ファリアーは、2月24日、北海道の学生に向けた勉強会“駿馬 SAPPORO KAIKOU「邂逅」”を、札幌市内で開催した。”駿馬”は、当媒体で「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 」(関連記事)を連載している、ファリアーの馬場保仁氏が、学生向けのゲームクリエイター育成を目的に毎月主催している勉強会。
この日のイベントは、昨年9月に名古屋で開催された“駿馬 NAGOYA KAIKOU「邂逅」”(関連記事)同様、「講義+演習」という“駿馬”の特徴と、HEAT(ゲーム業界合同就職イベント)の要素を融合させたものとなり、企業4社(ツェナワークス、ディー・エヌ・エー、ディライトワークス、ハ・ン・ド)も参加して「企業説明会」「トークセッション」「個別指導」といったプログラムも行われた。
従来の説明会とは異なり、「講義+演習」を通じて、参加企業に自身をアピールできるチャンスでもあり、プロの現場でゲーム制作に携わる参加企業の関係者の意見を聞くことのできる絶好の機会を逃すまいと、函館から4時間かけて足を運んだ学生や、専門学校の講師が手配した車で登別から参加した学生など、道内でゲームクリエイターを目指す若者たちが70人以上集まった。
集まった学生を前に本イベントの概要を説明した馬場氏は、「企業と接することはもちろん大事だけど、こうして同じ志を持った同世代どうしの集まりも大事。今日は同じグループの人と友達になって帰ってほしい」と、学生同士が交流を持ち、切磋琢磨していくことが成長に繋がると語った。
成長という点で、「僕らの世代は、ゲーム自体が成長していく過程の中で、ゲーム遊んでいただけで自らも成長できた。でも、いまの学生たちはゲームが成長して何でもある中から学んでいくから、そこは難しいところ」と馬場氏。ただ、「無料で色々なゲームをプレイできる。ダウンロードして触ってみて、そのゲームの仕組みだけわかったらやめることもできる」ところを現代の学生たちの有利な点だとし、「たくさんの作品に触らなければいけないし、その中から何が良いかを選択していくことが大事。自分1人で探すのは大変だから、そういうときに信頼できる仲間と情報交換して、効率よく色々なことを吸収して欲しい」と、学生同士が繋がることの大切さを述べた。また、「自分の好きなゲームだけをやっていてもダメ。いろんなゲームの仕組みを知らないといけない。極論、自分があまり得意、好きではないジャンルのゲームを意図的に、定期的にプレイするような習慣が必要かもしれない」とも警鐘をならした。
もちろん、企業のインターンなどで大人と接することも重要であると馬場氏。「企業のインターンに積極的に足を運んで、学校の先生以外の大人と接することも経験になる。そうすれば面接など本番で緊張しなくなる」と語り、今回のイベントに参加している企業関係者に自分たちのワークショップを見てもらえることは学生にとって貴重な機会であり、加えて企業側にとっても学生たちのポテンシャルを直接見ることができるメリットがあると説明した。
◼︎チーム制作の【足元から支える】グループでの企画発想講座
まず1時間半ほどの時間をかけて講義+演習の時間が設けられ、「チーム制作の【足元から支える】グループでの企画発想講座」が行われた。
誰もがゲーム・エンタメを作ったことがあるわけではないが、即戦力を求める企業が学生の開発経験を重視することもある。ただ、「今はゲームを作りやすい環境、時代である」と言う馬場氏は、自分の作品をとにかく作ってみる、作り切る、そして他人に評価してもらい、振り返って修正することが大事なことだと強調。それを実行していれば「就職のときに苦労しない。作品を作った経験の中での苦労などを面接で話せるから」(馬場)説得力があるというわけだ。
この日のテーマである”グループでの企画発想”について、「チーム制作において絶対に必要なのはイメージの共有」と馬場氏は言う。企画をまとめる際に、チームに伝わるものを作らなければならない。そのために、写真やイラスト(絵が苦手でも棒人間レベルの絵でもいいので描く)を用いたビジュアルや、既存のものを一部使うのが効果的とのこと。「孫悟空のイラストを見せれば、手にしている棒=”如意棒”は伸びるもの、と説明しなくても伝わる」と、ビジュアルや既存のものを駆使してイメージを共有することを学生たちに伝えた。
演習では、各テーブルごとに座っている学生たちがひとつのチームとなり、ゲーム企画のコンセプトメイクをチーム制作の中で行われた。今回用いられたのは、中村隆之氏が考案するEMS Framework=手段と目的を明示し、“動詞からゲームのアイデアを生み出す方法”。馬場氏は、まず練習として、”たたむ”というキーワードを使って「■■を●●(手段・動詞)にして▲▲を××(目的・動詞)をするゲーム」といった具合のアイデアを、10分間でひとり15個出すよう学生たちに指示を出した。
