ディライトワークスは、4月24日に「DELiGHTWORKS Developers Conference(以下DDC)」の第5回を開催した。今回は登壇したのは、グラフィックスディレクターを務める田口博之氏だ。田口氏は、アートとグラフィックの部署を分化するメリットや、グラフィックにおけるクオリティアップ、部署の管理方法についてのセッションを行なった。本稿では、その内容の一部を掲載する。
「DDC」は、ゲーム業界で活動している人や、ゲーム業界を目指す人たちに向けて、ディライトワークスが開催している勉強会であり、今回で5回目の開催となる。今回は、ディライトワークスでグラフィック部の副ジェネラルマネージャーを務める田口博之氏が登壇し、ゲーム制作におけるアートワークとグラフィックワークの立ち位置の違いについて講習を行なった。
▲登壇者の田口博之氏。
▲ゲームに、3Dが積極的に取り入れられるようになった頃から、田口氏はクリエイターとして活動している。
ディライトワークスでは、2018年の2月より「DELiGHT Art Works(以下DAW)」と「DELiGHT Graphic Works(以下DGW)」という形で、アートとグラフィックを別部門にしている。
このふたつは、多くの企業で同一の部署として管理されることが多いが、こうして分化することによって、互いに担当するべきタスクが明確化され、コンセプトアートから始まり、グラフィックとして完成するまでの流れが整理される。
▲DAWとDGWの大まかな作業を分類した図。
開発初期は、まずコンセプトアートを担当するアート部門に比重が置かれているが、フェーズが進行していくにつれ、グラフィックスに移行していく。
特に、2部門の交差が始まる「R&D(リサーチ&デベロップメント)」の段階が、アートとグラフィックスのやり取りが煩雑になる部分であり、ここでのやり取りをスムーズにするためにも、アートとグラフィックスの分化が大きな意味を持つとしている。
▲最後の質疑応答でも話題に挙がったが、この図において、アートの比重は徐々に減りながらも、最後まで関わっている点には注意してほしい。部門は分化されているとはいえ、一定のラインを超えたら相手に全て任せて良いということではない。
アートとグラフィックスの作業内容をより明確にするために、田口氏は「アートはコンセプション」、「グラフィックスは珠玉のパズル」という表現を用いている。
この意味を、田口氏はさらに詳しく解説していく。まず、アートコンセプトにおいては、一番重要であるのは、絵が上手い、魅力的であるということよりも、そのビジュアルを通してユーザーに何を感じてもらうかを、的確に明示することであると田口氏は定義した。
ここで田口氏は、料理を例に「おふくろの味」というテーマを伝えるための料理ができあがるまでの流れを説明している。まず「おふくろの味」というテーマに対し、家庭で作るカレーライスが挙がったとする。色々なカレーの種類がある中から、何を選ぶのかを考える際に、「おふくろの味」を表現する要素をキーワードとして集め、不要なものを削っていく。
そうすると、「ホッとする」「やさしい」「スタンダード」といったキーワードが浮上してきた。ここで、もう一度考え直してみると、これらのキーワードにもっと適合する料理があることに気付く。こうして最終的にできあがったアートは、肉じゃがとなっている。
こうして、「おふくろの味」を伝えるために肉じゃがを提示するのが、アートコンセプトがすべきこと。グラフィックコンセプトは、これを実現するためにどういった手法やツールを使うかを考えなくてはいけない。
これをそのまま料理の例にあてはめるなら、具材は何を使い、調理器具は何を使うのが最適なのかを考えるのがグラフィックコンセプトとなる。
グラフィックコンセプトは、内部にキャラモデリングの担当や、アニメーションの担当など、より細部にコンセプトを立てていることも田口氏は明かしている。彼らがそれぞれの担当の目線から、コンセプトアートを実装するために必要なツールの選定を行なっていく。
▲そして、グラフィックコンセプトを統括しているリーダーが、それに最適なエンジンを選定するという流れを記した図。
しかし、現実にはこの流れのままスムーズに進むことはない。コンセプトアートをグラフィックとして起こしていくにあたって、どうしても実現不可能な部分は出てきてしまう。
