GMOアプリクラウドは、6月15日、GMOインターネットグループが運営するコミュニケーションスペース「GMO Yours」にて、「ゲーム開発と技術力」をテーマとしたイベントとして、「現場のエンジニアが語る『Fate/Grand Order』の開発技術からアップデートに関するノウハウまで一挙公開」を開催した。
本イベントでは、ゲーム運営や開発に関わっている方々を対象に、『Fate/Grand Order』の開発をリリース当初から支えるサーバーエンジニアと、ディライトワークスの技術力向上のために、日々課題に取り組んでいるテクニカルディレクターによる「面白いゲームの作り方」や「海外展開に向けた取組み」について技術的側面から講演を行った。
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本稿では、ディライトワークスの甲英明氏が登壇した、第二部「海外展開におけるインフラの取り組みについて」についての内容をレポートしていく。
第二部では、北米版のリリースが決定した『Fate/Grand Order』の開発においてインフラ周りの取り組みについての紹介を行った。
■甲 英明 氏(ディライトワークス株式会社)
これまで社内SEとして、基幹業務、医療系システム、BtoB向けWEBサービス、BtoC向け音楽・書籍コンテンツ配信サービスのインフラ設計~保守、運用など業界問わず携わる。2017年にディライトワークス株式会社でインフラエンジニアとして入社。現在は海外向けコンテンツのインフラ周りの担当として、海外向けサービスの動向などに注視している
■ユーザーが楽しめるゲームを作るためのインフラ運用設計について
まず甲氏は、ゲームについて考えてみましょうと切り出した。人がゲームに求めているものは、当然ながら人によってそれぞれ異なる。時にそれは、「達成感」「解放感」「爽快感」「連帯感」といった形で表れされる。
では、ユーザーが楽しめるゲームとは? それを甲氏は「プレイしてくださる方々の感情を揺さぶるものである」と続けた。さらに、ユーザーが楽しめるゲームを提供し続けるにはプレイしている人々を飽きさせないことが必要で、そのためには新たな楽しみや快適に遊べる環境を提供しなければならないという。
これに対し、インフラとしての視点からどう対応するか、というのが今回のテーマとなっている。
甲氏は、ユーザーが快適に遊べる環境を提供するには、SLO(サービスレベル目標)を意識し、明確な目標を設定する必要があると述べた。それは、インフラのみで実現できるものではなく、クライアントやサーバ側での工程も巻き込んで、それぞれに何を必要としているかを理解して歩み寄り設計しなければならないとのことだ。
ここで甲氏はインフラ基盤の設計指標については、RAISISにあてはめて考えると自ずと何を目標とすれば良いかが見えてくると述べ、それぞれの要件例を紹介した。
▲RAISISとは「信頼性」「可用性」「保守性」「保全性・完全性」「機密性」の略語である。
【信頼性】
【可用性】
【保守性】
【保全性・完全性】
【機密性】
こういったインフラ要件を満たす環境を自分たちで用意しようとすると、膨大な時間とコストが掛かってしまう。そこで、理想に近いものを誰でも容易に利用できるサービスが「クラウド」であると説明した。また現状、クラウドの中ではAWSが有利であるとし、その理由として下記のような要項などが基準として挙げられると付け加えた。
●総合的にAWSが優位である理由
・PaaSとして利用できるサービスが非常に多い
・機能追加などのリリースが早い
・豊富な導入実績がある
・ユーザーが多く、ノウハウが多数公開されている
▲海外にも対応可能な大規模トラフィックにも耐えうるインフラ基盤を提供しているクラウドの一例を紹介。
ここで、『Fate/Grand Order』の事例から、インフラに関する過去を振り返った。
▲『Fate/Grand Order』では、過去にAzureやAkamaiといったクラウドを利用していたが、上記の理由からAWSへ移行したと経緯を説明した。
▲さらに、AWS移行後のインフラ構成についても紹介。
さらにここからは、AWS利用を前提としたインフラ運用設計についての話を展開。インフラ運用設計に必要となる項目から、各々の解説を行った。
▲こちらはインフラの運用設計に必要なもの。
【システム性能】
【システム可用性】
【データ管理】
【運用・サポート体制】
【セキュリティ】
現在の取り組みについては、「海外展開の検討」「Warmup運用」「ログ運用の改善」などを行っているという。
●海外展開の検討について
▲海外展開を行うためのインフラ要件を検討していく。
▲海外展開を行うにあたってのインフラ基盤の課題点を挙げた。最も問題となるレイテンシについては、上記の方法で自ら検証を行っているとのこと。
▲HTTP通信による各地域からのリクエストの平均応答時間を計測した結果がこちら。
甲氏は検証結果から、CloudFrontを導入することで、単一拠点展開でも十分に運用可能なレイテンシの検証結果が現れたと結果を報告した。また、この単一拠点アーキテクチャ採用に伴い、運用・管理コストを大幅に抑えることができ、今後の海外展開におけるスタンダードなアーキテクチャとして採用できるという(※各地域のメンテナンス計画および単一拠点障害などのリスクマネジメントを事前に行っておく必要がある)。
●Warmup運用について
また、Warmup運用についての説明を行い、その流れを下記の通りに紹介した。
運用の結果、本番環境のデプロイ実施前の最後の砦として、サーバー・インフラ側の以上を見逃さず、これまで何度か障害を未然に防ぐことができたと紹介した。
●ログ運用の改善の取り組みについて
ログ運用については、まずログ収集対象を紹介。
主なログとしては「IISログ」「アプリケーションログ」「KPIログ」を取得しており、これは障害時の調査やKPIおよびCS対応に利用しているとのこと。
▲既存の構成では、「ログ転送フローが複雑」「監査ログ運用が不十分」「構成にSPOFが存在」「障害時のログ再送対応に時間が掛かる」「調査ログの可視化対応」といった課題を抱えているという。
これらの課題に対し、改善活動として下記のような取り組みを行っている。
最後に甲氏は、本講演のまとめとして、特別なことをするより、当たり前のことを突き詰め徹底し継続することの方が難しい。しかし、インフラはサービスの根幹であり、避けては通れない、基本をしっかり踏襲しやり抜くことが大切だとして講演の締めとした。
(取材・文 編集部:山岡広樹)
会社情報
- 会社名
- ディライトワークス株式会社
- 設立
- 2014年1月
- 代表者
- 代表取締役 庄司 顕仁