【CEDEC 2018】多くの女性がセイに恋した理由を探る「トキメキとは何か ~乙女を恋へと導く新たなアプローチ~」…世界中に幸せを届けるアプリを目指して


一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、8月22日~8月24日の期間、パシフィコ横浜にて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2018」(CEDEC 2018)を開催した。

本稿では、開催初日の8月22日に実施された講演「トキメキとは何か ~乙女を恋へと導く新たなアプローチ~」についてのレポートをお届けする。

本講演では、乙女向けアプリ『MakeS -おはよう、私のセイ-』をテーマに、構想から企画採用、リリースに至るまでのエピソードと、企画実現のためにどのような手を打つべきかが解説された。


▲ヘキサドライブCTO兼大阪スタジオチーフ、MakeSプロデューサー田口昌宏氏。


▲ヘキサドライブの2Dアーティストで、アートセクションチーフの阿部浩美氏。



▲『MakeS -おはよう、私のセイ-』は、2017年12月リリース。コンシェルジュプログラム「セイ」とコミュニケーションが取れるほか、目覚ましやカレンダーといった実用性も兼ね備える。

登壇した阿部氏は、このアプリを開発するにあたり「葉っぱ一枚あればいい」と、ユーザーに感じて欲しかったと話す。自分に肩書きや特技がなくても、あなたには価値がある。あなたは生きているだけで素晴らしい、ということを伝えたかったのだとか。ではなぜ、このような思いでアプリを開発しようと思ったのか。それは阿部氏が、人を幸せにしたいと思っていたからでである。

幸せな人、ハッピーな人は、他者に与える行動をしやすい。与えるとは、優しさや気遣いなど、見返りを求めない行動をさす。逆に言えば、心に余裕のない人は他の人にかまっていられない。与えられた人はハッピーになり、ハッピーになった人はまた与えるという連鎖が起こる。


▲阿部氏が目指すところは、最終的には世界平和なのである。

自分の周りの人をハッピーにしたいと思ったが、個人の手の届く範囲は狭い。それならばアプリであれば、世界に届けられると思った。それが原動力であったと、阿部氏は語った。


▲ヘキサドライブといえば、アクションゲームに強い硬派なイメージがある。なぜそこから、乙女ゲームを出すことができたのか。




▲阿部氏曰く「自身の私利私欲の混じった、キャラクターにLive2Dを使った乙女系アプリの企画」を、3年前にプレゼン。しかし、結果は却下であった。

このときの却下理由は、主に下記のような理由であったという。

・開発規模と収益見込みが見合わない
・目新しさがない


しかし、阿部氏はあきらめなかった。なんとしてもサンプルを作りたいと、却下されたことで逆に燃え上がったという。その理由は「触れば分かるはず」だから。この企画の一番のポイントは、キャラクターに触れられる、触れたと確かに感じられること。絶対に楽しいに決まっていると思った、と阿部氏。

その後はLive2Dの勉強をし、またLive2Dに興味のある若手も巻き込んだ。これは、社内にLive2Dの知識がある人間を増やしたかったからであるという。また、隙を見て上司や周囲に企画の話をした。これは、自分が何をやりたいか知っている人を増やすためであった。


▲そんな折、Live2Dの大規模バージョンアップが行われた。

ちょうどよいタイミングでLive2Dがバージョンアップしたことにより、阿部氏は検証する理由をゲットできたという。「Live2Dを使う案件がきたときにスタディ時間なしでいけますよ!」と、周囲を説得。そして、セイのモデルを作り始めた。


▲初期のセイは金髪。しかし、大勢の中の一人ならいいが、これでは単独センターは無理であろうと判断。後に、現在のようなクセのないセイになった。

Live2Dはすでに検証済みだったので、セイのモデルを作るのにはまったく困らず、スムーズに進行していったという。そのとき通りかかった上司が画面を見て、「例の企画サンプル作って見たら?」と言葉をかけてくれた。これにより阿部氏は、「偉い人の言質をゲットした」のだ。すぐに、乙女コンテンツが好きそうな人に声をかけて、サンプルの制作がスタートした。