この際、グラフィックスはコンセプトアートに対し、何が実現不可能なのか、どんな形であれば実現可能なのかをしっかりと伝える必要がある。それに対し、アート側がリアクションするというように、相互でやり取りが行なわれる。
▲田口氏はこの様子を「アートコンセプトとグラフィックコンセプトの真剣勝負」と表現している。これが「R&D」の段階であり、アートとグラフィックを分化していないと、この工程が煩雑になってしまう。
では、ここまで発表してきた通りに進めていれば、必ず最高のグラフィックスが組みあがるのかと言うと、必ずしもそうではない。グラフィックスには多くの要素があるため、開発を進めていくうちに、どうしても要素が散らかりやすい。
各セクションにリーダーを配置し、綿密なやり取りをしてみたところで、この状況を解決するのは難しい。さらに、事態を解決できないまま有能なリーダーの時間ばかりが削られていく状況に陥りやすく、事態は悪化の一途をたどる。
▲こうした状況は、クリエイターひとりひとりのモチベーション低下にも繋がりやすく、開発環境の悪化を招く危険性があると、田口氏は示唆している。
この問題を解決するための方法として田口氏が提示したのは、各セクションとPM(プロジェクトマネージャー)の間に、進行管理専門のセクションを置くという方法だった。
▲進行管理のセクションが行なうのは、タスク、スケジュール、ステータスといったものの管理となる。
進行管理のスタッフは、あくまでグラフィックス部門の進行を管理することに集中し、各セクション内で発生する問題を、最速でキャッチアップし、事態を解決するべくPMまたは各セクションに報告する。
進行管理のなかで問題を解決しなくてはいけないというわけではないので、進行管理のスタッフは各セクションのスペシャリストでなくても問題はない。
▲ただし、進行管理のセクションを立てるうえでの大原則として、各セクションのリーダーやデザイナーは、スタッフたちに進行管理の指示に従うように周知もしている。これはどちらが上という話ではなく、お互いに協力する仲間であることを忘れてはいけないということだ。
次に田口氏は、グラフィックのクオリティを、徐々に上げていくことの重要性について語っている。ここまで、アートとグラフィックを分化することについて話してきたが、新たに、「Lookクオリティ検証」と「実機実装検証」も分離すべきだと主張した。
グラフィックのクオリティを上げていくプロセスを、詳細に明示した図を見せながら、ここでも検証段階である「R&D」の重要性について、強く語っている。
こうして段階的に作業を進めていくなかでの注意点として、「(仮)」の禁止をすべきだとも訴えている。例え、作業が進んでいなかったとしても、(仮)とつけることでその場をやり過ごせてしまうという環境は、進行管理に大きな影響を及ぼしてくる。
まだできていないのであれば、肌感覚でもいいので現在は何%ぐらいまで進行しているのかを明確にしておく。こうした進行状況をしっかりと握っておくことが、円滑な開発のためには欠かせないのだ。
最後に田口氏は、自分たちの仕事はユーザーに「楽しかった記憶」を植え付けることであるという。なぜなら、技術の進化によりゲームそのものが色褪せたとしても、その記憶は色褪せることはないからだ。
それはクリエイターにとっても変わらず、面白いものを創ろうと試行錯誤しながら、楽しんでゲームを作ってきた記憶は色褪せることはない。ただゲームが好きだから、ゲームを創るのも好きだからこそ「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。」と、ディライトワークスの理念を掲げながら、セッションの幕を閉じた。
ここからは、質疑応答の際に挙がった質問と、それに対する回答を掲載していく。
質問者:私はディレクターとしてプロジェクトに関わることが多いのですが、煩雑化が進みすぎて収拾がつかない状態になってしまったときは、どのように働きかけていますか?
田口氏:自分が作った作品で人が喜ぶとか、プレーヤーの記憶に残したいという想いが原動力であることを再認識することですね。一度状態が悪くなってしまうと、一気に持ち直すのは難しいので、ひとりひとりに声をかけていき、モチベーションを維持していくことが大事です。自分が面白いゲームをやったときの喜びを、次の人たちに伝えてあげたい。自分が楽しかったときの記憶を、次の人に与えてあげたいという気持ちを持って僕自身も仕事をしています。
質問者:DAWとDGWと完全に分ける以前は、アートとグラフィックはまったく分離されていなかったんですか?
