るだけプログラマーが作業することをやめるようにして、プランナーが敵を制御できる仕組み(ツール)を開発。プログラマーは「敵AI制御シート」を作成して、プランナーだけで敵モンスターを制御できるAI制御の仕組みを作成したのだ。一番敵の動きを把握しているのは、企画したプランナー自身のため、シートのおかげで彼らが思い描くような敵のAIを作ることが可能になった。

実際に開発現場では、納得できないものについてはすべていちから作り直す判断をしたという。結果、ひとつひとつのボスをプランナーが思い通りに作ることができ、それぞれいい動きになったと当時を振り返った。



これまで話したものの以外に、レベルファイブには数多くのツール制作や環境整備が整っている。日々プログラマーは、ゲームを作るために集中できる環境作りにも余念がないようだ。

最後にふたりは、レベルファイブにおけるゲームプログラマーについて「ゲームの面白さや成功を左右する重要な役割」「ゲーム作りの醍醐味を味わえる」「企画に関われる機会が様々ある」と3つの特徴を挙げて講演を締めくくった。

(取材・文:Pick UPs! 原孝則<Twitter>)
株式会社レベルファイブ
http://www.level5.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社レベルファイブ
設立
1998年10月
代表者
代表者 日野 晃博
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