このセッションでは、PACkage代表取締役の山口勇氏が登壇し、e-sportsのビジネスモデルの提示や、e-sports採用を狙えるゲームデザインを、自身が関わってきたe-sportsでの体験談を基に語っていった。また、PACkageがメインに活動している関西区域におけるe-sportsコミュニティの紹介もされた。
▲本セッションに登壇した、PACkage代表取締役の山口勇氏。
まずは、このセッションでe-sportsについて語っていくにあたり、e-sportsはデジタルゲームをスポーツ競技としたときの総称に過ぎず、企業は漠然と「e-sportsに参加したい」、「e-sportsを盛り上げたい」と考えるのではなく「"どのゲームタイトルを"e-sportsとして盛り上げたいのか」を明確にすべきだと主張した。
e-sportsの盛り上げ方を理解するためには、e-sportsのビジネスモデルを把握するところから始まる。山口氏は、e-sportsを形づくるのは、ゲームを提供する「IPホルダー」と、実際にe-sportsを行う「チーム」と、それを支援する「一般スポンサー」。ゲームをプレイする環境を向上させる「ツールやデバイスの開発会社」。イベントを統括する「オーガナイザー」。そして、e-sports周知のための「メディア」。以上の6種の立場の人間が必要になると考えている。
▲e-sportsを構成する人々と、その構成図。
IPホルダーがイベントを開催するにあたり、自社開催とオーガナイザーへの委託の2種類の方法がある。それぞれのメリットについて、山口氏は自社開催の方が、タイトルのブランディングをしやすく、イベント自体の質や継続性を担保できるとした。対して、オーガナイザーへ委託した場合は、コミュニティを基盤とした大小様々なイベントが開催できることが大きなメリットになるようだ。
▲オーガナイザーへの委託する際は、ライセンスを明確にすることが重要であると付け加えている。オーガナイザーがどこまでやっていいのか、線引きをしっかりとしておくことで、委託した場合でもイベントの質は保証されるようになる。
ツールやデバイスの開発会社としては、e-sportsは効果的な宣伝を行える場となる。ツールの無償提供やスポンサー費用の提供で、大会やチームを支援し、その代わりに自社製品を使用してもらうことが、製品の広告として機能する。
オーガナイザーは、イベントの主催者となって、e-sportsを取り巻くあらゆる人々を繋げいていく必要がある。チームや各会社に対して、どのような大会を企画し、それをどのようにファンに周知、提供するかを考えなくてはいけない。
チームのビジネスモデルはシンプルだが、e-sportsにおいては花形ともなる立ち位置だ。ファン、メディア、スポンサーなどあらゆる立場からの支援を受け、e-sportsを盛り上げるための第一人者となる。
オーガナイザー及びチームとして活動するPACkageの収入比率の概算が公開された。スポンサー料が大半を占めているのが一目瞭然だ。いかにして、協賛者を募るのかが、オーガナイザーやチームとしての活動を続けるうえで重要となるのがよくわかる。
では、スポンサーたちはなぜ資金を提供してくれるのか? その理由として山口は5つの理由を述べた。製品販促やブランディングは基本的なことだが、若年層を自社に取り込む、就職採用のための認知を広げるといった目的も、スポンサー企業側は考えている。イベント主催者は、彼らの需要をどのように満たすのかも考慮しなくてはいけない。
IPホルダーは、e-sportsとしてタイトルを盛り上げるには、そもそもゲームデザインの時点でe-sportsを考慮しておかないといけない。ここで山口氏は「観戦機能を付けてほしい」という切実なお願いを進言した。e-sportsは、プレイヤーだけでなく、試合を見る観客がいなくては成り立たない。観戦機能がないタイトルでは、観客との試合内容の共有が難しくなってしまう。