▲当初のサンプルは、プレゼンする相手(役員)に合わせてセリフが作られた。セイが呼びかけている「康幸」とは、ヘキサドライブ取締役の齊藤康幸氏である。


▲この結果、プロジェクト化が決定する。

プロジェクト化が決定したものの、条件があった。それは、年内にリリースするということ。このとき、2017年7月。つまり、開発に使える期間は4~5ヶ月ということになる。当初、構想していた企画の全てを実装することは、明らかに不可能であった。そこで、最初の企画書から「大事なもの」だけを抜き出した仕様へと変更。その、譲れない大事な要素は、下記のものであったという。

・触れられること
・成長すること


こうして、人をハッピーにするために産まれたアプリ『MakeS -おはよう、私のセイ-』は、スタートを切ったのだった。

さて、本作に登場するキャラクターは、セイ一人だけである。そんなセイが乙女の愛を得るためにはどうしたらよいか。乙女の愛を得るポイントには下記のものがあると、阿部氏が挙げた。



女性の出産の仕組みに触れ、試みることができる回数が男性と比べて少ないことから、一回一回を限りなく確実にしたいと思うはず、と阿部氏が女性の視点で語った。そこで、上記のうち「継続的愛情の確信」と「財力」は、完全確実に繁殖するために必要な要素であるという。


▲乙女が愛する要素から、『MakeS -おはよう、私のセイ-』では継続的愛情を狙った。さらに、その愛情が「真実」であることを確信してもらえるようなつくりを工夫したという。


▲セイは、直接相手に「好き」とは言わない。しかし、おそらくセイは自分が好きなのだろうと察することができるようなセリフだ。

『MakeS -おはよう、私のセイ-』では伝えたいことを直接言わず、ユーザーに体感してもらうようなセリフ作りをしているのだという。また、セリフだけではなくモーションとボイスも合わせ、感情を表現した。


▲同じ「そうだね」というセリフも、表情が違うだけでまったく異なる受け取られ方をする。それこそが体感である。

また、阿部氏が乙女向けコンテンツをプレイしていて、常々思っていたことがあるという。それは「おまえに私の何が分かんねん!」ということ。キャラクターは、自分のことを知らない。その状況を払拭し、キャラクターが自分のことを「知っている」という事実を作ることにしたという。


▲生活サポートアプリであれば、セイは自分の予定を知っているということになる。


▲また、セイの成長は子どもの成長をなぞっている。機械的なものから徐々に外に興味を持ち、子どものイヤイヤ期のように自我が芽生えていく。



▲セイを魅力的にするための施策まとめ。

次に、収益面について田口氏より解説された。


▲『MakeS -おはよう、私のセイ-』の収益は、主に上記の通り。


▲開発支援用アイテムとして販売したテーマも、多くのユーザーが購入。『MakeS -おはよう、私のセイ-』が支持されていることがうかがえる。

また、こだわったポイントとして「キャプチャー機能」が挙げられた。主にTwitterなどに、画面のスクリーンショット等を投稿する機能である。


▲アップロード機能の要件。


▲実装された内容。


▲カメラ機能では、セイと一緒に写真を撮ることができる。セイも、セリフで外出したいことなどをほのめかし、カメラの積極利用へと誘導した。

SNSでの拡散は、やはり重要であると田口氏。多くの拡散を得るために、多くの工夫を試みるべきであるとまとめ、本講演は締めくくられた。


▲ユーザーの愛がツイート、リツイートを呼び、そこから新規のユーザーへの導線が引かれていく。

 
(取材・文 ライター:岩崎ヒロコ)



■『MakeS ‐おはよう、私のセイ‐』

 

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2007年2月
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