田口氏:一連の流れで作っていました。最初にアートを作った人が、途中からモデラーになることとかありますよね。割とそういう形で動いていました。
質問者:そのふたつを別部門にする際に反対意見は出ませんでしたか?
田口氏:アートの方が上流工程だから、アートをやりたいといった声はありました。決してアートが上流工程ということではなく、お互いにそういう役目であるというだけなんです。逆に、アートの人たちであっても、このあと商品にするまでが大事ですから、心してかかってほしいですね。そもそも、そこを分けたからといって分解してしまうようであれば、チームにしても上手くいかないと思います。ですから、まずは分ける意図をしっかりと説明して、各人に理解してもらいました。
質問者:図式でアートとグラフィックの関わり方をご説明いただきましたが、アートとグラフィックが途中で完全に逆転していますが、最終的なコンポジットするときに、アートはどれぐらい口をはさみますか?
田口氏:かなり口を出します。グラフィックを実装したときに、アートは単なる評論家ではなく、グラフィックがコンセプトとずれていたら、ちゃんと違うと言ってもらいます。グラフィック側も、アートから違うと言われたら真摯に受け止めるようにしています。そこは日々の関係性が大事で、アートならばコンセプトをいかに表現するか、グラフィックはそれをいかにしてユーザーの皆さんに届けるかに力を注いでもらう。こういった役割の説明はかなり丁寧にしています。時間が経っていくにつれ、その認識が色褪せていくこともあるので、要所でそういった考えがずれは修正していく必要があります。
田口氏:自分が作った作品で人が喜ぶとか、プレーヤーの記憶に残したいという想いが原動力であることを再認識することですね。一度状態が悪くなってしまうと、一気に持ち直すのは難しいので、ひとりひとりに声をかけていき、モチベーションを維持していくことが大事です。自分が面白いゲームをやったときの喜びを、次の人たちに伝えてあげたい。自分が楽しかったときの記憶を、次の人に与えてあげたいという気持ちを持って僕自身も仕事をしています。
質問者:DAWとDGWと完全に分ける以前は、アートとグラフィックはまったく分離されていなかったんですか?
田口氏:一連の流れで作っていました。最初にアートを作った人が、途中からモデラーになることとかありますよね。割とそういう形で動いていました。
質問者:そのふたつを別部門にする際に反対意見は出ませんでしたか?
田口氏:アートの方が上流工程だから、アートをやりたいといった声はありました。決してアートが上流工程ということではなく、お互いにそういう役目であるというだけなんです。逆に、アートの人たちであっても、このあと商品にするまでが大事ですから、心してかかってほしいですね。そもそも、そこを分けたからといって分解してしまうようであれば、チームにしても上手くいかないと思います。ですから、まずは分ける意図をしっかりと説明して、各人に理解してもらいました。
質問者:図式でアートとグラフィックの関わり方をご説明いただきましたが、アートとグラフィックが途中で完全に逆転していますが、最終的なコンポジットするときに、アートはどれぐらい口をはさみますか?
田口氏:かなり口を出します。グラフィックを実装したときに、アートは単なる評論家ではなく、グラフィックがコンセプトとずれていたら、ちゃんと違うと言ってもらいます。グラフィック側も、アートから違うと言われたら真摯に受け止めるようにしています。そこは日々の関係性が大事で、アートならばコンセプトをいかに表現するか、グラフィックはそれをいかにしてユーザーの皆さんに届けるかに力を注いでもらう。こういった役割の説明はかなり丁寧にしています。時間が経っていくにつれ、その認識が色褪せていくこともあるので、要所でそういった考えがずれは修正していく必要があります。
これで、今回のセッション内容は全て終了となった。次回のDDCは、5月29日の20時から開催される。「お客様の「欲求」を探るワークショップ」と題し、第5制作部ジェネラルマネージャーの東山朝日氏が登壇し、セッションだけでなく、体験型のワークショップも行なわれる予定となっている。
(取材・文 ライター:宮居春馬)
会社情報
- 会社名
- ディライトワークス株式会社
- 設立
- 2014年1月
- 代表者
- 代表取締役 庄司 顕仁