アプリボットは、9月1日開催の「CEDEC2017」にて、「ダカイせよ!大型アップデートによる、売れないゲームの再生術」と題したセッションを実施。
今回は、アプリボットの黒岩忠嗣氏(プロデュースDiv/取締役)、佐藤裕哉氏(プロデュースDiv/ゼネラルマネージャー)、前田貴文氏(プロデュースDiv/プロデューサー)が、大型アップデートで同社タイトルを再生させたその手法について解説した、同セッションの模様をお届けする。
まず、本セッション開催のキッカケについて、「最近、リリース半年程度で運営が終了するサービスが多い」と感じたと黒岩氏。
▲黒岩忠嗣氏。
同社のアプリでも、『ジョーカー~ギャングロード~』(以下、ジョーカー)と『グリモア~私立グリモワール魔法学園~』(以下、グリモア)は、「リリース直後の売り上げが決して良くなかった」(黒岩氏)そうで、サービスを終了させないために“ダカイ”を行ったという。
今回のテーマになっている“ダカイ”だが、“リリース後の大規模な追加開発”、“メインループや基本コンセプトから見直す”、“短い期間(3ヶ月程度)で作りきる”ことを指す。
結果として、『ジョーカー』と『グリモア』は、どちらもダカイが成功。この成果は「恐らく市場的に稀有なのでは」(黒岩氏)ということで、そのダカイ事例をセッションで発表しようと思ったというわけだ。
■『ジョーカー~ギャングロード~』ダカイ事例
『ジョーカー』のダカイ事例について説明を行ったのは、2014年から担当プロデューサーとして本作に関わる前田氏。
▲前田貴文氏。
まず、リリース時の『ジョーカー』について、「当時はギルドバトルが主流だった」と前田氏。資産(カードを集める)、定常機能(抗争=ギルドバトル)、イベント(抗争イベント)という要素を用意。逆に、世界観については、「ゲーム性を優先させるため不良の世界観を弱めた」(前田氏)とした。しかし、優先させたゲーム性は、不良好きなユーザーには難しかったようで、結果としてユーザーが楽しめるコンテンツが不足。CPIや継続率が悪かったため、DAUが増えなかったという。
そこでダカイを決断した前田氏。まず行ったのが、“だれをバスに乗せるか”を決めることだった。
前田氏によれば、アプリボットは「何を作るかよりも、誰と作るかを重要視している」(前田氏)そう。まず、前作『不良道~ギャングロード~』のチームメンバーと面談をし、「スキルではなく、ダカイを最後までやり切れる人を重視した」と、人材選びを行った。そこからチームを作り、「新王道不良コンテンツ」というゲームの機能を決めるコアコンセプトやターゲット、“ストーリー(没入感)”や“No.1(個人の脚光)”など大事にするキーワードを決めた。
それら決定事項をベースに機能を考え、クエストをリスト型ではなくマップ型にすることで町をぶらつく感じを表現したり、プレイヤー個人にスポットを当てるアバター機能やタイマン機能の追加、そしてゲーム内で漫画「ジョーカーZERO」の連載を開始するといったダカイを行った。
上記のような大規模なアップデートを、3ヶ月という短期間で実行するため、前田氏はどのような方法をとったのか? その方法が「権限と責任をもつ“ユニット制”の採用」だ。
ユニット制は、チーム内の各機能を担当するユニットにそれぞれ権限を与え、プロデューサーや開発ディレクターはそのフォローアップに回るという仕組み。「基本的に全部の機能を開発ディレクターがやるのもいいのですが、全てを見切れない」(前田氏)ため、ユニット制が採用されたとのこと。
そのほか、ターゲットをぶらさずに作る重要性として、『ジョーカー』のターゲットに近い層である、アプリボットの竹田彰吾氏(取締役CCO)の存在が大きかったことに触れ、「開発で迷ったら、彼にプレイしてもらうこと」(前田氏)で、ターゲットがぶれずにいい方向に進むことができたそうだ。
▲『ジョーカー』チームは、深夜にファミレスに行き、全員が本音をぶつけてゲームについて話し合ったという。
「結局、大事なのは本音で話すこと」と前田氏。短期間でダカイを成功させるチームを作る上で、本音でぶつかることの重要性を語った。
これらの手法でダカイを行った『ジョーカー』。前田氏はダカイ後のゲームループを見ながら、「もうひとつゲームを作るくらいの大胆なダカイになった。元々遊んでいたい人が戻って来てくれたり、漫画から入って来てくれた人もいて、軌道に乗ることができました」と振り返った。
■『グリモア~私立グリモワール魔法学園~』ダカイ事例