▲真剣な表情でアイデアを考える学生。そんな彼らの作業を参加企業の関係者が見守る。
学生たちのテーブルを回りながら、馬場氏は「簡単ではないから15個も出ない人もいると思うけど、出せるだけ出そう。この段階で1つ1つのアイデアの断片が面白い必要はないから、とにかく量だすことだよ!」と檄を飛ばす。そして10分後、挙手により2名の学生が考えたアイデアの中から自信のあるものを1つ発表。
21個考えたという1人目の学生は「リングを束ねてバネにたたみ込む」というアイデア。そして2人目の学生は「紙をたたんで建物を建設する」というもの。これらアイデアに対し、馬場氏が「この組み合わせで皆におもしろいと思ってもらえるかどうか」、「紙を折るとたたむとの違いは?」などの質問を学生にぶつけていった。
▲10分後、考えたアイデアの中から自信作を発表した2名の学生。
練習が終わると、本番へ。そのキーワードは、日本ゲーム大賞 アマチュア部門の今年のテーマにもなっている”うつす”。今度は本番ということで15分間の中で”うつす”をテーマに、学生たちがアイデアを出していった。
そして15分が経過すると、各自アイデアを書いた紙を右隣の人に回し、他人のアイデアの中からおもしろいと思ったものを1個選択。別紙に、ゲーム概要や、どんなことがしたいと思ったか? 何ができると思ったか? それをしたらどんな気持ちになるか?というものを文字にし、さらに何かイメージできる絵などを書くという作業へ。これにより、個人で考えると凝り固まってしまうアイデアを、違う人に渡すことで自分にはない引き出しでアイデアが広がり、ゲームのイメージが広がるというチーム制作ならではのメリットが生まれるのだ。
その後、各自完成させたシートを、グループ内で見せあって、どの企画が一番面白いのかグループ代表を決め、数チームがステージ前で発表することとなった。
最初のグループが考えた企画は、「人を写真に写して写した人達を戦わせるゲーム」。主人公のカメラマンが撮った写真から好きなキャラを召喚して戦わせる対戦格闘ゲームで、敵も主人公からカメラに撮られないように攻撃してくるとのこと。これにより、敵を倒すとうれしい、負けると悔しいという気持ちをイメージしたそうだ。
もうひとつのグループが発表した企画は、「寺生まれの主人公が鏡に写して霊を倒すホラーアクションゲーム」。和製ホラーの世界観で、VRとOculusを利用して、Oculusコントローラーを鏡に見立て、鏡に霊の姿を映して倒していくという。
今回は時間の都合で上記2グループのみの発表となったが、どちらの企画に対しても、馬場氏やプレゼンを聞いた企業から、純粋な質問とアドバイスが贈られた。
講義+演習を終え、「自分で考えたものはどうしても肯定的になるので、今回は、他人の考えたアイデアの断片からイメージを膨らませることをやってみました。自分で考えたものは自分の中で解った気になってしまい、人から質問されると説明できないし、そうすると相手もイメージできなくて伝わらない」と馬場氏。「他人の考えたものからイメージをわかせる。字面で全て考えるのではなく、絵に起こすことでイメージを整理し、どうやったらおもしろさが伝わるのかを全力で考えてください」と学生たちにアドバイスした。
また、チーム制作においては、会話のキャッチボールが重要とし、「今回は、あえてアイデアを広げる時に互いの会話や質問を禁止しましたが、他人のアイデアは解らないことわからないことだらけなので質問が出てくるので、相手の質問、意見を受け止めることも大事」と付け加えた。
◼︎参加企業4社によるブース説明会と代表トーク
講義+演習後は、今回参加した企業4社による、全体プレゼン(会社概要の紹介)が行われ、ツェナワークスの笹平大介氏、ディー・エヌ・エー(DeNA)の中川泰斗氏、ディライトワークスの大森修史氏、ハ・ン・ドの橋弥政利氏が、それぞれ自社で手掛ける作品などを学生たちに紹介した。
全体プレゼンが終わると、会場内に設置された各社のブースで説明会が行われた。こちらは1ターム15分(全4ターム)となり、学生たちは1タームごとに1社ずつブースを見て回れる形となった。
▲ツェナワークスブース。
▲DeNAブース。
▲ディライトワークスブース。
▲ハ・ン・ドブース。
ブース説明会が終わると、最後は企業代表トークが行われた。馬場氏を進行役に、ツェナワークスの笹平大介氏、DeNAの中川泰斗氏、ディライトワークスの浅沼拓志氏、ハ・ン・ドの橋弥政利氏がテーマに沿って、学生たちが気になるアレコレを語り合った。
