【イベントレポート】アカツキのゲーム事業組織ではなぜ大胆な権限委譲ができるのか? 背景にある強い信念と実現できる理由

アカツキ<3932>は、2月28日、「アカツキのゲーム事業を大公開 #2」イベントを開催した。このミートアップはアカツキのゲーム事業に対する考えを広く知ってもらうことを目的に開催されており、今回はその2回目。

2月下旬の冷たい雨の降りしきる中での開催にもかかわらず、前回にも増して多くの参加者が足を運び、熱気を帯びたミートアップとなった。その模様をレポートする。
 
プログラムの内容としては、

1) まず執行役員の戸塚氏による会社紹介
2) その後プロデューサー陣によるトークセッション
3) そして再び戸塚氏より、今後の具体的な事業展開がプレゼンされ
4) 懇親会という流れであった。

その中で今回印象に残ったのが、1)で語られた「権限委譲」という言葉である。
 
アカツキでは現場リーダーや若手に権限を積極的に渡しているそうだ。適切な権限委譲が大胆に進められていることが感じられる印象的なエピソードを今回は紹介していこう。
 
 
権限委譲の話を進めるにあたって、アカツキの人材に対する考えの一つに触れておきたい。それは、「個性に張る」ということである。
 
「個性に張る」とはどういうことか。戸塚氏はこう語る。
 
「一般的に、経営や事業部マネージメント側に立つと失敗が怖くなり、得てして自分の想像できる範囲にコントロールしがちです。しかし、コントロールしすぎてしまうと、その上に立つ者の経験や考えの範囲内でしか創造性を発揮できなくなりがちです。結果としてメンバーが持っている個性的な力が十分に発揮されないことが多いです。」
 
 
「一方で、現在世界を席巻しているものは、一見ニッチなものです。家庭用ゲームの市場では特に2016年以降、欧米ではニッチと捉えられがちな日本発の独特な世界観の作品が、全世界で100〜200万本を大きく超える事例が複数出ています。日本国内のモバイルゲームにおいてもその傾向はもちろん強いです。ニッチで新しい価値観の作品にコアファンがつき、コアファンから全世界のユーザーに伝搬していくという流れが確実にあります。過去を遡ると近い例は無数にありますが、ポケモンなども欧米市場では最初は受け入れられるかどうか分からなかったですが、結果は皆さんご存知の通り、日本を代表するエンターテイメントになっています。

そういったニッチなもの、言い換えれば、一見世の中に受け入れられなそうなものを生み出すためには、自分のアイデアをオープンにできる風土や仕組み、周囲を巻き込める情熱が必要です。個性に張るというのは、その人の情熱に張る、とも言えます。たとえ9割の人が反対であっても、その情熱が世界をひっくり返せるかもしれない。アカツキはその可能性を信じて任せることに挑戦したい。だから権限を委譲し、その個性、情熱がいかんなく発揮できる土壌を作りたい」
 
しかし、読者の皆さんもお分かりの通り、頭で分かっていても実際には難しいのが権限委譲、つまり「人に任せる」ことである。彼らも当然理解しているだろう。では、アカツキではどのように権限委譲が行われているのだろうか。それについては以下のように紹介された。
 
 
アカツキではプロダクトごとに全体を取り仕切るリーダーがいて、プロジェクトリーダー(以下PL)と呼んでいるが、そこに権限を委譲する形をとっている。PLがもつ権限は予算決定、採用配置からプロモーション方法の意思決定、文化醸成まで実に幅広い。
 
戸塚氏「この図のように、創業者でもある取締役から私にゲーム部門の執行権を権限移譲し、さらに私からプロダクトごとのそれぞれの権限を各PLに託しています。私はよく『ミニCEO』と言っているのですが。PL陣には『プロジェクトが自分の会社だと思って経営しよう』と常日頃から伝えています」
 
もちろん、経験不足などでどうしてもうまくいかない問題もある。そういった場合に戸塚氏が相談役として支援するという立ち回りとなっている。また、エンジニアチーム、クリエィティブチームといった7部門を超える横串組織もあり、この組織にもリーダーがいる。PLはそういった専門職からのアドバイスももらい、社内のノウハウを活かした価値創造やリスク対策をしやすい環境となっている。
 