続いて登壇した佐藤氏は、2013年より『グリモア』のプロデューサーとして、立ち上げから運用まで従事している。
▲佐藤裕哉氏。
本作は、リリース初日でTOPセールス142位と、「これは予感がする!」と思った佐藤氏。しかし佐藤氏は、その後「初速好調も…忍び寄る影」があったという。初速好調ということで、しっかりと広告費をかけたが、全然DAUが増えず、売上も伸びなかった。
そこで、『グリモア』もダカイを決断することに。ダカイにおいて一番大切な事について佐藤氏は、原因分析や体制、経営陣を唸らせる事業戦略、気合いなどのワードを挙げた。それも確かに大切だが、最も重要なのはなのはそこではないという。ダカイが決まった役員会での、「お客様は『グリモア』をめちゃくちゃ愛してくれている。運営メンバーも本当に熱量をもって『グリモア』に向き合っている。これだったら、絶対にやれると思う」という黒岩氏の言葉を引き合いに、「現状のKPIや経営状況など、様々な要因がありますが、最終的に決めてになるのは3つの熱量(お客様、運営メンバー、ダカイ責任者)」と、熱量の重要性を強調した。
ダカイを行うにあたって、まずは体制とゲームの課題という2つの要因を明確にすることから始めた佐藤氏。
体制面では、数字が悪いということで分析している時に不具合が起きるとその対応に追われてしまい、並行してダカイを行う実力が「当時の僕にはなかった」(佐藤氏) そこで、自身は運用責任者になり、黒岩氏に開発責任者になってもらう、バディ(連携)という、アプリボットの概念と言えるシステムを採用した。「バディは、同じ視点で背中を預けて戦える人のこと。『グリモア』に対して、プロデューサーと同じ目線、熱量を持っていることが大事です。バディは職種は問わないので、デザイナーでもエンジニアでもいい」(佐藤氏)とのこと。
次にゲームの課題について、佐藤氏は「簡潔に言うとLTVが課題だった」とした。
“カード需要を作る×長く遊んでもらう”という二つの要素に対し、カードの重要性を作る、カードを使って遊べるイベントを作る、長く遊んでもらうための工夫をし、“体験を変える”ことを目指した。キャラ同士の関係性が戦闘に影響し、組み合わせを楽しめる仕様にすることで、カード集めの重要性を作り、サークルを作って仲間同士で戦うイベント(ゲーム内で1番カードが必要で楽しいイベント)を開発、そして長く遊んでもらうために、親愛度(女の子と仲良くなると63人全員とチャットできる)という機能を追加。これにより、“可愛いから欲しい”だけだった『グリモア』において、“楽しいから欲しい”、“使えるから欲しい”という体験変化がもたらされた。
佐藤氏は、「ただ解決案を入れれば良いのではなく、お客様が【楽しい】と思える付加価値が必要です。そうでなければ体験が変わらないし、体験が変わらなければ絶対にゲームのダカイは不可能です」と、先に紹介した熱量とバディに加え、体験変化がダカイにおいて必要不可欠なものだとした。
▲『グリモア』のダカイは3回に分けて行われ、成果を残した。
■ダカイ最大の成功要因とは?
前田氏、佐藤氏から、両タイトルのダカイ事例が紹介された後、再び黒岩氏が登壇。『ジョーカー』、『グリモア』のダカイの結果を改めて公開した。今回のダカイ、両タイトルとも20名、3ヶ月でダカイを行っており、『ジョーカー』は1回で、『グリモア』は3回と段階的にダカイを行い、売上・DAUともに「結果は成功だった」と黒岩氏。
そして、2タイトルのダカイで共通して大切だったこと。
チームについては、ビジョンを共有し、全員の共通言語をつくる。そしてメンバー全員がそれぞれプロジェクトにおいて“権限”と“責任”を持つ。その結果、全員が同じ熱量で突っ走ること。また、お客様(ユーザー)については、データ分析でユーザーの課題を見つけ、ただデータを見るだけではなく、リアルイベントやSNSなど、ターゲットになりそうな人がいるところに行って真のターゲットをより明確にする。そして課題の解決策をターゲットに合う形で提供すること。
それらのことを踏まえ、最後に黒岩氏は、「誰と一緒に、誰のためにゲームを作るか。そのことについてとことん向き合ったことが、最大の成功要因でした」とまとめた。
会社情報
- 会社名
- 株式会社アプリボット
- 設立
- 2010年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 浮田 光樹
- 決算期
- 9月