さらに、ゲームルールについて「プレイしていない人も盛り上がりやすい内容が良い」と言及している。実際に、過去に開催してきたイベントでも、そのゲームを知らないという人が、来場者の2割程度を占めていたそうだ。プレイしていない人たちが、試合の流れを理解できるようにするためには、常にスコア表示がされるといった工夫が必要となる。
▲また、競技の内容を球技の様な点数制にすると、点が入れば誰でも盛り上がりやすく、ファインプレイやミスプレイも明確になる。勝利条件が明確であればあるほど、試合は盛り上がりやすい。
過去にPACageがオーガナイザーとして運営をした、『Tom Clancy`s Rainbow Six Siege』の大会を具体的な例としてあげ、なぜこのタイトルによる大会が盛り上がるかを解説している。
このゲームは、ラウンドが区切られているため、ラウンドの取得数で優勢なチームがわかりやすい。さらに、ラウンドの勝利条件も、相手の全滅か爆弾の解除と明確になっているため、各ラウンドの試合展開も盛り上がりやすい仕組みになっている。
さらに、大会の参加登録に使用したデータベースと連動し、試合中にチーム名や選手名を表示する機能をPACkage側で開発したことで、観客からの視認性向上も図られている。
▲オーガナイザー側でも、新たなシステムを開発したり、機材設営による工夫で、各タイトルのe-sportsへの親和性を補助することは可能だと山口氏は主張している。
しかし、オーガナイザーによる開発ではどうしても限界がある。後々の質疑応答で、IPホルダーがタイトルに実装すべき機能の優先順位を聞かれ、「複数人が見れる観戦機能」と「試合全体を見れるような俯瞰視点」については、オーガナイザーでは組み込めない機能なので、タイトル開発時に盛り込んでほしいと強調していた。
ここからは、PACkageの本拠地でもある関西におけるe-sportsの現状についての発表に移行する。現地プロチームや、ショップが主催するイベントも活発ではあるが、特徴的なものとして"コミュニティ主催"のイベントに山口氏は焦点を当てている。
▲実際に活動している学生コミュニティも紹介されている。大学サークルのメンバー数はかなり多く、規模としてはネットカフェやショップの規模を上回ることもある。
また、これらの学生サ-クルは、イベントの開催及び参加を通して、他校のサークルや、会場として使用したネットカフェ、ゲームバー、ショップのコミュニティと合流していき、さらに巨大なコミュニティを形成していく。
▲実例として、とある大学で作られた小規模なサークルが、徐々に大きな団体になっていき、最終的にはパブリックビューイングを使ったイベントを開催するほどの規模になったというエピソードが紹介された。
e-sportsを盛り上げていくには、こういったコミュニティの力は欠かせないものになってきている。彼らが主催するイベントが増加していけば、今後さらにe-sportsが発展していくだろう。
ただ、コミュニティが成熟するまでには、多くの苦労がある。コミュニティを立ち上げても、その多くは大きくなる前に消滅していく。彼らを手助けする方法として、イベント集客のための周知を手伝うことを提案している。
それだけでなく、イベント開催の敷居を下げるためにも、IPホルダーに対してライセンスの明記を徹底するように注意を促した。
▲特に、コミュニティ側がライセンスに関して不明瞭であると、イベント開催に踏み切りにくくなってしまう。e-sportsとしてタイトルを盛り上げたいなら、IPホルダー側で注意すべき点は決して少なくないのだ。
以上で山口氏によるセッションは終了した。e-sportsが盛りがっていくなか、参戦しようと考えるIPホルダーは多いことだろう。だが、開発の時点からe-sportsを視野に入れておかないと、成功するのは難しいということがこのセッションからわかった。
イベント主催者がどのようにタイトルを盛り上げるのか、プレイヤーだけでなく観客が見ていて楽しいゲームとはどのようなものか、自発的にタイトルを盛り上げてくれるようなコミュニティは形成されているか、あらゆる視点から考えることがe-sportsとして成功するための絶対条件となるのは間違いないだろう。
(取材・文 ライター:宮居春馬)