【CEDEC 2019】「運用に分析ツールを導入すれば、対戦環境の把握が容易になる」…『逆転オセロニア』の機械学習モデルを用いたデッキのアーキタイプ抽出を解説


コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、9月4日~6日の期間、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2019」(CEDEC 2019)を開催した。

本稿では、9月5日に実施された講演「『逆転オセロニア』における、機械学習モデルを用いたデッキのアーキタイプ抽出とゲーム運用への活用」についてのレポートをお届けしていく。

本セッションには、DeNA分析部アナリストの安達涼氏、DeNA Develop統括部企画部プランナーの岩城惇氏が登壇。『逆転オセロニア』における、機械学習モデルを用いた、デッキアーキタイプの抽出やアーキタイプに関連するKPIの可視化、これらを用いたゲーム運用への活用についての紹介が行われた。

【登壇者】

●安達涼
DeNA分析部アナリスト。2018年3月にデータアナリストとしてDeNA入社。機械学習の手法のみならず、行動経済学の知見などを用い、人間のゲーム内外での行動データを包括的に理解することで、ゲームタイトルの運営力・UX向上を目指している。


●岩城惇
DeNA Develop統括部企画部プランナー。『逆転オセロニア』では運用プランナーとして機械学習を用いたキャラクターのレベルデザインに携わっている。
 

■プレイヤー体験の向上を実現するために「可視化ツール」は必要不可欠


オセロのルールに基づいた対戦型スマホゲームアプリ『逆転オセロニア』。キャラクターのスキル・コンボによる高い戦略性や、劣勢からでもキャラクターのコンボ、スキルを組み合わせてドラマチックに逆転できるのが魅力で、2019年8月時点で2500万ダウンロードを達成している。



▲DeNA分析部アナリストの安達涼氏。

本作は、キャラクター(駒)からプレイヤーが構築した「デッキ」で対戦する。PvE(対CPU戦)も可能だが、対戦回数の大部分をPvP(プレイヤー間対戦)が占めており、勝敗によりランキングが変動する「クラスマッチ」が最も多くプレイされている。




クラスマッチには、神(黄)、魔(紫)、竜(赤)の属性に補正が与えられる「属性補正」があり、定期的に環境が変化。その日の補正と相性の良いデッキをプレイヤーに採用してもらうことで、毎日同じデッキで遊んでいて飽きてしまうといったようなマンネリを防いでいる。



プレイヤーは3500種類以上存在する駒のうち、自分が保有しているものから16個を選んでデッキを構築。それぞれの駒には固有のスキルやステータスが存在するため、駒同士のシナジーを考えてデッキを組む必要がある。



そのため、『逆転オセロニア』のデッキには、「アーキタイプ」という概念が存在する。アーキタイプとはTCGにおいて一般的な概念で、戦い方を考慮した、大まかなデッキ構成のことを指す。本作では竜属性のコマのみで構成される「貫通速攻」や、どのアーキタイプにもバランスよく戦える「混合」など、様々なデッキアーキタイプが存在。アーキタイプの相互関係は対戦環境に大きな影響を及ぼすため、強弱のバランスを保つことが重要となっている。



安達氏は運用上の問題として、特定のアーキタイプが強すぎたり、優劣が固定化されているといった点を挙げる。対戦環境を平均化し、プレイヤー体験を向上するため、駒や属性補正の追加を実施。運用上のポリシーとして、禁止駒は設けないようにしているそうだ。



以前は対戦環境改善のためプランナーが人力で対戦環境を把握し、定性情報を元にプランニングを行っていたが、プレイング習熟までに時間がかかることや、増え続けるアーキタイプ数への対応が難しいといった問題点が浮上してしまう。



その対策として敵のリーダー駒の編成率・勝率を分析したが、デッキアーキタイプという抽象度でデータを解釈することが難しいことが判明。リーダー駒の情報をもとにプランニングを行うと、意図せずに対戦環境のバランスを壊してしまう恐れがあるため、アーキタイプレベルでのプランニングが重要だと強調した。


▲アーキタイプレベルでプランニングを行うことで、他のアーキタイプでは使用しないような駒をピンポイントで考えることが可能になった。

続いて、安達氏は使用する機械学習モデルについて紹介。クラスマッチのダイヤモンド帯のデッキデータを用いて、週次データと月次データを抽出する。トピックモデルはLDA(Latent Dirichlet Allocation)を使用しているそうだ。トピックモデルを使用することの利点として、時系列でのアーキタイプの紐づけが容易に行える点や、パフォーマンスが良いことなどを挙げた。



▲LDAアルゴリズムは、大量のドキュメントを単語の分布を元にトピック別に分類する用途で開発された。


▲『オセロニア』では、ドキュメント内の単語をデッキ内の駒、ドキュメントをアーキタイプ上の確率分布に置き換えている。

対戦環境を改善し、プレイヤー体験の向上を実現するために、安達氏は「現状把握と運営のアクションの効果確認が容易にできること」「運営チーム全てが、対戦環境を意識できる状況をつくりだすこと」の2つのポイントが重要だったと話す。



2つの要件を実現するために、本作では「Dash」というWebアプリケーションのフレームワークを使用。Dashを用いることで、ベーシックなレポートからインタラクティブなダッシュボードを作成することが可能に。Webブラウザから閲覧できるため、対戦環境把握の標準化にも役立ったそうだ。



可視化ツールは週次、月次に分けて使用していると紹介。週次のものは月~日曜日までのデータを用いてアーキタイプを抽出し、月曜日にツールを更新。月次のものは、より詳細な対戦環境情報の把握に使用しており、プランニングのPDCAサイクルに活用していると説明した。



 

■運用に分析ツールを導入するメリットとは


ツールのゲーム運用への活用については、岩城氏が解説していく。前述した通り、『オセロニア』にはアーキタイプの優劣か固定している点や、特定のアーキタイプが強すぎるといった問題点があった。分析ツールを導入してからは正確に網羅的な現状把握ができるようになり、改善アクションがスムーズになったと岩城氏は振り返る。


▲DeNA Develop統括部企画部プランナーの岩城惇氏。



ツールにより、改善に集中できる体制は万全に。改善に関するプランニングについて、岩城氏は3つの具体例を交えて説明した。

①対戦環境のバランス平均化
運用チームでは対戦環境の1つの理想状態として、アーキタイプ同士の相性が拮抗していることでプレイヤーの選択肢が多様に存在する状態を想定している。特定のアーキタイプが強すぎるといった状況を作らないよう、適切な抑止力の選定と対戦環境を配慮。グラフとして可視化することで、明確に課題が検出できるようになったそうだ。




②勝てるアーキタイプの選択肢を増やす
このアクションは、アーキタイプ間の優劣が固定化しているという問題に対応。分析を用いた強化対象アーキタイプの掘り起こしと、属性補正や駒などを追加することで、アーキタイプの選択肢を増やすことに成功している。





③新しいアーキタイプの検知と使用率向上
アーキタイプ分析ツールで、新たなアーキタイプ「NEW」を検知する。対戦環境に悪影響がないか、どうやったら強化ができるかといった点を分析していく。




岩城氏は運用に分析ツールを導入したメリットについて、「誰もが気軽に、より客観的に対戦環境の把握が改善された」とコメント。最後に、「対戦環境のプランニングに悩んでいる方は、機械学習を用いた分析ツールの導入をぜひ検討してみてはいかがでしょうか?」と会場に呼びかけ、セミナーを締めくくった。

 
(取材・文 ライター:島中一郎)
 



■『逆転オセロニア』
 

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