まずは、本イベントの舞台となった札幌と、参加した学生たちの印象についてトークを展開。「ブース説明会で皆さんとお話して、コンシューマ希望の方が多かった」と語り始めたのは笹平氏。同社は昨年9月に名古屋で開催された同イベントにも参加しており、その時の学生たちは「ソーシャルゲーム希望が多かったので、札幌の学生さんはまた違った熱さ」と率直な印象を述べた。加えて、参加者の8割がエンジニア志望であることにも触れ、「昨今、何となくプランナーを志望する人が多い中、エンジニアをやりたいと思っている人が多い」と、その部分にも熱さを感じたそうだ。
それを聞いて、モバイルゲームを主力事業とするDeNAの中川氏は「(コンシューマ希望が多いことに)逆にやりがいがあります。家庭用もスマホも、ゲームという括りとしては一緒なので、ゲームとして”おもしろいもの”をお客さんに届けたいという気持ちがあれば」とコメント。そして学生たちの印象については、「東京や大阪の学生たちは前に出てくるタイプが多いけど、札幌の学生さんは引っ込み思案というイメージがありました。ただ、実際にブースで話をしてみて、良い意味でイメージが壊れました」と札幌の学生たちの積極的な姿に感動した様子だった。
「今日参加した企業で、弊社が一番アウェイかなと思っていた」とは浅沼氏。コンシューマ希望が多いという、先の笹平氏の言葉を引き合いに、「弊社の名前はあまり知られていないかもしれないし、現状スマートフォン向けのゲームがメインの会社ということで、あまり興味を持っていただけないかなと思っていた」そうだが、「その中でどうやって存在感を出せるかと考えていましたが、皆さんは一企業としてみてくれていました」とコメントした。また、ブース説明会で学生たちと話をする中で、「皆さんが、どうやっておもしろいゲームを作ろうかと悩んでいましたので、それを解決するための力になりたい」と感じたそうだ。また、エンジニア志望が多いことについては良いこととし、「最終的にユーザーの皆さんの目に触れるものを作ることが大事。他者に評価してもらってこそ意味が生まれるので、そこを目標にやりきってほしいです」とエールを送った。
札幌に本社を構えるハ・ン・ドの橋弥氏は、「ワークショップに参加するという時点で学生さんにとってはハードルが高いことだと思う中、これだけの人数が集まったというところは熱意があるな感じました」と学生たちを評価。橋弥氏自身、札幌で企業説明会に参加する機会があるが、「やる気のある学生さんは東京に行きたい人が多い」そうで、「新しい場所でチャレンジしたい気持ちは素晴らしいですが、札幌の企業としてはちょっと悲しいので、我々も北海道を盛り上げていきたい」と語った。
それについて馬場氏は、「家庭用がいいとか、東京がいいとか言わず、まずは選択肢を広げてたくさんの企業に挑戦して、いくつか内定を取ってからそういう選択をしてほしいですね」とコメントした。
続いては、学生たちも気になる”どんな人がほしい?”というテーマ。
笹平氏は、ゲーム好きという基本的なベースがありつつ、「その上でゲーム作りに対して熱意のある人、ゲームを作るのが好きな人」と回答。作り手としてユーザーを驚かせるのはもちろん、「チーム内のメンバーを驚かせてくれて、結果的にユーザーも驚かせる人と一緒にやっていきたい」とコメントした。
「情熱がないと何も始まらない」と、熱意という点で同意見だった中川氏。加えて「状況を楽しめることも大事。ゲーム開発は楽しいだけじゃなくぶつかり合いもあるので、その中で苦しい状況をポジティブにとらえることが、本人の幸せにとっても重要になってくる」という。そしてDeNAという会社で考えたとき、「自分の頭で考え、自分の行動で示してくれる人を評価している」という。上の指示にそのまま従うより、「自分はこれがおもしろい、というものを持ちそれを説明できる」ことだったり、「やり抜く、やり切ること。何事もまず着手することは大事ですが、いくら企画がすばらしくても実装されなければ世の中的に何の価値もない」と中川氏は、辛いと思ってもやり切るハートを持っていることが大切と語った。