ただ、プロジェクトごとに独立して動いていると、それぞれの考えの理解に時間がかかり、相談が進まないということはないのだろうか。
 
「どのプロジェクトがどのような考えのもと活動しているか、全プロジェクトがそれぞれで資料化しています。具体的には、どのような世界を実現したいのか?、そのためにこのプロジェクトでは何を成し遂げるのか?、成功の定義は?、などの約9つの問いに答える形式で資料化され、全社員が全てのプロジェクトを閲覧可能としています。さらに各プロジェクトはその考えをチームの文化や方向性として定着するよう努力を重ねています。」(戸塚氏)
 
こういった権限委譲の考えはPLにも浸透しているようだ。運用タイトルのPLである仲田氏はトークセッションでこう話していた。
 
「まさにミニCEO。自分のチームを作れるという感覚があります。プロダクトのほとんどの意思決定も任せてもらっていて、通常だと、何をするにも上長の戸塚に承認をもらってから動く、という形になると思うのですが、そういったプロセスはなく、むしろ承認を取るよりも報告をするという形になっています。もちろんアドバイスや必要な支援はもらえるので、一人で行き詰まってしまうということもないです」
 
 
こう語る仲田氏の成長には、戸塚氏も驚いていた。

「仲田は新卒4年目です。運用タイトルのプロジェクトリーダーを担当しています。新作の特徴的なモバイルゲームを開発するにあたり、協業先の方々とも文化が違うなかでチームとしてどうまとめるかが難しいのですが、彼が牽引するチームは誰にも真似できない新しい文化を作ってしまって、私が想像できる範囲の外へ行ってしまいました(笑)」
 
このPLという役割は、驚くべきことにアカツキでは、若手メンバーの登竜門となっているのだ。アカツキ初の新卒社員であり、今では複数タイトルのプロデュースをしている野澤氏も、まだ駆け出しのころに、「新規プロジェクトがあったので手をあげたら、任せてもらえた」と話していた。こういったPLへの抜擢と大胆な権限移譲、組織環境があってはじめて、アカツキの次代を担うメンバーの育成が可能になるのだと強く感じた。60分程のミートアップながら、アカツキ流のゲーム開発成功の秘訣を肌で感じられた。
 
戸塚氏はこう締めくくった。

「業界の成熟にあわせて、1タイトルあたりの開発予算がどんどん大きくなりますし、運営のチームも大規模で複雑さが増しています。必然的に若いメンバーや中途入社の社歴の浅い方々に、プロジェクトをまるっとお任せしづらくなっています。これは業界全体の構造的な課題です。しかし、これらが会社の衰退にもつながりうると思うんです。
 
権限委譲の仕組みを工夫して洗練させつつ、チャレンジを促進することで、その状況を打開したい。アカツキには「シードプロジェクト」という制度があり、事業を提案し、認められると、実現に向けたチャレンジを500万円単位で支援しています。この制度を立ち上げてから何人ものメンバーが提案に来ます。あえて限られた予算内で頭をひねってチャレンジしてもらう。そうやって起業家精神を育んで、“育成のアカツキ”と言われるような文化を醸成したいですね」
 
 
その後行われた懇親会では、本編で話題となったテーマについて熱い議論が遅くまで続き、大盛況のうちに幕を閉じた。
 
紙幅の都合上本記事では触れられなかったが、プロデューサー陣が日々どんなことを考えてゲームを企画しているか、またアカツキが今後ゲーム事業でどういった展開を計画しているか、についてもかなり突っ込んだ内容が話されていた。

次回ミートアップは3月26日に行われるとのこと。日々の業務の参考になるだけでなく、懇親会で今回の記事を読んで感じたことを直接メンバーにぶつけられるチャンスでもある。お申し込みも開始しているので、ぜひ一度足を運んでみてほしい。
 
【開催日時】3/26(火)19:30スタート
【開催場所】東京都品川区上大崎2丁目13-30 oak meguro 8F
株式会社アカツキ
http://aktsk.jp/

会社情報

会社名
株式会社アカツキ
設立
2010年6月
代表者
代表取締役CEO 香田 哲朗
決算期
3月
直近業績
売上高239億7200万円、営業利益26億7600万円、経常利益28億3400万円、最終利益12億8800万円(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3932
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