浅沼氏は、「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。」というディライトワークスの開発理念を口にすると、「これは色々な考え方がありますが、“人生の1本”を作りたいと考えている人に集まってほしい」と学生たちに伝えた。“人生の1本”と言うのは、「あなたの“人生の1本”でもあり、そのゲームをプレイした方の“人生の1本”という意味にもなる」とのことで、そういうものを作りたいと思っている人に来てもらいたいと話した。その中で浅沼氏は、「ゲームをプレイしてくださる方の目に、いまの自分をいかにさらけ出しているか。それを徹底的にやっている人に来てほしい」とも。その理由として、「僕らの時代はゲームを作り、誰かにプレイしてもらうということは難しかった。ところが、今は、例えばシナリオでもユーザーさんに見てもらうことも簡単にできる。そこをくぐり抜けてきた人に、ぜひ門を叩いてほしいし、その先にある技術や環境などは我々で用意します」と話した。
「重要視しているのは、入社していただいた後、どういった形で成長していただけるかのビジョンが見える方です」と、どういう人を採用したいのかを明かした橋弥氏。学生生活の2年間、自分がどれだけがんばってきたのか、それを示すことで、入社後にその人がどれだけ成長できるのかが見えてくるという。「自分の中で、最新の自信作をアウトプットして見せてほしいし、入学当初はこれだけしかできなかったが、最終的にこれだけ成長したという証を見せてくれたら、この人にはこういう可能性があるというのがわかります」と橋弥氏。そしてこの日のワークショップを見て思ったこととして、「ワークショップの時の皆さんが普段の姿だと思いますが、面接は特殊なのでいつも通りにはいかないと思う。だからその分、自分が作ってきた作品を物量として見せていただけるといいと思います」とアドバイスした。
最後のテーマは、”若手から活躍できるか?”という入社3年目以下での具体的な社内での事例について語られた。
中川氏は「『逆転オセロニア』の運用ディレクターは、新卒2年目からディレクターをやっているので、実際に活躍できると思います。上が詰まっているからやらせてもらえない、ということはありません」という。どういうメンバーが活躍しているのかについても触れ、「技術うんぬんよりも、楽しんでいる人が活躍している。そこはマインドの部分で変えることは難しいと思うが、若手からリードプランナーになることもある」とし、「みんな苦しい時期はありますが、その中で楽しめることと両立できている人が伸びている。もちろん、入社当初の技術の差は個々にありますが、それも3年くらい経てば差はなくなります」と説明した。
浅沼氏は、「25歳以下の方もとても活躍しています。どうやって彼らに活躍してもらえるか? と考えるのが僕らの仕事だと思っています」との考えを示した。また、「この世界で一生働いていきたい、という気持ちのある人を採用すると、実際活躍することがある」そうだ。また、「メンター制度や、単純に1年くらいでゲームを出すことができるような機会を用意するなど、成長の場を設けたい」と今後の方針についても語った。
3年というのは、人の成長を見るにはちょうど良い期間と橋弥氏は考えているようだ。「その人が入社してからどういうことをやってきて、その中での適性や今後どうするのかも見えてくる」とのことで、ハ・ン・ドでは最初の1年は、いくつかのプロジェクトを渡り歩くという。そこから3年経ったとき、「その人がパラメーターに強いとか、レベルデザインに特化してやりたいのかなというものがわかってくる」と橋弥氏は、「3年という期間は、当社にとっても、入社される方にとっても、それ以降の仕事が決まってくると思うので、気にしてほしい」と続けた。
笹平氏は「本人がいかに成長したいのかは、本人次第です」という。「伸びたいと思っている子は伸ばすし、逆に落ち着きたいという子は徹底的に落ち着かせる」という方針があるとし、「特に3年という期間でどうこうということはありません。何年目とかは気にせずに、早いうちからやりたいことを自分の中で見つけて、それをこちらに教えてもらえれば、そこに向けていっしょにやっていきます」という取り組みがあることを説明した。
参加企業の代表トークの最後には、馬場氏から閉会宣言。「学生の皆さん。今日の良き出逢い、邂逅のチャンスを今後に活かして、ものにしてください! また、企業の皆さんも良い学生さんがいたらよろしくお願いします」と締めの挨拶をし、「札幌から、全国、世界へ羽ばたくクリエイターになってください!」と学生たちに改めて檄を飛ばした。
▲イベントに参加した全員で記念撮影!
▲最後に会場内の各社ブースでは、学生たちの作品に対する個別指導の時間も設けられた。プロに作品を見てもらう絶好のチャンスということで、多くの学生がブースに列を作っていた。
(取材・文 編集部:稲葉智秋)
会社情報
- 会社名
- 株式会社ファリアー
- 設立
- 2016年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 馬場 保仁